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第十章 「フラクチュエーション」
第92話 「スパイス相場研究Ⅰ」
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取引が終わってもフィリアは相変わらず元気だ。
「今日は完璧でしたわね、アルヴィオ! 妨害なんて、わたくしにかかれば問題ありませんわ!」
「……いや、普通はできないからな、それ」
「わたくし、天才ですもの!」
その調子の良さに、思わずため息を飲む。
まあ、結果的には助かったけど――
今日は妙に疲れた。
そう思いながらセレスティア商会に戻ると、ロビーの灯りの下に三つの影が見えた。
「あら、遅かったじゃない」
ティタニアが腕を組み、俺たちを迎えた。
その横にはイオナが椅子に座り、足をぶらぶらさせている。
エルヴィナは姿勢を正して立っていた。
「ヒカリは?」と問いかけると、エルヴィナが答えた。
「アイラシア様の看病に行っています。調子は悪くないようですが、まだ熱が」
「そうか……」
――心配だ。
帰ったら様子を見よう。
「で、フィリア嬢の初陣はどうだった?」
イオナが興味津々で身を乗り出してくる。
「上出来だったよ。だけど――」
「だけど?」
まあ、あの妨害については、話しておくべきだろう。
「妨害があった」
「妨害?」
ティタニアの眉がわずかに動く。
「ああ。魔力の気配を読んで、フィリアの注文より一瞬早く注文を入れてくる奴がいた」
「……先回りか……そんな芸当ができる魔法士がリアディスにいるなんて驚きだね」
イオナが感心したように言う。
「それをやってきたんだよ。エストラン商会の魔法士がな」
「ああー……あそこかぁ……やっぱり灰牙の蛇かな」
イオナが肩をすくめる。
「そうね。アルヴィオ、あなた、小麦の件でいろいろ恨みを買ってるものね……で? どうやって対処したの?」
ティタニアは茶化すように微笑んだ。
「フィリアが速度でぶち抜いた」
フィリアの顔はどこか誇らしげだ。
「……やっぱりフィリアは、フィリアね」
ティタニアが呆れ半分、感心半分の声を漏らす。
そして、もう一つの今日の収穫を思い出す。
「それと──スパイスだ」
「スパイス?」
ティタニアとエルヴィナがそろって反応する。
俺はうなずいた。
「スパイスの値段が、不自然な安値を付けている。ロピカルハの景気はむしろ良いって情報なのに」
「……それは興味深いわね」
ティタニアの目が輝く。
その時──
「でもさ、全部安いわけじゃないよ?」
ぽつんとイオナの声が落ちた。
「……え?」
俺とフィリアが同時に振り向いた。
イオナは本当に何気なさそうに言う。
「ほら、僕が育ててるアストラ粉とかは値段落ちてないし。むしろ少し上昇してるよ? ほかのスパイスもいくつかは価格変わってない」
「つまり全部が値崩れしているわけではないということですわね?」
フィリアが言う。
「ちょっと確認してみるか」
俺はアルカナプレートを起動する。
「フィリア、リクエストリンク頼めるか」
「わかりましたわ」
フィリアはそう言うと軽やかに魔法陣を展開する。
「結べ、リクエストリンク」
価格が落ちているもの――
横ばいのもの――
そして上昇しているものまで。
「……本当だ。下がってないスパイスがいくつかある」
その差は──明確。
「じゃあ逆に、値下がりしたスパイスだけ絞ってみるか」
俺はアルカナプレートに触れて、値下がりしたスパイスだけを一覧にする。
「……コリンダ、ルドラペッパー、ミントシード、ドラゴンチリ、トリカラ樹脂」
フィリアが見つけた五種類。それに加えて――
「ライムウッドスパイス、シャラ粉、フロメ草、それからラディカ種子」
「この九つだね」
その九つのスパイスを並べて眺める。
「……共通点があるようには見えないな。植物の系統も、用途もバラバラだ」
「そうですわね。料理に使うものから薬草まで、かなり広く散らばっていますわ」
フィリアも首をかしげる。
だがイオナは、ぽん、と手を叩いた。
