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異色の刑事
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わたくしは膝に手を突いて立ち上がると、ドアを解錠してノブを回した。廊下には三十代前半のウィンドペン柄の派手なスーツを着た男が立っていた。
「お休みの所すいません、こういうものです」
男は警察手帳を開いて見せた。一瞬だったが石動信也という名が目に入った。
「江口サダユキが自殺をしたという話は、もう御存じですか?」
金髪の髪をアシンメトリーにした奇抜な風貌は、テレビなどで見る刑事の印象とはかけ離れたものだった。
「ええ、まあ、聞いていますが」
「少しお話を伺えませんか?」
わたくしは振り返って美咲を見た。美咲はパーカーのポケットに両手を差し込んで、少し驚いた表情で立っていた。わたくしは美咲と刑事を交互に見た。
「もしかして、知り合い?」
美咲は頷きはしなかったものの、石動としばらくの間見詰め合った。彼は知り合いにしては割合冷たい目をして、美咲から視線を外した。
「まあ立ち話もなんですから、食堂でゆっくり話しましょう」
石動は背中を見せて廊下を歩いて行った。わたくしの見間違えでなければ、警察手帳は警視庁となっていた。
「どうかしたの?」
ドアを大きく開けて、わたくしは促すように振り返った。
「すいません、何でもありません。宗村さん、警察の事情聴取ですから、わたしたちが恋人である事を決して忘れないようにして下さい」
美咲はわたくしの目の前を通って、石動と同じように廊下を歩いて行った。
「何なんだ? あの二人」
わたくしは不満そうに腕を組んでいたが、首を横に振ってドアを閉めた。
一人遅れて食堂に入ると、今朝江口が座っていた暖炉近くのテーブルに石動と美咲が向かい合って座っていた。他に人影はなかった。珈琲を淹れて運んで来た岸本とわたくしは一緒になった。岸本は耳打ちをしてきた。
「あの刑事の奇抜な見た目に騙されるなよ。メモを取らないくせに、こっちが言った事を全部覚えているんだ」
刑事と美咲の前に珈琲を置いて、岸本はさっさと厨房に退散した。
わたくしが着席したのを確認してから、石動は口を開いた。
「江口サダユキがここに宿泊していた事をご存じでしたか?」
わたくしの事情聴取はこれが初めてだった。
「はい。今朝この食堂で見かけて知りました」
「今朝というと何時ごろの話ですか」
石動はテーブルの上のガラス灰皿を移動させた。
「ええと八時頃です」
「それ以前に彼を見かけなかったですか? 昨夜とか」
わたくしの目を見たまま、胸ポケットから煙草を抜き取った。
「見なかったです。俺はちょっと遅れて到着したくちですから、夕食も風呂も一番最後だったと思います」
美咲のあまりの沈黙にわたくしは横目を使った。
「ふん。今朝八時頃に江口を見てから、その後は一度も彼を見ていないですか?」
「見ていません」
石動はゆっくりと煙草に火を着けて、鼻から煙を吐いた。なんてうまそうに煙草を吸う奴だ。
「彼が死亡した午後二時頃、あなた方はどこでどうしていましたか?」
この質問の回答は美咲からしてもらいたかった。しかし彼女は綺麗な二重まぶたを上げているだけだった。
「正確な時間はわかりませんが、その時は美咲と二人でゲレンデにいたと思います」
石動は煙草の灰を灰皿に落とした。見ると灰皿には既に複数の吸殻があった。
「証言できる人はありますか?」
「えーと、ゲレンデレストランの樹氷の石倉留美さんに話を伺っていたもので、彼女だったら証言できると思います。その後で美咲が、隣にいる美咲がスノーボーダーと衝突事故を起こして、パトロール隊に救助されて救護室へ搬送されました」
石動は金髪の長い前髪を触った。
「あの、俺たちを疑っているんですか?」
「ああ、こういうのは皆さんに聞いているんですよ。別にあなた方を疑っているわけではなくて、江口サダユキの変死に事件性がないかどうかを判断する材料を集めているんです」
「事件性? 彼は自殺したんじゃないんですか?」
わたくしはささやかな演技をした。石動は慣れた調子で横を向いた。
「人は病院で病死すると医師の判断で死亡診断書が発行されます。彼がこの場合であれば我々の出る幕はありません。しかし病院以外の場所で亡くなった今回の場合は、我々警察による検死が必要になります。それによってこのような事情聴取が必要になるんです。御理解頂けましたか?」
それから石動の退屈とも思える単純な質問が続き、わたくしの職業、住所、連絡先などが手帳に認められた。しかし美咲についての質問は何一つなかった。
「それから最後に、あなた方の信仰宗教について教えて頂けますか?」
「宗教?」
