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呪われた能力者
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久慈篤の娘であるりおは、わたくしの暗い部屋の窓辺に立って、胸から上に水銀灯の白光を受けた。その白黒の世界に現れた横顔は、まだ穢れと言うものを知らぬ美しき雪の妖精のようだった。
「美咲が死ぬ運命とは、一体どういう意味だ」
りおの横顔が微かに動いた。不思議と今朝会った時のようなチックの症状は見られなかった。
「そのままの意味です。美咲さんはこれから間違いなくお亡くなりになります。あの人はそういう運命なのです」
りおの息で窓ガラスが白く曇った。
「だから、その運命と言うのが、一体何なのだ」
わたくしは、わたくしの語気の荒ぶるのを意識した。大人を冷やかす子供の無邪気さが言うのだとしても、美咲が失踪しているさなかで彼女の死を仄めかされては、誰だって気分を害する事は当然だ。
「運命は運命です。運命とは、逃れる事のできない洋々と流れる大河のような大いなるもの。わたしがこう言って今まで死から逃れられた人は一人もいません」
わたくしは大きく息を入れて、大人としての対応に努めた。
「本人を目の前にしてあまり言いたくはないが、君は確か」
「トゥレック障害。チックという一群の神経精神疾患のうち、音声や行動の症状を主体とし慢性の経過をたどるもの。小児期に発症し、軽快・増悪を繰り返しながら慢性に経過する。ですよね?」
りおは窓の外に目を戻した。
「分かって、いるじゃないか。では今の話も」
はあと窓に息を吹きかけて、白い曇りに指で文字を書き始めた。
「障害があるからと言って、わたしは妄想を話しているわけではありません」
「しかし」
りおは顔の左半分を白くさせて、こちらを振り返った。その時、ストレートボブにした髪の毛が、風もないのにふわりと広がった。
「わたしは、透視能力者です。不思議な力を使って、ありとあらゆるものが見えるのです」
「はあ?」
彼女はやはり精神的ストレスによって妄想の世界に生きているのか。
「やっぱり、簡単には信じてもらえないようですね」
りおは大まじめに肩を落とした。
「当たり前だ。いきなり人の部屋に現れたかと思うと、自分は超能力者だって言い出す、そんな漫画みたいな展開に喜ぶのは、オカルト好きのスーパーミステリーマガジンの愛読者だけだ」
りおは手の平で窓の文字を消した。水銀灯の赤色成分の欠けた放射光のせいで、彼女の肩までの髪が全て青白色に見えた。
「分かりました。では、わたしの透視能力の一端を今からお見せしましょう。これはよくあるテレビ番組の見世物とは別物です。数年前に行方不明となった家族を探したり、未解決事件の誘拐犯の似顔絵を描いたり、そう言った超能力者が巷で噂になっていますが、彼らは或る方面に突出して頭が良いだけです。わたしのそれとは完全に世界が異なります。第一、人前でほいほい披露できる超能力なんて存在しません。人知を超える超能力とは、本当はとても危険なのです」
「危険?」
わたくしは八の字に眉毛を上げた。
「そうです。わたしの場合、不思議な能力を使うと言う事は、悪魔のうろつく世界へ突き落とされるのと同じ事なのです。その為に、いつこの命が悪魔に盗み取られるのか、知れたものではありません。命が惜しければ、わたしはそのような悪魔の世界へ行きたくはありません」
「じゃあ、行かなければ良いじゃないか」
わたくしはステーを軋ませてライティングデスクに寄り掛かると、煙草を一本抜き取った。りおは話を中断して、上目遣いでわたくしの顔を見た。どうやら機嫌を損ねたらしい。
「そうですね。やめておきましょうか。やめて、美咲さんが午後八時五十二分に首吊り自殺の遺体となって発見されて、そこで初めて、おじさんは後悔するのですから」
「…………………」
