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第4章
陽向のリクエスト②
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「こんなところで会うなんて偶然だね。一之瀬くんも、お買い物?」
「……ああ」
ニコニコと尋ねてくる田中さんに、相変わらずそっけなく答える陽向。
「ここのスーパーに買い物に来たってことは、もしかして一之瀬くんのお家ってこの辺り?」
「……別に、家なんかどこだって良いだろ」
冷たく言い放つと、陽向は歩き出す。
「ごっ、ごめんね。余計なこと聞いちゃって。それじゃあ、また学校で」
「……」
田中さんに返事もせず、足を進める陽向。
ああ。陽向ってば、またあんな態度をとって……!
「ちょっと、陽向!」
私は田中さんの姿が見えなくなったところで、陽向に声をかけた。
「田中さんは、クラスメイトなんだから。無視するとか、そういうの良くないよ」
さっき陽向に冷たくされたとき、田中さん泣きそうな顔をしてた。
私は学校で、田中さんが陽向によく話しかけているのを見かけてたから。たぶん、彼女は陽向のことが好きなんだと思う。
陽向に冷たい態度をとられる彼女が、少し前の自分に重なってしまって。同じ人を好きになった者として、どうしても見て見ぬふりはできなかった。
「なんだよ。俺が女子と仲良くしようがしまいが、どっちでも良いだろ? 星奈に迷惑かけてねえし」
「そうだけど……」
「それとも星奈は……俺に、他の女子と仲良くして欲しいわけ?」
「っ、それは……」
陽向に聞かれた私は、言葉につまる。
自分の好きな人が、他の女の子と話してるところは見たくないし。必要以上に、仲良くして欲しくもないけど……。
ただの幼なじみの私に『嫌だ』なんて、そんなことを言う資格なんてきっとない。
「それに俺は……他の女子と話さなくても、星奈とだけ話せてたらそれで良いんだけど」
「……っ」
何それ。嬉しすぎるよ。
私とだけ話せてたらそれで良いなんて言われたら……。まるで私が、陽向の特別なんじゃないかって勘違いしそうになる。
「つーか、逆に星奈は俺以外の男と仲良くしすぎなんじゃねえの?」
──え?
「俺という許嫁がいながら、休日に想良とふたりで出かけたり」
「だから、あのときは……」
「分かってる。星奈は優しいから。でも、どんな理由だろうと、星奈が想良とふたりで出かけてたと思うと……何か、すっげームカつく」
ムカつくって、陽向……本当に?
「まあ、許嫁って言っても。所詮、互いの親が勝手に決めただけの関係だけどな」
陽向の言葉に、胸がズキッと痛む。
「そもそも俺たちは、恋人ってわけでもないし。星奈にとって想良は、小学校からの大事な友達だろうに。突然こんなことを言って、悪かった」
「ううん」
首を横に振る私の頭に、陽向がそっと手を置く。
「まあ、たとえ親同士が勝手に決めた許嫁の関係だとしても。俺は、星奈から離れるつもりはないけどな」
「えっ?」
「このまま想良に負けっぱなしなのは、嫌だし。俺はお前のこと、誰にも渡したくない」
「陽向、それって……」
思わず聞き返してしまったけど……期待だけは、絶対にしちゃダメ。
だって私は小学生のとき、一度陽向に振られているんだから。
ドクン、ドクン。
緊張のせいか、心音がいつもより大きくなる。
「えっと。それは、つまり……」
つまり?
「俺が、星奈のことを……」
「あーーっ!!」
陽向の言葉を遮るように、突然明るく大きな声が辺りに響き、私の肩がビクッと跳ねる。
「誰かと思えば、ヒナくんと星奈ちゃんだあ」
「虹輝!?」
「水上くん!」
後ろから私たちに声をかけてきたのは、水上くんだった。
「いや~。まさか、こんなところで二人に会えるなんて」
水上くんの登場に、場の空気が一気に変わる。
今日は土曜日だからか、よくクラスメイトに会うなぁ。
「二人して何やってんのー? あっ、もしかしてデートとか?」
「デッ……!?」
水上くんにとんでもないことを言われ、私は口ごもってしまう。
デ、デートって! どうしてみんな、外で男女が二人でいたら、そういう発想になるの?
「……ただの買い物だよ。俺たちは幼なじみで、家も近所だから。家族ぐるみで付き合いがあって。今夜は、ウチで一緒に夕飯食うんだよ」
わっ。陽向ったら、私と違ってスラスラと言葉が出てきてすごい。
「そうだよな? 星奈」
「うん、そうなの。親におつかい頼まれちゃって」
「ふーん。そういえば、前にふたりは幼なじみだって言ってたね。いいなぁ、ヒナくん。星奈ちゃんみたいな可愛い幼なじみがいて」
え!
