3 / 18
テープのその先へ
しおりを挟む週末、AM5時。
私はあらゆる種類のテープと呼ばれるものをリビングに集めてみた。紙テープ、マスキングテープ、すずらんテープ、ビニールテープ。色々ある。
まず、すずらんテープを手に取り、ダイナミックに解いた。
しゅるしゅるしゅる~~。
元は応援用のボンボンなんかを作るテープだ。伸ばしたところでなんの面白みもない。伸びるだけ、伸ばしてやるさ。あははっ。
テープの端を持ち、リビングをぐるぐる歩き回る。すずらんテープが蜘蛛の巣のように絡まった。
「……あぁ、飽きた」
私も今年で33歳になった。そして婚約者が出来た。10歳も年下の若造だ。年下のくせに生意気で、私に説教ばかりしてくる。常識に囚われ、常に正しいことしか言わない。私とは正反対の男だ。
「マスキングテープか」
マスキングテープとすずらんテープの端を持ち、まだ寝ている婚約者の元へ行く。
相変わらず湊はまだ寝ている。私はもう起きているというのに。日頃、私に説教ばかり説く、仕返しをしてやろう。
マスキングテープを手で千切り、湊の左頬に3枚付ける。ふ。反対側にもつけてやろう。あっはっは。ざまぁ。このまま買い物にでも行け。湊の手にすずらんテープの端をくくりつけ、寝室を出た。
「他にどんなテープがあったかな」
紙テープとビニールテープか。紙はあれだな、ビリビリに引きちぎる! 紙テープの端を持ち、破っては天に撒き散らした。
「紙吹雪だな」
綺麗だ。
ビニールテープをハサミで切る。ちょきちょき。無造作に壁へ貼っていく。はい、満足。もういいや。つまらない。
一番最初に開けたすずらんテープに手を通し、青いすずらんテープを開けた。何か作れないかな。椅子の上に乗り、青いすずらんテープの端を壁の高いところに貼り付けた。
「よいしょ」
壁から壁へ青いすずらんテープを伸ばし、同じ高さに貼り付ける。束にして、付けるとすごく綺麗だ。あ、良いこと思いついた。ポストに突っ込まれたチラシとハサミを用意して、私は工作を始めた。
*
AM7時。
「ふぁあ~~」
目が覚めた。頬に違和感。手で触る。何かついている。その触る手にも何かついている。すずらんテープ。手錠のようにくくりつけられている。何これ。とりあえず、鏡を見なければ。
脱衣所で鏡を見た。自分の顔が猫になっている。こんなことやる人はこの家に1人しか居ない。僕はいつも異質な価値観に悩まされる。理解はしようとは思うが、あまりにも奇抜な考え方は悩みのタネだ。
一枚ずつ、マスキングテープのひげを剥がす。
「皐? どこにいるの?」
辺りを見回すが近くには居ない。皐は早起きだ。考えの読めない可笑しな女でも、僕は皐を愛している。皐を感じないと不安だ。皐の居そうなリビングへ向かった。
なんだこれは!!!! 散らばった紙屑。壁一面に貼り付けられたテープ。張り巡らされたすずらんテープはキッチンへの行手を阻む。
いやいやいや、良い大人が何しちゃってんの!!!! 子どもじゃないんだからさぁ!!!!
「湊、起きたのか。手伝ってくれよ」
椅子の上から声が聞こえた。
皐が天井の近くに貼り付けてある青いすずらんテープに、チラシで作った星をくっつけている。全く、何をしているんだ。
「はいはい」
危ないなぁ。皐の背後から、椅子に乗り、片手で皐を抱きしめた。
「星、くださいよ」
皐から星をもらい、何十本も横並びに付けられた青いすずらんテープに貼り付けていく。どうせなら、折り紙で星を作ればいいのに。
星をつけ終わり、椅子から降りた。椅子の上に立つ皐に手を差し出す。皐が僕の手を掴み、口元に笑みを浮かべながら椅子を降りた。
「みろ、天の川だ」
天井を指差し、皐が僕に薄い笑みを向ける。
皐と一緒に天井を見上げた。横並びの青いすずらんテープの束は川のように見える。不恰好に切り取られた星々の仕上がりは拙いが、天井が綺麗だと思った。
「朝5時から作った」
「皐は働きものだね」
自慢げに僕に言う皐に少し呆れる。どうしようもないくらい、いろんなテープで部屋が散らかっている。皐は家事が苦手だから、片付けるのは僕だ。はぁ。ため息と同時に頭を掻く。
「モーニングティーでも淹れよう」
皐が絡まり合うすずらんテープを手で掻き分けながら、キッチンへ進んで行った。ふと、気づく。皐から伸びるすずらんテープが僕の手首と繋がっていることに。
探さなくても、繋がっているじゃないか。
すずらんテープの先にいる、無邪気で愛しい皐。キッチンに足を運び、皐と繋がるすずらんテープを手繰り寄せた。
「おっと……湊?」
すずらんテープと一緒に皐の手首を掴み、引き寄せる。皐に顔を近づけ、優しく、唇を重ねた。
ちゅ。
「織り姫と彦星の再会。な~~んてね」
「何ばかなことを……くだらない」
そう言いつつ、頬を赤らめる皐が可愛い。こんなくだらないことに一生懸命になれる皐が羨ましいよ、僕は。
「こんなに散らかしてますけど、テープ遊びは楽しかった?」
「……湊と星を飾った時が一番楽しかった」
全く。もういいさ、好きなだけ散らかすがいい。
その代わり、モーニングティーが終わったら、すずらんテープにまみれて、今度は僕と遊ぼうか。
ティーカップの中で揺れる紅茶を眺めながら、皐の腰に手を回した。
あとがき。
カクヨム、おもしろいテープ企画参加での執筆。人物は自分の小説『如月さん、拾いましたっ!』のサブキャラで構成。サイドストーリーとなった。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
麗しき未亡人
石田空
現代文学
地方都市の市議の秘書の仕事は慌ただしい。市議の秘書を務めている康隆は、市民の冠婚葬祭をチェックしてはいつも市議代行として出かけている。
そんな中、葬式に参加していて光恵と毎回出会うことに気付く……。
他サイトにも掲載しております。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる