蜜色キャンバス〜御曹司とオメガの禁断主従〜

霜月@如月さん改稿中&バース準備中

文字の大きさ
6 / 122

6話 『白濁の視線、その奥で揺れたもの』

しおりを挟む


 ーー翌日


 菫に頼まれて、洗濯物をサンルームに干す。ふと、あることを思い出した。


 ……そうだ、俺、姉ちゃんの婚約を破棄しなきゃだった!!!


「うあぁあぁあ!! なんか最近いい感じになってるけど! 違う! 方向性ズレてる!!」


 でも、綾明さんが俺に迫ってきてて、俺も……その、嫌いじゃなくて……いや違うし?! 好きとかじゃないし!!


 しかし、これを利用して婚約破棄する手はない!!


「そうだ!!! 俺が御令息様とつがいになればいいのでは?!」


 そうすれば、姉ちゃんは解放されて、綾明さんは遠慮なく迫れて、俺は……こっそり恋心を満喫して、全員ハッピー!!! 万事解決!!! 完璧!!!


「って、いや無理だろ!! 貴族と平民が番とか!!」


 ありえねぇええぇ!! 濡れたバスタオルを床に叩きつける。他の方法考えよう。まず、そもそも、綾明さんと付き合うなんて……。


 ぎゅう。


 背後から抱きしめられ、思考が止まる。振り返ると、当然のように、綾明がいた。


「誰と誰が番になるの?」
「な、ならないし!! 誰とも番にならない!!」


 腰回りに綾明の手が触れる。なんでそこ触るの?! そこ、ダメなとこ!!! 下腹の近くにある綾明の手に、身体の奥が熱を持つ。


「何もしてないのに赤くなってる。可愛い」
「なってません!!! もぉっ!! 洗濯の邪魔しないで!!」
「このまま干して」
「~~~~っ!!!」


 ほんっと調子狂う!! バスタオルを物干しに掛け、洋服を取ろうとした瞬間、綾明が俺の耳元で囁いた。


「あのさ……」


 その声と匂いに心臓が跳ねる。


「水都はオメガだよね……?」
「っっ!!」


 体が一気に熱を持つ。何これ?! 綾明の言葉が、まるで本能に刺さる。


「なんで知って……俺を……嗅いだの?」
「嗅いだというか……香ったというか……」
「変態か!!!」
「違う!!! 自然現象!!!」
「そんなもんあるか!!!」


 綾明がむっとして、洗濯物を手伝い始めた。……え、手伝ってくれるんだ。ふーん、優しいじゃん。


「で、ヒートいつなの?」
「はっ?! なに聞いてんの!! デリカシーないの?!」
「いや……えっと……そんなつもりじゃ……ご、ごめん……」


 しゅんとする綾明を見て、ちょっと言いすぎたか、と反省する。


「あと3週間後くらいかな。大体、月に1回くらい来るよ」
「3週間後ね……困ったことあったらすぐ呼んで? 絶対助けに行くから」
「……慣れてるし、別にいいです」


 プイッと顔を背けて、洗濯物の続きを干す。好きだけど、深入りしすぎたらダメ。そう思っているのに……なんで上手くいかないのだろう。


「あのね、水都」
「今度はなんですか」
「僕、婚約者居ないよ」
「えっ?」
「いたけど、父が破棄した」
「え? えっ?!?! ぇええぇぇええ!!!!!」


 ちょっと待って。じゃあ姉ちゃんの婚約って、もうとっくに……。俺の『御令息サマと仲良くなって婚約破棄作戦!』は詰んでるってこと?!


「じゃあ俺、ここで働く意味ないじゃん?!?!」
「なんで水都がそんなに動揺するの……あ、そういえば破棄した相手も鷹ーー」
「わぁああぁあぁああ!!! 気のせいです気のせいです!!!」


 洗濯カゴからタオルを取り出し、綾明の顔に押し付けて、誤魔化す。ヤバい、バレたらマジで終わる。


「ちょっと!!! やめて!!! 髪が濡れる!!!」
「大丈夫です、濡れても綾明さんは美しいですよ!!!」
「…………ありがとう」


 俺の言葉に、頬を薄紅色に染め、口元を押さえて綾明が照れた。ずるい。……ほんと、ずるいよ、その顔。


 綾明が人差し指で、頬をかりかりと掻き、口を開いた。


「あのさ……僕が美桜奈と関係を切ったら、水都は僕を見てくれる?」
「は……?」


 突然の質問に手からするりと洗濯物が落ちる。見るって……何を? 


「どういう意味……?」
「御法度を破って水都と関係を持ちたい」
「なっ……バカなの……?」


 真剣な眼差しで話すからこそ、綾明さんが俺に対して、遊びなのか、本気なのか、分からない。


「ダメ?」
「ダメとか以前に、俺のこと好きでもないでしょ?! 身体目的じゃないの?! これだからアルファは!!」
「違う!! 今、美桜奈とはもうシてない!! 話し合いがこじれているだけで、僕は本当に君のことがーー」
「信じられるか!!!」


 綾明の腕を振りほどき、洗濯カゴを抱えて走る。


 どれだけ抱きしめられても、キスされても、綾明さんが本当に好きなのは、美桜奈であって、俺は、その代わりじゃないの?


