22 / 173
第三章 「アセンディング・トライアングル」
第18話 「レイラ・ヴァース」
しおりを挟む
取引所での初取引を終えた俺たちは、とある商会を訪れることにした。
理由は簡単だ。前日に届いたクロエからの手紙にそう書いてあったからだ。
◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆
アルへ
困ったときはレイラちゃんを訪ねるといいよ。
レイラちゃんは頼れる人だからね。
ま、頑張れよ♪
クロエより
P.S. レイラちゃんはヴァース商会にいます。
◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆
クロエらしい短い手紙だった。どうやって俺の居場所を突き止めたのかは謎だが、クロエのことだから深く考えるだけ無駄だろう。
アイラも手紙を読んで首を傾げていたが、クロエの言葉を信じてみる価値はあるということで、俺たちはヴァース商会へ向かうことに決めた。
取引所から歩いて10分ほどの場所に、ヴァース商会の立派な建物が立っている。大きな商会であることは一目でわかる豪華な造りだ。
アイラが少し緊張した面持ちで扉を見上げる。
「アルさん、本当にここでいいんでしょうか…?」
「ああ、間違いない…行ってみよう」
俺たちは、思い切って扉を押し開けた。中に入ると、広々とした受付が広がっており、何人かの使用人が忙しそうに動き回っていた。
俺たちは受付の女性に、レイラ・ヴァースに会いたいと伝えた。最初は少し怪訝そうな顔をされたが、俺が「クロエ・アディスの紹介です」と付け加えると、受付の女性の態度は一変した。
驚いた表情を見せた後、すぐに笑顔で案内してくれた。
――クロエは本当に何者なんだろうか……
「会頭は現在執務中ですが、すぐにお会いできるよう手配いたしますので、少々お待ちください」
案内された応接室でしばらく待っていると、豪華なカーテンや絵画に囲まれたその部屋の雰囲気にアイラは少し圧倒された様子だった。
「ここまで豪華だとは思っていませんでした…」
やがて扉が勢いよく開かれた。現れたのは、赤髪のロングヘアを持つダークエルフの女性だった。堂々とした歩き方で、俺たちの方に向かってきた。
輝く赤髪は日の光を浴びてさらに鮮やかで、女性の持つオーラが周囲の空間を支配しているようだった。
「初めまして。俺はアルヴィオです。クロエの知り合いということで、お会いしたくて来ました」
「レイラ・ヴァースだ。君がクロエから聞いていた子供、アルヴィオってわけか。そしてそちらの君は…」
レイラはにっこりと笑いながらそう言った。その笑顔には豪胆さが溢れており、ただ者ではないことを一目で理解させられる。
視線はアイラへと移り、少し目を細めた。
「君は…もしかしてルミナスの? 以前王宮の大晩餐会で見たことがある。名前は確か…アイラシアだったかな?」
アイラは驚いたように目を見開き、しばらく口を閉じたままだったが、やがて小さく頷いた。
「そうです…アイラシア・ルミナスです。どうして…」
「エルフの記憶力を甘く見ないことね。それに、君の雰囲気が懐かしい感じだったからよく覚えてたんだ」
アイラが少し緊張しているのが横目で見て取れた。
俺はポケットからクロエの手紙を取り出し、レイラに見せた。レイラは手紙を受け取り、一読すると、懐かしそうに笑みを浮かべた。
「相変わらずだ、クロエ」
レイラは少し呆れたように肩をすくめながらも、目にはどこか愛情深いものが感じられた。
「クロエから聞いていた子供……。君がそれだったとはね。クロエが言うには、君は少し変わった子らしいじゃないか」
「それは…まあ、クロエの言うことですから」
俺は少し苦笑しながら答えた。
「ふふ、面白いわね。子供を育てはじめたって聞いた時は気まぐれだと思ってたけど。どうやら違う理由《わけ》もあるみたいね」
レイラはそう言うと、近くのソファにどっかりと座った。
「それで…?」
レイラが尋ねると、俺は本題に入ることにした。
「実は、資金をお借りしたくて、レイラさんを訪ねました」
レイラは頷き、少し考え込むように目を細めた。
「ふむ、資金の貸し出しね…。ふーん。いくら欲しい?」
「6万ディムです」
「で、何に使う?」
「取引です。リアディス取引所での株式売買」
「……なるほど。それで、担保はあるのかい?」
待ってましたと言わんばかりの質問だった。
俺は、静かに首を振る。
「ありません」
――担保になるような資産など、俺にはない。ただ……
「これから、買う株式が担保になります」
沈黙が落ちる。だが、怖くはない。むしろ、ここが勝負どころだ。
レイラの視線が、鋭くなった。
「……詳しく聞こうか。どうやって、あたしの金を守るつもりだい?」
「はい」
俺は、腰のポーチから持ち歩いていた紙を取り出し、テーブルの上に置く。
図を描きながら説明を始める。
「現在、自分の持ち金は3万ディムです。この3万を証拠金として、レイラさんから6万の追加資金を借り入れ、総額9万ディムでの取引を行います」
レイラは言葉を挟まずに黙って耳を傾けていた。俺は続ける。
「条件は明白です。9万ディムのうち三割――つまり2万7千ディムの損失が出た時点で、保有している株式はすべて即時売却。借り入れた6万ディムの元金は、確保されます。俺の自己資金は消滅しますが、レイラさんへの返済は滞りません」
「ふん……。要するにテコを利かせるわけだね?」
「はい」
「損をしても、少年の資金がゼロになるだけ。こっちに被害は出ない。そういう話だと?」
「ええ」
「言うじゃないか、少年」
「もちろん、レイラさんにリスクが全くないわけではありません。相場が急変動した時に、意図せず3万ディム以上の損失が出てしまう場合があります。そうなれば、こちらからの返済は滞《とどこお》る」
「ふむ…」
「そのときはどうする?」
「ここで働くなりなんなりします」
レイラは一枚の指で紙をはじき、そのまま椅子から身を乗り出した。
「いいじゃないか、その覚悟……嫌いじゃないよ」
「ありがとうございます」
「だが――商売は商売。儲けが出たときには、あたしにも取り分をくれなきゃ割に合わないね。……儲けの一割、これが条件だ」
予想通りだった。むしろ、それで済むのなら上出来だ。
「その条件で、お願いします」
即答する俺を、レイラは楽しげに眺めた。
「いい返事ね」
レイラは指を鳴らした。すぐに控えていた女性使用人が扉の向こうから現れる。
「ユナ、融資契約書と、利得分配契約の書式を二通、持ってきておくれ」
「かしこまりました」
しばらくして、契約書をしたためた使用人が戻ってきた。内容を確認して、互いのアルカナプレートに契約内容を記録させる。
「契約成立だ」
俺とアイラは感謝の意を込めて頭を下げた。
「ありがとうございます、レイラさん」
アイラも緊張しながらも頭を下げる。レイラは再び俺の方に向き直った。
「少年、あんたは間違いなくクロエの子だ。これから、頑張りな」
「もちろんです」
「あと、もしあの時、君が私の同情を買うような頼み方をしていれば、あたしはすぐにでも少年を追い出していたね。それだけは、最後に教えておく」
その言葉には、重みと商売人としての矜持《きょうじ》が感じられた。
「道理はわかっているつもりです」
レイラは満足そうに頷き、俺たちを見送ってくれた。応接室を出ると、ヴァース商会の豪華な建物の中を使用人に案内されながら歩いた。
アイラは緊張が解けたのか、少しほっとした表情を見せていた。
ヴァース商会の重厚な扉が背後で音を立てて閉じると、ようやく、俺は大きく息を吐いた。濃密な空気に包まれたあの応接室での緊張が、今になってようやく体から抜けていくのを感じる。
「……すごい方でしたね、レイラさん」
隣で歩くアイラが、少し肩をすぼめながら呟いた。その声には驚きと、ほんの少しの怯えが混じっていた。
「まあ、クロエの古い知り合いらしいからな。度胸も知識も並じゃない」
陽はすでに傾き、建物の影が石畳に長く伸びている。通りに立つ魔導灯が、ぽつぽつと光を灯し始めていた。
「でも……あの、大丈夫なんですか? 本当に、あの金額を……しかも、損をしたら全部なくなってしまうって……」
アイラが少し心配そうに尋ねてきた。
「……レバレッジっていうのは、元手の何倍もの金を動かすための仕組みなんだ。うまく使えば、数倍の利益を得られる。けど、失敗すれば……全部を失う」
