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9通 やましいことがなくても見られたくないものはある件
しおりを挟む本当は分かっていた。
でも、その現実をどこか受け入れたくなくて。気づかないフリをして、自分のことからも目を背けた。
南ちゃんが俺のことを好きだということ。
それから、俺が南ちゃんのことを好きだということ。
身体を重ね、会えば手を繋ぎ、口付けする俺たちは、既に『友達』という枠を越えているということ。
このまま、曖昧な関係を続けていてはダメだということーー。
「ーーくんっ…北野くん!! 講義終わったよ!!」
「へっ?!」
大学で唯一の女友達、伊東に肩を叩かれ、ハッとする。明るい金髪という、少し派手な見た目は苦手だけど、仲良くしている。
「もうっ……ぼーーっとして! 大丈夫??」
「あ~~うん。大丈夫」
だけど、南ちゃんのことは言っていない。
そこまで言えるような間柄を築けていないから。コミュニケーション能力の低い俺は、意外と打ち解けるのに、時間がかかる。
伊東と一緒に席を立ち、ポケットからスマホを取り出した。この後は南ちゃんとデートだ。講義が終わったことを連絡する。
ちゃんと言おう。南ちゃんに俺の気持ーー。
「ねぇ、あの子に会うの?」
「えっ?」
「ほら、さっき会った子!!」
頭の中で決意を固めていると、伊東が俺のスマホを覗き込んだ。勝手に見るなよ。別に変なことやり取りはしてないけど。
スマホを見られるのは、嫌だ。
「う、うん……この後会うけど……」
「私も一緒に行っていい?!」
「え……」
「ダメ? 何かあるの? いいでしょ?!」
「いや……う~~ん……いいけどぉ……」
……いや、良くないだろ!!!
そう思っているのに、断ることが出来ず、待ち合わせのベンチまで、伊東と向かう。陽の光が柔らかく降り注ぐベンチに、南は座っていた。
木漏れ日がちらちらと動き、南の表情を照らす。太陽の日差しとは違い、南の顔は明らかに曇っていた。
「……とりあえず行こっか」
「え? あ、うん……」
「私も行ってもいい?」
「……良いんじゃない」
つん、とした態度で、南はベンチを立ち、歩き始めた。なんだか、気まずい。伊東を連れてきたから? 南ちゃんの態度がおかしい。
「あ、南ちゃん。どこいく?」
「んーー……なんかもう……どうでも良いかなって」
「どうでもいいって?」
「僕が間違ってたのかも」
南が立ち止まり、振り返ると、俺を真っ直ぐ見つめた。何を見ているのか分からないような、くすんだ瞳は冷たくて、少し怖さを感じる。
南から圧を感じたのか、伊東が俺の腕をぎゅっと掴んだ。それを見て、南が儚げに、笑みを浮かべた。
「僕たちは、今もこれからも『友達』」
「ーーえ?」
「良いんだ、僕たちには何もなかった。そうでしょ?」
あ。
いつもの南ちゃんの屈託のない、笑い顔。なのに、なんでそんなに泣きそうなの?
南ちゃんに両手が掴まれた。
「今までみたいに戻ろう。僕たちは仲の良いゲーム友達。変なこといっぱいしてごめん。海里くんと過ごした時間は楽しかったよ」
俺の手をパッと離し、南が後退りする。俺は今日、南ちゃんに、この想いを伝えようと思っていたのに、南は俺から逃げるのか?
俺から離れようとする南を捕まえようと、手を伸ばす。南が涙を浮かべながら、困ったように笑って、小さく手を振った。
「またDMしてね、海里くん」
「何言ってーー伊東、ごめん!!」
伊東の腕を振り払い、駆け出す南の背中を走って追いかける。南が走りながら振り返り、ぎょっとした顔で俺に向かって叫んだ。
「ついてくんな!!!!」
「絶対捕まえる!!!!」
追いかけても、追いかけても、距離が縮まらない。気づけば住宅街まで来た。それでも、諦めたくなくて、足を止めずに追いかける。
「うぉおおぉおぉお!!!!」
「ひぃっ!!!!」
ラストスパートをかけるように、全ての力を尽くして走り、南に追いつき肩を掴んで、抱き寄せた。
「ちょっ!!!!」
全速力で走ったせいか、全身は酸素不足で悲鳴を上げる。息を整えながら、口を開いた。
「……南ちゃん、好きだよ」
「何言ってるの。無理しなくていいし。女の子が好きなんでしょ」
「……南ちゃんがいい」
抱き寄せた身体は、自分が考えていたよりも小柄で、甘い香りが鼻をくすぐった。後ろから南の顔を見る。頬が真っ赤に染まっていた。
「……南ちゃん、キスして」
「僕より年上のくせに、僕にリードを求めるの?」
濡れた瞳を指先で拭うと、南がクスッと笑った。南が俺の方を向き、背伸びをする。俺の頬が南の両手に挟まれた。
「少しは僕のために屈んだら?」
「ーーッ……んっ」
グッと顔が引き寄せられ、唇が重なる。抵抗があった口付けも、気持ちを認めてしまえば、こんなにも気持ちがいい。
少し開いた口唇の隙間から、南の舌が差し込まれた。大人顔負けの艶やかな表情にドキッとする。南に導かれるように、舌先を絡め合う。
「んんっ…ん……ぁ…んっ…ふ…はぁ…んっ」
こんな住宅街の道路の脇で、電柱に身を隠すように口付けを交わす。ゆっくりと口唇が離れた。
「これはさ、僕と付き合うってこと?」
「えっ?!」
「違うの?」
「えと……その……」
「恋人になるんだよね? 僕の」
「うっ……はい」
「やったぁ~~嬉しい~~」
ぎゅう。
嬉しそうに笑みを浮かべ、俺に抱きつく南が可愛くて、そっと頭を撫でる。
北野海里、大学二年生、二十歳。この冬、人生、初めて恋人が出来ました。
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