ライターを持ち上げて、左腕に巻いたシャウボーグの腕時計に目を落とした。ブレゲ針は午後六時十七分を指している。どこかの暗い部屋、天井からぶら下がった首吊り死体、音もなく回転しながら、徐々に見覚えのある顔が現れる、そんな恐ろしい光景が脳裏に浮かんだ。中学生の作り話だ。いくらこちらが美咲の失踪に平静を失っているからと言って、こんな空想に惑わされている場合ではない。心を落ち着けるように、わたくしはゆっくりと煙草に火を点けた。
「どうしますか? やりますか? やめますか? 透視能力とは、その場にいながら遠隔地の光景を見たり、特定の人物に関する様々な記憶を知る能力です。だけど、美咲さんが亡くなってしまったら、彼女を生き返らせる事はいくらわたしでも不可能です」
わたくしは手の平で口を覆って、煙草の煙を吸い込んだ。
「君の、お父さんは? 今は部屋にいるのか?」
父親が話題に出ると、りおの表情に妙な影が横切った。黒い大きな鳥影が差すように。
「父なら、倉石さんの所です」
「倉石? 倉石留美か? どうして」
わたくしは天井に向かって煙を吐いた。
「父は毎年のようにこの地へ来ます。そして、旧い友人の所へ行くと言って、決まって彼女の所に行きます。母が病床にいる時でさえ、そうでした」
りおから視線を外して、わたくしは久慈と倉石について考えを巡らせた。そしてすぐに目が大きくなった。
「そういう事か。二人は、そういう事か。でも、どうして君はその事を。ひょっとしてこれが透視能力ってやつか?」
窓と反対側の壁に、四角い白い形の中にりおの影が映っていた。
「父の安っぽい隠し事なんて、能力を使うまでもありません。あの女の香水をぷんぷん匂わせて、スキー連盟の人と遅くまで飲んでいただなんて、本当バカみたい」
床に唾を吐き捨てるように、りおは激しく視線を落とした。それは父の不貞から親の値打ちを見限った思春期の娘の姿だった。
「まあとにかく、何にせよ、君の言う透視能力ってやつをこの目で確かめない限りは、何とも言えないな。話はそれからだ」
わたくしは丸灰皿を手に取って、吸い終わった煙草を潰した。
「論より証拠、と言うわけですね。分かりました、実は透視についてはもう既に済んでいます。悪いとは思いましたが、こちらで勝手に透視をさせてもらいました」
「え」
「わたしが思っていたよりも、おじさんの透視に時間が掛かりました。おじさんは普通の人とは全く異なる運命を背負った方なのだとはっきりと分かりました。まさかレナさんが見えて来るだなんて、正直驚きました」
「お、おい」
意外な名前を聞いて、わたくしは暗い部屋の中で目を剥いた。
「大分昔の映像でしたけど、おじさんとレナさんは、当時は恋人同士だったのですね。わたし、夢中になって更に晦冥の荒野を進みました」
「晦冥の荒野?」
りおはスカートのポケットにそっと右手を差し入れた。
「そして、この光景が見えたのです。これはおじさんの心の奥底に刻まれた深い思念の映像です。どうぞ」
わたくしは、歩み寄って来るりおの姿を目で追って、四つ折りの画用紙を右手に受け取った。そして、彼女の表情を捉えながら、ゆっくりと画用紙を開いた。
「!」
画用紙に描かれた緻密な素描を見て、わたくしは全身に鳥肌が立った。その素描には、白い打ち覆いを顔に被せた遺体と、その遺体に縋り泣き崩れる若い女性の姿が描かれていた。それらは、中学生には到底描けないような構築的な素描と、東洋の没骨描法が使われていた。
「その絵の中で、背中を見せて泣き崩れている女性は、敷島レナさんです。そして、白い布を被せられて横たわっているのは」
「敷島千年」
敷島レナの実の兄、敷島千年。
わたくしは新しい煙草に火を点けるのも忘れ、在りし日を思う目を使って、いつまでも素描を眺めていた。
十年前の当時、わたくしは叫び泣きするレナの背中を前に、成す術も無く畳の上に立っていた。彼女は、兄を亡くした心の痛みに打ち拉がれ、手の施しようのない精神状態だった。家族でも無いわたくしの慰めの言葉など、彼女の深い悲しみの心に届く筈が無かった。
「どうしてこんな、俺しか知らない遠い光景を。それもこんな写真のようにありありと」
暗い部屋の白黒の世界で、りおは不気味な笑みを浮かべた。
「これが『透視』の能力です」