「それって……やっぱり、危ないやり方なんですね」
「危ないかどうかは、使い方次第だ」
俺は足を止めて、アイラの方に向き直った。
「たとえば、次の取引で、俺たちが9万ディム分の株を買ったとする。持ってる資金は3万。それに、レイラさんから借りた6万を足して、ようやくその規模の取引ができる」
「もし、価格が下がったら?」
「三割下がれば、9万が6万3千になる。3万の自己資金は、すっかり消える。だから、そのときはすぐに全てを売却して、レイラさんの6万だけは返す」
アイラは、瞳を少しだけ伏せていた。けれど、真剣な表情で俺の言葉を受け止めようとしてくれている。
「でも、逆に三割上がれば、9万が11万7千。そこから借りた分や支払い分を引いても、資産は、3万が5万4千程度に増える」
「2倍近くです…」
「そうだ。投資ってのは、結局のところ、タイミングと判断の積み重ねなんだ。いざという時に、大きく張れるかどうかで、結果はまるで変わってくる」
アイラは驚いたように目を見開いた。
「レバレッジをかけて取引を行う以上、リスクも大きいけど、その分リターンも大きい。だからこそ、慎重に、そして大胆に動く必要がある」
「少し怖い気もします…」
「無謀だと思うかもしれない。でも、……勝てる見込みがあるから、この勝負に出たんだ」
「アルさんが、そう決めたなら。わたしは、それを信じます」
「ありがとう、アイラ」
俺はアイラの目を見て、強く頷いた。アイラもそれに応えるように小さく頷き返す。俺たちは互いに笑顔を交わし、再びリアディスの街へと足を踏み出した。
◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆
【資産合計】90,388ディム
【負債合計】60,000ディム
【純資産】30,388ディム
◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆
理由は簡単だ。前日に届いたクロエからの手紙にそう書いてあったからだ。
◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆
アルへ
困ったときはレイラちゃんを訪ねるといいよ。
レイラちゃんは頼れる人だからね。
ま、頑張れよ♪
クロエより
P.S. レイラちゃんはヴァース商会にいます。
◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆
クロエらしい短い手紙だった。どうやって俺の居場所を突き止めたのかは謎だが、クロエのことだから深く考えるだけ無駄だろう。
アイラも手紙を読んで首を傾げていたが、クロエの言葉を信じてみる価値はあるということで、俺たちはヴァース商会へ向かうことに決めた。
取引所から歩いて10分ほどの場所に、ヴァース商会の立派な建物が立っている。大きな商会であることは一目でわかる豪華な造りだ。
アイラが少し緊張した面持ちで扉を見上げる。
「アルさん、本当にここでいいんでしょうか…?」
「ああ、間違いない…行ってみよう」
俺たちは、思い切って扉を押し開けた。中に入ると、広々とした受付が広がっており、何人かの使用人が忙しそうに動き回っていた。
俺たちは受付の女性に、レイラ・ヴァースに会いたいと伝えた。最初は少し怪訝そうな顔をされたが、俺が「クロエ・アディスの紹介です」と付け加えると、受付の女性の態度は一変した。
驚いた表情を見せた後、すぐに笑顔で案内してくれた。
――クロエは本当に何者なんだろうか……
「会頭は現在執務中ですが、すぐにお会いできるよう手配いたしますので、少々お待ちください」
案内された応接室でしばらく待っていると、豪華なカーテンや絵画に囲まれたその部屋の雰囲気にアイラは少し圧倒された様子だった。
「ここまで豪華だとは思っていませんでした…」
やがて扉が勢いよく開かれた。現れたのは、赤髪のロングヘアを持つダークエルフの女性だった。堂々とした歩き方で、俺たちの方に向かってきた。
輝く赤髪は日の光を浴びてさらに鮮やかで、女性の持つオーラが周囲の空間を支配しているようだった。
「初めまして。俺はアルヴィオです。クロエの知り合いということで、お会いしたくて来ました」
