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協力者の存在
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『これは俺の直感でしかないが、美咲に衝突したスノーボーダーと、晦冥会の暗殺者バイフーが、同一人物の可能性は高いとは言え、全く違う可能性も考えられる』
「違う可能性とは?」
敷島の言わんとする所に、わたくしは或る程度の予想がついていながら、一応聞き返した。
『バイフーには協力者がいる』
「やっぱり」
『やっぱりとは、なんだ』
わたくしは暗い車内に足を組んだ。
「後から出て来た携帯電話の件だ。江口の死後、彼の携帯電話を宿泊先の彼の部屋に置いたのは、高田さんの後任である、米元あずさではないかと俺は疑っている」
『ふむ』
電話の向こうで、椅子の軋む音が聞こえた。
「彼女は俺にだけ聞こえる声で、江口を殺した犯人を知っている、と打ち明けて来た」
美咲が髪を振ってこちらを見た。わたくしはその視線を強く意識した。
『それは、本当の話か?』
「ああ。俺の気を引くだけのハッタリだった可能性があるとは言え、確かに彼女はそう言った。という事はだ。江口を殺害した犯人とあずさは、何らかのコネクションや裏取引があった、そう考えるべきではないだろうか」
前方に凍結防止剤散布車が迫って来て、『散布中』という電光掲示板が点滅した。美咲はアクセルから足を離して、車の速度を緩めた。
『君の言っている事が真実であるならば、その可能性は非常に高いだろう。バイフーには協力者が存在している。その協力者の正体とは、君に対してのみ犯人を知っていると打ち明けて来た、ペンションのバイトの米元あずさが、現在最も有力な候補となる。で、美咲に衝突したスノーボーダーの女は、米元あずさだったか?』
昼間のスノーボーダーは、美咲との衝突による痛みを抱えながら、雪の上に散らばった所持品を回収していた。その女の記憶の姿と、米元あずさの水着姿が、わたくしの頭の中でゆっくりと近づいて行き、二人は一つに交差したかと思うと、そのまま別の二つの姿へと離れて行った。
「違うな、違う。雰囲気がまるで違う。第一顔が違うし、いくら化粧で雰囲気を変えても、二人は同一人物とは成り得ない」
『そうか。分かった』
わたくしはまた携帯電話を持ち替えた。
「なあ敷島、俺は犯人と接触している、君は電話口にそう言ったが、それはひょっとして、昼間のスノーボーダーの事を差すのか?」
カチカチと車体に当たる凍結防止剤を嫌がって、美咲は対向車線に出てアクセルを踏んだ。
『言っただろう、それは言えんと』
「ここまで分かっていながら、まだ君は口を閉ざすのか? どう考えても現状、バイフーはスノーボーダーの女だろう。じゃあ、彼女の正体とは一体誰なんだ」
『宗村、その名前を知っていた三人は、あっという間にこの世を去ってしまった。君の身の安全上、その正体を知ろうとしないように再三にわたって忠告するのは、この為だ』
わたくしはちらりと美咲を見た。彼女はバイフーではない、そのはずだ。事件当時、わたくしと同行していた美咲が、頭上の江口を殺害する事など、やはり絶対に不可能だ。
『宗村、よく聞いてくれ。今回我々が対峙している晦冥会のバイフーは、我々の想像を遥かに凌駕する暗殺者だ。脅してばかりいてすまないが、敷島探偵グループの社員の中に、既にバイフーの犠牲者が出てしまっている。奴の名前や正体を知ってしまったが為に、我々の仲間に悲劇が起こってしまった』
「え?」
敷島が前回の電話で言った、『仇』という言葉を思い出した。
「どういう事だ敷島。なぜ、今回の事件の以前に、君の会社の人間にバイフーの犠牲者が出ているんだ? この事件は、天道葵の死から始まっているのではないのか? それよりももっと以前から、君たちのグループは、晦冥会のバイフーと対峙しているのか?」
今度の敷島の沈黙は長かった。
『すまない。すまないとしか言いようがない。事実はそういう事だ。我が敷島探偵グループは、予期せずしてその活動範囲が、晦冥会の、それもよりにもよって史上最強の暗殺者『バイフー』にまで及んでしまった。まさかこんな深刻な事態になるとは、当時誰もが予想していなかった。しかし、こうなってしまった以上は、我々グループの総力を結集して、奴と対決して仇を討たなければならない。だが、その戦いの代償は、計り知れないものだった』
