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第3章
◇切ない気持ち
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一堂くんとデートをした日の夜。
この日、看護師をしているお母さんは夜勤のため、わたしはお兄ちゃんと二人で自宅のダイニングで夕食をとっていた。
「うん。やっぱり依茉の作ってくれるご飯は、美味いなぁ」
わたしの向かいに座るお兄ちゃんが、エビフライを上機嫌に頬張る。
「ところで、依茉。今日、慧とショッピングモールにいた?」
「ぶっ!」
お兄ちゃんに聞かれたわたしは、飲んでいた味噌汁を吹き出しそうになってしまう。
お兄ちゃんは、ショッピングモールの中にあるお店でアルバイトをしているんだけど。
まさか、一堂くんと一緒にいるところをお兄ちゃんに見られていたなんて……。
ここは誤魔化したりせずに、正直に白状しよう。
「うん。いたよ」
「へぇ。慧とは、別に付き合うフリだけでいいのに。二人で出かけたりとかしてるんだな」
お兄ちゃんの顔が曇る。
「まさかとは思うけど、依茉……」
「はっ、はい」
お兄ちゃんの声がいつもよりも低くて、わたしの背筋がピンと伸びる。
「慧からハグとかキスとか、何も変なことはされてないだろうな?」
お兄ちゃんに聞かれて、心臓がドキッと大きく跳ねる。
「えっと……」
やばいやばい。ハグどころか、キスももう何度もされてるよ……!
「だっ、大丈夫だよ」
約束の1ヶ月の期限までは、一堂くんとの今の関係を続けたいと思ったわたしは、咄嗟に嘘をついてしまった。
「本当に?」
疑いの眼差しでこちらを見るお兄ちゃん。
「う、うん。それに、出かけたといっても今日が初めてだよ? わたしが風邪を引いた一堂くんを看病してあげたから、そのお礼にってランチをご馳走してもらっただけで……」
「看病って、まさか依茉……慧の家に行ったのか!?」
「行ったけど……」
──バン!
お兄ちゃんがいきなりテーブルを叩き、食器がわずかに跳ねる。
「慧って確か、一人暮らしだろ!? 何か変なことされなかったか!? あいつ、女癖悪いところがあるから……信用できないな」
女癖が悪いっていうのは、確かにその通りかもしれないけど。一堂くんのこと信用できないって、さすがにそれは……。
お兄ちゃんの言葉に、わたしはカチンとくる。
「お兄ちゃん、友達の一堂くんのことをそんなふうに言うの良くないよ。そもそも一堂くんは、わたしの男避けのために付き合ってくれてるんだから」
「依茉……」
「普通はそんな人、なかなかいないよ。一堂くん、良い人じゃない。それは、お兄ちゃんが一番よく知ってるでしょう?」
「……」
お兄ちゃんが黙り込んでしまう。
つい、お兄ちゃんに強く言ってしまった。
お兄ちゃんのことだから、わたしを心配してあんなことを言ったのかもしれないけど。一堂くんのことになると、どうしても許せなかった。
「確かに、依茉の言うとおりだ。慧は、俺が頼んだことを引き受けてくれたってのに。依茉のことになるとすぐ余裕なくなってしまうの、俺の悪い癖だな。ごめん」
お兄ちゃんが肩を落とす。
「あいつ、女にだらしないところはあるけど、根はいい奴だから。金持ちってことを鼻にかけたりもしないし。どんな奴とも分け隔てなく接する。そんな慧だから、依茉のことを任せたいと思ったんだ」
お兄ちゃん……。
「あと1週間。依茉との仮の恋人関係が終わったら、慧にもまた改めてちゃんとお礼をしないとな」
お兄ちゃんが、わたしの頭をポンポンと撫でてくる。
そうか。あと1週間で、一堂くんとのこの関係も終わるのか。そう思うと、なんだか切ない気持ちになった。
この日、看護師をしているお母さんは夜勤のため、わたしはお兄ちゃんと二人で自宅のダイニングで夕食をとっていた。
「うん。やっぱり依茉の作ってくれるご飯は、美味いなぁ」
わたしの向かいに座るお兄ちゃんが、エビフライを上機嫌に頬張る。
「ところで、依茉。今日、慧とショッピングモールにいた?」
「ぶっ!」
お兄ちゃんに聞かれたわたしは、飲んでいた味噌汁を吹き出しそうになってしまう。
お兄ちゃんは、ショッピングモールの中にあるお店でアルバイトをしているんだけど。
まさか、一堂くんと一緒にいるところをお兄ちゃんに見られていたなんて……。
ここは誤魔化したりせずに、正直に白状しよう。
「うん。いたよ」
「へぇ。慧とは、別に付き合うフリだけでいいのに。二人で出かけたりとかしてるんだな」
お兄ちゃんの顔が曇る。
「まさかとは思うけど、依茉……」
「はっ、はい」
お兄ちゃんの声がいつもよりも低くて、わたしの背筋がピンと伸びる。
「慧からハグとかキスとか、何も変なことはされてないだろうな?」
お兄ちゃんに聞かれて、心臓がドキッと大きく跳ねる。
「えっと……」
やばいやばい。ハグどころか、キスももう何度もされてるよ……!
「だっ、大丈夫だよ」
約束の1ヶ月の期限までは、一堂くんとの今の関係を続けたいと思ったわたしは、咄嗟に嘘をついてしまった。
「本当に?」
疑いの眼差しでこちらを見るお兄ちゃん。
「う、うん。それに、出かけたといっても今日が初めてだよ? わたしが風邪を引いた一堂くんを看病してあげたから、そのお礼にってランチをご馳走してもらっただけで……」
「看病って、まさか依茉……慧の家に行ったのか!?」
「行ったけど……」
──バン!
お兄ちゃんがいきなりテーブルを叩き、食器がわずかに跳ねる。
「慧って確か、一人暮らしだろ!? 何か変なことされなかったか!? あいつ、女癖悪いところがあるから……信用できないな」
女癖が悪いっていうのは、確かにその通りかもしれないけど。一堂くんのこと信用できないって、さすがにそれは……。
お兄ちゃんの言葉に、わたしはカチンとくる。
「お兄ちゃん、友達の一堂くんのことをそんなふうに言うの良くないよ。そもそも一堂くんは、わたしの男避けのために付き合ってくれてるんだから」
「依茉……」
「普通はそんな人、なかなかいないよ。一堂くん、良い人じゃない。それは、お兄ちゃんが一番よく知ってるでしょう?」
「……」
お兄ちゃんが黙り込んでしまう。
つい、お兄ちゃんに強く言ってしまった。
お兄ちゃんのことだから、わたしを心配してあんなことを言ったのかもしれないけど。一堂くんのことになると、どうしても許せなかった。
「確かに、依茉の言うとおりだ。慧は、俺が頼んだことを引き受けてくれたってのに。依茉のことになるとすぐ余裕なくなってしまうの、俺の悪い癖だな。ごめん」
お兄ちゃんが肩を落とす。
「あいつ、女にだらしないところはあるけど、根はいい奴だから。金持ちってことを鼻にかけたりもしないし。どんな奴とも分け隔てなく接する。そんな慧だから、依茉のことを任せたいと思ったんだ」
お兄ちゃん……。
「あと1週間。依茉との仮の恋人関係が終わったら、慧にもまた改めてちゃんとお礼をしないとな」
お兄ちゃんが、わたしの頭をポンポンと撫でてくる。
そうか。あと1週間で、一堂くんとのこの関係も終わるのか。そう思うと、なんだか切ない気持ちになった。
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