イケメン御曹司は、親友の妹を溺愛して離さない

藤永ゆいか

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第5章

◇七夕の約束②

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 「依茉!」

 それからしばらくして約束の時刻になり、わたしはバイトを終えた慧くんとカフェの前で合流する。

「ごめん、待った?」
「ううん。バイトお疲れ様」
「ていうか、依茉。その格好、本当に可愛い」

 夏らしいスカイブルーのワンピースに、同系色のローヒールを履いたわたしを見て、慧くんが微笑む。

「ありがとう」

 慧くんにストレートに可愛いって言ってもらえると、照れる。

「それじゃあ、行こうか」

 差し出された慧くんの手に自分のものを重ねると、二人で駅へと向かって歩き始める。

「雨、やんで良かったな」
「ほんと」

 慧くんのバイト先のカフェに来るときに降っていた雨は上がり、空には久しぶりに綺麗な青色が広がっていた。


 それからしばらく電車に揺られ、到着したのは水族館。

「わあ! 魚がたくさんいるー!」
「水族館なんだから、当たり前だろ?」

 小学校以来の水族館ということもあり、子どもみたいにはしゃぐわたしを見て慧くんが苦笑する。

 大きな水槽の中には、イワシの大群や色とりどりの熱帯魚が泳いでいて、とても美しい。

「あっ。見て慧くん! あの水槽、七夕にちなんだ魚だって」

 館内の特設水槽には、七夕の名前が入った『シモフリタナバタウオ』や、天の川が名前に入った『アマノガワテンジクダイ』が展示されている。

「わたし、こんな名前の魚がいるなんて知らなかったよ」

 初めて見る魚たちに、わたしは目を輝かせる。
 アマノガワテンジクダイは白い斑点が特徴的で、名前にもある通り、まるで星を散りばめた天の川みたいだ。

「へぇー、面白いな」

 隣で慧くんが、魚を見ながら目を細める。

「世の中にはきっと、まだまだわたしたちの知らないことがたくさんあるんだろうね」

 今みたいに魚の名前だったり、美味しいものや美しい場所だったり。
 そういった色々なものを、これから慧くんと一緒に見て触れて、知っていけたら良いな。

「ああ。これからも二人でいろんな所に出かけて、たくさん思い出を作ろうな」

 水槽から離れ、薄暗く人の目がない柱の陰にくると、慧くんにこめかみにキスを落とされた。

「慧くん……っ」
「ねぇ。もう1回だけ、良い?」

 わたしが頷くと、今度は唇に慧くんのものがそっと重なった。


 それからは、可愛いペンギンたちに癒されたり。イルカショーを見たり。
 館内のカフェで七夕限定のドリンクを飲んだりして、慧くんとの水族館デートをめいっぱい楽しんだ。

 * *

 慧くんと水族館を出ると、辺りはすっかり日が暮れ、夜空には星が瞬いていた。

「帰る前に、行きたいところがあるんだけど……良い?」

 慧くんにそう言われてやって来たのは、水族館の近くの海だった。

 ──ザザァッ……。

 辺りには、打ち寄せる波の音が絶え間なく響く。

「わたし、海なんて久しぶりに来たよ」
「俺も」

 わたしは、慧くんと手を繋ぎながら砂浜をゆっくりと歩く。

 潮の香りが、ふわっと鼻を掠めて。時折、潮風に髪の毛がなびく。

 真っ暗な夜の海は初めて来たけど、なんだか新鮮だなぁ。わたしたち以外、ここには誰もいなくて。まるで、二人だけの世界みたいに思える。

 藍色の空一面にキラキラと輝く星々を、しばらく見つめていると。

「依茉」

 少し緊張したような声で、名前を呼ばれた。

 空から慧くんへと視線をやると、真剣な面持ちの彼と目が合い、ドキドキする。

「俺、いま依茉と一緒にいられて、ほんとに嬉しいよ。今日だけで、依茉のことがもっともっと好きになった」
「わたしもだよ。慧くんとこうして付き合うことができて、幸せ。今日だって、すごく楽しかった」

 今日1日のことを思い出して、わたしは目を細める。

「親に依茉との交際を反対されても、諦めなくて本当に良かった。依茉が今、こうしてそばにいてくれて……俺は、世界で一番の幸せ者だよ」

 すると、慧くんがポケットから小さな箱を取り出す。
 箱を開くと、中にはシンプルなデザインのペアリングが2つ並んでいた。

「依茉。改めて俺は、依茉のことが好きだ。この先、隣にいるのはもう依茉しか考えられない。だから……これからもずっと、俺の隣にいて欲しい」
「慧く……っ」

 わたしは、口元を両手で覆う。

 どうしよう。感動で目頭だけでなく、喉まで熱くなって。すぐに言葉が出てこない。

「西森依茉さん。高校を卒業したら……俺と、結婚してください」
「……はいっ」

 わたしが涙ぐみながら返事すると、小さいサイズのリングを慧くんが丁寧につまみ、わたしの左手を優しく掴む。
 触れた先から伝わってくる温もりに、ドキドキと鼓動が落ち着かなくなっていく。

 わたしの左手の薬指に指輪をはめると、慧くんがふわりと微笑む。
 そんな彼の左手の薬指にも、わたしと同じデザインの指輪がキラキラと輝いている。

「こうして約束したからには……依茉のこと、もう一生離さないから」
「わたしも。慧くんから一生離れない」

 そう言うと、慧くんにぎゅっと抱きしめられる。

「依茉」

 熱のこもった声で名前を呼ばれて、そのまま深く唇を奪われる。

 ここが外だということも忘れて彼と濃厚なキスを交わすうち、徐々に体から力が抜けて危うくへたりこみそうになる。
 そんなわたしを、慧くんがぎゅっと抱きしめ支えてくれた。

「この先どんなときも、こうやって俺が依茉のことを支えるから」
「うん。二人で支え合っていこうね」

 これからどんなことがあっても、慧くんと一緒なら……きっと大丈夫だって強く思える。

「依茉、愛してる」
「わたしも……っ」

 近づいてくる顔にわたしが目を閉じると、再び唇が重なる。

 誰もいない、七夕の満天の星空の下で。わたしは慧くんと、永遠の愛を誓い合った。

 【完】
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