蜜色キャンバス〜御曹司とオメガの禁断主従〜

霜月@如月さん改稿中&バース準備中

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19話 『閉ざされた熱』

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「とりあえず、ここに居ても仕方ないから移動しよう」
「あ……お、降りますね!!」
「ごめん。僕がもう少しって言ったのに」


 立ち上がって、土で汚れたTシャツと短パンを手で払う。上から覗いた時より、中々の急斜面だ。そして、斜面が長く、足場は悪い。


 こんなところ、サンダルで歩いたら、また転んでしまいそう。


「結構落ちたなぁ。これ登るのは無理だね」
「……そうですね」
「少し進んでみよう」
「……はい」


 ガサガサと草を掻き分けながら、森の中を進んでいく。足がツタに引っかかり、バランスを崩した。


「うわぁあぁあ!!!」
「ちょっ、水都!!!」


 綾明の声が聞こえた瞬間、視界がぐるんとひっくり返った。


 ドサッ!!


「ゔっ……」
「ったぁ~~……」


 空が傾き、背中が地面につく。痛い……というよりは重いっ!!! うわぁあぁあ!!! 綾明さん近っっ!!! またこの構図!!! さっきと逆だけど!!! 何やってるんだ俺!!!


 広い肩に包まれ、その場に押し倒されたまま、動けない。早く、俺から退いてっ!!! 色々思い出すから!!!


「っ……大丈夫?? どこか打ってない??」
「……へ、平気です……えっと……綾明さん……は……?」
「僕も大丈夫。水都が下に居たからね」
「あのっ……重い…です……っ」
「あ、ごめんね」


 けれど、すぐには退いてくれなくて。それどころか、そのまま俺の身体を包み込むように、抱きしめた。


 この体勢が一昨日のことを思い出させる。はぁ、恥ずかしい。綾明から目を逸らす。綾明さんは変わらず、真っ直ぐ、俺を見つめていた。


「水都」
「な、なんですか?」
「この間……寸止めにしたこと、気にしてる?」
「…………っ」


 その質問に、心臓が高鳴る。だって、今、一番気にしていることだ。なんて返して良いか分からず、言葉が詰まる。


 それでも、何か言わなきゃと思って、絞り出すように、答えようとしたそのとき、綾明がどこかを指差した。


「水都、あそこ、建物」
「えっ?」


 頭を動かして、指差す方向を見ると、少し離れた場所に、苔の生えた古びた小屋が見えた。あれはガレージ??


「とりあえず、行ってみーー」


 ザァァアァアァア。


「急に雨すごっ!!!! 綾明さんっ!!! 早く俺から降りて!!!!」
「え、あ、ごめん!!!」


 突然降ってきた雨に、頭から足先まで、全身びしょ濡れになる。寒っっ!!!! 急いで起き上がり、雨の中、綾明と小屋まで走り抜けた。


 小屋の扉を引くと、ギイィと鈍い音を立て、開いた。


「……誰もいない、か」
「いたら逆に怖いです!!」
「確かに。でも、早めにここに入れて良かった。雨、強くなってきたね。これ、止むのかな」


 通り雨は思ったよりも激しく、大粒の雨が凄まじい音を立て、古びた小屋を叩いた。


 *


 小屋の中はソファがひとつと、テーブルに何か道具が色々置かれていた。


 大雨に見舞われたせいで、全身ずぶ濡れだ。ちらりと水都を見る。Tシャツは肌に張り付き、透けるほど濡れ、胸の突起が薄ら見えた。それを見て、すぐに目を逸らす。


 こんなの、ダメでしょ。


 水都の着ているパーカーが僕の理性をなんとか保ってくれている。あれが脱げたら……と考えると恐ろしい。


 だけど、そんな僕の考えなんて、気にもしないで、水都が口を開いた。


「これ、脱いだ方がいいですよね?」
「え?」
「濡れちゃったし……」
「そうだね……濡れたままはダメだ。体温が下がる。全部脱いだ方がいい」


 僕は何を言っているんだろう。全部なんて脱がれたら、理性が崩壊してしまうかもしれない。なのに、心のどこかで何かを期待する自分が居る。


 なんて破廉恥な……。水都が知ったら呆れるだろう。


「ぜっぜんぶ?! でもっ……ここ、窓もないし……換気も……」
「だから、余計に濡れたままじゃダメだよ。湿気に体温が奪われる……僕は背を向けているから、さぁ早く」


 なぜ僕は水都を脱がしているのだろう!!! はぁ、と溜め息を吐き、額を押さえて水都に背を向ける。


 裸で居るのは寒いだろう。何か暖まれそうなものはないかな? 小屋の中を歩き、暖まれそうなものを探す。


 あ、毛布だ。少し古いけど、これで暖を取ろう。毛布をバサリと広げ、埃を払った。


 ちらりと振り返り、水都の様子を窺う。恥ずかしいのか、まだパーカーを脱いだだけだ。身体が濡れて寒いのか、身を震わせている。


「水都……」
「ま、まだ着替えて……っ」


 振り返った水都の頬は真っ赤で。恥ずかしそうにするいじらしさに、性的欲求が掻き立てられた。


「脱がしてあげようか?」
「な、なんでそうなるの?!」
「早く脱がないと風邪引くよ、ほら」


 水都に近づき、Tシャツの裾を掴み、たくし上げる。細い腰と白い腹部が露わになり、鼓動が早くなった。


「待っ…待って!! やっ……」
「あ……ごめん」


 『や』


 その言葉に手が止まる。あの時も、『や』と言われた。水都が嫌がっている。やめよう。掴んでいた裾をパッと離すと、水都が視線を逸らしながら、僕の服を掴んだ。


「えっと……その……」
「水都が嫌がることはしないよ、ごめんね」


 そっと手を伸ばし、水都の頭を撫でると、水都が僕を真剣な表情で、真っ直ぐ見つめた。


「あのっ……嫌じゃ……ないです………綾明さんに……そういうところ……触られるのも……嫌……じゃないです……あの『や』も今の『や』も……『良い』……って意味の……」
「え……?」


 顔を真っ赤して話す、その内容に抑えていた気持ちが溢れ出し、水都を強く抱きしめた。


「わっ…綾明さん……っ」
「ごめん。でも、そんな顔されると……手を出すなって言う方が無理かもしれない」
「えっ?」


 腕の中にすっぽりおさまる、水都の身体。腕から伝わる水都の体温がいやらしい気持ちにばかりさせ、下唇を噛み、堪える。口唇が微かに震えた。


「……僕、どこまで我慢できると思う?」
「…………っ」


 何も言わない水都の肩に、毛布をかける。この距離と、この空間に、逃げ場なんてない。それは水都も、僕も同じだ。


 足は自然にソファへ向かった。


 毛布にくるまりながら、水都と一緒にソファへ横になる。強くなっていく屋根を叩く雨音が、まるで僕たちを外界から遮断しているように感じた。


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