「産地だよ!」
「産地?」
「ちょっとまってて!」
イオナは椅子からぴょんと降りると、小走りで自室へ駆けて行った。
「今日は完璧でしたわね、アルヴィオ! 妨害なんて、わたくしにかかれば問題ありませんわ!」
「……いや、普通はできないからな、それ」
「わたくし、天才ですもの!」
その調子の良さに、思わずため息を飲む。
まあ、結果的には助かったけど――
今日は妙に疲れた。
そう思いながらセレスティア商会に戻ると、ロビーの灯りの下に三つの影が見えた。
「あら、遅かったじゃない」
ティタニアが腕を組み、俺たちを迎えた。
その横にはイオナが椅子に座り、足をぶらぶらさせている。
エルヴィナは姿勢を正して立っていた。
「ヒカリは?」と問いかけると、エルヴィナが答えた。
「アイラシア様の看病に行っています。調子は悪くないようですが、まだ熱が」
「そうか……」
――心配だ。
帰ったら様子を見よう。
「で、フィリア嬢の初陣はどうだった?」
イオナが興味津々で身を乗り出してくる。
「上出来だったよ。だけど――」
「だけど?」
まあ、あの妨害については、話しておくべきだろう。
「妨害があった」
「妨害?」
ティタニアの眉がわずかに動く。
「ああ。魔力の気配を読んで、フィリアの注文より一瞬早く注文を入れてくる奴がいた」
「……先回りか……そんな芸当ができる魔法士がリアディスにいるなんて驚きだね」
イオナが感心したように言う。
「それをやってきたんだよ。エストラン商会の魔法士がな」
「ああー……あそこかぁ……やっぱり灰牙の蛇かな」
イオナが肩をすくめる。
「そうね。アルヴィオ、あなた、小麦の件でいろいろ恨みを買ってるものね……で? どうやって対処したの?」
ティタニアは茶化すように微笑んだ。
「フィリアが速度でぶち抜いた」
フィリアの顔はどこか誇らしげだ。
「……やっぱりフィリアは、フィリアね」
ティタニアが呆れ半分、感心半分の声を漏らす。
そして、もう一つの今日の収穫を思い出す。
「それと──スパイスだ」
「スパイス?」
ティタニアとエルヴィナがそろって反応する。
俺はうなずいた。
「スパイスの値段が、不自然な安値を付けている。ロピカルハの景気はむしろ良いって情報なのに」
「……それは興味深いわね」
ティタニアの目が輝く。
その時──
「でもさ、全部安いわけじゃないよ?」
ぽつんとイオナの声が落ちた。
「……え?」
俺とフィリアが同時に振り向いた。
イオナは本当に何気なさそうに言う。
「ほら、僕が育ててるアストラ粉とかは値段落ちてないし。むしろ少し上昇してるよ? ほかのスパイスもいくつかは価格変わってない」
「つまり全部が値崩れしているわけではないということですわね?」
フィリアが言う。
「ちょっと確認してみるか」
俺はアルカナプレートを起動する。
「フィリア、リクエストリンク頼めるか」
「わかりましたわ」
フィリアはそう言うと軽やかに魔法陣を展開する。
「結べ、リクエストリンク」
価格が落ちているもの――
横ばいのもの――
そして上昇しているものまで。
「……本当だ。下がってないスパイスがいくつかある」
その差は──明確。
「じゃあ逆に、値下がりしたスパイスだけ絞ってみるか」
俺はアルカナプレートに触れて、値下がりしたスパイスだけを一覧にする。
「……コリンダ、ルドラペッパー、ミントシード、ドラゴンチリ、トリカラ樹脂」
フィリアが見つけた五種類。それに加えて――
「ライムウッドスパイス、シャラ粉、フロメ草、それからラディカ種子」
「この九つだね」
その九つのスパイスを並べて眺める。
「……共通点があるようには見えないな。植物の系統も、用途もバラバラだ」
「そうですわね。料理に使うものから薬草まで、かなり広く散らばっていますわ」
フィリアも首をかしげる。
だがイオナは、ぽん、と手を叩いた。
「産地だよ!」
「産地?」
「ちょっとまってて!」
イオナは椅子からぴょんと降りると、小走りで自室へ駆けて行った。
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