俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました

白河リオン

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第一章 「ヒンデンブルクオーメン」

第5話 「魔法士」

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 翌日、俺は広大な穀倉地帯を一人で歩いていた。傾いた太陽がオレンジ色に燃え、一面の小麦畑が黄金色に染まる美しい景色が広がっている。

 今日の目的地は、レオリア王国北部高原の穀倉地帯に位置する要衝都市アーガナスだ。リアディスほどの規模ではないが、物流と情報が集まる活気ある街として知られている。旅の補給と情報収集をここで行うつもりだ。遠くに見えるのは、アーガナスの城壁だろう。

「……暗くなる前には着きたいな」

 そんなことを呟いた時だった。近くの草むらがカサカサと音を立てる。

「魔獣か……」

 警戒を強め、アクアレイジに手をかけた。その瞬間、草むらが大きく揺れ、そこから水色の粘液状の巨大生物が姿を現した。体長は優に3メートルを超える―――スライム。村の近所で見かけるような小型の個体とはまるで違う。半透明の体内には無数の泡が浮かび、内部が絶えず蠢《うごめ》いている。夕陽を反射して表面が妖しく輝き、まとわりつくような湿気と甘酸っぱい腐臭が漂ってくる。

「……こいつ、相性最悪だろ」

 アクアレイジは水属性の魔法銃だ。水分の塊であるスライムに撃ち込んでも、逆効果になる可能性がある。しかし、逃げ出す隙《すき》もない。俺は銃口を向ける。

「こいつでどうにかなるか……」

 引き金を引くと、青白い水弾が唸りを上げてスライムの胴体に直撃した。水の衝撃でスライムの体が波打ち、勢いよく粘液が飛び散る。しかし、案の定、相手はダメージをほとんど受けていないようだ。むしろその水流を取り込んで体を一回り大きくしたかのようだった。

「……まじかよ。逆に強くなってんじゃねえか」

 俺は舌打ちをし、相手との距離を取ろうと後ずさりした。しかし、スライムはじわじわと俺に迫ってくる。まるで「もっと攻撃してこい」とでも言わんばかりに、その波打つ体を揺らして威圧感を与えてきた。

「こりゃ、ちょっと面倒かもな……」

 俺は冷や汗を感じながら次の手を考えていた。このまま無策で突っ込んでも、ただ相手を強くするだけだ。どうにかして隙を作って逃げ出す――そんな風に思考を巡らせていると、突然背後から声が聞こえた。

いかづちよ穿《うが》て、サンダーランスッ!」

 次の瞬間、閃光が鋭い雷鳴と共にスライムに向けて放たれた。

 爆発音―――。

 発生した蒸気が一帯を包み込み、その場の空気を一変させた。そして、スライムはその場で震え、その形を保てなくなっていった。

「えっ……?」

 驚いて振り向くと、夕日を背に一人の少女が立っていた。長く伸びた金髪が風に舞い、紫の瞳が鋭くこちらを見据《みす》えている。細身ながら凛とした佇《たたず》まい、手には未だ残る雷の痕跡《こんせき》――魔法士だ。

「あなた、大丈夫かしら?」

「……ああ、助かった」

 俺は息を整えながら礼を言う。

「わたくしは、フィリア・アリスタルですわ。たまたま通りがかったらあなたが魔獣と戦っていらしたので、助太刀ですわ。それにしても、あなた随分と無茶するのね」

 フィリアと名乗った少女はそう言いながら、俺を上から下まで眺めるように見た。

 その瞳には好奇心が混じっているようだったが、俺は気にせずに微笑んだ。

「アルヴィオ・アディスだ。まあ、確かにちょっと相性が悪かったかな」

 俺はそう言って、肩をすくめた。

 フィリアが、スライムの死骸に視線を移す。スライムの死骸は、魔力への分解が始まっていた。

「どうぞ、お譲りいたしますわ」

 フィリアは、そう言ってスライムの魔力を回収するように促す。

「あぁ…、そうさせてもらうよ」

 すこし癪だが、アルカナプレートを取り出し魔力を吸収させていく。

 カチッ。

+1221ディム―――。

「ありがとう。助かるよ」

「大したことありません」

 フィリアはそう言って、ふふっと微笑んだ。

「それにしても無理はなさらないことね。それでは、わたくし先を急ぎますのでこれにて失礼しますわ」

 フィリアは微笑を浮かべたまま、再び手を挙げて軽く挨拶をしてくれた。

「それでは、アルヴィオ、ごきげんよう」

 フィリアはそう言って、優雅に馬車に戻っていった。馬車の横に控えていたメイドらしき人物がこちらに一礼をし、馬車に乗り込むと馬車は出発した。

 馬車が遠ざかっていく中、俺はその背を見送りながら、しばし呆然としていた。 圧倒的な力。洗練された立ち居振る舞い。そして富。この世界では、魔力の有無が全てを分ける。

 フィリアのような強大な魔力を持つ魔法士たちは、その力をアルカナプレートに注ぐだけで富を手に入れることができる。一方で、俺のような魔法が使えない者は、魔獣の討伐、農作業や地味な商売を日々の生活のために続けている。俺が感じたのは、単なる羨望や嫉妬ではなかった。

 むしろ、この差がこの世界に不安定さと混沌をもたらすのではないかという、漠然とした不安感だ。もちろん、差は悪いことではない。それが社会の活力を生むものだ。しかし、あまりに大きすぎる歪みは、富を生み出す社会基盤そのものを破壊しかねない。

「まあ、そんなこと考えても仕方ないか」

 余計なことを考えている暇はない。リーリアを救うことに集中するべきだ。

「……さて、行くか」

 俺は深呼吸をして、再び歩き出した。

 草原を抜ける風が心地よく、次第に心の疲れが癒されていくのを感じながら、俺は再び歩みを進め、遠くに見えるアーガナスの街を目指した。
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