プルートーの胤裔

ゆさひろみ

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異なる所感

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「すまん敷島、部屋にケータイを置き忘れてしまった」
 自室へ戻り、ぶ厚い布団に腰を下すわたくし。
『どうだ宗村、俺が送り込んだ 謎の美女の感想は』
 スリッパの音を立て、部屋の奥へと進む美咲、その ツインテールから覗くうなじに、わたくしは一瞥を加えた。
「冗談が過ぎる。何のつもりだ」
『今回は 岸本から我が社に正式に仕事の依頼があったものだ。依頼を引き受けた以上、我が社は社員を派遣し業務に当たる』
「だからって、なんで恋人なんか」
『嫌か』
 机に向かって、ノートPCを開く美咲。そこで、ちらりと横顔を見せる。
「まあ 嫌とか、そんなんじゃないけど」
『とりわけリゾート地などでは、独身男性の一人での宿泊は、何かと怪しまれるものだ。調査をする側の人間が、怪しまれては、元も子もない。これはビジネスだ。俺たちプロの言う事に順って欲しい』
 嫌な予感がした。
「ビジネスって、まさか、岸本に探偵料を請求するつもりか?」
 電話の向こうで笑いが起こった。
『つもりも何も、すでに美咲の人件費と交通費が発生している。調査期間が終了した段階で、社員の時間単価分の費用を請求する。これは岸本も了承済みだ。実費請求は大目に見てやるが、まあ そうだな、ペンションの客とトラブルとなって、訴訟を起こされ、弁護士を雇うようなものだ』
 わたくしは耳の穴に小指を入れながら、
「友人から金を取るのか」
『昔の仲間が相談に乗った所で、何の解決にもならない。特に今回のような特殊な事件はな』
「俺は?」
『ん?』
「俺の分は経費に入っているのか?」
 電話の向こうでまた笑いが起きた。
『君は暇人なのだから、たっぷり旧友の相談に乗ってくれたまえ。お互い積もる話もあるだろうし、高級リゾート地で、美味しい食事に、天然温泉、どうせ宿泊代はただになるだろうから、君にとって申し分のない待遇だとは思わないか?
 それとも何か 君は。敷島探偵グループの一員として、初任給をもらいたいとでも言うのか?』
 爪先でスリッパを遊びながら、
「ごめんだね。それこそ、どこかの地方へ派遣されて、見知らぬ相手と恋人役をやらなければならないのだからね」
 顔を上げると、美咲がこちらを振り返っていた。わたくしは小さく咳払いをして、
「まあとにかく、岸本の悩みが解消できるよう、少なくともあいつが納得できる結果に結びつくよう、俺も協力は惜しまないつもりだ」
 そこでわたくしは、高田と岸本から得た情報を伝えた。
『なるほどな、岸本たちが警察の動きを不信がるのも分かる。なぜか今回 刑事たちの足並みがそろっていない』
 やはり警察の動きはおかしいのか。
「明日からどうすればいい? てっとり早く、直接 警察にでも行ってみるか?」
『それはダメだ。解決済みの事件について、素人があれこれ口出しすると、彼らの態度は一変する。個室に呼ばれて、個人情報を取られるだけだ。今は警察と付き合っている暇はない。とにかく 焼死した天道葵について些細なデータが欲しい。なんでも良い、近くのコンビニの店員に聞いたっていい、ありったけの情報をかき集めてくれ』
 癖でわたくしは煙草をくわえた。火、火とポケットをさぐっている所で、あ、といって固まった。部屋には美咲がいる。煙草を見つめているわたくしに、『どうぞ』と彼女はジェスチャーを見せてくれたが、さすがにこれは辞退した。
「敷島、君はいったい、今回の件についてどう考えているんだ? 四週間前、このペンションの従業員が起こした、突発的な心中事件、それは、岸本が言うように真実ではないのか?」
『君は、どう感じた?』
 敷島の声のトーンが低くなった。
「俺は、そうだな、まあ若干 腑に落ちない点もあるが、それでも警察の下した判断にさほど狂いはない気がする。地方で起きた心中事件、男女間のトラブル、まあ、よく聞く話さ。岸本が心を乱しているのは、天道葵という愛人に、二股をかけられていたから。それこそ気持ちの整理がつかなかったのだろう」
 足を組んだまま、わたくしは布団に倒れた。
『いま、何て言った』
「? だから、岸本はだな、嫁との別居の原因となった、愛人の天道が、急に自殺をしてしまったのだから」
 気づけば美咲もこちらを振り返っていた。
『どうやら君にいち早く現地入りしてもらったのは正解だったようだ。明日からも引き続き天道葵の情報を集めてくれ。以上だ』
 それから、と敷島、最後にこう付け加えた。
『それから、この事件に対する現時点での俺の考えは、これは平凡な男女の心中ではない、もっと趣旨の異なった目的と手段の一部に過ぎない』
 そう言って敷島は電話を切った。
「ったく、何だよあいつは、いつも一方的に切りやがって」
 布団の上に電話を投げ、しばらく天井を見上げていたわたくし、「はあ」とため息をつき、歯でも磨こうかとベッドから起き上がった所で、「あれ?」といって頭を掻いた。
「椎名さん。えーっと、この部屋さあ、一つしかベッドないけど」
 美咲はキーボードを打つ手を休めて、
「わたしたちは恋人ですから、まくらが二つあれば十分です」
「え」
 二人で寄り添って寝ている光景を想像し、わたくしは妙にそわそわした。
「あと 宗村さん 気を付けて下さい、言葉使いです。あなたはわたしの事を美咲と呼んで、人前では他人行儀な言動を避けて下さい。わたしたち恋人なんですから」
 ちょっぴり怒ったふうに、ノートパソコンに顔を戻す美咲。
 それを聞いたわたくしも、ちょっぴり怒ったふうの、口答え。
「だったら、何で水着なんか」
「何ですか?」
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