プルートーの胤裔

ゆさひろみ

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バイフーの死

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 薄暗い天幕の中で、わたくしは、スチールパイプの折り畳み椅子に座って、会議机の上にあるノートPCに向かった。手元のマウスを左右に振った。休止状態だったディスプレイが、パッと青色に発光、天幕内が青一色となった。わたくしは目を細めて、ローカルアカウントのパスワード入力画面から、ゆっくりと顔を離した。パスワードボックスでカーソルが点滅している。
「ふん」
 スチールパイプのリングを軋ませて、合成皮革の背凭れに背中を預けた。わたくしは、ポケットから携帯電話を取り出して、着信履歴の中からペンションの電話番号を探すと、三秒考えてからタップした。
『もしもし』
 たった一回の呼び出し音で、あずさは受話器を取った。今か今かとわたくしの折返しの電話を待っていたようだ。
「ああ俺だ、宗村だ。さっきはすまなかった」
『どうしたんですか? あんなに慌てて電話を切って。そっちで何かあったんですか?』
 わたくしは、隠し扉の奥にある天幕の内側を見渡した。
「まあな」
『火事、ですよね? いま有線放送の非常災害の放送が流れて、かまくらカフェの火災が繰り返し放送されています。宗村さん、今そこにいるんですよね? 大丈夫なんですか?』
「ああ、火災の件は大丈夫だ。店舗のあちこちで発生している火災は、消火器で消せる程度の小火だ。これ以上の延焼の心配はないだろう。緊急防災の放送では、どんな風に放送されている?」
『どんな風? えっと、ただ火災が発生した住所を繰り返しているだけです。いま地元の消防団がサイレンを鳴らして出動して行きました』
 地元の消防団、大島典子の元カレである『タカシ』も、消防団長として出動したのだろうか。四週間前の天道葵の心中事件の時のように。
「そうか。まあ、大型施設の大規模な火災には違いない、上では大騒ぎになっているだろう」
 わたくしは、配線の隙間から漂って来る煙に向かって、ふっと息を吹き掛けた。煙は一瞬で形を崩した。
『宗村さん、警察は、不知火忍を取り逃がしたんですね? そうなんですね? だから彼女は店内に放火して、それで大騒ぎになっているんですね?』
 相変わらず読みの良い奴だ。
「その通りだ。不正アクセスが行われた回線のIPアドレスから、その部屋を割り出し俺たちが、慌ててその場へ急行した時には、室内から濛々と煙が吹き出していた。放火された個室には、バイフーの姿はどこにも無く、代わりに見知らぬ女の変死体が床に倒れていた」
 あずさは相槌も打たずに黙っていた。わたくしは構わず続けた。
「変死体の女は服毒自殺を図っていた。もしかしたら、バイフーによって暗殺された女なのかも知れない。その時に同行していた羽賀刑事が、死んだ女の顔を見るなり、この女は、高田の服毒自殺する直前に署に現れた配給センターの職員だと言っていた」
 あずさは尚も黙っていた。
「おい、聞いているのか?」
『宗村さん』
「なんだ」
『その女、バイフーです』
「は?」
 わたくしは背凭れから体を起こした。
「誰がバイフーだって?」
『間違いありません。不正アクセスが行われていた部屋で、服毒自殺を図ったその女は、晦冥会の暗殺者バイフーです。しかもその女は、配給センターの職員を装って、警察署に忍び込んだ後、高田さんを暗殺しています』
 今度はわたくしが黙る番だった。
『でも、不思議ですね。不知火忍は、どうやってバイフーに毒薬を飲ませる事ができたのでしょうか。江口サダユキ同様に、相手は最大限の警戒をしていたはず』
 あずさは真剣な声を聞かせた。
「ちょっと待ってくれ。待ってくれ。君は一体、何を言っているんだ? 何だって? 不正アクセスの部屋で死んでいた女が、バイフーだって?