「レイラ・ヴァースだ。君がクロエから聞いていた子供、アルヴィオってわけか。そしてそちらの君は…」
レイラはにっこりと笑いながらそう言った。その笑顔には豪胆さが溢れており、ただ者ではないことを一目で理解させられる。
視線はアイラへと移り、少し目を細めた。
「君は…もしかしてルミナスの? 以前王宮の大晩餐会で見たことがある。名前は確か…アイラシアだったかな?」
アイラは驚いたように目を見開き、しばらく口を閉じたままだったが、やがて小さく頷いた。
「そうです…アイラシア・ルミナスです。どうして…」
「エルフの記憶力を甘く見ないことね。それに、君の雰囲気が懐かしい感じだったからよく覚えてたんだ」
アイラが少し緊張しているのが横目で見て取れた。
俺はポケットからクロエの手紙を取り出し、レイラに見せた。レイラは手紙を受け取り、一読すると、懐かしそうに笑みを浮かべた。
「相変わらずだ、クロエ」
レイラは少し呆れたように肩をすくめながらも、目にはどこか愛情深いものが感じられた。
「クロエから聞いていた子供……。君がそれだったとはね。クロエが言うには、君は少し変わった子らしいじゃないか」
「それは…まあ、クロエの言うことですから」
俺は少し苦笑しながら答えた。
「ふふ、面白いわね。子供を育てはじめたって聞いた時は気まぐれだと思ってたけど。どうやら違う理由《わけ》もあるみたいね」
レイラはそう言うと、近くのソファにどっかりと座った。
「それで…?」
レイラが尋ねると、俺は本題に入ることにした。
「実は、資金をお借りしたくて、レイラさんを訪ねました」
レイラは頷き、少し考え込むように目を細めた。
「ふむ、資金の貸し出しね…。ふーん。いくら欲しい?」
「6万ディムです」
「で、何に使う?」
「取引です。リアディス取引所での株式売買」
「……なるほど。それで、担保はあるのかい?」
待ってましたと言わんばかりの質問だった。
俺は、静かに首を振る。
「ありません」
――担保になるような資産など、俺にはない。ただ……
「これから、買う株式が担保になります」
沈黙が落ちる。だが、怖くはない。むしろ、ここが勝負どころだ。
レイラの視線が、鋭くなった。
「……詳しく聞こうか。どうやって、あたしの金を守るつもりだい?」
「はい」
俺は、腰のポーチから持ち歩いていた紙を取り出し、テーブルの上に置く。
図を描きながら説明を始める。
「現在、自分の持ち金は3万ディムです。この3万を証拠金として、レイラさんから6万の追加資金を借り入れ、総額9万ディムでの取引を行います」
レイラは言葉を挟まずに黙って耳を傾けていた。俺は続ける。
「条件は明白です。9万ディムのうち三割――つまり2万7千ディムの損失が出た時点で、保有している株式はすべて即時売却。借り入れた6万ディムの元金は、確保されます。俺の自己資金は消滅しますが、レイラさんへの返済は滞りません」
「ふん……。要するにテコを利かせるわけだね?」
「はい」
「損をしても、少年の資金がゼロになるだけ。こっちに被害は出ない。そういう話だと?」
「ええ」
「言うじゃないか、少年」
「もちろん、レイラさんにリスクが全くないわけではありません。相場が急変動した時に、意図せず3万ディム以上の損失が出てしまう場合があります。そうなれば、こちらからの返済は滞《とどこお》る」
「ふむ…」
「そのときはどうする?」
「ここで働くなりなんなりします」
レイラは一枚の指で紙をはじき、そのまま椅子から身を乗り出した。
「いいじゃないか、その覚悟……嫌いじゃないよ」
「ありがとうございます」
「だが――商売は商売。儲けが出たときには、あたしにも取り分をくれなきゃ割に合わないね。……儲けの一割、これが条件だ」
予想通りだった。むしろ、それで済むのなら上出来だ。
「その条件で、お願いします」
即答する俺を、レイラは楽しげに眺めた。
「いい返事ね」
レイラは指を鳴らした。すぐに控えていた女性使用人が扉の向こうから現れる。
「ユナ、融資契約書と、利得分配契約の書式を二通、持ってきておくれ」
「かしこまりました」
しばらくして、契約書をしたためた使用人が戻ってきた。内容を確認して、互いのアルカナプレートに契約内容を記録させる。
