クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか

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第5章

これからもずっと①

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私が屋上に閉め出されたあの日から、数日後。

ようやく風邪が治った私は、3日ぶりに登校した。

「おはよう、星奈」
「あっ、陽向! おはよう」

朝。私が教室に行くと、真っ先に陽向が声をかけてくれた。

「体調はもう良いのか?」
「大丈夫だよ。心配かけてごめんね」
「そっか。良かった」

安心したように微笑むと、陽向が私の頭をぽんぽんと撫でてくる。

まさか、教室で陽向のほうから声をかけてくれるなんて、かなりレアだから。
会うのが数日ぶりなのもあって、すごく嬉しい。

「あのさ。俺、星奈に大事な話があるんだけど」
「大事な話?」
「ああ」

表情がほんの少し曇った陽向に、私は首を傾ける。

「だから今日の放課後、空き教室まで来てくれないか?」
「わかった」

それにしても、大事な話って何だろう?


疑問に思いながら、迎えた放課後。私が約束していた空き教室に行くと、そこにはすでに陽向の姿があった。

「ごめん、待った?」
「いや」
「それで陽向、話というのは?」
「ああ……」

尋ねると、陽向はふいっと視線を逸らしてしまった。

今朝教室で陽向と話していたときと違って、彼のまわりの空気が今は少し重くて。
私は、ゴクリと唾を飲みこむ。

「あのさ、星奈」

少しの沈黙のあと、陽向がようやく口を開く。

「俺たち……許嫁を解消しよう」

え? 許嫁を解消って……。

「どっ、どうして?!」

予告もなく突然告げられた私は、戸惑いを隠せない。

「そもそも許嫁って言っても、親が勝手に決めたことだし。中学生の俺には、結婚とかまだ考えられないから。そういうのは、正直困るっていうか」

そんな……。思いもよらぬ陽向の本音に、私は言葉を失う。

親に陽向が許嫁だと告げられてからは、彼と一緒に過ごす時間が増えて。

陽向と少しずつ、昔みたいに距離が縮まってきているように感じて嬉しかったのに。

許嫁のことを、陽向はそんなふうに思っていたの?

私の目には、じわじわと涙があふれてくる。

許嫁解消なんて、本当は嫌だけど。ワガママを言って、陽向を困らせるようなことだけはしたくない。

だから……。

「……わかった」

私は、そう答えるしかなかった。

「悪かったな。俺と許嫁だったせいで、星奈にはたくさん嫌な思いをさせてしまって」

ううん、そんなことない。陽向と許嫁で、嫌な思いをしたことなんて今まで一度もなかったよ。
むしろ私は、許嫁としてこれからもずっと陽向のそばにいたかった。

「……っう」

ああ、ダメだ。泣きそう。

陽向にだけは、泣いているところを見られたくなくて。涙を堪えられなくなった私は、空き教室を飛び出した。


私はあてもなく、ただひたすら廊下を走る。

「……っ、うぅ~」

教室を出た途端、ぼろぼろと涙があふれて止まらない。

私、今度こそ本当に失恋したんだ。

ここ最近の陽向は、甘い言葉をかけてくれたり。他の女の子と違って、私には優しくしてくれることが多かったから。

もしかしたら私は、陽向の特別なんじゃないかって、心のどこかで舞い上がってしまってた。

「うっう……ひっく」

ちゃんと前を見ずに、泣きながらがむしゃらに走り続けていたからか、私は向こうから歩いてきた人と肩がぶつかってしまった。

「おっと!」
「ごっ、ごめんなさい」

ぶつかった相手は、そーちゃんだった。

「え。せーちゃん、泣いてるの!?」

私の涙を見て驚いたのか、彼は目を大きく見開く。

「ご、ごめん! もしかして今、僕とぶつかったから……」
「違うの。そーちゃんのせいじゃない!」

私はすぐさま否定する。

「だったら、なんで泣いて……もしかして、陽向に何か言われた?」
「……っ!」
「やっぱり、そうなんだね」

こう見えてそーちゃんは、意外と鋭いから。

「ねえ、何があったの? 僕で良ければ、話聞くよ?」

そーちゃんが本気で心配してくれているのが、声や表情からも伝わるから。私は、彼に正直に話すことにした。

「実は……陽向に許嫁を解消されちゃって」
「は?」

そーちゃんが、間抜けな声を出す。

「ちょっと待って、せーちゃん。許嫁って確か、フィアンセのことだよね?」

私はコクっと頷く。

「オーマイガー! まさかキミたちが、そんな関係だったなんて」

そーちゃんが、大袈裟に驚くのも無理はない。だって、今まで陽向と許嫁だってことは話していなかったんだもの。

「せーちゃんを泣かせるなんて。何やってるんだよ、陽向は。バカじゃないの」

珍しく怒ったような口調のそーちゃんに、目尻からまた涙がこぼれそうになる。
それをそーちゃんが、指先でそっと拭ってくれた。

「ねえ、せーちゃん。陽向に婚約を解消されたのなら……僕の彼女になってくれない?」

そーちゃんの言葉に顔を上げると、彼はとても真剣な顔つきをしていた。

「僕、小学生のときからずっと、せーちゃんのことが好きだった」

そーちゃん……?

「覚えてる? 小学3年生の頃、アメリカから日本に引っ越して来て。日本語がよく分からず、ひとりぼっちだった僕と、最初に友達になってくれたのがせーちゃんだった」
「もちろん、覚えてるよ」

家の近所にアメリカから同い年の男の子が引っ越してきたって知ったときは、すごく嬉しかったから。

「小学生の頃からせーちゃんは、可愛くて優しくて。あのときからずっと、僕にとってキミはたった一人の特別な女の子だった」

まさか、そーちゃんがそんなにも前から私のことを想っていてくれたなんて。

「小学5年生のときに、アメリカに戻ってからも、ずっとせーちゃんのことが忘れられなくて。だから、いつか再会できたら絶対に気持ちを伝えようって思ってた」

するとそーちゃんが頭を下げ、真っ直ぐ私に手を伸ばしてくる。

「せーちゃんのことが好きです。僕と……付き合ってください!」

そーちゃんのストレートな告白に、私は胸がいっぱいになる。

今、彼が差しだしてくれているこの手を取ったなら……私はきっと幸せになれる。

そんな予感がして、私はつい手を伸ばしそうになる。

だけど、こんなときでも私の頭に浮かぶのは陽向の顔。

私は、何度振られても……やっぱり陽向のことが好きなんだ。

「あの。そーちゃん、私……」

陽向への想いを再確認した私が、そーちゃんからの告白を断ろうとしたとき。

「ちょっと待ったーー!!」

廊下に突如、大きな声が響き渡った。

だっ、誰!?

びっくりして後ろを振り返ると、少し離れたところに陽向が立っていた。
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