わたくしは素っ頓狂な声を出した。
「はい、これは任意の質問となります。あなた方は晦冥会という宗教の信者ではありませんか?」
「お休みの所すいません、こういうものです」
男は警察手帳を開いて見せた。一瞬だったが石動信也という名が目に入った。
「江口サダユキが自殺をしたという話は、もう御存じですか?」
金髪の髪をアシンメトリーにした奇抜な風貌は、テレビなどで見る刑事の印象とはかけ離れたものだった。
「ええ、まあ、聞いていますが」
「少しお話を伺えませんか?」
わたくしは振り返って美咲を見た。美咲はパーカーのポケットに両手を差し込んで、少し驚いた表情で立っていた。わたくしは美咲と刑事を交互に見た。
「もしかして、知り合い?」
美咲は頷きはしなかったものの、石動としばらくの間見詰め合った。彼は知り合いにしては割合冷たい目をして、美咲から視線を外した。
「まあ立ち話もなんですから、食堂でゆっくり話しましょう」
石動は背中を見せて廊下を歩いて行った。わたくしの見間違えでなければ、警察手帳は警視庁となっていた。
「どうかしたの?」
ドアを大きく開けて、わたくしは促すように振り返った。
「すいません、何でもありません。宗村さん、警察の事情聴取ですから、わたしたちが恋人である事を決して忘れないようにして下さい」
美咲はわたくしの目の前を通って、石動と同じように廊下を歩いて行った。
「何なんだ? あの二人」
わたくしは不満そうに腕を組んでいたが、首を横に振ってドアを閉めた。
一人遅れて食堂に入ると、今朝江口が座っていた暖炉近くのテーブルに石動と美咲が向かい合って座っていた。他に人影はなかった。珈琲を淹れて運んで来た岸本とわたくしは一緒になった。岸本は耳打ちをしてきた。
「あの刑事の奇抜な見た目に騙されるなよ。メモを取らないくせに、こっちが言った事を全部覚えているんだ」
刑事と美咲の前に珈琲を置いて、岸本はさっさと厨房に退散した。
わたくしが着席したのを確認してから、石動は口を開いた。
「江口サダユキがここに宿泊していた事をご存じでしたか?」
わたくしの事情聴取はこれが初めてだった。
「はい。今朝この食堂で見かけて知りました」
「今朝というと何時ごろの話ですか」
石動はテーブルの上のガラス灰皿を移動させた。
「ええと八時頃です」
「それ以前に彼を見かけなかったですか? 昨夜とか」
わたくしの目を見たまま、胸ポケットから煙草を抜き取った。
「見なかったです。俺はちょっと遅れて到着したくちですから、夕食も風呂も一番最後だったと思います」
美咲のあまりの沈黙にわたくしは横目を使った。
「ふん。今朝八時頃に江口を見てから、その後は一度も彼を見ていないですか?」
「見ていません」
石動はゆっくりと煙草に火を着けて、鼻から煙を吐いた。なんてうまそうに煙草を吸う奴だ。
「彼が死亡した午後二時頃、あなた方はどこでどうしていましたか?」
この質問の回答は美咲からしてもらいたかった。しかし彼女は綺麗な二重まぶたを上げているだけだった。
「正確な時間はわかりませんが、その時は美咲と二人でゲレンデにいたと思います」
石動は煙草の灰を灰皿に落とした。見ると灰皿には既に複数の吸殻があった。
「証言できる人はありますか?」
「えーと、ゲレンデレストランの樹氷の石倉留美さんに話を伺っていたもので、彼女だったら証言できると思います。その後で美咲が、隣にいる美咲がスノーボーダーと衝突事故を起こして、パトロール隊に救助されて救護室へ搬送されました」
石動は金髪の長い前髪を触った。
「あの、俺たちを疑っているんですか?」
「ああ、こういうのは皆さんに聞いているんですよ。別にあなた方を疑っているわけではなくて、江口サダユキの変死に事件性がないかどうかを判断する材料を集めているんです」
「事件性? 彼は自殺したんじゃないんですか?」
わたくしはささやかな演技をした。石動は慣れた調子で横を向いた。
「人は病院で病死すると医師の判断で死亡診断書が発行されます。彼がこの場合であれば我々の出る幕はありません。しかし病院以外の場所で亡くなった今回の場合は、我々警察による検死が必要になります。それによってこのような事情聴取が必要になるんです。御理解頂けましたか?」
それから石動の退屈とも思える単純な質問が続き、わたくしの職業、住所、連絡先などが手帳に認められた。しかし美咲についての質問は何一つなかった。
「それから最後に、あなた方の信仰宗教について教えて頂けますか?」
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わたくしは素っ頓狂な声を出した。
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