アイドルと七人の子羊たち

ゆさひろみ

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謎多き少女、相羽のり子

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「第三回、シャンデリア・ナイト実行委員会を始める」
 ガラガラの教室を見渡して、高木たちと数人のクラスメートを指で数えて、
「ま、ちったぁ増えたかな」と金田は腕を組む。
 一番後ろの席で早川が大きなあくびを見せながら、
「しっかし、本当に人が集まっていなかったんだな、お前ら」
「他人事のように言うな」と金田が悔しそうに教卓を叩いて、
「ったく、信じられないくらい人が集まらない」
 海老原がメロンパンの袋を開けながら、
「何かさあ、C組のシャンデリア・ナイトって、どこかから妨害を受けているんじゃないかなあ。この間の高木のギターが盗まれた件にしたって、未だにハッキリしていない部分があるんだろう?」
「妨害」と金田が口をとがらせる。
『あー、あったな、そんなくだらない校則。在学中にイベントを開催しなければ、ここを卒業できないとか、何とか、まったくくだらねえ』
『それじゃ、俺を退学にでもしますか?』
 いつかの九条が頭に浮かびかけて、ブルブルと金田は頭を振る。
「妨害なんてされる言われはねえ。考え過ぎだ。
 おーし、続きをやるか! 久遠、次はどいつだ?」
 そう言って金田が教卓に両手を突く。
 久遠は文庫本を片手に顔も上げず、
「CGデザイナー専攻の相羽のり子」
「相羽のり子?」と金田が頭を掻きながら教室を見渡す。
「そんなやつ、このクラスにいたっけ?」
「ひっどーい」と雛形がスカートの足を組んで、
「委員長なのに、クラスメートの顔が分からないのー?」
 久遠はぺらりと本をめくって、
「仕方ないさ、相羽は影が薄いから。特に金田みたいなうるさいヤツの目には留まりにくいだろうな。俺も二年間 彼女と同じクラスだったが まともに会話をした事がなかった。クラスメートと話している姿も見た事がない。ホームルームでも 授業でも、発言をしている所は見た事がない」
「ふーん、じゃ、放っといてもいいんじゃねー?」
 クルッと黒板から八木が振り返る。
「金田くん、校長先生の言葉を忘れたの? だれ一人欠ける事なく、みんな一致団結して一つのことを成し遂げなさい。こう校長先生から言われたでしょう」
 パタンと本を閉じて、それを机の上に置く久遠。
「それもそうだが、それだけじゃない。C組のシャンデリア・ナイトには 相羽のり子の協力が必要不可欠だ。あいつのCGグラフィックは俺たちのステージに最高の花を添える。あいつは ああ見えて、もうCGクリエーターとしてプロの世界で活躍している」
「え」
「相羽のフル3DCGアニメーションは、数々の賞を受賞していて、特に有名なのは『宇宙と海の伝説』というCG映像作品だ。第一線で活躍するデザイナーの審査員たちは、とにかく海の描写が斬新だったため、自分たちが今手掛けている作品に大幅な修正を加えたという逸話が残っている」
 金田が教卓から身を乗り出して、
「マジで? それは知らなかった、そんなスゲーやつがこのクラスにいたとは。
 それじゃ、なんとしてでもシャンデリア・ナイトに参加してもらわないといけないな。
 久遠、なんで相羽はこの実行委員会に参加しないんだ?」
 軽く肩を竦めて見せる久遠、
「知らない」
「は?」
 みんな久遠を注目する。
「分からないんだよ。相羽のり子は謎が多くて、あまりにも情報が少ない。俺も何回かはコンタクトを取ってみたが、取り付く島もなくて、すぐに逃げられた」
 雛形は自分の爪を見ながら、
「あたしもあの子と話した事なーい」
 井岡がふんぞり返って、週刊誌を読みながら、
「一回だけ、あいつの裏の顔を見た事あるで。なんや知らんけど、誰もおらん教室で、一人でタブレットに向かってボソボソしゃべっとった。気味悪ぅて、声かけんかったけどな」
 金田はうーんと深く腕を組んで、
「どう考えてもヤバいやつみたいだな。よーし、明日 俺、そいつに直接 聞いてみる。なんで実行委員会に参加しないのかって」
「お、出たね、委員長の猪突猛進モード」と海老原がアップルパイを食べ終わる。
「はっや。もう二つも食べたの」
 八木が手にしたチョークを見詰めて、
「紳士な久遠くんが聞いてもダメだったんでしょう? 乱暴な金田くんが聞いたら、もっとダメなんじゃないかなあ」


