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第十章 「フラクチュエーション」
Intermission 31 「リーリア in 魔法学校Ⅲ」
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ニナの青いペンダントが消えた――
そのことが、放課後の王立エルドレイン魔法学校に、ざわめきを広げることになる。
はじめは、リーリアとニナだけの捜索だった。
「昨日は、寮から中庭に行ったよね? 続きから探そ!」
「は、はい! 行ってみましょう!」
二人は、中庭、教室前、食堂へと次々に向かった。
ニナは足を止めるたびに不安そうに胸元を押さえ、リーリアはその肩を励ますように叩いた。
「大丈夫だよ! 絶対見つけよう!」
その響きに――妙な安心感が宿る。
それがリーリアという少女の持つ力だった。
中庭を探し始めたとき、最初の協力者が現れた。
「あれ? 二人ともどうしたの?」
魔法薬学の実験で同じ班だった少女、カティアだ。
「ニナのペンダントがなくなっちゃって! 一緒に探してくれる?」
リーリアが頼むと、カティアは一瞬だけ驚いたが――
「……いいよ! 探そ!」
まるで頼まれることを待っていたかのように即答した。その声に、近くにいた別の生徒たちもひょいと顔を上げる。
「リーリア? 困ってるの?」
「探し物? なら手伝うよ!」
あれよあれよという間に五人の捜索隊になった。
ニナはおそるおそるリーリアの横顔を見る。
――どうして皆さん……こんなに優しいの……?
リーリア自身は気づいていないが、リーリアの周囲にはいつも小さな渦が生まれる。その渦は、自然と人の心を吸い寄せる。
中庭で青い欠片が見つかった。
「見て! これ、ペンダントの破片じゃない?」
「いえ……。色はもう少し濃い色です……」
どうやら着色ガラスだったと判明。
落胆したニナの背をリーリアが優しく叩く。
「まだまだ行けるよ! 次っ!」
その勢いがまた周りを引き寄せた。
「リーリア? 今度は何?」
ルーチェ棟の上級生のグループだ。
「ペンダント探しをしてるんです! 一緒に探してもらえませんか?」
その明るい声に、上級生たちは顔を見合わせる。
「もちろん! 探し物は得意だから任せてよ!」
「よっしゃ、全域捜索だ!」
いつの間にか十人以上の隊列ができており、ニナはさらに困惑した。
「み、みなさん……どうして……」
「リーリアに頼まれたら断れないよね」と、誰かが冗談めかして言う。
リーリア本人は「えへへ?」と首を傾げるばかりだ。
さらに、食堂へ入ったとき。
「あら、リーリアちゃん。困りごと?」
厨房のおばちゃんが、手に持っていた皿を置いて駆け寄ってきた。
「友達がペンダントなくしちゃって……!」
「まあ大変! みんな手を貸してあげて!」
次の瞬間、厨房スタッフまで捜索に合流した。
巨大なヘラを持った料理人が「中庭もう一度見てくる!」と走り出し、皿洗い担当の学生が「落し物箱確認します!」と飛び出していく。
すでに大事件の様相を呈していた。
図書館では――
「リーリアさん? 落し物記録ならこちらに」
司書の温厚な男性が、分厚い台帳を持ち出してくれる。台帳を見ていると、どこからか噂を聞きつけて、魔法具研究会の一年生が鼻息荒く現れた。
「リーリア、探知魔法ならお任せください!」
「す、すごいねリーリア……」とニナは小声で呟いた。
「ほんと? 助かるよ~!」
リーリアの素直すぎる反応に、研究会の一年生は嬉しそう顔をして突っ走っていく。こうして巻き込まれた人々が増え続け、ついには教師まで参加することとなった。
「君たち……廊下は走るなと言っただろう!」