この広い世界には、超能力者と呼ばれる人々が存在する。中でも一般的なのは、FBI捜査官と言うテレビ番組ではないだろうか。未解決事件だったA県の強盗殺人で超能力者が、犯人と思われる似顔絵を描いた。その翌日には、見事に指名手配の犯人が御用となった。わたくしはビールを片手に大変興奮した記憶がある。ESP(超感覚的知覚)と紹介される彼らは、被害者の写真を手に静かに透視を繰り返す。その真剣な姿についついテレビの画面から目が離せなくなって、番組の終盤まで見てしまった。テレビを観る習慣の無いわたくしが唯一面白いと思えた特別番組の一つだ。
しかし実際問題として、番組に対するきな臭さが拭い切れなかった。まず、FBI捜査官と言う役職はアメリカ連邦捜査局には存在しない。加えて、超能力者の言動が極めて抽象的だ。透視で犯人の顔や、犯行現場が見えているのならば、なぜもっと断定的な発言がないのだろうか。先述の強盗殺人事件の似顔絵にしても、実際は、以前からこの似顔絵の男が参考人として浮上しており、犯人のモンタージュが報道されていたと聞く。これら各方面からの批判に対して真っ向立ち向かえる勇敢な超能力者が現れない限り、わたくしは、世の言う超能力者とは、ミステリーマガジンの中だけの存在だと思っている。
しかし、今わたくしの目の前に立っている少女は、わたくししか知りえない十年前の光景を描いた。どんなインチキを使ったとしても、この素描を描く事は不可能だ。それはこの世でわたくしのみが鑑定できると言っても過言ではない、唯一無二の描写だ。あの日あの部屋にいたのはわたくしとレナと遺体となった千年だけで、何人たりとも余人は無い。気の毒な席での写真撮影など以ての外だ。加えて、離れ座敷で行われた通夜の一室、小木の佐渡箪笥やけやきの置き床、その上に置かれたガネーシャのブロンズ像や魔除けのガルーダ像など、その場で見ながら数時間掛けて素描しなければならない程の代物だ。それは今わたくしが絵で見て思い出すような、十年前の光景を知っている鑑定士の目を超える代物だ。
「このスケッチは本来この世に存在してはいけないものだ。君は、もしかして、もしかして本物なのか? 本物の超能力者なのか?」
わたくしは、火の無い煙草を床に落とした。目の錯覚か、窓もドアも開いていないのに、りおの髪の毛が再びふわっと広がった。
「もう一度言います。わたしは透視能力者です。罪も無い人たちを殺めた、呪われた能力者です」
「美咲が死ぬ運命とは、一体どういう意味だ」
りおの横顔が微かに動いた。不思議と今朝会った時のようなチックの症状は見られなかった。
「そのままの意味です。美咲さんはこれから間違いなくお亡くなりになります。あの人はそういう運命なのです」
りおの息で窓ガラスが白く曇った。
「だから、その運命と言うのが、一体何なのだ」
わたくしは、わたくしの語気の荒ぶるのを意識した。大人を冷やかす子供の無邪気さが言うのだとしても、美咲が失踪しているさなかで彼女の死を仄めかされては、誰だって気分を害する事は当然だ。
「運命は運命です。運命とは、逃れる事のできない洋々と流れる大河のような大いなるもの。わたしがこう言って今まで死から逃れられた人は一人もいません」
わたくしは大きく息を入れて、大人としての対応に努めた。
「本人を目の前にしてあまり言いたくはないが、君は確か」
「トゥレック障害。チックという一群の神経精神疾患のうち、音声や行動の症状を主体とし慢性の経過をたどるもの。小児期に発症し、軽快・増悪を繰り返しながら慢性に経過する。ですよね?」
りおは窓の外に目を戻した。
「分かって、いるじゃないか。では今の話も」
はあと窓に息を吹きかけて、白い曇りに指で文字を書き始めた。
「障害があるからと言って、わたしは妄想を話しているわけではありません」
「しかし」
りおは顔の左半分を白くさせて、こちらを振り返った。その時、ストレートボブにした髪の毛が、風もないのにふわりと広がった。
「わたしは、透視能力者です。不思議な力を使って、ありとあらゆるものが見えるのです」
「はあ?」
彼女はやはり精神的ストレスによって妄想の世界に生きているのか。
「やっぱり、簡単には信じてもらえないようですね」
りおは大まじめに肩を落とした。
