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第5章
三池財閥のパーティー②
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「父さん……」
「えっ」
彗くん今、グレーのスーツのあの人を見て『父さん』って言った!?
ということは、もしかしなくてもあの人は……。
「菜乃花。この人が、俺の父親」
彗くんにこそっと耳打ちされ、私の胸の鼓動は一気に加速する。
や、やっぱりそうだ……!
「彗。母さんから聞いていたが、もしかしてそちらの方が?」
「はい。俺が今、お付き合いしている彼女です」
彗くんのお父さんの視線が、彗くんから私へと移り、肩がビクッと大きく跳ねた。
「ははは、初めまして。彗くんのクラスメイトの、はっ、羽生菜乃花です!」
緊張でガチガチの私は、途中で噛みながらも何とか自己紹介。
「ほう。君が、菜乃花さん……。彗、彼女に対しては本気なのか?」
「はい」
「今までお前には、浮いた話などなかったから。もしやこのパーティーで、私に将来の結婚相手を探させないようにするための嘘なんじゃないか?」
うそ。彗くんのお父さんにバレてる!?
彗くんのお父さんの指摘に、背筋が冷えた。
「いえ。嘘じゃないです。俺は菜乃花に対して、本気です」
曇りのない瞳でお父さんを真っ直ぐ見据える彗くんの隣で、私は内心ハラハラする。
「……そうか」
終始、厳しい顔つきだったお父さんが、息をついた。
「先ほどの鈴木さんへの挨拶でお前は彼女のことを、『僕が初めて、生涯ずっと大切にしたいと思えた人』だと話していたようだし」
えっ。お父さん、さっきの彗くんの話を聞いていたの!?
「彗は、本気のようだな。お前の気持ちはよく分かった」
お父さんは、彗くんに向かって小さく微笑む。
良かった。信じてもらえたみたい。
無事に彗くんの彼女としての役目を果たせたと、ホッとしたのも束の間──。
「それじゃあ、彗。このあとの菜乃花さんとのダンス、楽しみにしているぞ」
えっ。ダンス?
お父さんはにこやかに彗くんの肩をポンと叩くと、足早に歩いて行った。
「あの、彗くん。お父さんが今話していた、ダンスっていうのは……」
「ああ、悪い。色々あって菜乃花に話しそびれていたけど、今日のパーティーはダンスパーティーなんだよ」
ええっ。ダ、ダンスパーティー!?
それじゃあ、さっきのおじさんが話してた『例のアレ』っていうのは、ダンスのことだったんだ!
「いや~。今日は三池さんのご子息が、お付き合いしている女性と初めてダンスを披露するらしいから。楽しみですなあ」
「そうですねえ」
招待客の話し声が耳に入り、ダンス未経験の私は自分の顔がサッと青ざめるのが分かった。
最後の最後に、こんなとんでもないミッションが残っていたなんて……!
「あの、彗くん……わ、私、ダンスなんて今まで一度も踊ったことがないから、無理だよ!」
「大丈夫。俺がリードするから」
小声で訴える私に、彗くんが自信満々に微笑んだそのとき。
ちょうどダンスタイムの時間になったようで、会場内には優雅なワルツが流れ始めた。
周りにいる人たちが、男女一人ずつペアとなって、フロアの中央へと集まっていく。
「さあ。俺たちも行こう」
彗くんは一歩前に出ると、こちらに手を差し出した。
「……プリンセス。俺と踊っていただけますか?」
甘く注がれる眼差しに、思わず鼓動が跳ねる。
ここまで来たら、もうあとには引けない。
『大丈夫。俺がリードするから』
私は、さっきの彗くんの言葉を信じてみようと思った。
「は、はいっ」
ドキドキしながら手を重ねると、そっと彼のほうに引き寄せられた。
そのままフロアの中心までエスコートされると、緊張が一気に押し寄せてくる。
「菜乃花。今日の君は本当に素敵だから。自信を持って」
彗くんが耳元で、私にだけ聞こえるように囁く。
「他のことは何も考えずに、菜乃花は俺だけを見てて」
力強く握られた手は、私に安心感を与えてくれる。
目を見て頷くと、彗くんは微笑み……私をリードしながら踊り始めた。
「1・2・3」
私にだけ聞こえる彗くんのカウントに合わせて、見よう見まねで足を動かす。
「そうそう。菜乃花、上手だよ」
優しいリード。私の腰を抱いたまま踏む、迷いのないステップ。
