俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました

白河リオン

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第七章 「ディストリビューション」

第58話 「ケモ耳の行方Ⅰ」

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 夜。

 目指す先は、情報屋との会合場所、例のバーだ。

 昼間、街中で見た青いケモ耳――イオナは恐らくまだリアディスにいる。

 だが、その影はあっけなく目の前から消えた。

 俺は、バーの奥――指定された個室へ向かう。

 中には、椅子に腰掛けたミラがいた。黒い耳が揺れ、鋭い赤い瞳がこちらを射抜いてくる。

「おや、来たね」

「ここまでの報告を頼む」

 短く切り出すと、ミラは尾を揺らしながら、卓上のランプの明かりに顔を寄せた。

「まず、情報操作の件は知っての通りうまくいった。エリーナの名を前面に押し出したおかげで、街はで一色だ。あのお嬢ちゃんの存在とその能力は、完璧に隠匿されたと考えていい」

「助かる」

「……それと、もう一つ。こちらが本題だ」

 ミラはグラスを指先で転がしながら、口角を上げた。

「イオナ・セイラン――君が探している魔法植物学者。どうやら厄介な連中に追われている」

「厄介な連中?」

「ああ。私たちは、『灰牙はいがの蛇』と呼んでいる」

「……灰牙の蛇?」

「そうだ。正体は闇に包まれているが、世界中の商人や貴族、そして一部の王族までが裏で繋がっていると言われている。資源と市場の支配を目的とする秘密結社だ。牙を剥けば、国の一つや二つは容易く飲み込むだろう。今回のアズーリアの一件も、裏に彼らがいると考えて間違いない」

「イオナが奴らに狙われる理由は?」

「イオナの研究成果だと考えるのだ自然だ。君も同じ理由で動いているのだろうが……灰牙の蛇の動きから察するに、イオナは、食料生産に関する重要な何かを持っている。ただ、それが何かは彼らもまだ掴んでいないと考えられる。だが直近の小麦相場――どうにも関係がありそうだね」

――やはりそうか。

 リアディスに来たその日、イオナが耳元で囁いたことを思い出す。

『フレイジアの球根はね……』

 それは、ある意味世界を揺るがしかねない危険な情報だった。

 胸の奥で、焦りと苛立ちが混ざり合う。

「つまり、ヤツらに捕まる前にイオナを保護する必要がある」

「そういうことになる」

 ミラは赤い瞳を細め、鋭い笑みを浮かべる。

「ただし――ヤツらに狙われているという事実は、それだけで周囲を巻き込む危険を孕む。軽く考えない方がいい。灰牙の蛇は、ただの裏社会の連中じゃない。どこかの国の王や公爵家の誰かが後ろ盾になっていると噂されているくらいさ」

「……だからこそイオナが必要だ」

 俺は短く言い切った。そう必要なのだ。

――この相場に勝つために。

 ミラは数秒だけ俺を見つめ、それからふっと肩をすくめた。

「まあ、君ならそう言うと思っていたよ。保護のための手は、私の方でも打っておこう。……ところで」

 話題を切り替えるように、ミラは尾を揺らして立ち上がった。

「紹介したい人物がいる。君にとっても悪くない相手だと思う」

「紹介?」

「入ってくれ」

 扉が開き、二人の男女が姿を現した。

 先に入ってきたのは、肩までの茶髪を軽やかに揺らす女性。ぱっと笑みを浮かべると、部屋の空気が一気に明るくなる。

「こんばんは! お邪魔します。リアディス経済新聞のセリナ・クロフォードです!」

 その後ろに、眼鏡をかけた若い男が入ってくる。少し緊張した面持ちで会釈をした。

「……助手をしています、ダリル・フェインといいます」

 女性――セリナがひょいとダリルの肩を叩く。

「ね、もっと元気に挨拶しなきゃ。そんなんじゃ記者は務まらんよ」

「い、いや……あなたみたいに明るくできれば苦労しませんよ」

 軽口を叩き合う二人。緊張感に支配されていた部屋が、彼らの登場で少し和らいだ。

「彼らはリアディス経済新聞の記者だ。特にセリナは、市場と経済に関する取材を長年やっている。何かと役に立つだろう」

 ミラが紹介すると、セリナは胸を張った。

「そうですとも! 灰牙の蛇についても、気取られないように追ってる最中です。何せ、記者のなかにもメンバーがいても不思議じゃないですから。事は、慎重を要します。もっとも、彼らに関する証拠は少ないですけどね。でも火のないところに煙は立たない。あなたがイオナ女史を探しているなら、情報を集めるのに協力できますよ」

 雰囲気は軽いが、瞳は真剣だった。観察力のある目だと直感する。

「取材と称して首を突っ込むのが仕事ですから。危ない橋を渡るのは慣れてます!」

 セリナの明るさは、ただの無鉄砲ではないだろう。「自分の能力を理解した上で、それを武器にしている」そう感じさせる何かがあった。

 隣でダリルがで補足する。

「セリナさんはこういう調子ですが、記事になると本当に鋭いんです。……僕は記録や裏付け担当ですけど」

 その言葉に嘘はなさそうだった。

「なるほど」

 俺は二人を値踏みする。

 軽い女記者と、地味な助手。

――使えるかもしれないな。

「よろしく頼む。アルヴィオ・アディスだ」

 その言葉に、セリナがぱっと笑みを浮かべた。

「はい、頼りにしてください! アディスさん! それとたまに、相場について教えてもらえるとお仕事的にはすごーく助かるのでお願いします」

「セリナさん……取材のお願いまで……早すぎますよ」

 隣でダリルが小声で窘める。だがセリナは気にした様子もなく肩をすくめ、にっこり笑った。

「だって、こういう時は信頼を積み重ねるのが一番大事でしょう? ね、アディスさん?」

 俺は心の中で苦笑する。――確かに、信頼を築く手は、早いに越したことはない。

 魔導灯の明かりが、三人の顔を照らす。

 明るい笑みを絶やさない女記者。
 弱気そうだが堅実な助手。
 そして獣人の情報屋。

「そうだな。まずは、使える情報を見せてもらうのがいいんじゃないか?」

 セリナはにっこりと笑い、ダリルはまじめに頷く。

 灰牙の蛇――世界規模の秘密組織。

 その牙がイオナに伸びようとしいるなら、ここから先は一歩の遅れが命取りになる。
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