 頬は熱を帯び、胸の音は高く鳴る。息を切らしながら、屋敷の中へと駆け込んだ。


 *


「はぁぁ~~……水都、足速いな……僕、アルファなのに追いつけない……」


 腕に残るぬくもりが、甘くじんじんと痺れる。


「……好きじゃないわけないのに。君と初めて会った時から、ずっと好きだったのに」


 あんなに赤くなっていたのに、気がないなんてあるのか? いや、諦めない。美桜奈とケリをつけて、絶対、水都に好きって言わせる。


 でも、そのためには、まず美桜奈との関係を終わらせなければならなかった。


 ……難航してるけど。


 ーーーーーーーーーーーー
 ーーーーーーーー
 ーーーー
 *


 ーー昼


 数週間が経ち、仕事にも生活にも慣れてきた。


 ……ただ、あの日以来、綾明さんが一切、俺に触れてこなくなった。


 触れないどころか、避けられている。……あれだけ迫ってきていたのに、なにその変わり身の速さ!!


「あ~~~もうっ!!!」


 昼食を作っていると、後ろから肩が掴まれた。


「ねぇ」
「……な、何?」
「最近、綾明さんが夜のお誘いしてこないんだけど。何か吹き込んだ?」
「……はぁ?」


 知らんし。俺のせいにすんな。溜息混じりに、作った昼食をお盆に乗せて、美桜奈へ渡す。


「これ、持って行ったら? 綾明さんのところに。俺は最近、綾明さんと会ってないし、関わりがないから分からないよ」
「そう……ありがとう」
「頑張って! 本人と話し合うのが1番だよ」


 嬉しそうにお盆を持って、出て行く美桜奈の背中を見つめる。


 『頑張って』なんて、笑顔で美桜奈に言えるほど、内心は穏やかではない。本当は綾明さんに会いたくて、俺が昼食を持って行きたかった。


 言いすぎたことも謝りたい。


 知らず知らずのうちに、綾明さんのことを好きになっている俺は、バカで愚か者だと思う。


 オメガで使用人の俺が、綾明さんのことを好きだなんてバレたら、きっとクビになるだろう。それでも、いつも目を細めて優しく微笑む綾明さんが好きで。


 もう一度、触れて欲しい、もっと綾明さんのことが知りたい、仲良くなってみたい、そんな身分に合わない感情ばかりが湧く。


「美桜奈は良いよな、公認されてて」


 椅子に座り、作ったおにぎりを口へ運ぶ。美桜奈に対する嫉妬で、米の味を感じない。はぁ、美味しくない。おにぎりを食べる手が止まる。


 それでも、無理やり口の中に詰め込んで、立ち上がった。


 キッチンの洗い物は美桜奈に任せて、俺は書斎の掃除でもしよう。中々戻ってこない美桜奈を置いて、キッチンを出た。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

春風の香

梅川 ノン
BL
 名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。  母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。  そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。  雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。  自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。  雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。  3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。  オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。    番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!

【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜

みやの
BL
ーー……俺は、本能に殺されたかった。 自分で選び、番になった恋人を事故で亡くしたオメガ・要。 残されたのは、抜け殻みたいな体と、二度と戻らない日々への悔いだけだった。 この世界には、生涯に一度だけ「本当の番」がいる―― そう信じられていても、要はもう「運命」なんて言葉を信じることができない。 亡くした番の記憶と、本能が求める現在のあいだで引き裂かれながら、 それでも生きてしまうΩの物語。 痛くて、残酷なラブストーリー。

オメガの僕が、最後に恋をした騎士は冷酷すぎる

虹湖🌈
BL
死にたかった僕を、生かしたのは――あなたの声だった。 滅びかけた未来。 最後のオメガとして、僕=アキは研究施設に閉じ込められていた。 「資源」「道具」――そんな呼び方しかされず、生きる意味なんてないと思っていた。 けれど。 血にまみれたアルファ騎士・レオンが、僕の名前を呼んだ瞬間――世界が変わった。 冷酷すぎる彼に守られて、逃げて、傷ついて。 それでも、彼と一緒なら「生きたい」と思える。 終末世界で芽生える、究極のバディ愛×オメガバース。 命を懸けた恋が、絶望の世界に希望を灯す。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結】番になれなくても

加賀ユカリ
BL
アルファに溺愛されるベータの話。 新木貴斗と天橋和樹は中学時代からの友人である。高校生となりアルファである貴斗とベータである和樹は、それぞれ別のクラスになったが、交流は続いていた。 和樹はこれまで貴斗から何度も告白されてきたが、その度に「自分はふさわしくない」と断ってきた。それでも貴斗からのアプローチは止まらなかった。 和樹が自分の気持ちに向き合おうとした時、二人の前に貴斗の運命の番が現れた── 新木貴斗(あらき たかと):アルファ。高校2年 天橋和樹(あまはし かずき):ベータ。高校2年 ・オメガバースの独自設定があります ・ビッチング(ベータ→オメガ)はありません ・最終話まで執筆済みです(全12話) ・19時更新 ※なろう、カクヨムにも掲載しています。

処理中です...