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第十一章 「デッドクロス」
Intermission 34 「それぞれの船上~魔法学生の場合~」
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レオリア王国南部の港町――ベリス。
海辺には、帆船や魔導船が十数隻ずらりと並び、潮風が帆を揺らしていた。
王都エルドレインからほど近いこの街は、レオリア王国とファロン洋沿岸諸国家を繋ぐ玄関口のひとつだ。
「わぁあ~……すっごい、海だぁ!」
リーリアは荷物を背負ったまま身を乗り出し、遠く水平線を見つめた。目を輝かせながら、胸いっぱいに空気を吸い込む。
「リーリア、落ちないでください……っ」
ニナは慌てて袖を引っ張る。
だが、その表情は柔らかい。
あの日、寮で島への招待を持ちかけてから、気がつけばもう出発の日だ。
リーリアの存在は、ニナの日常をどこまでも色鮮やかにしてくれる。
「ねぇニナ、あの船に乗るんだよね? あれって魔導船?」
「はい。帆も使いますけど、魔力炉を併用していて……ファロン洋の海流に逆らうときや風が吹かないときに魔導推進を使うんです」
「へぇ~! すごい! 初めて見たよ」
感嘆の声を上げるリーリアの横で、ニナは少しだけ頬を染めた。
――リーリア、本当に来てくれたんだ。自分の小さな島に
それが嬉しくて、でもどこか不安で――胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
その感情の正体は、まだ自分でも上手く言葉にできない。
二人は乗船手続きを済ませ、タラップを渡って甲板へと向かった。
船は青い塗装が施された中型船で、海風を受けてゆっくりと揺れている。
乗客の多くは交易商人や旅行者で、甲板にはレオリアから輸出される物品が入った木箱が積まれていた。
「ファロン洋に出ると、海の色がもっと青くなるんですよ」
「えっ、もっと青くなるの!? この海より!?」
リーリアは身を乗り出して波を見つめる。
やがて船は港を離れ、ゆっくりと沖へ向かっていく。
帆が風を受け、魔導炉の小さな振動が甲板の床下から伝わる。
海鳥の鳴き声が遠ざかり、ベリスの街並みは次第に小さくなっていった。
ニナは潮風を吸い込みながら、小さく呟く。
「……リーリアは、海が好きなんですね」
「うん! あ、でも、こんな大きな海は初めてだよ。ノーヴェ村は湖しかなかったし!」
「ふふ……海はいいですよ。島では、色が毎日違うんです。朝は薄い水色で、夕方は銀色……それで、満月の夜は海が光るって言われていて……」
「え、光るの!? すごいすごい! それ、絶対見たい!」
リーリアが純粋な瞳で見つめてくるたび、ニナは胸がくすぐったくなる。
「それに……わたしの島には、小さなダンジョンもあるんです」
「ダンジョン!? 島に!?」
「はい。でも、もう入口は半分崩れてしまって……。昔は島を守る竜が眠っていたって伝わっていて……」
ニナは、言いながら自分の胸のペンダントを優しく撫でた。
「この青いペンダントも、その伝説に由来するものなんです。竜の鱗だって、昔から言われていて……」
「すっごい大事なんだね……。見つかってほんと良かったぁ」
リーリアの言葉は軽いようでいて、いつも核心を持って胸に届く。
あの大捜索の騒動が脳裏に浮かぶ。
甲板では、船員たちが帆の角度を調整している。
心地よい海風が吹く。
「ところでね、ニナ!」
リーリアが急に体を乗り出してきた。
「カルハ島に着いたら、アル兄と合流できるって手紙が来たんだ~!」
「……え」
ニナの目が小さく揺れた。
「アルヴィオさん……?」
――アルヴィオさん……リーリアが大切に思っている人……
リーリアが虹貝を贈りたいと言ったあの日、ニナは確かに胸がちくりと痛んだ。
「うん! 港で待ち合わせになるんじゃないかなって! お手紙くれたの!」
リーリアは嬉しそうで、期待に満ちている。