彗くんって、ダンスも上手なんだなあ。
最初は、動きがぎこちなかった私だけど。彗くんのおかげで、踊っているうちにだんだんと楽しくなってきた。
自然と足が動いて、まるで音楽と溶け合うようにステップを踏む。
目の前の彗くんの瞳には今、私しか映っていない。
私だけを真っ直ぐ見つめる大きな瞳に、吸い込まれちゃいそう。
触れ合う温かな手、ときどき交わる視線。
自信たっぷりに、私をリードしながら踊る彗くんは、この会場の誰よりもかっこよくて。
改めて私は、そんな彗くんが好きだと思った。
彗くんは、葵くんの弟だから。好きになっちゃダメだってずっと思っていたけど……彼を好きにならないなんて、やっぱり無理だった。
転校初日に、彗くんと出会ったときのこと。
『羽生さん、俺のボディーガード兼カノジョになってよ』
彼と、契約を結んだときのこと。
学校の体育祭に、彗くんの家でのお茶会。
彗くんと踊っていると、彼と過ごした日々が次から次へと頭に蘇ってきた。
あっという間だったな。色々なことがあったけど、彗くんと過ごした時間はいつも楽しくて……
「……彗くん、ありがとう」
彼への感謝の言葉が、自然と口からこぼれた。
“好き”という二文字は、決して声に出しては言えないけれど。
私に、初めての恋を経験させてくれて……ありがとう。
「いや。お礼を言うのは、俺のほうだよ」
「え?」
「俺、菜乃花と出会えて良かった。菜乃花が俺のボディーガードになってくれて、本当に良かった」
「!」
彗くんの言葉に、目頭が熱くなる。
彗くんにそんなことを言われたら、泣いちゃいそうだよ。
まばゆいシャンデリアの下。
私は目から涙が溢れそうになるのを必死に堪えながら、流れるワルツに合わせて一歩一歩丁寧に踏みしめる。
彗くんと二人で踊るこの時間が、ずっと続いて欲しい。
音楽が、永遠に止まらないで欲しい。そんな切ない願いが、胸の奥から込み上げてくる。
物事には必ず終わりが来ることを、私は知っている。
だからこそ、私は彗くんと踊る今この瞬間を一生忘れないように、心と体にしっかりと焼きつけた。
まばゆいシャンデリアの光が、私の頬を伝う一筋の涙をきらきらと輝かせた。
「えっ」
彗くん今、グレーのスーツのあの人を見て『父さん』って言った!?
ということは、もしかしなくてもあの人は……。
「菜乃花。この人が、俺の父親」
彗くんにこそっと耳打ちされ、私の胸の鼓動は一気に加速する。
や、やっぱりそうだ……!
「彗。母さんから聞いていたが、もしかしてそちらの方が?」
「はい。俺が今、お付き合いしている彼女です」
彗くんのお父さんの視線が、彗くんから私へと移り、肩がビクッと大きく跳ねた。
「ははは、初めまして。彗くんのクラスメイトの、はっ、羽生菜乃花です!」
緊張でガチガチの私は、途中で噛みながらも何とか自己紹介。
「ほう。君が、菜乃花さん……。彗、彼女に対しては本気なのか?」
「はい」
「今までお前には、浮いた話などなかったから。もしやこのパーティーで、私に将来の結婚相手を探させないようにするための嘘なんじゃないか?」
うそ。彗くんのお父さんにバレてる!?
彗くんのお父さんの指摘に、背筋が冷えた。
「いえ。嘘じゃないです。俺は菜乃花に対して、本気です」
曇りのない瞳でお父さんを真っ直ぐ見据える彗くんの隣で、私は内心ハラハラする。
「……そうか」
終始、厳しい顔つきだったお父さんが、息をついた。
「先ほどの鈴木さんへの挨拶でお前は彼女のことを、『僕が初めて、生涯ずっと大切にしたいと思えた人』だと話していたようだし」
えっ。お父さん、さっきの彗くんの話を聞いていたの!?
「彗は、本気のようだな。お前の気持ちはよく分かった」
お父さんは、彗くんに向かって小さく微笑む。
良かった。信じてもらえたみたい。
無事に彗くんの彼女としての役目を果たせたと、ホッとしたのも束の間──。
「それじゃあ、彗。このあとの菜乃花さんとのダンス、楽しみにしているぞ」
えっ。ダンス?
お父さんはにこやかに彗くんの肩をポンと叩くと、足早に歩いて行った。
「あの、彗くん。お父さんが今話していた、ダンスっていうのは……」
「ああ、悪い。色々あって菜乃花に話しそびれていたけど、今日のパーティーはダンスパーティーなんだよ」
ええっ。ダ、ダンスパーティー!?