生活指導の教師が注意しながらも、事情を聞くと「……まあ、少し手伝おう」とあごを掻いた。
「魔力残滓がある。青い……ううむ、方向がはっきりしないな」
「先生、すごーい!」
「やめなさい! 大人をからかうんじゃない!」
だが照れている。
日が落ちるころには、校内はちょっとした騒ぎなっていた。
「男子は女子寮区画に入るなー! 情報共有だけで充分だ!」
「第二捜索隊、中庭再調査いきます!」
「ペンダントの色は海のような青でーす!」
リーリアは走り回る仲間たちをどこか嬉しそうな表情で見ていた。
隣ではニナが震える手で口元を押さえている。
「……わ、わたし……嬉しいです……。こんなに……」
「見つけなきゃね!」
リーリアはにかっと笑い、ニナの手を引いた。
――そのときだった。
中庭の植え込みの影で、なにかがガサッと動いた。
「きゃっ……!」
ニナが後ずさる。
「待って、ニナ」
リーリアがそっと葉をかき分けると――そこにいたのは、小さな白いウサギような生物だった。
ふわふわの耳、丸い目。そしてその頭の上に――
「……ペンダント……?」
ニナの声が震えた。
青い光を宿すペンダントを、まるで宝物を守るように乗せている。
「この子……フェアリーバニーだ」
生活指導の教師が追いついて説明する。
「光る小物を拾って安全な場所に持って帰る習性があるんだ。盗むんじゃない、守ってるんだ」
「守……って……?」
ウサギはリーリアとニナを見ると、ちょこんと前に出てきてペンダントを置き、誇らしげに鼻を鳴らした。
リーリアが頭を撫でると、気持ちよさそうに耳を倒す。
「いい子だねぇ~! ありがと!」
ニナは膝をつき、震える手でペンダントをそっと掬い上げた。
「……ああ……よかった……ほんとうに……よかった……!」
涙がひと粒、光の中に落ちた。
捜索に駆けつけていた生徒たちが、パァッと拍手を広げた。
「見つかったぞー!」
「フェアリーバニー、なるほどね!」
「ニナさんよかったー!」
その声の渦の中心で、ニナは涙をぬぐいながらリーリアを見た。
「リーリア……わたし……どう言っていいか……」
「よかったね! ニナ!」
リーリアの笑顔が、夕暮れ色の校庭を明るく照らした。
ニナは胸にペンダントを抱きながら、
――こんなにあたたかい場所があるなんて
と静かに思った。
そしてニナは改めて思う。
リーリア・ノーヴェという少女は、どこへ行っても人の心を灯す『光』のような存在なのだと。
その光が、自分にも差し向けられている。
それが嬉しくて、胸があたたかくなるのを感じるのだった。
そのことが、放課後の王立エルドレイン魔法学校に、ざわめきを広げることになる。
はじめは、リーリアとニナだけの捜索だった。
「昨日は、寮から中庭に行ったよね? 続きから探そ!」
「は、はい! 行ってみましょう!」
二人は、中庭、教室前、食堂へと次々に向かった。
ニナは足を止めるたびに不安そうに胸元を押さえ、リーリアはその肩を励ますように叩いた。
「大丈夫だよ! 絶対見つけよう!」
その響きに――妙な安心感が宿る。
それがリーリアという少女の持つ力だった。
中庭を探し始めたとき、最初の協力者が現れた。
「あれ? 二人ともどうしたの?」
魔法薬学の実験で同じ班だった少女、カティアだ。
「ニナのペンダントがなくなっちゃって! 一緒に探してくれる?」
リーリアが頼むと、カティアは一瞬だけ驚いたが――
「……いいよ! 探そ!」
まるで頼まれることを待っていたかのように即答した。その声に、近くにいた別の生徒たちもひょいと顔を上げる。
「リーリア? 困ってるの?」
「探し物? なら手伝うよ!」
あれよあれよという間に五人の捜索隊になった。
ニナはおそるおそるリーリアの横顔を見る。
――どうして皆さん……こんなに優しいの……?
