クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか

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第2章

陽向とひとつ屋根の下②

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それから1時間半後。

「よし、できた」

私はキッチンのテーブルに炊きたてのご飯と味噌汁、それから今夜のメインであるハンバーグとポテトサラダがのったお皿を並べる。

「あっ、陽向!」

キッチンの開いた扉のそばを、陽向がちょうど横切るのが見えた。

「夕飯できたよ」
「夕飯……えっ、もしかして星奈が作ったのか?」

食卓を見て、目を丸くする陽向。

「陽向、小さい頃からハンバーグ好きでしょ?」
「べっ、別に好きじゃねえよ」

私から、顔をふいっとそらす陽向。

あれ、違ったっけ? 朝陽おじさんの好物がハンバーグで、昔はよく陽向ママの作るハンバーグを、親子で競うように食べているのを何回か見たんだけど。

「ったく。俺は、夕飯は作らなくて良いって言ったのに」
「ごっ、ごめんね。人の家のキッチンを勝手に……」
「それは良いよ。ただ、よその家での料理って大変だろ? だから俺は、初日の今日くらい作らなくて良いって言ったんだ」

えっ。それじゃあ陽向は、私のためを思って言ってくれてたの?

「でも、星奈がせっかく作ってくれたのなら、食う」

そう言うと、陽向は食卓につく。

「陽向、食べてくれるの?」
「食べないと、もったいないし……いただきます」

胸の前で手を合わせると、陽向は箸でハンバーグを切り分ける。

真っ先にハンバーグを食べようとするなんて。やっぱり陽向、ハンバーグ好きなんじゃない。

私はハンバーグを口に運ぶ陽向を、ドキドキしながら見つめる。

ハンバーグ、陽向の口に合うかな? 美味しいって、言ってくれるかな?

「……あのさ。そんなにじっと見られると、食べにくいんだけど」
「ご、ごめん」

私は慌ててエプロンを外して陽向の向かいの席に着くと、自分のご飯を食べ始める。

「……美味い」
「え?」
「星奈が作ってくれたハンバーグ、美味いよ」
「ほんと!? 良かったあ」

にこやかな陽向を見て安堵した私は、ようやく箸が進む。

「つーか、星奈」
「ん?」

それからしばらく黙ってご飯を食べていた私たちだけど。なぜか、陽向がじっとこちらを見てくる。

「ちょっとそのまま、じっとしてろよ」
「え……」

すると陽向の手が私の顔に伸びてきて、ドキリとする。
な、なに!?

脈は速まり、動けないでいると。

「……っ」

口の端に、陽向の指がそっと触れた。

「ご飯粒、ついてたぞ」
「え!」

ご飯粒って! はっ、恥ずかしすぎる……!

そして陽向は今とったご飯粒を、なんでもないようにパクッと食べた。

「ひ、陽向……」

彼のまさかの行動に、私はびっくり仰天。

「なんかこういうの、許嫁っぽくね?」
「っ……けほっけほっ」

陽向の爆弾発言に驚いて、私は思いきりむせてしまう。

「い、許嫁っぽいって……」

まさか、陽向がそんなことを言うなんて。

「べつに、本当のことだろ? 許嫁って、将来結婚して夫婦になるんだから。恋人以上ってことだぞ?」
「……っ」

そ、それはそうだけど。
陽向の言葉に、私は頬がかっと熱くなるのを感じた。


それから再び黙々と、ご飯を食べる陽向。

でも、陽向がそんなふうに言ったってことは……陽向は私と許嫁だってことを、嫌だとは思っていないってことなのかな?


夕食後。私は今、キッチンで洗い物をしている。

あのあと陽向は、ご飯をおかわりしてくれて。夕飯は、残さずきれいに食べてくれた。
自分が頑張って作ったご飯を、好きな人に完食してもらえるのって、こんなにも嬉しいものなんだな。

陽向がハンバーグを『美味しい』って言ってくれたときのことを思い出し、ひとりにやけていると。
バタバタバタ……と、窓の外で音がしてくる。

なに? 気になって、そっとカーテンを開けて見ると。

「えっ、雨?」

いつの間にか空からは、滝のように雨が降り注いでいた。

そして遠くの空にはピカッと稲妻が走るのが見え、私は慌ててカーテンを閉めた。

ゴロゴロゴロッ!

「きゃっ!」

大きな音をたてて鳴り響く雷に、私は肩がビクッと跳ねる。

やだやだ。雷、怖いよ……。
私は小さい頃から雷が大の苦手で、思わず涙目になる。

苦手な雷に不安でいっぱいで、つい陽向のところへ行きたくなるけれど。陽向は今、入浴中だから無理だ。

ゴロゴロゴロッ!!

「きゃあっ」

私はその場にしゃがみこみ、両耳を手で塞ぐ。
ほんと嫌だ。雷、早くおさまって……。

ゴロゴロゴロゴロ、ズドーーンッ!!

だけど、私の気持ちとは裏腹に雷の音はどんどん大きくなるばかり。

「うう……」

声が無意識に口から漏れ、身体がカタカタと震える。
怖い、怖いよ……。更に、窓の外がピカッと光ったと思ったら。

──バリバリバリッ!!

より一層大きな雷が鳴り響き、同時に部屋の電気が消えてしまった。

「えっ、うそ。停電!?」

家中が真っ暗で、何も見えない。

ヤダヤダ、どうしよう──!

停電なんて初めてで。こんなとき、どうしたら良いのか分からない。しかもここは、我が家ではなく陽向の家。

ドーーン!!

「ううっ……」

雷も一向に鳴り止まず、真っ暗な部屋にひとりで、ますます不安になったそのとき──。

「星奈っ!!」

スマホのライトで辺りを照らしながら、陽向が慌ててキッチンに入ってきた。

「星奈、さっき悲鳴が聞こえたけど大丈夫か!?」
「陽向……っ!」

不安のあまり、こちらにやって来た陽向に伸ばしかけた手を私は引っ込める。
いくら雷が怖かったからって、陽向に迷惑をかけちゃダメだ。

「だっ、大丈夫だよ……」
「大丈夫ってお前、子どもの頃から雷苦手だっただろ!? こんなに震えて、全然大丈夫じゃないだろ」

そう言うと陽向は私を優しく引き寄せ、ギュッと力強く抱きしめてきた。
陽向のぬくもりを感じてドキドキするのと同時に、ものすごくホッとする。

「陽向……私、本当はさっきからずっと怖かったの」

私はようやく陽向に本音を言い、彼の背中にそっと手をまわす。

「そうか。俺がいるから、大丈夫だ」
「うん……っ」

そして陽向は安心させるように、私の背中をトントンと優しく何度も叩いてくれる。
そばに陽向がいてくれると思うと、心強くて。不安な気持ちが、少しずつ薄れていく。

もし今頃我が家にひとりだったら、停電と雷の鳴るなかでもっと心細かったに違いない。そう思うと、陽向がいてくれて本当に良かった。

それから私と陽向は、電気がつくまでお互い抱きしめ合っていたのだった。
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