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第七章 「ディストリビューション」
第61話 「イグニッション」
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何もない、真っ白な空間。
上下も左右もない。地面の感触も、空の感覚もなく、ただ、果てしなく続く白い世界が広がっていた。
「……またか」
呟いた瞬間、背後から軽やかな声が響いた。
「久しぶり、アルヴィオくん!」
振り返ると、白い輪郭の少女がいた。真っ白な服をまとい、雪のように淡い髪と瞳。輪郭は曖昧で、ところどころノイズが走る。
「……トークンコアの意志、か」
「正解!」
少女は子供のように笑った。
「前に会ったときは、まだステージ1って言ったよね? 今日は――リミッターを一段階、解除してあげる。近々必要になりそうだしね」
「リミッター?」
「そう。君は自分じゃ魔力を生み出せない。でも、繋ぐことができる。だから君にかかっている制限を少し外す。そうすれば――アイラちゃんや、他の子にもっと流せる」
少女は指先でくるりと円を描いた。虚空に浮かんだ魔法陣が淡く光を放つ。
「ただし、代償は大きくなる」
「つまり、ディム消費が増えるってことか」
「うん。だから気を付けて。君の意思が弱ければ、流れに呑まれて一文無しだ」
少女の表情が一瞬だけ冷たくなった。
「覚悟はある?」
「……あるさ。俺は俺のやり方で進む」
俺の言葉に、少女はにやりと笑った。
「いいね。そうでなくちゃ」
魔法陣が弾け、胸の奥に熱が走る。何かが解放された感覚――深く沈んでいた鎖が一つ、外れたような。
「ステージ2、開放。これで繋がる力は一段階広がった。けどね――」
少女が楽しげにウインクする。
「次に会うときは、もっと深く潜ってもらうよ。覚悟してね? あと、普段は君の意思でディムの上限をコントロールできるから使うといいよ」
視界が白に飲まれていく。
「待て、まだ聞きたいことが――」
言いかけた声は闇に呑まれ、次の瞬間、俺は現実に引き戻された。
まぶしい陽光。
気づけば、広場に立つ俺の肩をアイラが心配そうに揺すっていた。
「アルさん? 大丈夫ですか? 一瞬、顔が真っ白になって……」
「……ああ、問題ない」
胸の奥に残る熱を押し殺しながら、俺は笑ってみせた。
◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆
昼。
取引所の前の広場は人々でにぎわっていた。露店で売られる軽食や果物、噴水の縁で休む労働者、芝生で駆け回る子どもたち。取引所の緊張感とは裏腹に、広場には穏やかな空気があった。
「アディスさん! アイラさん!」
声に振り向くと、ヒカリが大きな包みを抱えて駆けてくる。
「約束どおり、お弁当持ってきました!」
芝生に腰を下ろし、三人で弁当を広げる。
木の箱を開けると、色とりどりの料理がぎっしり詰まっていた。卵焼き、焼き魚、ハーブをまぶした鶏肉、彩り豊かな野菜のサラダ。
「すごい……ヒカリさん、これ全部一人で?」
アイラが目を丸くする。
「はい! ちょっと頑張りました!」
ヒカリは照れくさそうに笑った。
一口食べる。優しい味わいが広がり、自然と口元が緩む。
「うまいな」
「よかったぁ……!」
ヒカリの顔がぱっと明るくなる。
アイラも「おいしいです」と頬を赤らめながら微笑む。
束の間の昼食は、ひとときのようなやすらぎを与えてくれた。
だが、その空気はすぐに破られた。
「やあ、いい昼食じゃないか」
聞き覚えのある声が頭上から降ってくる。
振り向くと、ミラがいた。黒い耳を揺らし、いつもの冷ややかな笑みを浮かべている。
「……どうした」
「イオナが見つかった」
一瞬で空気が張り詰める。