リーリア自身は気づいていないが、リーリアの周囲にはいつも小さな渦が生まれる。その渦は、自然と人の心を吸い寄せる。
中庭で青い欠片が見つかった。
「見て! これ、ペンダントの破片じゃない?」
「いえ……。色はもう少し濃い色です……」
どうやら着色ガラスだったと判明。
落胆したニナの背をリーリアが優しく叩く。
「まだまだ行けるよ! 次っ!」
その勢いがまた周りを引き寄せた。
「リーリア? 今度は何?」
ルーチェ棟の上級生のグループだ。
「ペンダント探しをしてるんです! 一緒に探してもらえませんか?」
その明るい声に、上級生たちは顔を見合わせる。
「もちろん! 探し物は得意だから任せてよ!」
「よっしゃ、全域捜索だ!」
いつの間にか十人以上の隊列ができており、ニナはさらに困惑した。
「み、みなさん……どうして……」
「リーリアに頼まれたら断れないよね」と、誰かが冗談めかして言う。
リーリア本人は「えへへ?」と首を傾げるばかりだ。
さらに、食堂へ入ったとき。
「あら、リーリアちゃん。困りごと?」
厨房のおばちゃんが、手に持っていた皿を置いて駆け寄ってきた。
「友達がペンダントなくしちゃって……!」
「まあ大変! みんな手を貸してあげて!」
次の瞬間、厨房スタッフまで捜索に合流した。
巨大なヘラを持った料理人が「中庭もう一度見てくる!」と走り出し、皿洗い担当の学生が「落し物箱確認します!」と飛び出していく。
すでに大事件の様相を呈していた。
図書館では――
「リーリアさん? 落し物記録ならこちらに」
司書の温厚な男性が、分厚い台帳を持ち出してくれる。台帳を見ていると、どこからか噂を聞きつけて、魔法具研究会の一年生が鼻息荒く現れた。
「リーリア、探知魔法ならお任せください!」
「す、すごいねリーリア……」とニナは小声で呟いた。
「ほんと? 助かるよ~!」
リーリアの素直すぎる反応に、研究会の一年生は嬉しそう顔をして突っ走っていく。こうして巻き込まれた人々が増え続け、ついには教師まで参加することとなった。
「君たち……廊下は走るなと言っただろう!」
生活指導の教師が注意しながらも、事情を聞くと「……まあ、少し手伝おう」とあごを掻いた。
「魔力残滓がある。青い……ううむ、方向がはっきりしないな」
「先生、すごーい!」
「やめなさい! 大人をからかうんじゃない!」
だが照れている。
日が落ちるころには、校内はちょっとした騒ぎなっていた。
「男子は女子寮区画に入るなー! 情報共有だけで充分だ!」
「第二捜索隊、中庭再調査いきます!」
「ペンダントの色は海のような青でーす!」
リーリアは走り回る仲間たちをどこか嬉しそうな表情で見ていた。
隣ではニナが震える手で口元を押さえている。
「……わ、わたし……嬉しいです……。こんなに……」
「見つけなきゃね!」
リーリアはにかっと笑い、ニナの手を引いた。
――そのときだった。
中庭の植え込みの影で、なにかがガサッと動いた。
「きゃっ……!」
ニナが後ずさる。
「待って、ニナ」
リーリアがそっと葉をかき分けると――そこにいたのは、小さな白いウサギような生物だった。
ふわふわの耳、丸い目。そしてその頭の上に――
「……ペンダント……?」
ニナの声が震えた。
青い光を宿すペンダントを、まるで宝物を守るように乗せている。
「この子……フェアリーバニーだ」
生活指導の教師が追いついて説明する。
「光る小物を拾って安全な場所に持って帰る習性があるんだ。盗むんじゃない、守ってるんだ」
「守……って……?」
ウサギはリーリアとニナを見ると、ちょこんと前に出てきてペンダントを置き、誇らしげに鼻を鳴らした。
リーリアが頭を撫でると、気持ちよさそうに耳を倒す。
「いい子だねぇ~! ありがと!」
ニナは膝をつき、震える手でペンダントをそっと掬い上げた。
「……ああ……よかった……ほんとうに……よかった……!」
涙がひと粒、光の中に落ちた。
捜索に駆けつけていた生徒たちが、パァッと拍手を広げた。
「見つかったぞー!」
「フェアリーバニー、なるほどね!」
「ニナさんよかったー!」
その声の渦の中心で、ニナは涙をぬぐいながらリーリアを見た。
「リーリア……わたし……どう言っていいか……」
「よかったね! ニナ!」
リーリアの笑顔が、夕暮れ色の校庭を明るく照らした。
ニナは胸にペンダントを抱きながら、
――こんなにあたたかい場所があるなんて
と静かに思った。
そしてニナは改めて思う。
リーリア・ノーヴェという少女は、どこへ行っても人の心を灯す『光』のような存在なのだと。
その光が、自分にも差し向けられている。
それが嬉しくて、胸があたたかくなるのを感じるのだった。
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