「代償? 敷島、君は俺を罠にはめたようなものじゃないか? 何も知らない俺をこんな君のグループと晦冥会の抗争の真っただ中に放り込みやがって」
『すまないとしか言えない』
「謝って済む問題か」
速度を落とした車は、高い雪の壁の底から、かろうじてネオンのちらつきを見せる、見覚えのあるペンション街へと入って行った。
『聞いてくれ宗村。俺は最初の電話を君に入れた時、調査業務の経験のない君には何の期待もしていなかった。まあ、岸本の相談役になって、天道の死の直前の様子について、新たな情報を聞き出してもらえれば、それで良いくらいにしか考えていなかった。しかし今では、君のこれからの活躍に対して、俺は何らかの希望を持つように変わってきた。何て形容したらいいものか、とにかく史上最強の晦冥会の暗殺者『バイフー』と君は、何の因果か不思議に引き寄せあっている気がする』
わたくしは思わず吹き出してしまった。
「俺とバイフーが、引き寄せあっているだって? 冗談も休み休み言ってくれ」
電話の向こうから、窓ガラスを開ける音が聞こえた。
『冗談ではない。君は江口を殺害したスノーボーダーの顔を目撃した上に、偶然にも、美咲のSТGのカードとその女の晦冥会のカードをすり替えてしまったのだからね』
わたくしはハッとして美咲を見た。彼女は大きくハンドルを切りながら、横目でこちらを見返した。
「敷島。君の話を聞いていると、俺は何やらとんでもない事をやらかしていないか? もしやバイフーは、俺の事を相当恨んでいやしないか?」
敷島はくすりと笑った。
『やっと事の重大性が理解できたようだな。君にその場から即刻避難して欲しいと言った、俺の裏の意図とはつまりそういう事だ。とにかく君は、バイフーの恐ろしい陰謀も、晦冥会とSТGとの因縁も、何も分からないまま、どんどん奴の存在に近付いて行っている。明日、俺の制止も聞かずに石動は、或る思い切った作戦に打って出る。そこで君は、またしてもバイフーの嫌がる事をするだろう』
「石動刑事が?」
除雪ドーザが踏み固めた圧雪の道で、車がガタガタと振動した。
『ただ一つ、これだけは肝に銘じておいてくれ。いくら君たちがバイフーを逮捕しようと頑張った所で、逮捕できるかできないかは別の話として、決して美咲を一人にしないでくれ。彼女は自尊心が強く、勝気で頑固な性格の持ち主だが、探偵としてはまだ半人前、バイフーの方が一枚も二枚も上手だ。バイフーと警察の戦況が大きく動いて、まさか美咲が標的になろうものなら、こちらもひとたまりもない。君からの初めての電話が、涙ながらの美咲の訃報の知らせだなんて、俺はまっぴらごめんだ。だから美咲がなんと言おうと、彼女を絶対に一人の状態にしないでくれ。現時点で彼女の身の安全を守れるのは、唯一君だけなのだから』
携帯電話を持っている手が、そろそろしんどくなってきた。
「だったら今すぐ、彼女を引き返させたらいいだろう」
美咲は、電話の内容が半ば分かっていながら、しかしこちらを見ようともしなかった。
『そうだな。人命を尊重するのであれば、確かにそうするべきなのだろう。しかし、そうなれば我が敷島探偵グループは、晦冥会に対して全面的な敗北を最後に、本件の幕が下りる事になる。被害者の無念を一義に考え、最後の最後まで犯人の足取りを追う。それが我が敷島探偵グループの信念だ。バイフーに殺された被害者の無念が、今も俺のこの肩にかかっているのだ』
「天道葵の無念か」
『そうだな。彼女の無念も一義に考えている。それにだ。君たちが今最も危険に晒されていると同時に、バイフーも今や過去に例がないほど、危険な状態が続いているという事を覚えておいて欲しい』
わたくしが電話を切るのと、車がペンションの駐車場に入るとが、殆ど同時だった。岸本の門限に間に合ったようで、LEDの明るいポーチライトが、細かい降雪の動きを照らしていた。
「宗村さん、どうかしましたか?」
エンジンを切った後も、中々降車しようとしないわたくしを見て、美咲のインサイドハンドルを掴む手が止まった。
「椎名さん、君たちSТGの社員で、既にバイフーの犠牲になった人って、いるの?」
美咲は目を大きくした。
「敷島さんが、そう言ったんですか?」