「当たり前だ。いきなり人の部屋に現れたかと思うと、自分は超能力者だって言い出す、そんな漫画みたいな展開に喜ぶのは、オカルト好きのスーパーミステリーマガジンの愛読者だけだ」
りおは手の平で窓の文字を消した。水銀灯の赤色成分の欠けた放射光のせいで、彼女の肩までの髪が全て青白色に見えた。
「分かりました。では、わたしの透視能力の一端を今からお見せしましょう。これはよくあるテレビ番組の見世物とは別物です。数年前に行方不明となった家族を探したり、未解決事件の誘拐犯の似顔絵を描いたり、そう言った超能力者が巷で噂になっていますが、彼らは或る方面に突出して頭が良いだけです。わたしのそれとは完全に世界が異なります。第一、人前でほいほい披露できる超能力なんて存在しません。人知を超える超能力とは、本当はとても危険なのです」
「危険?」
わたくしは八の字に眉毛を上げた。
「そうです。わたしの場合、不思議な能力を使うと言う事は、悪魔のうろつく世界へ突き落とされるのと同じ事なのです。その為に、いつこの命が悪魔に盗み取られるのか、知れたものではありません。命が惜しければ、わたしはそのような悪魔の世界へ行きたくはありません」
「じゃあ、行かなければ良いじゃないか」
わたくしはステーを軋ませてライティングデスクに寄り掛かると、煙草を一本抜き取った。りおは話を中断して、上目遣いでわたくしの顔を見た。どうやら機嫌を損ねたらしい。
「そうですね。やめておきましょうか。やめて、美咲さんが午後八時五十二分に首吊り自殺の遺体となって発見されて、そこで初めて、おじさんは後悔するのですから」
「…………………」
ライターを持ち上げて、左腕に巻いたシャウボーグの腕時計に目を落とした。ブレゲ針は午後六時十七分を指している。どこかの暗い部屋、天井からぶら下がった首吊り死体、音もなく回転しながら、徐々に見覚えのある顔が現れる、そんな恐ろしい光景が脳裏に浮かんだ。中学生の作り話だ。いくらこちらが美咲の失踪に平静を失っているからと言って、こんな空想に惑わされている場合ではない。心を落ち着けるように、わたくしはゆっくりと煙草に火を点けた。
「どうしますか? やりますか? やめますか? 透視能力とは、その場にいながら遠隔地の光景を見たり、特定の人物に関する様々な記憶を知る能力です。だけど、美咲さんが亡くなってしまったら、彼女を生き返らせる事はいくらわたしでも不可能です」
わたくしは手の平で口を覆って、煙草の煙を吸い込んだ。
「君の、お父さんは? 今は部屋にいるのか?」
父親が話題に出ると、りおの表情に妙な影が横切った。黒い大きな鳥影が差すように。
「父なら、倉石さんの所です」
「倉石? 倉石留美か? どうして」
わたくしは天井に向かって煙を吐いた。
「父は毎年のようにこの地へ来ます。そして、旧い友人の所へ行くと言って、決まって彼女の所に行きます。母が病床にいる時でさえ、そうでした」
りおから視線を外して、わたくしは久慈と倉石について考えを巡らせた。そしてすぐに目が大きくなった。
「そういう事か。二人は、そういう事か。でも、どうして君はその事を。ひょっとしてこれが透視能力ってやつか?」
窓と反対側の壁に、四角い白い形の中にりおの影が映っていた。
「父の安っぽい隠し事なんて、能力を使うまでもありません。あの女の香水をぷんぷん匂わせて、スキー連盟の人と遅くまで飲んでいただなんて、本当バカみたい」
床に唾を吐き捨てるように、りおは激しく視線を落とした。それは父の不貞から親の値打ちを見限った思春期の娘の姿だった。
「まあとにかく、何にせよ、君の言う透視能力ってやつをこの目で確かめない限りは、何とも言えないな。話はそれからだ」
わたくしは丸灰皿を手に取って、吸い終わった煙草を潰した。
「論より証拠、と言うわけですね。分かりました、実は透視についてはもう既に済んでいます。悪いとは思いましたが、こちらで勝手に透視をさせてもらいました」
「え」
「わたしが思っていたよりも、おじさんの透視に時間が掛かりました。おじさんは普通の人とは全く異なる運命を背負った方なのだとはっきりと分かりました。まさかレナさんが見えて来るだなんて、正直驚きました」
「お、おい」
