クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか

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第3章

懐かしいふたり

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放課後。

「ごめんね、天音ちゃん。手伝ってもらっちゃって」
「いいよ。あの先生、ほんと人使い荒いんだから」

私は担任の先生に、授業で集めた課題ノートを職員室まで運ぶように頼まれたんだけど。

天音ちゃんが、一緒に運ぶのを手伝ってくれたんだ。

職員室からの帰り道。私が天音ちゃんと一緒に、昇降口へと向かって歩いていると。

「キャー!」

何やら体育館のほうから、歓声が聞こえてきた。

「えっ、何? あの声」

声を聞いた天音ちゃんが、目を丸くする。

放課後、陽向や水上くんのいるバスケ部の練習を見にいく女子は多くて。体育館から今みたいな歓声が聞こえるのも、決して珍しいことではないんだけど。
今日はその声が、いつもよりも一段と大きい気がする。

「ねえ。想良くん、バスケ部に入部したらしいよ」
「そうなの?」
「うん。さっそく今日から、練習に参加するんだって!」

私たちを後ろから追い抜いた同じ2年生の女子たちが、体育館へと駆けていく。

そーちゃん、バスケ部に入ったんだ。

「ねえ、星奈。あたしたちも、ちょっと見に行こうよ」
「え!?」

『ばーか。ちげえよ』

今日の昼休みに学食でそーちゃんに、私のことを好きなのかと聞かれたときの陽向の声が、ふと頭の中を過ぎる。

今は、なんとなく陽向と顔を合わせたくないかも。

「えっと、私はちょっと……」
「あたし、バスケしている想良くんを見てみたいの。お願い! ひとりで体育館に行く勇気なくて」

天音ちゃんは今日、そーちゃんに落とし物を拾ってもらったらしく、そのときの彼のキラキラした笑顔に心を撃ち抜かれたのだとか。

それから、完全にそーちゃん推しになったみたい。

天音ちゃんにはさっき、ノートを運ぶのを手伝ってもらったしなあ。

「分かった。いいよ」
「ありがとう、星奈」

天音ちゃんについて体育館に行くと、そこはたくさんの女子であふれていた。

「あっ! もしかして、星奈ちゃんと天音ちゃんも見に来たの?」

球技大会のとき、同じバスケチームだったクラスメイトのアサミちゃんに声をかけられる。

「うん。あたしは想良くん目当て」
「わたしも! 一之瀬くんとこうちゃんも良いけど、想良くんもかっこいいよね」

アサミちゃんが、私と天音ちゃんが見えるようにと場所を空けてくれた。せっかくなので、そこから見てみると。

「陽向、こっち!」

コート内では、紅白戦が繰り広げられているようだった。

そーちゃんの掛け声に、陽向が彼に勢いよくパスを出す。

ボールを受け取ったそーちゃんは、軽やかにドリブルをして駆けていく。

そーちゃんは、敵チームである水上くんからのディフェンスをあっさり交わし、一気にゴール下までまわり込む。

ダンッ!

そして、そーちゃんはリングに向かってジャンプをし、上からたたきこむようにボールを入れた。

「きゃあああ」

途端にあがる、黄色い声。

「何あれ、すごっ!」
「想良くん、かっこいい~!」

私の隣にいる天音ちゃんとアサミちゃんも、そーちゃんに釘付けだ。かくいう私も、そのうちの一人だけど。

そーちゃんは、動きが素早くて。ゴール下に走り込む度に、必ずシュートを決めた。

すごい……!

素人の私から見ても、そーちゃんはずば抜けてバスケが上手だってことが分かる。

「想良、ナイスシュート!」

陽向が、そーちゃんに笑顔でハイタッチする。

「お前、3年前よりもめっちゃ上手くなったな」
「陽向こそ」

そーちゃんが、笑いながら陽向の肩を組む。

今日の昼休み。学食にいたとき、陽向とそーちゃんの間には少しピリッとした雰囲気があったけど。

今、二人は笑いあっていて。お互いを褒め合っていて。なんだか小学生の頃に戻ったみたいで、嬉しいな。

『なあ、想良。バスケしようぜ』
『いいよー!』

あの頃、ふたりはすごく仲が良くて。毎日のように、家の近所の公園でバスケをしていたから。

そんな二人を見るのが、私は好きだった。

「……危ないっ!」

昔を思い返しながら、私が陽向とそーちゃんのことを見つめていると。突然そんな声が聞こえた。

な、なに?!