 次の日の昼休み。
 弁当を手に席を離れる学生の中で、わざと口笛を吹いて相羽の席まで移動する金田。
「おい、相羽。ちょっと、いいか」
 小柄で内気そうな相羽は、コソコソと胸の辺りで弁当を隠す。
「な、なんでしゅか、あなた いきなり」
 金田は空いている席に座って、
「なあ 相羽、お前はどうして実行委員会に顔を出さねえんだ? こっちはもう三回もやってんだぞ。背面黒板にだって、デカデカと告知してあるのに」
 相羽は周囲の目を気にしながら、
「そ、それは、みんなが参加しないからでしゅよ」
 金田はボリボリと頭を掻いて、
「参加しないって、お前そう言うけどさ、今では高木も早川も井岡も、参加してくれるようになっているし、少しずつ人は増えて来ている。だから、な、次からは相羽も参加してくれよ」
 下を向いて、ブツブツと小声で、
「お断りしましゅ。あたしはシャンデリア・ナイトには参加しましぇん」
「お前のすげーCG技術が俺らには必要なんだよ、な?」
「参加しないといったら、参加しましぇん。ムダでしゅ」
 バンと金田は机を叩いて、
「なんでだよ!」
 教室にいるクラスメートが話を止める。
「なんで、参加しねーんだよ!」
 相羽はうつむき、ササッと素早く左右を見る。
「大きな音を立ててもムダでしゅ。シャンデリア・ナイトには、絶対にあたしは参加しましぇん」
 金田は首の骨を鳴らしながら、
「じゃあ、理由を教えてくれ。なんでお前はシャンデリア・ナイトに」
「あなた、ネチネチとしつこい男でしゅね、女の子から嫌われましゅよ」
 弁当を胸に抱えて、全力で教室から飛び出す相羽。その背中を見送って、ちっと舌打ちをして自分の席へ戻って来る金田、そのまま八木と雛形の何か言いたそうな顔の前を通る。
「シャンデリア・ナイトには出ないってさ。理由も教えてくれない」
 八木のため息が聞こえる。
「やっぱりね。そんな簡単に行かないと思った」
 雛形は何か思いついたように手を叩いて、
「そう言えばさ、相羽さんって、今どこへ行ったんだろ。昼休みに彼女の姿を見かけた事がない」
 それを聞いて金田、頬杖をついた顔を窓の外へと向ける。
「そういや、屋上にも、校庭にも、どこにもいねえな あいつ」
 コンビニの袋を両手に持った海老原が三人の所へやって来て、
「何をしているんだい。早く昼飯にしよう。もう腹ペコだ」
 雛形はその袋の中のたくさんの弁当を見て、
「それ、みんなの分?」
「いいや、僕の分」
 ビシッと相手の顔に指を突き付けて、
「何人分食べるんだよ、あんたは!」


