初恋からの卒業

藤永ゆいか

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第一章

1-4

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──カランコロン。

「ごちそうさまでした。また来ます」

こうちゃんはお会計を済ませると、店を出ていく。

こうちゃんが先ほどまで座っていたカウンター席には空になったカップとお皿、そして……

「うそ。こうちゃん、スマホ忘れてるじゃない」

忘れ物に気づいた私は、慌てて彼のあとを追う。

「こうちゃん!」

完全に陽の落ちた今、街灯の少ない住宅街は薄暗く、時折頬を掠める風は冷たい。

「ねぇ、こうちゃん。待って」
「えっ、環奈!?」

私の声に気づいたこうちゃんが、立ち止まりこちらへと振り返る。

「こうちゃん。店にスマホ忘れてたでしょう」
「あっ、やべ。全然気づかなかった」

こうちゃんは、くしゃくしゃっと頭を搔く。

「はい、どうぞ」
「サンキュ、環奈。あっ、そうだ」

何やら、鞄の中をゴソゴソするこうちゃん。

「環奈。手、出して?」
「手?」

こうちゃんに言われるがまま、私が右手を差し出すと。

「はいっ」

私の手のひらに、こうちゃんがチョコやアメをいくつかのせてくれた。

「環奈、甘いもん好きだろ? 今日生徒から貰ったんだけど、環奈に会ったらあげようと思って。食べずに取っておいたんだ」
「あっ、ありがとう」

わざわざ、私のために貰ったお菓子を食べずに残しておいてくれただなんて。そんなこと言われたら、嬉しくなっちゃうじゃない。

「わざわざ俺のために、悪かったな。環奈、気をつけて帰れよ。それじゃあ」

こうちゃんは私の頭を軽く撫でると、家へと向かって歩きだす。

……こうちゃん。私、やっぱりあなたのことが好きだよ。結婚なんてしないで。ずっと私だけのこうちゃんでいて欲しい。

なんて。結婚を控える幼なじみにこんなことを思うのは、いけないことなのだろうか。

冷たい風が、ひゅうと吹きつける。

私は、こうちゃんの背中が見えなくなるまで、その場に立ちつくしていた。
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