 いいかあずさ、俺はだな、昨日美咲に衝突して来たバイフーの顔を目撃した唯一の重要参考人として、今回警察の捜査協力の要請を受けているんだ。その俺が、今言った服毒自殺の女はバイフーではないと、そう確信をもって断言した。これは間違いない。昨日俺が見たバイフーは、中国人風の美人で、今回服毒自殺をした女は、一重まぶたの別人だった」
『違うんです宗村さん。宗村さんが昨日ゲレンデで目撃したのは、晦冥会の暗殺者、バイフーではありません』
 わたくしは、これでもかってほど眉間に皺を寄せた。
「だって、昨日の女は不知火忍の晦冥会のカードを落として行ったのだし、警視庁の刑事だって、昨日の女がバイフーだって目星を付けているのだし、第一、不知火忍と言えば、晦冥会で最も恐れられていた暗殺者バイフーだったと言う話だ」
 コルクボードにピン留めされた、江口サダユキと木原と思われる写真の、赤いバツ印に目を上げた。
『すいません、えっと、どこから話せばいいのか。とにかく宗村さん、あたしの話をよく聞いて下さい』
「聞いているよ」
『宗村さんは、あたしの事を抱いてくれましたよね?』
「言い方に気を付けろ」
『あれからあたし、宗村さんとの大切な約束を守る為、出来る限りの手を尽くしました。その一つとして、先ずは不知火忍に手紙を書きました』
「おお!」
『あたしの本当の身分、不破昂佑の実の孫だと言う事を明かした上で、美咲さんには絶対に手出しをしないよう、そう手紙に書いて、いつものポストの裏に貼りました』
「ありがたい、じゃあバイフーは」
『あ、だけどまだ、その手紙は回収されていません。ほんのさっき見ましたけど、まだ吹雪に晒されています』
 それはそうだ。バイフーは今の今まで、この店舗で放火を繰り返していたのだから。
『それからあたし、何十年振りかに、祖父へコンタクトを取りました』
「不破昂佑にか? よくやった!」
 わたくしは不破昂佑の写真立てに目を向けた。彼は、彫りの深い目元の窪んだ北欧系の顔を、やや右方向へ向けていた。
『祖父は、あたしからの連絡にとても驚いている様子でした。もしかしたら、こちらから自発的に電話を掛けたのは、これが初めての事かも知れません。
 祖父は、あたしの話を最後まで聞く前に、孫の言わんとする要件の大体は想像がついている様子でした。いまペンションを中心に巻き起こっている異常な事態を含めて』
 ノートPCの青いディスプレイが、再び休止状態になった。青一色だった室内が黒くなった。
「まあ、晦冥会の現役の幹部、江口サダユキが自殺したというニュースが、あちこちで報道されているのだから、異常な状態は知っていて当然か」
『とにかくあたし、バイフーがこれ以上人を殺さないよう、祖父にお願いをしました。晦冥会の統主だった祖父なら、それも可能だとあたしは思ったんです』
「うん」
『ところが祖父は、深いため息を吐いた後で、一言こう言ったんです。その女はバイフーではない、と』
 いま言ったあずさの言葉と、石動の言葉が重なった。
『僕はね宗村さん、不知火忍と言う連続殺人犯をこう想像しているんです。晦冥会の暗殺者、バイフーとして彼らの犬であった不知火は、或る日突然、晦冥会と言う鎖を引きちぎって、主人の手から脱走した』
『晦冥会で培った暗殺スキルを利用して、江口と高田をあっさりと暗殺、この次にはとでもない大犯罪を企てて、現在も暗躍を続けている』
 晦冥会屈指の暗殺者だった不知火忍は、或る日突然晦冥会を裏切った。そして今も尚、或る目的に向かって暴走状態にある。
「今回の一連の事件は、晦冥会が意図したものではなく、また、晦冥会のバイフーの仕業ではない。そう言う事か?」
 コルクボードに広がったゲレンデマップに目を上げた。赤いマジックで印された場所に、不知火が企てている大犯罪のヒントが隠されているのだろうか。
『そう言う事です。考えてみれば、祖父の言う事は尤なんです。晦冥会の裏の組織と言っても、バイフーやチンロンは組織の人間です。トップの指示に従って組織的に行動をしているんです。勝手な人殺しなんて許されるものではありません。しかも、現役の幹部で、華々しい功績のある江口サダユキを暗殺するなんて、もしもバイフーがそんな勝手な真似をしたとなったら、晦冥会の内部で大変な問題になります。統主の右腕である氷室理事長が、一体どんな責任を負わされるか分かりません」
 氷室理事長、初めて聞く名だ。
「それじゃあ、江口サダユキを暗殺した不知火忍は、君の言うように本当にバイフーではないのだな?」
『不知火忍、そうです。祖父はその名を幾度も口にしていました。今回の一連の異常事態は、全て不知火忍が引き起こしたものだと。その事実は、晦冥会も十分に把握しているようで、祖父の言葉からも焦りのようなものを感じました。そして、祖父ははっきりとは口にしませんでしたが、晦冥会はその打開策として、不知火の暴走を阻止する為に、この地へバイフーを送り込んだらしいのです』
 わたくしは、頭から冷や水をかぶせられたように驚いた。
「なに! 晦冥会には、バイフーが複数人いるのか⁉」
『そのようです。いつだったか旧紀瑛総連の人が言っていました。バイフー、チンロンと呼ばれる晦冥会の暗殺者は、噂では、現在二〇人以上は存在するようです』
