俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました

白河リオン

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第八章 「ディセンディング・トライアングル」

第74話 「二度目の契約」

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「――またか」

 この空間も、もう三度目ともなると感慨はない。

 白光に包まれた、どこまでも果てのない虚空。

 そして、あの声。

「やっほー、アルヴィオくん! こないだぶり」

「今度はなんの用だ?」

「えー、ヒドイな~。新しく契約を結ぶって言うから来たのに」

 軽口を叩くような口調。

「しかし、意外な子を連れてきたね」

「……意外?」

「てっきり、フィリアちゃんかリーリアちゃんを連れてくると思ってたよ」

 声が楽しげに弾んだ。

「それが――ティタニアちゃんとはね。……そういうタイプが好みだったんだ?」

「……は?」

「ほら、ああいうちょっと気が強くて、でも中身は繊細な子。君、放っておけないタイプでしょ? しかもお姫様と来たもんだ」

「成り行きだ」

「はいはい、成り行きね。そう言っておきながら、ちゃんと助けちゃうのが君の悪い癖だよ、アルヴィオ君」

 からかうような声。だが、どこか嬉しそうだった。

「……お前、だんだん口が悪くなってないか?」

「気のせい気のせい。だいぶ人間の感情を学習してるからね。成長ってやつ?」

「成長するトークンコア、か。嫌な予感しかしないな」

「ふむ。それは照れ隠しだね。かわいいところあるね、アルヴィオ君も」

「……」

「ふふ、冗談冗談。そんなにこわい顔しないでよ」

 茶化すような軽快なやり取りが続く。

「さて――今回の用件を伝えるね」

「やっと本題か」

「リミッター解除の補足だよ」

「補足?」

「そうだよ。契約の時は長く話せそうだから。それっじゃ早速発表するね」

 どこか誇らしげな声音。

「まず一つ目! 取引所じゃなくても、私がなら念話が使えるようになってるよ」

「見える範囲?」

「そう、見える範囲。アルカナプレートが使えるところならどこでも」

「世界中ってことか」

「だいたい合ってる。君たちが住んでいる世界なら、ほとんど話せると理解してもらっていい」

「……それは、便利かもしれないな」

「便利でしょ? さすが私」

 その声は、いつも通り軽い。

 だが、その言葉の裏にある情報量の多さに、俺は頭を抱えたくなる。

「二つ目。君の意思さえあれば、魔力のやり取りもでどこでも可能になったよ」

「……つまり?」

「アイラちゃんがどこにいても、念話が届く範囲なら、魔力を買って渡せるってこと。君がそばにいなくてもアイラちゃんは魔法を使えるようになる。すごいでしょ?」

 まるで、子どもが自慢話をしているような調子だ。

「……どこまで俺の行動を追ってるんだよ」

「ぜーんぶ、見てるよ? アルカナプレートを通してね。君だけじゃない、世界中みんな。私は見守ってる」

「それは......神みたいだな」

「うーん……神様とは違うかな。……私は救えないから。救えるとすれば、それは――」

 ふいに、沈黙。

 光がわずかに震え、何かを言いかけて、飲み込んだようだった。

「ううん。なんでもない。……じゃ、次いこっか」

「……続きがあるのか」

「うん、ちょっとしたプレゼントだよ」

「プレゼント?」

「アイラちゃんにコピーしてたあの魔法銃の魔術回路、あれすごくよくできてた。回路構成、ほんと綺麗だったよ。さすがクロエちゃんだね。それを完璧に再現したアイラちゃんも天才的だと思う」

「ただ――惜しいところがあったんだよね」

「惜しい?」

「うん。出力と制御のバランス。回路構造が理想的すぎて、現実の魔力量と少しズレてたの。だから、あのままだと完全放出の一歩手前で止まっちゃう」

「……それを、改良したって言うのか?」

「その通り。あの回路は、魔道具にとっては最適だっただけ。人間だと微妙に誤差がでるみたい。だから、ちょっとだけチューニングしておいたよ」

「勝手にいじって大丈夫なのか?」

「ふふ、心配性だね。悪いようにはしないって。むしろ感謝されると思うよ? 二人とも、君が渡した魔力で、もっと強力な魔法を扱えるようになったんだから」

「二人とも?」

「そうだよ。アイラちゃんとティタニアちゃん」

「……ティタニアもか?」

「もちろん。彼女も君とを結ぶんでしょ?」

「ああ」

「だったら、ティタニアちゃんも同じ。君が結ぶ契約は今後すべてそういうことだから、肝に銘じてね」

「でも、アイラちゃんはちょっと特別かもね」

「どういうことだ?」

 問い返す俺に、光の中の気配がわずかに揺れた。

「そのうちわかるよ……おっと、そろそろ時間みたいだね」

「そうだ! 君のアルカナプレート――ちょっとアップデートしておいたよ」

「……アップデート?」

「兎に角、使ってみて!」

「ちょっとまて!」

「ふふ、じゃあね。アルヴィオ君。――次の契約も、楽しみにしてるよ」

 声が遠のく。

 光が、霧散する。

 そして――現実が、戻ってきた。

 目を開けると、契約陣の光がゆっくりと収束していくところだった。

 魔法の光が消え、静寂が訪れる。

「……終わった、のか?」

 俺の問いに、リアナが息を詰めたようにうなずいた。

「はい。契約は、無事完了しました」

 視線の先、ティタニアの腕に淡い光の紋章が浮かび、やがて消える。

 同じように、アイラの左腕にも同じ紋が一瞬だけ灯り――すぐに消えた。

 リアナは、ティタニアを一瞥してこちらを向く。

「あのぉ、アルヴィオさん。こちらの方はもしかして?」

「……そうね」

 俺が答えるより先に、ティタニアが声を発する。

「あなたには、本当の名前を聞かれてしまったもの。隠してもしょうがないわ」

 リアナが息をのむ気配がした。

「私の名は――ティタニア・アズーリア。かつて、アズーリア帝国の第二王女だった者よ」

「……アズーリア、帝国……」

 リアナの声が震える。

「ま、待ってください……。それってつまり……あのアズーリア帝国?」

「知っての通りクーデターがあったから、逃げてきたわ」

 ティタニアはあっさりと口にした。

 まるで、どうでもいいことのように。

 リアナは一瞬だけ目を伏せ、そして俺に視線を向けた。

「アルヴィオさん……本当……なんですか?」

「――リアナ」

 俺は軽く手を上げて制した。

「この件は、内密にしておいてくれ。誰にも話さないでほしい」

「……ということは、本当なんですね」

「そういうことだ。頼む」

「わたしからもお願いします」

 傍らで成り行きを見守っていたアイラもリアナに向けて頭を下げる。

 リアナは逡巡しゅんじゅんしたあと、深くため息をついた。

 そして、かすかに笑みを浮かべる。

「……わかりました。その代わり、今度ひとつだけ、お願いを聞いてもらいますからね。アルヴィオさん」

「わかった。まったく高くつく契約だ……」

 俺がぼやくと、リアナは小さく笑った。
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