隠れ御曹司は、最強女子を溺愛したい

藤永ゆいか

文字の大きさ
22 / 27
第4章

真実〜彗side〜②

しおりを挟む
俺は、電話の相手との待ち合わせ場所である体育館裏にやって来た。

「あっ、彗! 急に呼び出したりして。話って何?」

壁に背をつけて待っていた蓮が、俺を見た途端、不機嫌そうな顔で尋ねてくる。

「僕、自主練の途中だったんだけど?」

バスケ部の蓮は、今もまだ体操服姿だ。

「悪いな。蓮に話があって……」

俺がさっき電話をした相手は、いとこで友人の蓮だ。

「実は……菜乃花の髪飾りがなくなってさ」
「えっ!?」

俺の言葉に、目を丸くする蓮。

「それって、彗があの子のために買って、プレゼントしたって話してたやつだよね? 見つかったの?」

俺は、首を横にふる。

蓮に、こんなことを聞くのは勇気がいるけど……。

俺は深呼吸すると、心配そうな表情の蓮を真っ直ぐ見つめた。

「単刀直入に言う。蓮、お前が伊集院に……菜乃花の髪飾りを盗るように言ったんだろ?」

自分の声が震えそうになるのを、必死に堪える。

「……は? 彗ったら、いきなり何を言い出すんだよ」

蓮が眉をひそめる。

「さっき、クラスメイトの伊集院から聞いたんだ」
「ちょっと待ってよ。普段から菜乃花ちゃんと仲良くしている僕が、そんなことをする訳ないじゃない。その伊集院さんって子が、嘘でもついてるんじゃないの?」

そうだよな。俺も最初は、信じられなかったけど。

「ここに来る途中、蓮がそこのプールの建物の近くで、伊集院から菜乃花の髪飾りを受け取るところを見たって、水泳部の人からも聞いたんだよ」
「そんな……ひどいよ、彗」

蓮の声が、少し悲しそうに落ちる。

俺だって本当は、こんなことを言いたくはない。自分の身内を……蓮を、疑いたくなんてないんだ。

「まさか彗が、そんな人だとは思わなかったよ。いとこのことを……ううん。実の弟である僕のことを疑うなんて」
「っ!」

そうだ。蓮は、戸籍上は俺のいとこだけど。本当は……血の繋がった俺の双子の弟だ。

弟の蓮は生まれてすぐ、子宝に恵まれなかった俺たちの母の実家である速水家に……。母の兄夫婦の元に、養子に出されたんだ。

「うう。ひどいよ、彗……っ」

目元に手を当て、声を震わせる蓮。

「……泣き真似をしたって、俺には通用しないから。いい加減、観念しろよ蓮」
「くっ」
「目撃者も何人かいるし、俺は伊集院本人からも全部聞いたんだよ。蓮に頼まれてやったって」
「……チッ。あの女……」

冷たい声音に、冷めた視線。忌々しそうに舌打ちをする蓮は、いつもの可愛らしさの欠片もない。

「ああ、そうだよ。僕が伊集院さんに頼んだんだ。そして、彼女に盗ってもらった髪飾りを、学校のプールに投げ捨てた」

投げ捨てたって……。
︎︎︎︎︎︎
ふつふつと、言いようのない怒りが込み上げてくる。

「どうしてだよ? なんでお前がそんなひどいことを……。蓮も菜乃花のことを、良い子だなって思ってたんじゃなかったのかよ?!」

──『菜乃花ちゃん、僕と一緒に走って!』

体育祭の借り物競争のとき、蓮は一番に菜乃花を指名したり。彼女に優しく接したり。
少なくとも俺には、蓮が菜乃花に好意を抱いているように見えた。

それなのに……。

「……」
「おい、蓮。黙ってないで何とか言えよ!」

怒りのあまり、俺は蓮の胸ぐらを掴んだ。

「ははっ、良い子か。確かに、そんなふうに思っていたときもあったけど……」

蓮は、何がおかしいのか、空虚な笑い声を響かせた。その笑い声がやんだ後、彼は俺をきつく睨みつける。

「あの子は……羽生菜乃花は、悪魔じゃないか」

蓮の言葉に、俺は言葉を失った。

「悪魔?」

自分の耳を疑うように、聞き返す。

「ああ、そうだよ。羽生さんは、葵兄ちゃんの命を奪った、悪魔なんだよっ!」
「菜乃花が兄貴の命を奪ったって、何だよそれ」

意味が分からない。

「彗の彼女がどんな子なのか気になって、僕の執事に羽生さんのことを調べさせたんだよ。そうしたら羽生さんが昔、川で溺れたって知って」

嫌な予感に、心臓がバクバクと音を立てはじめる。

「あの子が溺れた川は、葵兄ちゃんがよく絵を描きに行っていた川で。そこで溺れた羽生さんを、葵兄ちゃんが助けたって……。そのせいで、兄ちゃんは持病が悪化して死んだんだ!」
「っ……」