それじゃあ、さっきのおじさんが話してた『例のアレ』っていうのは、ダンスのことだったんだ!
「いや~。今日は三池さんのご子息が、お付き合いしている女性と初めてダンスを披露するらしいから。楽しみですなあ」
「そうですねえ」
招待客の話し声が耳に入り、ダンス未経験の私は自分の顔がサッと青ざめるのが分かった。
最後の最後に、こんなとんでもないミッションが残っていたなんて……!
「あの、彗くん……わ、私、ダンスなんて今まで一度も踊ったことがないから、無理だよ!」
「大丈夫。俺がリードするから」
小声で訴える私に、彗くんが自信満々に微笑んだそのとき。
ちょうどダンスタイムの時間になったようで、会場内には優雅なワルツが流れ始めた。
周りにいる人たちが、男女一人ずつペアとなって、フロアの中央へと集まっていく。
「さあ。俺たちも行こう」
彗くんは一歩前に出ると、こちらに手を差し出した。
「……プリンセス。俺と踊っていただけますか?」
甘く注がれる眼差しに、思わず鼓動が跳ねる。
ここまで来たら、もうあとには引けない。
『大丈夫。俺がリードするから』
私は、さっきの彗くんの言葉を信じてみようと思った。
「は、はいっ」
ドキドキしながら手を重ねると、そっと彼のほうに引き寄せられた。
そのままフロアの中心までエスコートされると、緊張が一気に押し寄せてくる。
「菜乃花。今日の君は本当に素敵だから。自信を持って」
彗くんが耳元で、私にだけ聞こえるように囁く。
「他のことは何も考えずに、菜乃花は俺だけを見てて」
力強く握られた手は、私に安心感を与えてくれる。
目を見て頷くと、彗くんは微笑み……私をリードしながら踊り始めた。
「1・2・3」
私にだけ聞こえる彗くんのカウントに合わせて、見よう見まねで足を動かす。
「そうそう。菜乃花、上手だよ」
優しいリード。私の腰を抱いたまま踏む、迷いのないステップ。
彗くんって、ダンスも上手なんだなあ。
最初は、動きがぎこちなかった私だけど。彗くんのおかげで、踊っているうちにだんだんと楽しくなってきた。
自然と足が動いて、まるで音楽と溶け合うようにステップを踏む。
目の前の彗くんの瞳には今、私しか映っていない。
私だけを真っ直ぐ見つめる大きな瞳に、吸い込まれちゃいそう。
触れ合う温かな手、ときどき交わる視線。
自信たっぷりに、私をリードしながら踊る彗くんは、この会場の誰よりもかっこよくて。
改めて私は、そんな彗くんが好きだと思った。
彗くんは、葵くんの弟だから。好きになっちゃダメだってずっと思っていたけど……彼を好きにならないなんて、やっぱり無理だった。
転校初日に、彗くんと出会ったときのこと。
『羽生さん、俺のボディーガード兼カノジョになってよ』
彼と、契約を結んだときのこと。
学校の体育祭に、彗くんの家でのお茶会。
彗くんと踊っていると、彼と過ごした日々が次から次へと頭に蘇ってきた。
あっという間だったな。色々なことがあったけど、彗くんと過ごした時間はいつも楽しくて……
「……彗くん、ありがとう」
彼への感謝の言葉が、自然と口からこぼれた。
“好き”という二文字は、決して声に出しては言えないけれど。
私に、初めての恋を経験させてくれて……ありがとう。
「いや。お礼を言うのは、俺のほうだよ」
「え?」
「俺、菜乃花と出会えて良かった。菜乃花が俺のボディーガードになってくれて、本当に良かった」
「!」
彗くんの言葉に、目頭が熱くなる。
彗くんにそんなことを言われたら、泣いちゃいそうだよ。
まばゆいシャンデリアの下。
私は目から涙が溢れそうになるのを必死に堪えながら、流れるワルツに合わせて一歩一歩丁寧に踏みしめる。
彗くんと二人で踊るこの時間が、ずっと続いて欲しい。
音楽が、永遠に止まらないで欲しい。そんな切ない願いが、胸の奥から込み上げてくる。
物事には必ず終わりが来ることを、私は知っている。
だからこそ、私は彗くんと踊る今この瞬間を一生忘れないように、心と体にしっかりと焼きつけた。
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