蜜色キャンバス〜御曹司とオメガの禁断主従〜

霜月@如月さん改稿中&バース準備中

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5話 『君が彩る、グレーな日常』

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 キッチンに行くと、昨日あの『えっちな現場』で見た女性が、菫の隣に立っていた。


「こちらは、黒川美桜奈くろかわみおなさん」
「よろしく、水都クン」
「よろしくお願いします、美桜奈!!」
「美桜奈って呼ぶな。敬称付けろ」
「あっ、はい……すみません……」


 こ、こわぁ……。


「なんで旦那様は女性でもなければ、こんな頭の悪そうなちび雇ったんですかねぇ?」
「なっ!!!!」


 身長がほぼ一緒ってだけで、俺の最大のコンプレックスを突いてきやがった!!


「いーーーっ!!」
「ますます分かんない。こんなの雇うなんて、旦那さまの趣味どうなってるの~~?」
「こら、喧嘩しない。働いてるのは私たち3人だけなんだから、協力して仲良くしていきましょう」
「…………」
「美桜奈さんは坊ちゃんに朝食を持っていって。水都さんは私と洗い物をしましょう」
「はーい」


 美桜奈は嬉しそうにお盆を持って出て行った。 2人は付き合っているのかな? 朝食を渡したあとに、ハグやキスをするのかな?


 羨ましくても、俺の立場じゃ言えない。言ったら、何かが壊れる気がする。


「水都さん、こんなんでごめんね。これ、朝食」
「わあっ! ありがとうございます!!」


 ラップに包まれた大きなおにぎりが2つ渡された。ぐぅ、と腹が鳴る。そういえば、朝から何も食べてなかった。


 かぶりついていると、ドタドタと美桜奈が戻ってきた。


「綾明さまが和食は要らないって!! パンケーキにしろって!!! もうっ! わがまま!!」
「……はちみつ……嫌いじゃなかったっけ?」
「菫さん! 早く作ろ!!」
「はいはい」

 
 俺はおにぎりを食べながら、その光景をのんびり眺めた。坊ちゃんって、ほんとにわがままなんだなぁ。


 やがて、パンケーキが完成し、皿が差し出された。


「水都さん、これ持っていってくれる?」
「え? 俺が? 美桜奈さんじゃなくて?」
「菫さーん!! 私が行きます!」
「水都さんで」
「うぅぅ~~……」


 おにぎりを口に詰め込み、美桜奈の鋭い視線を避けるように、キッチンを出た。行きたい人が持っていけばいいじゃんか!!


「はぁ……会うと心臓が変になるからイヤなんだよな……てか、これ、はちみつかかってないし」


 おまけにフォークもナイフもない。形だけのパンケーキ。これ、渡してすぐ戻ろう。


「はぁあ~~っ…」


 綾明の部屋の前で、立ち止まり、深呼吸する。ノックをすると、ゆっくりと扉が開き、綾明が俺に微笑んだ。その柔らかい笑みにドキッとする。


「よく来たね、水都。待っていたよ」
「うん? ちょっ、わあっ!!」


 腰に手が回され、部屋へ引きずり込まれた。


「パンケーキ落ちるってば!!」


 そのまま綾明に抱きしめられ、顔が熱くなる。


「捕まえた」
「……捕まえないでください」
「本当に来てくれるとは。流石、菫さん」


 え?? どういうこと?? 俺、指名されてたの?!?!


「ちょっと弁明したくて」
「弁明?」


 視線を上げると、綾明はもじもじしながら言った。


「……その……えと……服は犬の毛が付いていたから脱がしただけで……水都にえっちなことはしてないから(多分)……喘いでたとか……嘘です……」
「ほんとに?」
「本当に。ごめんね」
「はぁあ~~っ……良かったぁ……」


 ほっと安堵の吐息を漏らすと、頬が両手で挟まれた。んーーっ!! なぁに!! もぉっ!!


「御令息様、離してください」
「その『御令息様』って呼び方やめて。綾明って呼んで」
「いや……でも……俺、使用人だから!!!」
「御令息様の命令が聞けないの?」


 自分で御令息様言うなよ!! 琥珀色の瞳が真っ直ぐ俺を見つめる。これは立場上、逆らえないやつ!!!


「う~~っ…2人の時だけですよ?!」
「うん。早く呼んで? 水都」
「……綾明さん……」


 恥ずかしくて顔が真っ赤になる。そんな俺を見て、綾明がクスッと笑みを浮かべた。笑うなよ!!


 綾明の指先が頬を撫で、下唇に触れる。その指先に鼓動が早くなった。


「水都、キスしたい」
「……破廉恥御令息!!!」
「へ?」


 ばちん。


 綾明の頬を手のひらで思いっきり叩く。


 ……本当はキスしたいけど、そんな関係になれない。


 クビになりたくないし! 初任給も欲しい!!!


「い゛っだ~~っ!!!」
「ざまぁ!!! あははっ」
「本気だったのに……」
「知らないよ。御令息様と使用人の関係は御法度でしょ? 綾明さん」


 頬を抑えてしゃがみ込む綾明を見て、つい、笑ってしまった。


 *


 御法度か……じゃあ、水都とはそういう関係になれないのか。そんなの、イヤだな。


 初めて見た、水都の笑った顔。大きな瞳を細めて笑うその顔が、可愛くて、愛しくて、改めて好きだと思った。


「パンケーキ、床に落ちちゃいました」
「ご飯と味噌汁食べたから、もういいや」
「食べたんかい!!」


 君に会いたくて、隠語を使った。パンケーキに意味なんてない。


 片付けをする水都に、後ろから抱きつく。すっぽりと僕の腕におさまる小さな身体。そして、赤くなるその顔を見ると、つい、いじわるしたくなる。


 そっと、脚に手を這わせ、ゆっくり下腹を撫でると、びくりと肩が上がった。


「やめてくださいっ…セクハラです!!」
「僕には感じているように見えるけど?」
「ちがうっ!!!」


 エプロン越しに幹を指で叩くと、水都の顔が真っ赤に染まった。可愛い。


「良い表情だよ、水都。久しぶりに絵が描けそうだ」
「~~~~っっ!!」


 水都から腕を離すと、勢いよく距離を取られた。やりすぎた? 微かに甘い香りが、部屋に漂った。


(……この子、オメガ?)


「なんですか?!」
「いや、べつに」
「綾明さんには恋人も婚約者もいるんだから、俺にこんなことしないでください!!」
「は?」


 食器の乗ったお盆を抱え、水都が部屋から出て行った。


 恋人って……美桜奈のこと? たしかに、アレを見られている。関係、ちゃんと切らないと……水都が僕を拒絶する。


 でも婚約者って、僕にいたっけ? 父が勝手に決めたやつなら、もう破談にしたけど……。


「あっ!!! 枕!!! 枕返してもらってない!!!」


 追いかけるのも面倒くさいな。枕は明日でいっか。


 全てが灰色に見えて、なんの面白味のなかった僕の日常は、この家に水都という色が加わってから、少しずつ彩り始めていた。
 
 
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