俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました

白河リオン

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第十一章 「デッドクロス」

第95話 「ロピカルハ」

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 港を出て、少し歩いたところだった。

 人の流れに身を任せていた俺の耳に、聞き覚えのある声が飛び込んできた。

「アル兄ー!」

「……ん?」

 思わず立ち止まって振り返る。

 そこにいたのは――

「久しぶり! アル兄!」

 両手を大きく振りながら、全力で駆け寄ってくる少女。

 オレンジ色の髪を陽光に揺らし、南国仕様の軽装に身を包んだリーリアだった。

「リーリア……!?」

「えへへ、びっくりした?」

 まったく変わっていない。

 その隣で、控えめに立っている小柄な少女がいた。

 褐色がかった肌に、黒に近い髪。質素だが丁寧に手入れされた服装。

 緊張した様子で、こちらを見上げている。

「紹介するね! 手紙にも書いたけど……この子が、ニナ!」

 リーリアが胸を張る。

 名前を呼ばれた少女は、ぴしっと背筋を伸ばした。

「……ニナ・アイナケリイです。は、はじめまして」

 声は小さいが、はっきりしている。

 礼儀正しい子だ。

「こちらこそ。アルヴィオだ」

 そう名乗ると、ニナは少しだけ安心したように頷いた。

「リーリアには……学校で、いろいろ助けてもらって……」

「そんな大したことしてないよ!」

 リーリアは屈託なく笑う。

 どうやら、いい友達関係を築けているらしい。

 その様子を少し離れたところから見ていたフィリアが、こちらへ歩み寄ってきた。

「アルヴィオ、どうしましたの?」

 その瞬間だった。

 ニナの体が、ぴしっと固まった。

 視線が、フィリアの顔から服装、所作へと忙しなく移動する。

 そして――

「……え?」

 明らかに、空気が変わった。

 リーリアが無邪気に言う。

「フィリアさんだよ!」

「え、えっ……!?」

 ニナの顔から、さっと血の気が引いた。

「はじめまして。リーリアのお友達ですわね?」

 フィリアはにこやかに微笑んだ。

 ニナは完全に固まっている。

「だ、だって……その……」

 視線がフィリアから、俺、リーリア、そして周囲へと忙しく移動する。

「……あ」

 何かに気づいたように、小さく息を呑んだ。

「も、もしかして……」

「フィリア・アリスタルですわ」

 フィリアはさらりと言った。

 ニナの世界が、止まった。

「……ア、アリスタル……?」

 数秒の沈黙。

 そして――

「ひっ……!?」

 ニナは勢いよく頭を下げた。

「し、ししし、失礼しました!!」

「落ち着きなさいな」

 フィリアは慌てるニナの前に行き、目線を合わせる。

「今日はただの旅行ですわ。そんなに緊張なさらなくていいの」

「で、ですが……!」

「リーリアのお友達なのでしょう? でしたら、わたくしも歓迎しますわ」

 その言葉に、ニナはおそるおそる顔を上げた。

「……よ、よろしいのですか……?」

「もちろんですわ」

 フィリアが微笑むと、ニナはようやく現実に戻ってきたようだった。

「……あの……ありがとうございます……」

 声はまだ小さいが、さっきよりは落ち着いている。

「それじゃ、宿に向かおうか」

 俺が言うと、ニナが慌てて首を振った。

「い、いえ! わたしは……」

「同じ宿ですわ」

 フィリアが即答した。

「え?」

「セレスティア商会が運営している宿ですもの。部屋は余っていますわ」

「で、でも……!」

「気にしなくていいって。リーリアの友達なんだろ?」

 俺が言うと、リーリアも勢いよくうなずく。

「一緒に泊まろうよ! ね!」

 ニナはしばらく迷ってから、小さく頷いた。

「……お世話になります……」

 こうして、ニナも一行に加わることになった。

 港から街へ向かう道は、すでに祝賀ムード一色だった。

 色とりどりの布飾り。

 屋台の呼び声。

 香辛料と甘い果実の匂いが混じった、南国特有の空気。

「王女様の結婚式、もうすぐだもんね!」

 リーリアが楽しそうに言う。

「街全体が浮かれている感じね」

 ティタニアも周囲を見回す。

 確かに、活気は十分だ。

 商人の顔色もいい。

――いくつかのスパイスが安いなんて、言われなきゃ気づかないほどに。

 そのとき、ニナが足を止めた。

 とある商会の前。

 そこには、七色の貝殻のマークと数字が掲げられていた。

「……」

 ニナは、それをじっと見つめている。

「気になるのか?」

 俺が声をかけると、ニナは少し困ったように笑った。

「……虹貝です」

「虹貝?」

「はい。わたしたちのところで使っている通貨です」

 七色に輝く貝殻。

 リーリアの手紙に同封されていたものだ。

「最近……その……」

 ニナは言い淀んだ。

「レートが、変わらないのに……ディムだと、すごく安いって言われることが増えて……」

「レートは固定なのか?」

「はい。昔から、ずっと」

 その言葉に、イオナがぴくっと反応した。

「……なるほど……固定通貨、か」

「イオナ?」

「ディムがインフレしてるのに、こっちは止まったまま……」

 イオナは独り言のように呟いた。

「そりゃ、外から見たら安く見えるよね」

 俺の中で、いくつかの点がつながる。

 スパイスの安値。

 景気が悪くないロピカルハ。

 アルカナプレートが使えない地域。

 そして――固定された独自通貨。

「……需給が変わったわけじゃない」

 俺は小さく呟いた。

「基準が、ズレてるだけだ」

 ニナは不安そうに俺を見上げた。

「……何か、おかしいんでしょうか……?」

「まだ、わからない」

 正直な答えだ。

「でも、調べる価値はある」

 ロピカルハ。

 楽園の顔をした、この国。

 その足元で、経済の歪みが静かに広がっている。

 俺は、活気ある街並みを見つめながら、そう確信していた。
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