「敷島探偵グループの社員の中に、バイフーの名前を知ったが為に、貴い犠牲者が出ているって」
それを聞いて美咲は、力が抜けたようにシートに背中を預けた。そして、フロントガラスに降り積もる雪を見つめた。
「それはきっと、瑞希さん、宮國瑞希さんの事だと思います」
「違う可能性とは?」
敷島の言わんとする所に、わたくしは或る程度の予想がついていながら、一応聞き返した。
『バイフーには協力者がいる』
「やっぱり」
『やっぱりとは、なんだ』
わたくしは暗い車内に足を組んだ。
「後から出て来た携帯電話の件だ。江口の死後、彼の携帯電話を宿泊先の彼の部屋に置いたのは、高田さんの後任である、米元あずさではないかと俺は疑っている」
『ふむ』
電話の向こうで、椅子の軋む音が聞こえた。
「彼女は俺にだけ聞こえる声で、江口を殺した犯人を知っている、と打ち明けて来た」
美咲が髪を振ってこちらを見た。わたくしはその視線を強く意識した。
『それは、本当の話か?』
「ああ。俺の気を引くだけのハッタリだった可能性があるとは言え、確かに彼女はそう言った。という事はだ。江口を殺害した犯人とあずさは、何らかのコネクションや裏取引があった、そう考えるべきではないだろうか」
前方に凍結防止剤散布車が迫って来て、『散布中』という電光掲示板が点滅した。美咲はアクセルから足を離して、車の速度を緩めた。
『君の言っている事が真実であるならば、その可能性は非常に高いだろう。バイフーには協力者が存在している。その協力者の正体とは、君に対してのみ犯人を知っていると打ち明けて来た、ペンションのバイトの米元あずさが、現在最も有力な候補となる。で、美咲に衝突したスノーボーダーの女は、米元あずさだったか?』
昼間のスノーボーダーは、美咲との衝突による痛みを抱えながら、雪の上に散らばった所持品を回収していた。その女の記憶の姿と、米元あずさの水着姿が、わたくしの頭の中でゆっくりと近づいて行き、二人は一つに交差したかと思うと、そのまま別の二つの姿へと離れて行った。
「違うな、違う。雰囲気がまるで違う。第一顔が違うし、いくら化粧で雰囲気を変えても、二人は同一人物とは成り得ない」
『そうか。分かった』
わたくしはまた携帯電話を持ち替えた。
「なあ敷島、俺は犯人と接触している、君は電話口にそう言ったが、それはひょっとして、昼間のスノーボーダーの事を差すのか?」
カチカチと車体に当たる凍結防止剤を嫌がって、美咲は対向車線に出てアクセルを踏んだ。
『言っただろう、それは言えんと』
「ここまで分かっていながら、まだ君は口を閉ざすのか? どう考えても現状、バイフーはスノーボーダーの女だろう。じゃあ、彼女の正体とは一体誰なんだ」
『宗村、その名前を知っていた三人は、あっという間にこの世を去ってしまった。君の身の安全上、その正体を知ろうとしないように再三にわたって忠告するのは、この為だ』
わたくしはちらりと美咲を見た。彼女はバイフーではない、そのはずだ。事件当時、わたくしと同行していた美咲が、頭上の江口を殺害する事など、やはり絶対に不可能だ。
『宗村、よく聞いてくれ。今回我々が対峙している晦冥会のバイフーは、我々の想像を遥かに凌駕する暗殺者だ。脅してばかりいてすまないが、敷島探偵グループの社員の中に、既にバイフーの犠牲者が出てしまっている。奴の名前や正体を知ってしまったが為に、我々の仲間に悲劇が起こってしまった』
「え?」
敷島が前回の電話で言った、『仇』という言葉を思い出した。
「どういう事だ敷島。なぜ、今回の事件の以前に、君の会社の人間にバイフーの犠牲者が出ているんだ? この事件は、天道葵の死から始まっているのではないのか? それよりももっと以前から、君たちのグループは、晦冥会のバイフーと対峙しているのか?」
今度の敷島の沈黙は長かった。
『すまない。すまないとしか言いようがない。事実はそういう事だ。我が敷島探偵グループは、予期せずしてその活動範囲が、晦冥会の、それもよりにもよって史上最強の暗殺者『バイフー』にまで及んでしまった。まさかこんな深刻な事態になるとは、当時誰もが予想していなかった。しかし、こうなってしまった以上は、我々グループの総力を結集して、奴と対決して仇を討たなければならない。だが、その戦いの代償は、計り知れないものだった』
