クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか

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第3章

水上くんと図書室②

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「星奈ちゃんは、数学をやってたの?」
「うん」
「それじゃあオレも、数学をやろっかなあ。この間の中間テストも3位に順位が落ちて、親にめっちゃ怒られて大変だったし」
「え!?」

成績順位が学年で真ん中くらいの私からしたら、3位は十分すごいのに。
水上くんのご両親、厳しくないですか?

「オレの家は、昔から代々総合病院を営んでるから。特に、数学とかの理数系にはうるさくてさ」

やれやれと、肩をすくめてみせる水上くん。

そっか。水上くんのお父さんは、総合病院の院長ってだけでなく、全国的にも名前の知られた腕の良い有名外科医で。何度かテレビ番組に出演しているのを、見たことがある。

「だからオレ、大学の医学部に入るために今から頑張らないといけないんだよね」

大学の医学部……!

水上くんは総合病院の跡取り息子とはいえ、中学2年生になってまだ間もない今から、自分の将来についてちゃんと考えてるなんて。水上くん、えらいなあ。

「水上くんなら、きっと大丈夫だよ」
「ありがとう。星奈ちゃんにそう言ってもらえると、頑張れそうだよ」

隣にいる水上くんが、カバンから数学の問題集を取り出す。

「あ、やばっ。オレ、ペンケースを教室に忘れてきたみたい」

カバンの中をゴソゴソしながら、水上くんが焦ったように席を立つ。

「オレ、教室に取りに……」
「えっと、あの……水上くん。良かったら、私のシャーペン使う?」
「えっ、いいの?」
「うん、どうぞ」

放課後の今、教室はきっと鍵がかかってるし。1階の図書室から職員室に鍵を取りに行って、そこから3階にある教室まで行くのは大変だろうから。

「消しゴムも、良かったらこれ使って」

私はお互いが取りやすいようにと、そばに置いてあった消しゴムを自分と水上くんの間に移動させる。

「ありがとう。星奈ちゃんって、ほんといい子だよね」
「いやいや。私なんて、全然だよ。それを言うなら、水上くんのほうが……」
「そういう謙虚なところもまた良いな。オレ、星奈ちゃんのこと本気で好きになっちゃったかも」

……え?

「ていうか実はオレ、前からずっと気になってたんだよね。星奈ちゃんのことが」

えっ、え!?

「気になってた? みっ、水上くんが、私のことを!?」

だってそんな素振り、今まで一度も……。

「うん。可愛くていい子だなって、前から思ってたよ。球技大会のときとか、普段からちょこちょこアピールはしてるつもりだったんだけど」
「あっ」

──『ねぇ、星奈ちゃん。オレ、今日の球技大会頑張るからさ』

──『オレのこと、星奈ちゃんにちゃんと見てて欲しいな』

そうか。あのときの彼の言葉は、そういうことだったんだ。

「まあ、その様子じゃ伝わってなかったみたいだね?」
「ごっ、ごめ……」
「いいよ。そういうちょっと鈍いところも含めて、可愛いなって思うから」

うっ。水上くんったら、またそんな甘い言葉をさらっと。

「星奈ちゃんのことが好きな男子は多いから。オレ、この気持ちはキミに伝えないでおこうって思ってたんだけど。つい、口が滑っちゃった。ダメだなぁ」

てへっと、可愛く笑う水上くん。

「でも、この気持ちは嘘じゃない。オレは、本当に星奈ちゃんが好きだよ」

可愛い笑顔から一変。水上くんが、今度はとても真剣な顔つきになる。

「えっと……」

水上くんの予想外の言葉の連続に、私は頭がパンクしそうになる。

でも、彼が決して冗談で言ってるわけではないってことは、ちゃんと伝わってくるから。

私は陽向が好きだってことを、水上くんにハッキリと言うべきなのか。

だけど、それだと水上くんを傷つけてしまうんじゃないかとも思ってしまって。すぐに、言葉が出てこない。

「あの、水上くん。私……っ」
「大丈夫。星奈ちゃんの気持ちは、分かってるから。オレはただ、こうして星奈ちゃんに自分の気持ちを伝えられただけで満足だよ」

「ごめん……ありがとう、水上くん」
「ううん。それじゃあこれからも、オレたちは変わらず “友達” ってことで。よろしく」
「もちろんだよ」
「さてと。おしゃべりはここまでにして。今から数学、頑張ろう」

そう言って水上くんは、何事もなかったように数学の問題集に取り組みはじめる。

水上くんは『友達』って言ってくれたけど。

全く思ってもみなかった水上くんの告白は、私にとってはけっこう衝撃的で。

そのことが、しばらく頭から離れなくて。

この日私は、なかなか勉強に集中できなかった。
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