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番外編 京都新婚旅行!! 椿が似合う貴方を抱きたいです?!
しおりを挟むーー京都
「海外とかじゃなくて本当に良かったのですか?」
「弥生さんが梅を見たいって言ったんでしょ」
旅館に荷物を預け、地下鉄に乗り込む。窓側の席に如月と腰掛けた。当たり前のように鞄から文庫本を取り出して、この短い間にも本を読もうとする如月に、少し呆れる。
でも、本を読んでいる如月の姿は好き。如月の肩にもたれかかり、窓の外へ視線を向ける。暗闇を走る地下鉄は窓に時々明かりを照らした。
向かい側の席で高校生らしき若い女の子が、スマートフォンを操作しながら楽しそうにおしゃべりしている。卯月も春から高校生かぁ。大きくなったな。向かい側の席の女子高生に妹を重ねながら、ぼんやり考える。
卯月は今日、テーマパークに行っている。卒業旅行ということで、志田さんの家の保護者と一緒に出掛けた。
迷惑かけてないかな、後日志田さんには何か持って行った方がいいのかな? いろんなことが頭の中を巡る。
電車がトンネルから出た瞬間、窓に青空が広がった。まだ寒いけど、良い天気。新婚旅行にぴったりな天気だ。澄んだ青空に笑みが溢れる。
「弥生さん、もうすぐ降りるよ」
「ん……」
ぱたん。
如月が本を閉じて、鞄に仕舞うのをみて、空いた如月の手を、すかさず握る。驚いたように如月が俺を見たが、口元に笑みを浮かべ、ゆるりと手のひら同士が触れ合い、指先が絡まった。
「そんなに手繋ぎたかった?」
「……繋ぎたい」
赤く染まった頬を隠すように如月の肩に額を当てる。くしゃくしゃと、頭が撫でられた。猫じゃないよ、俺は。
関係性が恋人からパートナーへ変わり、新婚旅行という記念の旅路は、特別な時間を如月と過ごせる気がして、期待に心が躍った。
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーー
*
電車を降り、15分程度歩くと、上に跳ね上がった石造の鳥居が、私たちを出迎えた。大きく、年季の入った鳥居は圧を感じる。鳥居をくぐり、参道を進む。
「真っ直ぐ行くと本殿っぽい!!!」
「そうですね。手、洗いません?」
「うん!!! 洗う~~っ!!」
神社に着いてからずっと、にこにこ笑っている睦月が可愛くて、頬が緩む。
手水舎の水盤には竹が設置され、竹からご神水が流れ出ていた。勢いよく零れる水に手を触れる。冷たくも生ぬるくもない。程よくて気持ちが良い。手と一緒に心身を清める。
「弥生さん!!! 裏側から出るご神水は飲めるって!! あらゆる病気が治る、延命の水!!! えっと……しゅんすいじゃくすい!!!」
「…………菊水若水ね」
私のために下調べをした知識を一生懸命教えてくれるが、格好をつけれないところに、思わず、笑ってしまう。
「ふふっ……」
「う~~笑うなぁ~~」
「飲めるんでしょ、ご神水。頂きましょう」
裏側に回り、竹から流れ出るご神水を両手で掬い、口付ける。なんとなく、気持ち、口触りがまろやかな気がする。
「なんというか無味無臭ですね」
「水だからね」
「睦月さんと少しでも生涯を長く過ごせますように」
「……ずるい」
ぽす。
薄紅色に頬を染め、睦月が私の肩に頭を乗せた。濡れた手をハンカチで拭き、睦月の頭を撫でる。
「ほら、次行きますよ」
「うん」
再び睦月と手を繋ぎ、更に奥へ向かい参道を歩く。『しだれ梅と椿まつり』という看板が目に入った。
「弥生さん!!! あれだ!! 多分!!! 行こう!!!」
「そうですね」
睦月さんのワクワク感がすごく伝わってくる。可愛いなぁ。看板の矢印に沿って進むと、朱色の鳥居が私たちを歓迎した。鳥居をくぐった先から梅の木が見え、胸が高鳴る。