「ほんと、ヒナくんが羨ましいよ。オレも、星奈ちゃんと幼なじみだったら良かったなあ」
ちらっとこちらを見た水上くんが、パチッとウインクする
「ねえ、星奈ちゃん」
「うん?」
「このお菓子、もう食べた?」
そう言って水上くんが自分の買い物カゴから取り出したのは、新発売のお菓子。
「あっ、それ知ってる」
確か夏限定のフレーバーで、テレビのCMで見てからずっと気になってたんだよね。
「私、まだ食べれてなくて」
「これ、めっちゃ美味しかったから。食べなきゃもったいないよ」
ファンの女の子から学校でよくお菓子をもらっているだけあって、水上くんはそういう情報にも詳しい。
「というわけで、家に帰ったらこれをヒナくんとふたりで仲良く食べなよ」
水上くんが手にしていた新発売のお菓子を、陽向が持っている買い物カゴにポイッと入れる。
「あと、このクッキーもオススメ。それじゃあ明後日、学校でね。バイバーイ」
水上くんがひらひらと手を振り、笑顔で去っていく。
「何だったんだ、虹輝のヤツ。しかも、余計なお菓子まで勝手に人のカゴに入れて」
水上くんが入れたお菓子を陽向が手にし、軽く睨む。
「あの、陽向。それで、さっきの話の続きだけど……」
私が意を決して、陽向に尋ねたとき。
ぐううう、きゅるるる~。
「あっ」
なんと、陽向のお腹が盛大に鳴った。
「やべ。こんなときに腹が鳴るとか、俺めっちゃカッコ悪いじゃん」
沸騰したかのように、陽向の顔が赤く染まる。
「ふふ。陽向でも、お腹が鳴ったりするんだね」
「あっ、当たり前だろ。俺のこと、何だと思ってるんだよ」
私がずっと持ったままだった餃子の皮とひき肉を陽向が取って、カゴに放り込む。
「ごっ、ごめんね陽向。ふふふ」
「星奈。いくら何でも、笑いすぎ」
ここまで顔を赤くさせる陽向は、珍しくて。学校では勉強も運動もカンペキな陽向の、いつもと違う一面を見れた気がして。嬉しくて、私は笑いが止まらなくなる。
「陽向のことを笑っちゃったお詫びに、今夜はとびきり美味しい餃子を作るね」
「ああ。楽しみにしてる。俺、星奈の作ってくれるメシ、好きだから」
「陽向……」
さっきの陽向の言葉の続きは、水上くんの登場によって聞けずじまいで。ウヤムヤになっちゃったけど。
その代わりに今、星奈の作るメシが好きだと言ってもらえて。私はこれからも、陽向にご飯を作っても良いんだって思えて。
自分は陽向に必要とされているということが、感じられたから……その言葉をもらえただけで、今はもう十分だ。
それから必要な買い物をすませると、私たちは帰路についた。
そして帰宅後。私は陽向のリクエスト通りに餃子を作って、陽向と二人で美味しく食べたのだった。
「……ああ」
ニコニコと尋ねてくる田中さんに、相変わらずそっけなく答える陽向。
「ここのスーパーに買い物に来たってことは、もしかして一之瀬くんのお家ってこの辺り?」
「……別に、家なんかどこだって良いだろ」
冷たく言い放つと、陽向は歩き出す。
「ごっ、ごめんね。余計なこと聞いちゃって。それじゃあ、また学校で」
「……」
田中さんに返事もせず、足を進める陽向。
ああ。陽向ってば、またあんな態度をとって……!
「ちょっと、陽向!」
私は田中さんの姿が見えなくなったところで、陽向に声をかけた。
「田中さんは、クラスメイトなんだから。無視するとか、そういうの良くないよ」
さっき陽向に冷たくされたとき、田中さん泣きそうな顔をしてた。
私は学校で、田中さんが陽向によく話しかけているのを見かけてたから。たぶん、彼女は陽向のことが好きなんだと思う。
陽向に冷たい態度をとられる彼女が、少し前の自分に重なってしまって。同じ人を好きになった者として、どうしても見て見ぬふりはできなかった。
「なんだよ。俺が女子と仲良くしようがしまいが、どっちでも良いだろ? 星奈に迷惑かけてねえし」
「そうだけど……」
「それとも星奈は……俺に、他の女子と仲良くして欲しいわけ?」
「っ、それは……」
陽向に聞かれた私は、言葉につまる。
自分の好きな人が、他の女の子と話してるところは見たくないし。必要以上に、仲良くして欲しくもないけど……。
ただの幼なじみの私に『嫌だ』なんて、そんなことを言う資格なんてきっとない。
「それに俺は……他の女子と話さなくても、星奈とだけ話せてたらそれで良いんだけど」
「……っ」
何それ。嬉しすぎるよ。
私とだけ話せてたらそれで良いなんて言われたら……。まるで私が、陽向の特別なんじゃないかって勘違いしそうになる。
「つーか、逆に星奈は俺以外の男と仲良くしすぎなんじゃねえの?」
──え?
「俺という許嫁がいながら、休日に想良とふたりで出かけたり」
「だから、あのときは……」
「分かってる。星奈は優しいから。でも、どんな理由だろうと、星奈が想良とふたりで出かけてたと思うと……何か、すっげームカつく」
ムカつくって、陽向……本当に?