「二〇人⁉ 堂々と警察の懐に忍び込んで、いとも簡単にターゲットを暗殺するような暗殺者が、そんなにも存在するのか? それじゃ、晦冥会が国家反逆を企てて、一斉にバイフーを放ったら、日本の役人は全員いなくなってしまうんじゃないか⁉」
 わたくしの頭には、二〇人もの黒い人影が、肩を寄せるように夜道を歩く、不気味な光景が浮かんだ。
『そんな事は絶対にないです。前にも言いましたけど、不破昂佑と言えば、総理大臣と私邸で会食したり、ノーベル平和賞の候補にも挙がる程の人徳者です。宗村さんが今言われた事は万に一つも考えられません。それに、話はそう簡単ではないらしく、前に話しましたけど、晦冥会には派閥と言うものがあります。と言う事は、バイフーにも派閥があるんです。二〇人の暗殺者が同じ目的の下で動く事は、まずは考え難いです。また、旧紀瑛総連の人はこうも言っていました。本来バイフーと言うものは暗殺が目的ではない、暗殺はそのスキルを他方面に利用されているだけのものだと』
「暗殺が目的じゃない?」
 わたくしは天幕の奥に目を向けた。そこには登山用のリュックが置かれていた。ゆっくりと椅子から立ち上がって、天幕の入口に背を向けると、わたくしはナイロン地のリュックをじっくりと観察した。
 バイフーが所持していたリュックだ。もしかしたらこの中に、これから彼女が企てている大犯罪の手がかりがあるかも知れない。或いは、江口サダユキの暗殺に使用した、凶器か何かの物的証拠が出て来るかも知れない。暗殺が目的ではない彼女の、本当の目的がこの中に。
『まあですから、高田さんは恐らく、今回晦冥会から送り込まれたバイフーによって、警察署内で暗殺されたものと考えられます』
 グラブループを掴んで、リュックの重さを確認してみたが、やはり登山用のごく一般的な重さだった。ハンドガンや手榴弾のような金属類は入っていないようだった。
「ちょっと待ってくれ、高田さんは、何も悪い事はしていないじゃないか。晦冥会の幹部でもないし、裏切って脱走したわけでもない。現役の晦冥会の信者だったはずだ」
 耳と肩で携帯電話を挟みながら、メインコンパートメントのジッパーを左右に引いた。
「高田さんは、少なくとも不知火忍の協力者でした。もしかしたらバイフーは、命乞いをする高田さんから、不知火忍の居場所を聞き出そうとしたのかも知れません。その後でやはり、晦冥会の反逆者、不知火忍の協力者として、高田さんはバイフーによって暗殺されたのかも知れません』
 袋状の荷室の中は、暗い室内では確認できなかった。わたくしはメインコンパートへ無造作に右手を入れた。
「高田さんを暗殺したその後で、バイフーは不知火忍の行方を追い、警察よりも早くに彼女に接近して、しかしあっさりと、不知火に返り討ちに遭ったというのか?」
『その可能性がとても高いです。バイフーの情報収集能力はずば抜けていると言います。きっと警察の不知火忍の身柄拘束の極秘捜査なんて、バイフーの耳に筒抜けでしょう。もしかしたら、バイフーは警察の先手を打って、不知火忍の目の前に現れた可能性があります。そして』
「毒殺された。不知火忍は晦冥会の暗殺者以上の化け物って事か」
『だと思います』
 リュックの中からは、フェイスタオル、雨具、サングラス、空の水筒などが出て来た。防災用のリュックと似ていた。
『ところで宗村さん、今一体どこにいるんですか? 大規模な火災だと言うのに、妙に静かな所で話していませんか?』
「おお、そうだった。あずさ、聞いて驚くな? 俺は今、不知火忍が潜伏していたと思われる秘密の部屋にいるんだ。火事場の混乱の中で彼女の姿を見かけて、その後ろ姿を追ってみた所が、どうやら彼女の潜伏していた秘密の部屋に辿り着いてしまった。多分ここからネットカフェの回線に繋がっているらしいんだ」
 わたくしは、ボトムコンバートメントのドローコードを緩めて、一番底の荷室から、妙な手触りの物を拾い上げた。
『宗村さん、それ、本当ですか⁉』
「ああ本当だ、驚いただろう?」
『驚いたの驚かないのって、宗村さん何を呑気な事を言っているんですか! 早くそこから逃げて下さい、もしも不知火忍と鉢合わせでもしたら、間違いなく宗村さんは殺されます! 早く!』
 わたくしはリュックから取り出した妙な衣類を、両手で掴んで広げた後、顔に近づけて見た。それはフラワーレースの女性用ブラジャーだった。
「鉢合わせだって?」
 その時、ホールから差し込む入口の明かりに、大きな影の差したのが分かった。わたくしは背中に人の気配を感じて、慌てて後ろを振り返った。
「!」
 入口の扉に手を掛けて、誰かがこちらを覗き込んでいた。その人物が誰なのかは、ホールの明かりが逆光となって、はっきりとは分からなかったが、体のシルエットと髪の長さから、相手が女性である事だけは分かった。
「誰だ?」
 相手は、わたくしの問い掛けに答える代わりに、瓶の口に布を詰めてそこに火を点けた、いわゆる火炎瓶なるものを高々と振り上げた。
「ま、待て! ちょっと待ってくれ。とにかく、俺の話を聞いてくれ! な、な、とにかく」
 わたくしは、手にしたブラジャーを前へ突き出して、何とか相手が冷静になるよう、必死の呼び掛けを続けた。
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