春の陽射しが柔らかく差し込む中、神苑の入り口は椿で彩られていた。
境内を進むと、見事な枝垂れ梅が立ち並び、カーテンのように風で揺れるしなやかに垂れた枝が、私の目を惹きつけた。
「これがしだれ梅ですか、圧巻の美しさ」
「綺麗……」
さっきまではしゃいでいた睦月さんも、枝垂れ梅の美しさに言葉を失っている。一本一本の枝を、薄紅色や純白の梅の花が色をつける。密集して咲き誇る梅は絵画みたいだ。
「こっちにも椿あるー」
「どれどれ~~」
風が吹くたびに、ピンク色の絨毯が石畳の上に敷かれていく。ゆっくりと境内を歩き、睦月とひとつひとつ椿を見ていく。睦月が真っ赤な椿の前で立ち止まった。
「この椿、花びらの形がどれも全然違う」
「これは雪椿ですね」
「雪椿?」
「寒いところに咲く椿ですね。雪が降っても、春になったら枝を持ち上げて開花する力強い椿です」
「へー」
地面に落ちた雪椿の花を手に取り、睦月の頭へ当てる。梅の香りが風に乗って広がり、私たちを包む。
「雪椿の花言葉は『変わらない愛』。大雪が降るような困難があっても、私の貴方を愛する気持ちは変わらない」
睦月の頬に触れ、そっと唇を重ねる。風に揺られ、ふわりと梅の花びらが空中に舞い上がり、優美に地面へ落ちた。
「弥生さんの方が似合うよ」
睦月の頭に当てていた椿が手に取られ、私の頬に添えられる。
「色が白くて綺麗な顔立ちだから赤い椿が映える。俺の気持ちも変わらない。愛してるよ、弥生さん」
私を真っ直ぐ見つめる大きな瞳は嘘偽りがない。ストレートに伝わる愛に恥ずかしさが込み上がり、頬が染まる。睦月が私の髪に触れた。地肌へ当たる指先に鼓動が早くなる。
「……付いてる」
「え……?」
私の髪に絡まった梅の花びらを、睦月がするりと取る。気恥ずかしさで赤面する私の頬を、風が優しく撫でていく。
「弥生さん、椿みたいに真っ赤~~」
「……うるさい」
「可愛い。ねぇ、今日は俺に抱かせて? 弥生さん」
「な、何言って……」
何も言わず、艶やかに瞳を細め、薄く笑う睦月に、抱かれることを許してしまいそうになる。いや、でも…でも…ねこは……うぅん……。
「あはっ…困ってる! いいよ、まだ時間あるし~~」
「何がいいんですか……」
睦月が私の髪から取った花びらを、手のひらに乗せ、ふっ、と息で吹き飛ばした。何かを思い出したように、私の服を掴んだ。
「あっ!!! ねぇねぇ!!! きょくすいのうたげなんでしょ?! なにか即興で作って詠んでよ~~」
「曲水の宴がなんなのかも分からず無茶振りするな!!!」
「作家でしょ~~作れないの?」
イラ。作家だったら、なんでも書けると思ってるのか? 無理に決まってるだろ!!! でも『作れないの?』と、嘲笑われるのは、私のプライドが許さない!!!!
「春の風 梅の香りに 誘われて 揺れる楔に 蜜溢れ」
「……それはどういう……」
「私が普段何書いてるか忘れたのですか?」
「…………」
黙り込む睦月の額に口付けして、耳元で甘く囁く。
「……少しだけならねこになっても良いですよ」
「その言葉、後悔するなよ」
「私が悔やむほど、喜悦の雫で濡らしてくださいね」
私の言葉を訊き、睦月が口元にゆっくりと弧を描き、密やかな笑みを浮かべた。その笑みに隠された意図の魅惑に、私の心が囚われる。
頬に触れていた椿が睦月の手のひらから零れ、横髪を伝い、流れるように落ちた。
鮮やかな緑の苔に散りばむ真紅の椿と、その向こうに咲き誇る薄紅色の枝垂れ梅が、私の判断を鈍らせ、夜の艶めく刻へ誘った。
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