疑問に思った瞬間、バスケ部の隣で練習をしていたバレーボール部のボールがこっちに向かって飛んできた。

えっ……!

反応が遅れてしまった私はすぐに動くことができず、バレーボールがおでこに直撃する。

「痛っ……」

私はおでこを手でおさえて、その場にしゃがみこむ。
まさか、バレーボールが飛んでくるなんて。

「澄野さん……! ごっ、ごめん!!」

私にボールを当てたらしい同じ2年生のバレー部の女の子が、青ざめた顔で私に必死に謝ってくる。

ちょっと痛むけど。特に血が出たりもしていないし。今にも泣きそうな顔をしている女の子に私は「大丈夫だよ」と言い、笑ってみせる。

「本当にごめんなさい!」

女の子は申し訳なさそうにもう一度謝ると、部活へと戻って行った。

「せーちゃん!」
「星奈ちゃんっ!」

女の子と入れ替わるように、そーちゃんと水上くんがこちらに向かって走ってくる。

「今ボールが頭に当たったのが見えたけど、大丈夫?」

そーちゃんが、私の顔を覗き込んだ。

「だっ、大丈夫だよ」

そーちゃんや水上くんまで来てくれたからか、バスケ部の人やギャラリーの女の子たちが「何だ何だ」とザワザワし始める。

生徒の視線が一斉に自分へと集まるのが分かり、頬が熱くなる。

みんなに、余計な心配をかけさせたくなくて。私は、もう一度ニコッと微笑んでみせる。

「本当に大丈夫だから」

そう言って立ち上がろうとしたとき、おでこにわずかな痛みが走り、私は顔をしかめてしまった。

「……っ」
「ったく。何が大丈夫なんだよ」
「えっ、陽向!?」

離れたところで練習をしていたはずの陽向が、いつの間にかすぐ目の前に立っていて。

「痛むんだろ? 保健室行くぞ」

どうして陽向がここにいるんだと思っているうちに、彼の手が私の背中にまわって体がふわりと宙に浮いた。

えっ、え!?

「キャーッ!」

その途端、先ほどの紅白戦のときよりも一際高い声が体育館中に響き渡る。

うそ、やだ。これってもしかして、お姫様抱っこ!?

「ちょっと、陽向……おろして!」

お姫様抱っこなんて恥ずかしくて。陽向から離れようと、私は抵抗する。
だけど、陽向にガッチリと押さえられていてビクともしない。

「ジタバタすんなよ。怪我人は、大人しくしてろ」
「う……」

私は恥ずかしさのあまり、顔を伏せてしまった。

彫刻のようにきれいな顔が、すぐそばにあって。
陽向との近すぎる距離に、ドキドキと胸が尋常じゃないくらいに高鳴る。

「すいません。俺、こいつを保健室まで連れて行くので。ちょっと抜けます」

顧問の先生に声をかけると、陽向は私を抱きあげたまま歩き始める。

「ごめんね、陽向。迷惑かけて」
「別に。迷惑だなんて思ってねえよ。星奈は、今はその怪我を治すことだけを考えてたら良い」
「ありがとう……」
「……大事な幼なじみに、もし傷痕が残ったりしたら大変だからな。よし、急ぐぞ」

陽向の歩く速度がわずかに上がる。

かすり傷程度だろうに。陽向ってば、大袈裟だなって思ってしまうけど。

私のことを気にしてくれる陽向の優しさが、嬉しくて。私は、頬がゆるんでしまう。

それに陽向、いま私のこと『大事な幼なじみ』って言ってくれた。

陽向は私に対して、恋愛の意味での『好き』っていう気持ちはないのかもしれないけど。
それでも私はやっぱり……陽向のことが好きだ。
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