意外な名前を聞いて、わたくしは暗い部屋の中で目を剥いた。
「大分昔の映像でしたけど、おじさんとレナさんは、当時は恋人同士だったのですね。わたし、夢中になって更に晦冥の荒野を進みました」
「晦冥の荒野?」
りおはスカートのポケットにそっと右手を差し入れた。
「そして、この光景が見えたのです。これはおじさんの心の奥底に刻まれた深い思念の映像です。どうぞ」
わたくしは、歩み寄って来るりおの姿を目で追って、四つ折りの画用紙を右手に受け取った。そして、彼女の表情を捉えながら、ゆっくりと画用紙を開いた。
「!」
画用紙に描かれた緻密な素描を見て、わたくしは全身に鳥肌が立った。その素描には、白い打ち覆いを顔に被せた遺体と、その遺体に縋り泣き崩れる若い女性の姿が描かれていた。それらは、中学生には到底描けないような構築的な素描と、東洋の没骨描法が使われていた。
「その絵の中で、背中を見せて泣き崩れている女性は、敷島レナさんです。そして、白い布を被せられて横たわっているのは」
「敷島千年」
敷島レナの実の兄、敷島千年。
わたくしは新しい煙草に火を点けるのも忘れ、在りし日を思う目を使って、いつまでも素描を眺めていた。
十年前の当時、わたくしは叫び泣きするレナの背中を前に、成す術も無く畳の上に立っていた。彼女は、兄を亡くした心の痛みに打ち拉がれ、手の施しようのない精神状態だった。家族でも無いわたくしの慰めの言葉など、彼女の深い悲しみの心に届く筈が無かった。
「どうしてこんな、俺しか知らない遠い光景を。それもこんな写真のようにありありと」
暗い部屋の白黒の世界で、りおは不気味な笑みを浮かべた。
「これが『透視』の能力です」
この広い世界には、超能力者と呼ばれる人々が存在する。中でも一般的なのは、FBI捜査官と言うテレビ番組ではないだろうか。未解決事件だったA県の強盗殺人で超能力者が、犯人と思われる似顔絵を描いた。その翌日には、見事に指名手配の犯人が御用となった。わたくしはビールを片手に大変興奮した記憶がある。ESP(超感覚的知覚)と紹介される彼らは、被害者の写真を手に静かに透視を繰り返す。その真剣な姿についついテレビの画面から目が離せなくなって、番組の終盤まで見てしまった。テレビを観る習慣の無いわたくしが唯一面白いと思えた特別番組の一つだ。
しかし実際問題として、番組に対するきな臭さが拭い切れなかった。まず、FBI捜査官と言う役職はアメリカ連邦捜査局には存在しない。加えて、超能力者の言動が極めて抽象的だ。透視で犯人の顔や、犯行現場が見えているのならば、なぜもっと断定的な発言がないのだろうか。先述の強盗殺人事件の似顔絵にしても、実際は、以前からこの似顔絵の男が参考人として浮上しており、犯人のモンタージュが報道されていたと聞く。これら各方面からの批判に対して真っ向立ち向かえる勇敢な超能力者が現れない限り、わたくしは、世の言う超能力者とは、ミステリーマガジンの中だけの存在だと思っている。
しかし、今わたくしの目の前に立っている少女は、わたくししか知りえない十年前の光景を描いた。どんなインチキを使ったとしても、この素描を描く事は不可能だ。それはこの世でわたくしのみが鑑定できると言っても過言ではない、唯一無二の描写だ。あの日あの部屋にいたのはわたくしとレナと遺体となった千年だけで、何人たりとも余人は無い。気の毒な席での写真撮影など以ての外だ。加えて、離れ座敷で行われた通夜の一室、小木の佐渡箪笥やけやきの置き床、その上に置かれたガネーシャのブロンズ像や魔除けのガルーダ像など、その場で見ながら数時間掛けて素描しなければならない程の代物だ。それは今わたくしが絵で見て思い出すような、十年前の光景を知っている鑑定士の目を超える代物だ。
「このスケッチは本来この世に存在してはいけないものだ。君は、もしかして、もしかして本物なのか? 本物の超能力者なのか?」
わたくしは、火の無い煙草を床に落とした。目の錯覚か、窓もドアも開いていないのに、りおの髪の毛が再びふわっと広がった。
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