俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました

白河リオン

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第八章 「ディセンディング・トライアングル」

第75話 「世界の息遣い」

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 契約が成立してティタニアが取引魔法士となった翌日。

 朝のセレスティア商会取引部はいつもより少し賑やかだった。

 窓から射し込む陽光の中、アイラは慣れた手つきで帳簿の確認をしている。その横で、ティタニアは魔導書を見ながらリクエストリンクとオーダーフォームの練習中だ。

「アルさん、見てください。ティタニアさん、もう完全に術式を組めてます」

 アイラが感心したように声を上げる。

 アルカナプレートを見ると、リクエストリンクで取得した情報がきれいに表示されていた。

「昨日の夜にでこれをマスターしたのか?」

「ええ、アイラの教え方が上手だったお陰ね」

 ティタニアが軽く微笑む。呑み込みの早さは、さすが王族出身者と言ったところか。

 反対側に視点を移すと、ラウラがエルヴィナの指導を受けながら、慣れない手つきで書類を書いていた。

「数字というのは無慈悲です。間違えたら、誰かが損をする。そしてそれは、大抵自分自身です。それを忘れずに」

 エルヴィナの厳しい声が飛ぶ。

 ラウラは、難しい顔をしながら小さく頷く。

 そんな様子を見ながら、俺は再びアルカナプレートに視線を落とした。

 昨日の契約以降、プレートの表示が微妙に変化している。トークンコアの意思が言っていたという言葉が脳裏をよぎる。

 画面には新しい項目が追加されていた。

『魔力購入枠』
『魔法1回当たりの出力上限』

 どうやら、魔法士ごとに購入量を調整できるようになったらしい。

 俺は数値を確認する。

◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆
残高:3,534,033ディム

【アイラシア・ルミナス】
魔力購入枠:3,534,033ディム(最大値3,534,033ディム)
魔法1回当たりの出力上限:2,048ディム(最大値8,096ディム)

【ティタニア・アズーリア】
魔力購入枠:0ディム(最大値3,534,033ディム)
魔法1回当たりの出力上限:256ディム(最大値1,024ディム)
◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆

 初期値では、アイラにすべての残高が割り当てられていた。

――これは後でしっかり設定する必要がありそうだ。

――ティタニアにもいずれこの能力について話す必要があるだろう。

 プレートに示された数値とを眺めながら思考巡らせているとアイラの声がした。

「準備できました」

「よし、行くか」

 荷物をまとめて、俺たちはセレスティア商会を出た。

 いつもと同じリアディスの朝――のはずだったが、街の空気はどこかざらついていた。

 道の向こうの一団。荷馬車に布袋を積み、幼い子どもを抱えた母親が疲れた足取りで進んでいく。

 ティタニアがその光景に気づき、立ち止まった。

 表情は、どこか痛ましげだった。

「ティラナ島からの避難民ね」

 小さくつぶやいた声が、風にかき消されそうに揺れる。

 俺は言葉を選びかねたまま、ただその横顔を見つめた。

 戦争――それは遠い話ではなく、この街にとっても市場と生活を揺るがす現実だ。

 ティタニアの祖国がこの惨禍を招いている。この事実にティタニアはどのような答えを出すのだろうか?

 取引所の前に着くと、すでにいつものように人で溢れていた

「おはようございます、……ティタ、ティアナさんは今日が初めての取引になりますね」

「そうね。楽しみだわ」

 ティタニアが微笑む。緊張の色は薄い。

 むしろ、未知の世界に足を踏み入れることへの好奇心の方が勝っているようだった。

 取引広場に出た瞬間、熱気が肌に伝わる。

「アルさん、見てください。速報です」

 アイラがリクエストリンクを展開しながら、魔導スクリーンに浮かぶ文字を指し示した。

 そこには、ティラナ島北岸での戦闘拡大、帝国艦隊の動向、物資輸送路の遮断といったニュースが次々に流れていた。

 そして、それに反応して取引開始前の気配値が上下している。

 各魔法士たちが次々と魔法陣を展開し、トークンコアへ注文を送っていた。

 声を荒げる者、焦る者、そして静かに淡々と操作をこなす者。

 それぞれの魔力が光の糸のように交錯している。

「すごい……まるで、生きているみたい」

 ティタニアが呟く。

「ああ、これが市場だ。もう一つの戦場でもある」

 報せが走れば、銃声の代わりに魔力が弾ける。

 勝つ者と負ける者が、同じ光の下で呼吸している。

「そろそろ始まるな。アイラ、準備はいいか?」

「はい、行ってきますね」
 
 アイラはトークンコアへ向けて浮遊し、魔法陣を展開した。

<ティタニアさんもついてきてくださいね>

 アイラから念話が飛んでくるティタニアは一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに微笑んで応じた。

<わかったわ>

 2人の魔法士が宙に舞い上がり、トークンコアの前に並ぶ。

 俺はアルカナプレートを操作し、念話を飛ばした。

<ティタニア、試しにアスキア造船の気配を見てくれ。登録番号07003だ>

<やってみるわね>

 そう言って魔法陣を展開するとアルカナプレートに情報が流れてくる。

『売気配146.5ディム ― 146.4ディム 買気配』

――正確だ。

<問題なさそうだ。このまま試しに発注してみよう>

<わかったわ>

 やや緊張の色が見えるが問題ないだろう。

<145.5ディムで3000株の指値を頼む>

 ティタニアの前には魔法陣が展開され、一筋の光がトークンコアに向かう。

<指値完了したわ。さすがに緊張するわね>

<ティタニアさん、初発注おめでとうございます>

 アイラの明るい念話が重なる。

 そして――

 カンカンカンカン!

 取引開始の鐘が鳴る。

 トークンコアを中心に光の粒子が弾け、取引が一斉に始まる。

 アスキア造船の価格が動く。

――146.3ディム。

――145.9ディム。

――145.8ディム。

――145.6ディム。

 そして……

――145.5ディム。

<ねえ、アルヴィオ!取引成立したわ!>

 ティタニアから嬉しそうな念話が飛んでくる。

<よくやった。これで正式に市場デビューだな>

<思ったより……ずっと速いのね。流れが一瞬で変わっていく>

<そうだ。状況が変われば価格も変わる。人の感情と情報が渦を巻いている>

<これが……>

<ああ。誰も止められない、世界そのものの鼓動だ>

 ティタニアは一瞬沈黙したあと、小さく笑った。

<……面白いわね、これ。私、好きだわ>
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