如月さん、拾いましたっ!

霜月

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3話 お兄ちゃんはお母さんではない!

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 佐野睦月さのむつき24歳。俺の戦いはAM4:30から始まる。
 今まで和室に布団を2枚敷き、妹の卯月と二人で寝ていたが、如月が一緒に住むようになって、三人で川の字に寝ている。

 寝ている時の卯月の体温が高く、隣で寝ていると暑さで、寝苦しく感じることがあったが、三人で寝るようになり、余計に汗をかくようになった。密度で暑いのだ。起床後はシャワーを浴びている。

 AM5:00。
 身支度が終わると、エプロンを付け、自分の弁当を作る。本当は休憩時間に美味しいお店へ行って良い思いがしたいが、現実的に毎日外食なんてしたら、食費は馬鹿にならない。
 自分の食べるお弁当だから、主に昨日の夕飯の残り物が中心だ。

 弁当を作り終わると、フライパンを片手に取り、如月の昼食を作る。俺が作らなければ、如月は和室に折りたたみ式ローテーブルを広げ、ノートパソコンと睨めっこしながら、ずっと執筆していて、夕飯まで何も食べない。
 ちゃんと仕事しているのだな、と感心はするが、体に悪い。担当はまだみたことがない。

 AM6:00。
 弁当、如月の昼食作り、洗い物の片付け全てを終わらせる。昨晩、寝る前に洗濯予約してあった洗濯機が洗濯終了の音楽を鳴らす。
 洗濯カゴに三人分の洗濯物を突っ込んで、ベランダに洗濯物を干す。
 家にずっと居るのだから、如月が洗濯物を干してくれてもいいと思う。

 AM6:30。
 レーザー音のスマホアラームが室内に鳴り響く。自分でアラームをかけて、止めないというのは全く不快だ。早く止めて起きろ。とりあえずスルーして、朝食を作る。

 AM6:45。
 三人分のご飯、目玉焼き、味噌汁を完成させる。そろそろ卯月と如月には起きて頂きたい。
 和室に様子を見に行くと気持ち良さそうに二人とも寝ていて腹が立った。

「いい加減、起きろ!!」二人の掛け布団を剥ぎ取った。
「布団が私を離さない……」卯月は起きない。

 如月は「朝か」と言い、シャワーを浴びに行く。寝起きは悪くないが、マイペースな男だ。

 AM7:00。
 卯月が起きない。
 頬を引っ張っても、足の裏をくすぐっても、大声で歌っても卯月が起きない。起きない人ってなんでこんなに起きないのだろう。

「だーーっっ早く起きろ!!!」
「もうちょっとぉ」
「くらえ! 兄からのスペシャルデコキッス!!」
「キモい」

(すぐキモいとか言う~~)

 兄からのスペシャルな贈り物を受ける前に卯月はガバッと起きて冷めた目で俺を見つめた。
 もう見慣れた光景なのか、如月はやり取りに目もくれず、朝食を温め直し、リビングの机に配膳していく。「出来たよ」如月が言う。作ったのは俺だから少し、モヤっとする。

 三人で食卓を囲う。手を合わせ「いただきます」と食べ始めた。

「お兄ちゃん、もう7:10じゃん! なんでもっと早く起こしてくれなかったの?!」
「7時前には起こした。早く食べて早く学校へ行け」

 卯月は10分で食べ終わり、身支度をしに、脱衣所へ向かった。
 睦月にとっては、この朝食の時間は一時の休息だ。

 AM7:30

「お兄ちゃん、如月、行ってきまーーす!」
「気をつけてな~~ちゃんと学校行けよ」
「いってらっしゃい」

 起きてから30分で準備し、出発出来ることを羨ましく思う。これが叶うのは全て自分の協力ありきのことだけど。

 三人分の食べ終わった食器を流し台へ持って行き、洗い物を始める。
 家にずっと居るのだから、如月がやってくれてもいいと思う。
 如月は食べ終わると和室に閉じこもってしまった。

 AM8:00。
 洗い物が終わった。自分自身も家を出る時間だ。リビングの机に、如月の昼食を置き、ラップをかける。

「如月~~、昼飯置いとくからね。じゃ、俺行くから」

 エプロンをその辺に投げ捨て、ジャケットを羽織る。弁当箱を鞄に入れ、玄関を出た。

 免許は持っているが維持費がかかるため、車は持っていない。交通費が勿体無いから、二駅分歩いて節約する。距離にして2キロ程度だ。

 歩きながら振り返る。
 自分が初めて就職したのは18の時だ。進学したい学校も、やりたいことも見つからなかったため、学校に紹介された会社に就職した。

 紹介された会社は今時珍しい、超年功序列で、新人への当たりはかなり厳しいものだった。

 ①新人のカバンは先輩のカバンの下に置かなければならない
 ②朝の準備は新人が一人で全て行わなければならない。
 ③新人は休憩時間も勉強しなければならない
 ④新人なんだから、休憩中に使った先輩の飲んだマグカップやコップを片付けなければならない

 など。段々イライラしてきて「自分で使ったコップくらい自分で洗えや!!!」と机をひっくり返して会社を1週間で辞めた。
 その後、就職した会社が今のところだ。なんだかんだもう6年目だ。
 色々あったなーー。

 AM10:00。
 会社に電話がかかってきた。「佐野さん、外線一番に月丘中学校からお電話入っております」嫌な予感しかしない。

「はい、佐野です。はいはい、卯月が学校に来てない? えぇ、えぇ。GPS見る限り、いつものところにいるようなので、誘拐とかではないです。はい、はい。すぐ連絡して向かわせます。すみません。心配おかけして申し訳ありません」

 マジでやめてほしい。
 携帯電話を見ると、学校からの着信が入っていた。着信履歴から卯月へ電話をかける。

「早く学校へいけ」
『ごめんて~~、いいものなかったからすぐいく!』

 電話を切り「はぁ」と、ため息をつく。今日の業務に取り掛かった。




 PM4:00。

「ただいまぁ~~」

 書道部(ほぼ幽霊部員)の私は帰宅時間が早い。また今日もお兄ちゃんに迷惑をかけてしまった。

「おかえり」
「あ、如月……お兄ちゃんにまた迷惑かけちゃった……」

 粗大ゴミ置き場に行くのをやめれば良いのでは、と言わんばかりに見つめてくる。わかっている。少しだけと思っても、つい長居してしまうのだ。

「たまにはお兄ちゃんを喜ばせたい」
「そうですね、私もいつもお世話になっているので何かしたいです」

 二人は考えた。

「カレー。お兄ちゃが帰ってくるまでに、カレーを作るのはどうかな?」
「私は料理などしてこなかったのですが、作れるでしょうか?」如月は不安そうにする。
「私も料理は家庭科以外したことないよ、二人で作ればきっと大丈夫だよ!」

 冷蔵庫を開ける。カレーの材料は揃っていそうだ。「カレー粉もありますね」如月は流し台の下にある、開戸からカレー粉を取り出した。


 
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