「契約成立だ」
俺とアイラは感謝の意を込めて頭を下げた。
「ありがとうございます、レイラさん」
アイラも緊張しながらも頭を下げる。レイラは再び俺の方に向き直った。
「少年、あんたは間違いなくクロエの子だ。これから、頑張りな」
「もちろんです」
「あと、もしあの時、君が私の同情を買うような頼み方をしていれば、あたしはすぐにでも少年を追い出していたね。それだけは、最後に教えておく」
その言葉には、重みと商売人としての矜持《きょうじ》が感じられた。
「道理はわかっているつもりです」
レイラは満足そうに頷き、俺たちを見送ってくれた。応接室を出ると、ヴァース商会の豪華な建物の中を使用人に案内されながら歩いた。
アイラは緊張が解けたのか、少しほっとした表情を見せていた。
ヴァース商会の重厚な扉が背後で音を立てて閉じると、ようやく、俺は大きく息を吐いた。濃密な空気に包まれたあの応接室での緊張が、今になってようやく体から抜けていくのを感じる。
「……すごい方でしたね、レイラさん」
隣で歩くアイラが、少し肩をすぼめながら呟いた。その声には驚きと、ほんの少しの怯えが混じっていた。
「まあ、クロエの古い知り合いらしいからな。度胸も知識も並じゃない」
陽はすでに傾き、建物の影が石畳に長く伸びている。通りに立つ魔導灯が、ぽつぽつと光を灯し始めていた。
「でも……あの、大丈夫なんですか? 本当に、あの金額を……しかも、損をしたら全部なくなってしまうって……」
アイラが少し心配そうに尋ねてきた。
「……レバレッジっていうのは、元手の何倍もの金を動かすための仕組みなんだ。うまく使えば、数倍の利益を得られる。けど、失敗すれば……全部を失う」
「それって……やっぱり、危ないやり方なんですね」
「危ないかどうかは、使い方次第だ」
俺は足を止めて、アイラの方に向き直った。
「たとえば、次の取引で、俺たちが9万ディム分の株を買ったとする。持ってる資金は3万。それに、レイラさんから借りた6万を足して、ようやくその規模の取引ができる」
「もし、価格が下がったら?」
「三割下がれば、9万が6万3千になる。3万の自己資金は、すっかり消える。だから、そのときはすぐに全てを売却して、レイラさんの6万だけは返す」
アイラは、瞳を少しだけ伏せていた。けれど、真剣な表情で俺の言葉を受け止めようとしてくれている。
「でも、逆に三割上がれば、9万が11万7千。そこから借りた分や支払い分を引いても、資産は、3万が5万4千程度に増える」
「2倍近くです…」
「そうだ。投資ってのは、結局のところ、タイミングと判断の積み重ねなんだ。いざという時に、大きく張れるかどうかで、結果はまるで変わってくる」
アイラは驚いたように目を見開いた。
「レバレッジをかけて取引を行う以上、リスクも大きいけど、その分リターンも大きい。だからこそ、慎重に、そして大胆に動く必要がある」
「少し怖い気もします…」
「無謀だと思うかもしれない。でも、……勝てる見込みがあるから、この勝負に出たんだ」
「アルさんが、そう決めたなら。わたしは、それを信じます」
「ありがとう、アイラ」
俺はアイラの目を見て、強く頷いた。アイラもそれに応えるように小さく頷き返す。俺たちは互いに笑顔を交わし、再びリアディスの街へと足を踏み出した。
◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆
【資産合計】90,388ディム
【負債合計】60,000ディム
【純資産】30,388ディム
◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆
0
あなたにおすすめの小説
魔法至上主義の世界で『筋力』だけカンストした男が拳一つで全てを覆す
ポポリーナ
ファンタジー
魔法こそが至高——この世界では呼吸も移動も戦闘も、あらゆる営みが魔力で成り立っている。
筋力は「野蛮人の遺物」と蔑まれ、身体を鍛える者は最底辺の存在とされていた。
そんな世界に転生した元・体育教師の剛田鉄心は、魔力適性ゼロ、しかし筋力だけが測定不能のカンスト値。
魔法障壁を素手でぶち抜き、転移魔法より速く走り、最上位魔法を腹筋で弾く——