ニナの胸に、またあのよくわからない感情が生まれた。
自分でも説明できない気持ち。
けれど、リーリアの幸せそうな笑顔を見ると、不思議とその痛みは和らいだ。
「ふふ……アルヴィオさんって、どんな方なんですか?」
「すごい人だよ! まず頭がいいし……あ、あとね、すっごく優しい! ん? 優しいかな? いっつもからかわれてた気が? うーん? でもいつも私を助けてくれるし? うーん?」
楽しそうに話しているリーリアを見ていると、ニナの胸の奥で何かがじんわり広がる。
――そんな風に思える相手がいるの……やっぱり素敵だな……
羨ましさでも、妬みでもなく――
ただ、リーリアへの温かい感情の延長線にあるもの。
航海は進み、海はさらに深い青へと変わっていく。
二日後の朝。
遠くには、点のようにカルハ島の輪郭が見え始めていた。
「ニナ! 見て見て! あれ、カルハ島じゃない!?」
リーリアが手すりにしがみつき、身を乗り出す。
夜明けの光が海面を照らし、遠くの島を金色に縁取っている。
「はい……あれが、ロピカルハ王国の首都……カルハ島です」
ニナは小さく頷いた。
海風が髪を揺らし、胸の奥で波がひとつ静かに跳ねる。
――もうすぐ、島に着く。
――そして、リーリアの大切な人と会う。
その二つが、嬉しさと不安のあいだを揺れ動いていた。
船はさらにカルハ島へと近づく。
遠くには、朝日に照らされた青色の屋根が連なる港街が見えてきた。
海鳥の群れが旋回し、活気ある船の汽笛が響く。
「うわぁ……! ニナ、あれがカルハの街!?」
「はい……。ロピカルハ王国で一番大きな港で……いろいろな商人さんがいます。虹貝をディムに交換してくれる商人さんもいたりするので、島を出るときは、そこで……」
続きを言いかけて、ニナはそっと口をつぐんだ。
「ニナ?」
「ううん。なんでもありません」
「それにもしても楽しみだねー」
「はい……!」
二人は柵にもたれ、同じ方向を見つめる。
青い海、その上に広がる鮮やかな島の景色。
そして、その先には――リーリアの大切な人が待っている。
胸の奥のざわめきは、まだ名前を持たないままだった。
――カルハ島まで、あと少し。
海辺には、帆船や魔導船が十数隻ずらりと並び、潮風が帆を揺らしていた。
王都エルドレインからほど近いこの街は、レオリア王国とファロン洋沿岸諸国家を繋ぐ玄関口のひとつだ。
「わぁあ~……すっごい、海だぁ!」
リーリアは荷物を背負ったまま身を乗り出し、遠く水平線を見つめた。目を輝かせながら、胸いっぱいに空気を吸い込む。
「リーリア、落ちないでください……っ」
ニナは慌てて袖を引っ張る。
だが、その表情は柔らかい。
あの日、寮で島への招待を持ちかけてから、気がつけばもう出発の日だ。
リーリアの存在は、ニナの日常をどこまでも色鮮やかにしてくれる。
「ねぇニナ、あの船に乗るんだよね? あれって魔導船?」
「はい。帆も使いますけど、魔力炉を併用していて……ファロン洋の海流に逆らうときや風が吹かないときに魔導推進を使うんです」
「へぇ~! すごい! 初めて見たよ」
感嘆の声を上げるリーリアの横で、ニナは少しだけ頬を染めた。
――リーリア、本当に来てくれたんだ。自分の小さな島に
それが嬉しくて、でもどこか不安で――胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
その感情の正体は、まだ自分でも上手く言葉にできない。
二人は乗船手続きを済ませ、タラップを渡って甲板へと向かった。
船は青い塗装が施された中型船で、海風を受けてゆっくりと揺れている。
乗客の多くは交易商人や旅行者で、甲板にはレオリアから輸出される物品が入った木箱が積まれていた。
「ファロン洋に出ると、海の色がもっと青くなるんですよ」
「えっ、もっと青くなるの!? この海より!?」
リーリアは身を乗り出して波を見つめる。
やがて船は港を離れ、ゆっくりと沖へ向かっていく。
帆が風を受け、魔導炉の小さな振動が甲板の床下から伝わる。