初めて知る事実に、俺は鈍器で殴られたような衝撃を覚え、声を失った。

そして、蓮の胸ぐらを掴んでいた手を力なく離し、ふらふらと後ずさる。

「あのとき羽生さんが溺れていなければ、葵兄ちゃんが川に入ることもなかった。兄ちゃんは、今も生きていたかもしれないのに!」

蓮の怒鳴り声が、右から左へと流れていく。

そういえば前に一度、菜乃花が俺に話してくれたことがあった。

小学2年生の夏に、川で溺れたこと。

そのとき溺れた菜乃花を助けてくれた中学生の男の子が、亡くなってしまったこと。

川で溺れて以来、水が怖くて海やプールに入れずにいることを。

「……っ」

そうか。あのときの話の中学生は……兄貴のことだったのか。

まさか兄貴と菜乃花が昔、知り合っていたなんて……ようやく点と点が繋がった。

「兄ちゃんを死に追いやった子が、彗の彼女だなんてありえない。だから僕は、そんな子と付き合ってる彗が許せなくて……!」

鼻息荒く、拳を握りしめる蓮。

「それで、校舎から俺の頭上を目がけて花瓶を落としたのか?」
「いや。あのときは彗じゃなく、本当は羽生さんを狙った。彼女がケガでもして、今度の三池財閥のパーティーに出席できなくなれば良いと思ったんだ」

そういうことだったのか。まったく、なんて弟だ。

真実を知った俺は、何とも言えない複雑な気持ちになる。


6年前の、あの夏の日。兄貴が全身びしょ濡れで家に帰ってきて。
俺がどうしたのか聞いたら、川に入ったって言ってた。

なぜなのか理由は話してくれなかったけど、程なくして兄貴の容態が急変して……。

俺は、拳をきつく握りしめる。

生まれつき心臓の悪かった兄貴が、どうして入るのを禁じられていた川に入ったのか、ずっと疑問だったけど。

あのとき兄貴は、川で溺れた菜乃花を助けたんだな。

「兄ちゃん……」

俺の口から、兄貴を呼ぶ声が漏れた。

「だから、あの髪飾りも……水が苦手な羽生さんが困れば良いと思って、学校のプールに……」

そうだ。髪飾り……!

蓮の言葉に、俺は慌ててその場から駆け出す。

走っていると、灰色の空からはポツポツと雨が降り出してきた。

雨粒が頬に当たってくるけど、俺は構わず走り続ける。

屋外プールのある建物の階段を駆けのぼり、扉を勢いよく開けて中に入った次の瞬間──。

「!」

目の前に飛び込んできた光景に、俺は息が止まりそうになった。
菜乃花が、プールで溺れていたから。

「菜乃花……!」

俺は、プールサイドへと慌てて駆け寄る。

どうしよう、俺のせいだ……。

全身から、サッと血の気が引いていく。

元はと言えば、俺が菜乃花に彼女役を頼んだせいで、蓮が菜乃花に興味をもったんだ。

俺が菜乃花と、ボディーガード兼カノジョの契約を結んだりしなければ、蓮が菜乃花について調べることもなかっただろうし。

俺たち兄弟が、兄貴と菜乃花の繋がりを知ることもなかったのかもしれない。

何より、菜乃花が危険な目に遭ったり、プールで溺れることもなかったはずだ。

「……ッ」

俺は、唇を震わせる。

「だ、誰か……っぷ」

ふいに溺れる菜乃花の声がして、俺はハッとする。
ダメだ。今は、悔いている場合じゃない。

「待ってろ、菜乃花!」

──バシャーン!!

俺は靴を脱ぐと、菜乃花を助けるため制服のままプールへと飛び込んだのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1〜

おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
 お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。  とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。  最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。    先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?    推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕! ※じれじれ? ※ヒーローは第2話から登場。 ※5万字前後で完結予定。 ※1日1話更新。 ※noichigoさんに転載。 ※ブザービートからはじまる恋

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

オバケの謎解きスタンプラリー

綾森れん
児童書・童話
第3回きずな児童書大賞 奨励賞をいただきました! ありがとうございます! ――七不思議を順番にめぐると、最後の不思議「大階段踊り場の鏡」に知らない自分の姿が映るんだって。 小学六年生の結菜(ユイナ)が通う三日月(みかづき)小学校では、そんな噂がささやかれていた。 結菜は難関中学に合格するため、塾の夏期講習に通って勉強に励んでいる。 だが一方で、自分の将来にひそかな期待と不安をいだいてもいた。 知らない自分を知りたい結菜は、家族が留守にする夏休みのある夜、幼なじみの夏希(ナツキ)とともに七不思議めぐりを決意する。 苦労して夜の学校に忍び込んだ二人だが、出会うのは個性豊かなオバケたちばかり。 いまいち不真面目な二宮金次郎のブロンズ像から、二人はスタンプラリーの台紙を渡され、ルールを説明される。 「七不思議の謎を解けばスタンプがもらえる。順番に六つスタンプを集めて大階段の鏡のところへ持って行くと、君の知らない君自身が映し出されるんだ」 結菜と夏希はオバケたちの謎を解いて、スタンプを集められるのか? そして大階段の鏡は二人に何を教えてくれるのか? 思春期に足を踏み入れたばかりの少女が、心の奥底に秘めた想いに気付いてゆく物語です。

処理中です...