「今、私の部下があとをつけている。場所は――北運河の倉庫群だ」
ミラの赤い瞳が鋭く光った。
上下も左右もない。地面の感触も、空の感覚もなく、ただ、果てしなく続く白い世界が広がっていた。
「……またか」
呟いた瞬間、背後から軽やかな声が響いた。
「久しぶり、アルヴィオくん!」
振り返ると、白い輪郭の少女がいた。真っ白な服をまとい、雪のように淡い髪と瞳。輪郭は曖昧で、ところどころノイズが走る。
「……トークンコアの意志、か」
「正解!」
少女は子供のように笑った。
「前に会ったときは、まだステージ1って言ったよね? 今日は――リミッターを一段階、解除してあげる。近々必要になりそうだしね」
「リミッター?」
「そう。君は自分じゃ魔力を生み出せない。でも、繋ぐことができる。だから君にかかっている制限を少し外す。そうすれば――アイラちゃんや、他の子にもっと流せる」
少女は指先でくるりと円を描いた。虚空に浮かんだ魔法陣が淡く光を放つ。
「ただし、代償は大きくなる」
「つまり、ディム消費が増えるってことか」
「うん。だから気を付けて。君の意思が弱ければ、流れに呑まれて一文無しだ」
少女の表情が一瞬だけ冷たくなった。
「覚悟はある?」
「……あるさ。俺は俺のやり方で進む」
俺の言葉に、少女はにやりと笑った。
「いいね。そうでなくちゃ」
魔法陣が弾け、胸の奥に熱が走る。何かが解放された感覚――深く沈んでいた鎖が一つ、外れたような。
「ステージ2、開放。これで繋がる力は一段階広がった。けどね――」
少女が楽しげにウインクする。
「次に会うときは、もっと深く潜ってもらうよ。覚悟してね? あと、普段は君の意思でディムの上限をコントロールできるから使うといいよ」
視界が白に飲まれていく。
「待て、まだ聞きたいことが――」
言いかけた声は闇に呑まれ、次の瞬間、俺は現実に引き戻された。
まぶしい陽光。
気づけば、広場に立つ俺の肩をアイラが心配そうに揺すっていた。
「アルさん? 大丈夫ですか? 一瞬、顔が真っ白になって……」
「……ああ、問題ない」
胸の奥に残る熱を押し殺しながら、俺は笑ってみせた。
◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆
昼。
取引所の前の広場は人々でにぎわっていた。露店で売られる軽食や果物、噴水の縁で休む労働者、芝生で駆け回る子どもたち。取引所の緊張感とは裏腹に、広場には穏やかな空気があった。
「アディスさん! アイラさん!」
声に振り向くと、ヒカリが大きな包みを抱えて駆けてくる。
「約束どおり、お弁当持ってきました!」
芝生に腰を下ろし、三人で弁当を広げる。
木の箱を開けると、色とりどりの料理がぎっしり詰まっていた。卵焼き、焼き魚、ハーブをまぶした鶏肉、彩り豊かな野菜のサラダ。
「すごい……ヒカリさん、これ全部一人で?」
アイラが目を丸くする。
「はい! ちょっと頑張りました!」
ヒカリは照れくさそうに笑った。
一口食べる。優しい味わいが広がり、自然と口元が緩む。
「うまいな」
「よかったぁ……!」
ヒカリの顔がぱっと明るくなる。
アイラも「おいしいです」と頬を赤らめながら微笑む。
束の間の昼食は、ひとときのようなやすらぎを与えてくれた。
だが、その空気はすぐに破られた。
「やあ、いい昼食じゃないか」
聞き覚えのある声が頭上から降ってくる。
振り向くと、ミラがいた。黒い耳を揺らし、いつもの冷ややかな笑みを浮かべている。
「……どうした」
「イオナが見つかった」
一瞬で空気が張り詰める。
「今、私の部下があとをつけている。場所は――北運河の倉庫群だ」
ミラの赤い瞳が鋭く光った。
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