海鳥の鳴き声が遠ざかり、ベリスの街並みは次第に小さくなっていった。
ニナは潮風を吸い込みながら、小さく呟く。
「……リーリアは、海が好きなんですね」
「うん! あ、でも、こんな大きな海は初めてだよ。ノーヴェ村は湖しかなかったし!」
「ふふ……海はいいですよ。島では、色が毎日違うんです。朝は薄い水色で、夕方は銀色……それで、満月の夜は海が光るって言われていて……」
「え、光るの!? すごいすごい! それ、絶対見たい!」
リーリアが純粋な瞳で見つめてくるたび、ニナは胸がくすぐったくなる。
「それに……わたしの島には、小さなダンジョンもあるんです」
「ダンジョン!? 島に!?」
「はい。でも、もう入口は半分崩れてしまって……。昔は島を守る竜が眠っていたって伝わっていて……」
ニナは、言いながら自分の胸のペンダントを優しく撫でた。
「この青いペンダントも、その伝説に由来するものなんです。竜の鱗だって、昔から言われていて……」
「すっごい大事なんだね……。見つかってほんと良かったぁ」
リーリアの言葉は軽いようでいて、いつも核心を持って胸に届く。
あの大捜索の騒動が脳裏に浮かぶ。
甲板では、船員たちが帆の角度を調整している。
心地よい海風が吹く。
「ところでね、ニナ!」
リーリアが急に体を乗り出してきた。
「カルハ島に着いたら、アル兄と合流できるって手紙が来たんだ~!」
「……え」
ニナの目が小さく揺れた。
「アルヴィオさん……?」
――アルヴィオさん……リーリアが大切に思っている人……
リーリアが虹貝を贈りたいと言ったあの日、ニナは確かに胸がちくりと痛んだ。
「うん! 港で待ち合わせになるんじゃないかなって! お手紙くれたの!」
リーリアは嬉しそうで、期待に満ちている。
ニナの胸に、またあのよくわからない感情が生まれた。
自分でも説明できない気持ち。
けれど、リーリアの幸せそうな笑顔を見ると、不思議とその痛みは和らいだ。
「ふふ……アルヴィオさんって、どんな方なんですか?」
「すごい人だよ! まず頭がいいし……あ、あとね、すっごく優しい! ん? 優しいかな? いっつもからかわれてた気が? うーん? でもいつも私を助けてくれるし? うーん?」
楽しそうに話しているリーリアを見ていると、ニナの胸の奥で何かがじんわり広がる。
――そんな風に思える相手がいるの……やっぱり素敵だな……
羨ましさでも、妬みでもなく――
ただ、リーリアへの温かい感情の延長線にあるもの。
航海は進み、海はさらに深い青へと変わっていく。
二日後の朝。
遠くには、点のようにカルハ島の輪郭が見え始めていた。
「ニナ! 見て見て! あれ、カルハ島じゃない!?」
リーリアが手すりにしがみつき、身を乗り出す。
夜明けの光が海面を照らし、遠くの島を金色に縁取っている。
「はい……あれが、ロピカルハ王国の首都……カルハ島です」
ニナは小さく頷いた。
海風が髪を揺らし、胸の奥で波がひとつ静かに跳ねる。
――もうすぐ、島に着く。
――そして、リーリアの大切な人と会う。
その二つが、嬉しさと不安のあいだを揺れ動いていた。
船はさらにカルハ島へと近づく。
遠くには、朝日に照らされた青色の屋根が連なる港街が見えてきた。
海鳥の群れが旋回し、活気ある船の汽笛が響く。
「うわぁ……! ニナ、あれがカルハの街!?」
「はい……。ロピカルハ王国で一番大きな港で……いろいろな商人さんがいます。虹貝をディムに交換してくれる商人さんもいたりするので、島を出るときは、そこで……」
続きを言いかけて、ニナはそっと口をつぐんだ。
「ニナ?」
「ううん。なんでもありません」
「それにもしても楽しみだねー」
「はい……!」
二人は柵にもたれ、同じ方向を見つめる。
青い海、その上に広がる鮮やかな島の景色。
そして、その先には――リーリアの大切な人が待っている。
胸の奥のざわめきは、まだ名前を持たないままだった。
――カルハ島まで、あと少し。
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