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第一章
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──カランコロン。
「ごちそうさまでした。また来ます」
こうちゃんはお会計を済ませると、店を出ていく。
こうちゃんが先ほどまで座っていたカウンター席には空になったカップとお皿、そして……
「うそ。こうちゃん、スマホ忘れてるじゃない」
忘れ物に気づいた私は、慌てて彼のあとを追う。
「こうちゃん!」
完全に陽の落ちた今、街灯の少ない住宅街は薄暗く、時折頬を掠める風は冷たい。
「ねぇ、こうちゃん。待って」
「えっ、環奈!?」
私の声に気づいたこうちゃんが、立ち止まりこちらへと振り返る。
「こうちゃん。店にスマホ忘れてたでしょう」
「あっ、やべ。全然気づかなかった」
こうちゃんは、くしゃくしゃっと頭を搔く。
「はい、どうぞ」
「サンキュ、環奈。あっ、そうだ」
何やら、鞄の中をゴソゴソするこうちゃん。
「環奈。手、出して?」
「手?」
こうちゃんに言われるがまま、私が右手を差し出すと。
「はいっ」
私の手のひらに、こうちゃんがチョコやアメをいくつかのせてくれた。
「環奈、甘いもん好きだろ? 今日生徒から貰ったんだけど、環奈に会ったらあげようと思って。食べずに取っておいたんだ」
「あっ、ありがとう」
わざわざ、私のために貰ったお菓子を食べずに残しておいてくれただなんて。そんなこと言われたら、嬉しくなっちゃうじゃない。
「わざわざ俺のために、悪かったな。環奈、気をつけて帰れよ。それじゃあ」
こうちゃんは私の頭を軽く撫でると、家へと向かって歩きだす。
……こうちゃん。私、やっぱりあなたのことが好きだよ。結婚なんてしないで。ずっと私だけのこうちゃんでいて欲しい。
なんて。結婚を控える幼なじみにこんなことを思うのは、いけないことなのだろうか。
冷たい風が、ひゅうと吹きつける。
私は、こうちゃんの背中が見えなくなるまで、その場に立ちつくしていた。
「ごちそうさまでした。また来ます」
こうちゃんはお会計を済ませると、店を出ていく。
こうちゃんが先ほどまで座っていたカウンター席には空になったカップとお皿、そして……
「うそ。こうちゃん、スマホ忘れてるじゃない」
忘れ物に気づいた私は、慌てて彼のあとを追う。
「こうちゃん!」
完全に陽の落ちた今、街灯の少ない住宅街は薄暗く、時折頬を掠める風は冷たい。
「ねぇ、こうちゃん。待って」
「えっ、環奈!?」
私の声に気づいたこうちゃんが、立ち止まりこちらへと振り返る。
「こうちゃん。店にスマホ忘れてたでしょう」
「あっ、やべ。全然気づかなかった」
こうちゃんは、くしゃくしゃっと頭を搔く。
「はい、どうぞ」
「サンキュ、環奈。あっ、そうだ」
何やら、鞄の中をゴソゴソするこうちゃん。
「環奈。手、出して?」
「手?」
こうちゃんに言われるがまま、私が右手を差し出すと。
「はいっ」
私の手のひらに、こうちゃんがチョコやアメをいくつかのせてくれた。
「環奈、甘いもん好きだろ? 今日生徒から貰ったんだけど、環奈に会ったらあげようと思って。食べずに取っておいたんだ」
「あっ、ありがとう」
わざわざ、私のために貰ったお菓子を食べずに残しておいてくれただなんて。そんなこと言われたら、嬉しくなっちゃうじゃない。
「わざわざ俺のために、悪かったな。環奈、気をつけて帰れよ。それじゃあ」
こうちゃんは私の頭を軽く撫でると、家へと向かって歩きだす。
……こうちゃん。私、やっぱりあなたのことが好きだよ。結婚なんてしないで。ずっと私だけのこうちゃんでいて欲しい。
なんて。結婚を控える幼なじみにこんなことを思うのは、いけないことなのだろうか。
冷たい風が、ひゅうと吹きつける。
私は、こうちゃんの背中が見えなくなるまで、その場に立ちつくしていた。
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初回公開日時 2019.01.25 22:29
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