 窓から差し込む夕陽によって、教室がオレンジ色に染まっている。雛形と金田、この二人は誰もいない教室で向かい合って座っていた。
「なんか 悪いねえ、テスト勉強を見てもらっちゃって」
 机に教科書とノートを開き、雛形がカチカチとシャーペンの芯を出す。
「委員長なんだから、何かと忙しいんでしょう?」
 同じ机に向かって、鬼コーチのように腕を組む金田、
「余計な心配はするな。頭が悪い仲間のために勉強を見てやるくらいの暇はある」
 雛形がブーと唇を突き出して、
「頭が悪いって、そんな言い方ないじゃない」
「じゃ、なんて呼べばいいんだ? クラスで一番成績悪いヤツって呼べばいいのか?」
 ポトリとノートにシャーペンが落ちる。
「あー、なんであんたは言葉をオブラートに包めないのかねえ、いっつも人の事を直球で馬鹿にして来る」
 頬を膨らませて、金田の顔に顔を近づける。
「ふん、本当の事を言ったまでだ。だからこうやって俺が助け舟を出している。さあ、下らんおしゃべりをしている暇はない。早く俺が作った八つの問題をやれ。明日の数学のテストはゼッタイに難しい。このままだとお前マジで0点とるぞ」
「ひゃー」と雛形は頭を抱えて、
「そんな点数とりたくなーい。みんなにバカな女だと思われちゃう」
 ペシペシと金田は数学の教科書を叩いて、
「だったら俺の言う通りこの問題をやれ。
 いいか、よく聞け。今回のテストの出題者は鍵山だ。あいつは物凄くクセが強い。そのクセは俺がよく知っている。なぜかって? なんたってあいつが出題する問題を俺がことごとく満点で撃破しているからな。だからあいつは意地になって、俺が失点しそうな問題ばかりを出して来る。そこだ。そこを俺は逆手にとって 今回出題される問題がハッキリと限定できる。安心しろ、思いっきり山を張ってあるから、この八つの問題だけしっかり勉強すれば、雛形は赤点をまぬがれる」
「なんか 聞こえはいいけど、金田のせいでテストが難しくなっていない?」
 金田はノートの上をトントンと指差して、
「ココとココ。公式が間違っている。平均値の定数を用いてって、書いてあるだろう。俺が言った通りの公式をそのまま使え」
「えーん」
 悲しそうに雛形が消しゴムを使う。
 しばらくはノートに文字を書く音だけが教室に響く。
「ねえ金田」と雛形がノートに記号を書きながら、
「あんた、付き合っている子とかって、いる?」
「なんだ 藪から棒に」
 雛形が至近距離から上目遣いを見せて、
「いま、彼女いる?」
 金田は急に変な顔をして、横を向く。
「そんなの いねーよ。何でもいいから早くこの微分の問題やれよ」
「やっているって。
 ねえ、好きな子とか、いないの?」
 ふっふっふと目を閉じて笑ってから、
「倉木アイス!」
 金田はサムズアップして見せる。
「もう! そんなあり得ない話をしているんじゃないの、現実的によ、現実的に。
 ねえ、このクラスとかにいないわけ? いいなあと思っている子」
 金田は口をとがらせて、
「いねー」
「ふーん、なんだ、つまんない。じゃあ、このクラス以外には」
 その時廊下から誰かが顔を出して、
「お、そこの二人、なんかイイ感じだな お前ら、付き合っているのか?」
 夕陽は教室の半分までを照らし、そこから先は暗くてよく分からない。
「明日のテストに向けて猛特訓してるんだよ」と金田は数学の教科書を上げて見せて、
「終わったらすぐに帰る。お前も人のこと茶化してないで、早く帰ってテスト勉強しろ。今回のテストは難しいから、ほとんどのやつが赤点になる」
 男子学生の影が荒々しく頭を掻く。
「ちっ、せっかく現実逃避していたのに嫌な事を思い出してしまったじゃねーか。じゃあなお二人さん、ごゆっくり」
 雛形が自分と金田を交互に指差して、
「あたしたち、付き合っているように見えたのかな」
 鬼軍曹のような顔を戻し、金田は教科書をバンバンと手で叩く。
「ほらほら集中しろ集中。r,S,V は時刻t の関数であるから,上の両辺をtで微分する、早くやれよ」
「えーん。あたし数学は苦手なんだよー。
 あ、そうだ金田」
「言った先からムダ口叩くな」
「明日さ、相羽さんが昼休みにどこで何やっているのか、突き止めてみない?」
 人差し指を立てて、雛形はニヤリとする。
「?」
「昼休みになったら、彼女の後をつけてさ、何をやっているのか突き止める」
 金田はあごをつかむような素振りを見せて、
「なるほど な。あいつに謎が多いと言うのなら、その謎を暴いてやればいいのか。うん、明日あいつの後をつけて何をやっているのか突き止めてみよう」
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