「代償? 敷島、君は俺を罠にはめたようなものじゃないか? 何も知らない俺をこんな君のグループと晦冥会の抗争の真っただ中に放り込みやがって」
『すまないとしか言えない』
「謝って済む問題か」
速度を落とした車は、高い雪の壁の底から、かろうじてネオンのちらつきを見せる、見覚えのあるペンション街へと入って行った。
『聞いてくれ宗村。俺は最初の電話を君に入れた時、調査業務の経験のない君には何の期待もしていなかった。まあ、岸本の相談役になって、天道の死の直前の様子について、新たな情報を聞き出してもらえれば、それで良いくらいにしか考えていなかった。しかし今では、君のこれからの活躍に対して、俺は何らかの希望を持つように変わってきた。何て形容したらいいものか、とにかく史上最強の晦冥会の暗殺者『バイフー』と君は、何の因果か不思議に引き寄せあっている気がする』
わたくしは思わず吹き出してしまった。
「俺とバイフーが、引き寄せあっているだって? 冗談も休み休み言ってくれ」
電話の向こうから、窓ガラスを開ける音が聞こえた。
『冗談ではない。君は江口を殺害したスノーボーダーの顔を目撃した上に、偶然にも、美咲のSТGのカードとその女の晦冥会のカードをすり替えてしまったのだからね』
わたくしはハッとして美咲を見た。彼女は大きくハンドルを切りながら、横目でこちらを見返した。
「敷島。君の話を聞いていると、俺は何やらとんでもない事をやらかしていないか? もしやバイフーは、俺の事を相当恨んでいやしないか?」
敷島はくすりと笑った。
『やっと事の重大性が理解できたようだな。君にその場から即刻避難して欲しいと言った、俺の裏の意図とはつまりそういう事だ。とにかく君は、バイフーの恐ろしい陰謀も、晦冥会とSТGとの因縁も、何も分からないまま、どんどん奴の存在に近付いて行っている。明日、俺の制止も聞かずに石動は、或る思い切った作戦に打って出る。そこで君は、またしてもバイフーの嫌がる事をするだろう』
「石動刑事が?」
除雪ドーザが踏み固めた圧雪の道で、車がガタガタと振動した。
『ただ一つ、これだけは肝に銘じておいてくれ。いくら君たちがバイフーを逮捕しようと頑張った所で、逮捕できるかできないかは別の話として、決して美咲を一人にしないでくれ。彼女は自尊心が強く、勝気で頑固な性格の持ち主だが、探偵としてはまだ半人前、バイフーの方が一枚も二枚も上手だ。バイフーと警察の戦況が大きく動いて、まさか美咲が標的になろうものなら、こちらもひとたまりもない。君からの初めての電話が、涙ながらの美咲の訃報の知らせだなんて、俺はまっぴらごめんだ。だから美咲がなんと言おうと、彼女を絶対に一人の状態にしないでくれ。現時点で彼女の身の安全を守れるのは、唯一君だけなのだから』
携帯電話を持っている手が、そろそろしんどくなってきた。
「だったら今すぐ、彼女を引き返させたらいいだろう」
美咲は、電話の内容が半ば分かっていながら、しかしこちらを見ようともしなかった。
『そうだな。人命を尊重するのであれば、確かにそうするべきなのだろう。しかし、そうなれば我が敷島探偵グループは、晦冥会に対して全面的な敗北を最後に、本件の幕が下りる事になる。被害者の無念を一義に考え、最後の最後まで犯人の足取りを追う。それが我が敷島探偵グループの信念だ。バイフーに殺された被害者の無念が、今も俺のこの肩にかかっているのだ』
「天道葵の無念か」
『そうだな。彼女の無念も一義に考えている。それにだ。君たちが今最も危険に晒されていると同時に、バイフーも今や過去に例がないほど、危険な状態が続いているという事を覚えておいて欲しい』
わたくしが電話を切るのと、車がペンションの駐車場に入るとが、殆ど同時だった。岸本の門限に間に合ったようで、LEDの明るいポーチライトが、細かい降雪の動きを照らしていた。
「宗村さん、どうかしましたか?」
エンジンを切った後も、中々降車しようとしないわたくしを見て、美咲のインサイドハンドルを掴む手が止まった。
「椎名さん、君たちSТGの社員で、既にバイフーの犠牲になった人って、いるの?」
美咲は目を大きくした。
「敷島さんが、そう言ったんですか?」
「敷島探偵グループの社員の中に、バイフーの名前を知ったが為に、貴い犠牲者が出ているって」
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