「まあ、許嫁って言っても。所詮、互いの親が勝手に決めただけの関係だけどな」
陽向の言葉に、胸がズキッと痛む。
「そもそも俺たちは、恋人ってわけでもないし。星奈にとって想良は、小学校からの大事な友達だろうに。突然こんなことを言って、悪かった」
「ううん」
首を横に振る私の頭に、陽向がそっと手を置く。
「まあ、たとえ親同士が勝手に決めた許嫁の関係だとしても。俺は、星奈から離れるつもりはないけどな」
「えっ?」
「このまま想良に負けっぱなしなのは、嫌だし。俺はお前のこと、誰にも渡したくない」
「陽向、それって……」
思わず聞き返してしまったけど……期待だけは、絶対にしちゃダメ。
だって私は小学生のとき、一度陽向に振られているんだから。
ドクン、ドクン。
緊張のせいか、心音がいつもより大きくなる。
「えっと。それは、つまり……」
つまり?
「俺が、星奈のことを……」
「あーーっ!!」
陽向の言葉を遮るように、突然明るく大きな声が辺りに響き、私の肩がビクッと跳ねる。
「誰かと思えば、ヒナくんと星奈ちゃんだあ」
「虹輝!?」
「水上くん!」
後ろから私たちに声をかけてきたのは、水上くんだった。
「いや~。まさか、こんなところで二人に会えるなんて」
水上くんの登場に、場の空気が一気に変わる。
今日は土曜日だからか、よくクラスメイトに会うなぁ。
「二人して何やってんのー? あっ、もしかしてデートとか?」
「デッ……!?」
水上くんにとんでもないことを言われ、私は口ごもってしまう。
デ、デートって! どうしてみんな、外で男女が二人でいたら、そういう発想になるの?
「……ただの買い物だよ。俺たちは幼なじみで、家も近所だから。家族ぐるみで付き合いがあって。今夜は、ウチで一緒に夕飯食うんだよ」
わっ。陽向ったら、私と違ってスラスラと言葉が出てきてすごい。
「そうだよな? 星奈」
「うん、そうなの。親におつかい頼まれちゃって」
「ふーん。そういえば、前にふたりは幼なじみだって言ってたね。いいなぁ、ヒナくん。星奈ちゃんみたいな可愛い幼なじみがいて」
え!
「ほんと、ヒナくんが羨ましいよ。オレも、星奈ちゃんと幼なじみだったら良かったなあ」
ちらっとこちらを見た水上くんが、パチッとウインクする
「ねえ、星奈ちゃん」
「うん?」
「このお菓子、もう食べた?」
そう言って水上くんが自分の買い物カゴから取り出したのは、新発売のお菓子。
「あっ、それ知ってる」
確か夏限定のフレーバーで、テレビのCMで見てからずっと気になってたんだよね。
「私、まだ食べれてなくて」
「これ、めっちゃ美味しかったから。食べなきゃもったいないよ」
ファンの女の子から学校でよくお菓子をもらっているだけあって、水上くんはそういう情報にも詳しい。
「というわけで、家に帰ったらこれをヒナくんとふたりで仲良く食べなよ」
水上くんが手にしていた新発売のお菓子を、陽向が持っている買い物カゴにポイッと入れる。
「あと、このクッキーもオススメ。それじゃあ明後日、学校でね。バイバーイ」
水上くんがひらひらと手を振り、笑顔で去っていく。
「何だったんだ、虹輝のヤツ。しかも、余計なお菓子まで勝手に人のカゴに入れて」
水上くんが入れたお菓子を陽向が手にし、軽く睨む。
「あの、陽向。それで、さっきの話の続きだけど……」
私が意を決して、陽向に尋ねたとき。
ぐううう、きゅるるる~。
「あっ」
なんと、陽向のお腹が盛大に鳴った。
「やべ。こんなときに腹が鳴るとか、俺めっちゃカッコ悪いじゃん」
沸騰したかのように、陽向の顔が赤く染まる。
「ふふ。陽向でも、お腹が鳴ったりするんだね」
「あっ、当たり前だろ。俺のこと、何だと思ってるんだよ」
私がずっと持ったままだった餃子の皮とひき肉を陽向が取って、カゴに放り込む。
「ごっ、ごめんね陽向。ふふふ」
「星奈。いくら何でも、笑いすぎ」
ここまで顔を赤くさせる陽向は、珍しくて。学校では勉強も運動もカンペキな陽向の、いつもと違う一面を見れた気がして。嬉しくて、私は笑いが止まらなくなる。
「陽向のことを笑っちゃったお詫びに、今夜はとびきり美味しい餃子を作るね」
「ああ。楽しみにしてる。俺、星奈の作ってくれるメシ、好きだから」
「陽向……」
さっきの陽向の言葉の続きは、水上くんの登場によって聞けずじまいで。ウヤムヤになっちゃったけど。
その代わりに今、星奈の作るメシが好きだと言ってもらえて。私はこれからも、陽向にご飯を作っても良いんだって思えて。
自分は陽向に必要とされているということが、感じられたから……その言葉をもらえただけで、今はもう十分だ。
それから必要な買い物をすませると、私たちは帰路についた。
そして帰宅後。私は陽向のリクエスト通りに餃子を作って、陽向と二人で美味しく食べたのだった。
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