「なぜ魔法を使わないんだ!?」と問われるたびに「だって使えないし」と笑う男の、
常識を腕力でねじ伏せる痛快・逆転無双が今始まる!
僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜
犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。
この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。
これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?
スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。
女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!?
ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか!
これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。
大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)
たぬころまんじゅう
ファンタジー
小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。
しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。
士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。
領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。
異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル!
圧倒的不利な状況を武と知略で切り抜ける!
☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆
異世界帰りのハーレム王
ぬんまる兄貴
ファンタジー
俺、飯田雷丸。どこにでもいる普通の高校生……だったはずが、気づいたら異世界に召喚されて魔王を倒してた。すごいだろ?いや、自分でもびっくりしてる。異世界で魔王討伐なんて人生のピークじゃねぇか?でも、そのピークのまま現実世界に帰ってきたわけだ。
で、戻ってきたら、日常生活が平和に戻ると思うだろ?甘かったねぇ。何か知らんけど、妖怪とか悪魔とか幽霊とか、そんなのが普通に見えるようになっちまったんだよ!なんだこれ、チート能力の延長線上か?それとも人生ハードモードのお知らせか?
異世界で魔王を倒した俺が、今度は地球で恋と戦いとボールを転がす!最高にアツいハーレムバトル、開幕!
異世界帰りのハーレム王
朝7:00/夜21:00に各サイトで毎日更新中!
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~
仙道
ファンタジー
現代日本で天才研究者だった相模登(さがみ のぼる)は、ある日突然、異世界へ転移した。 そこは『スキル』と『魔力』が全てを決める世界。
しかし登には、ステータス画面もなければ、魔力も、スキルも一切存在しなかった。
ただの一般人として迷宮に放り出された彼は、瀕死の女騎士と出会う。彼女の前には、使う者の命を瞬時に吸い尽くす『呪いの魔剣』が落ちていた。
武器はそれしかない。女騎士は絶望していたが、登は平然と魔剣を握りしめる。 「なぜ……生きていられるの?」 登には、剣が対価として要求する魔力は存在しない。故に、魔剣はデメリットなしの『ただのよく切れる剣』として機能した。
これは、世界で唯一「対価」を支払う必要がない登が、呪われた武具を次々と使いこなし、その副作用に苦しむ女騎士やエルフ、聖女を救い出し、無自覚に溺愛されていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる