俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました

白河リオン

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第十一章 「デッドクロス」

第99話 「表敬」

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 王女の結婚式を明日に控えた朝は、妙に静かだった。

 昨日は、みんなで海に出て、文字どおり羽を伸ばした。

 ロピカルハの海は、信じられないほど澄んでいて、深いところまでくっきり見えたのは印象的だった。

 リーリアは最初から最後まで大はしゃぎで、ニナも最初こそ遠慮がちだったが、最後は笑顔で波と戯れていた。アイラの水着を恥ずかしがる姿、対照的に堂々としたフィリアとティタニア。ヒカリの肩の力が抜けた様子。

 楽園、という言葉がこれほど似合う場所もないだろう。

 だからこそ――今朝の静けさは、そのコントラストを強くする。

「では、参りましょうか」

 身支度を整えたフィリアが、いつもより少しだけ背筋を伸ばして言った。

 今日の用件は、ロピカルハ王家への表敬訪問だ。

 レオリア王国、アリスタル公爵家の名代としての正式な行事だ。

 同行するのは、護衛のエルヴィナ、随行文官の二名、それになぜか俺とクロエが同行することになった。

「なぜ、って顔してますわね」

 フィリアが楽しそうに言う。

「そりゃするだろ。表敬訪問に俺が同行する理由が、いまだにわからない」

「形式的には、経済顧問枠ですわ」

 フィリアは涼しい顔で言った。

「……そんな枠、聞いたことないぞ」

「今できましたの。頼りにしてますわよ」

「おい」

 適当にもほどがある。

 だが、冗談めかした口調とは裏腹に、フィリアの歩き方はいつもより端正だった。ドレスも控えめで、完全に公爵令嬢モードだ。

 エルヴィナは、先頭を無言で歩く。

 さらに後方には、随行文官の二人。フィリアの紹介によると、堅物っぽいメガネの青年がレクス、少しチャラい雰囲気を纏っている金髪がカイルと言うらしい。一昨日おととい、俺とイオナを付けてきたのは、恐らくカイルの方だろう。仕事熱心で何よりだ。

◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆

 王宮に向かう馬車に乗り込んだ後――

「マハロスちゃんに会うの、久しぶりだなあ」

 向かいの座席で、クロエがのんびりとそう言った。

「……ちゃんって、仮にも一国の国王だぞ?」

「アルは、細かいことを気にし過ぎなのが昔からの悪い癖ね」

「いや、クロエが気にしなさすぎるだけだ」

「そう?」

 クロエは首を傾げる。

「それにしてもマハロスちゃん元気してるかな? この前会ったときは、バリバリやってたけどねー。最近は、体調がどうとか聞くし」

『この前』その一言が示す時間軸を考えるのは、やめておく。

「ところで」

 情報収集の一環として話題を振る。

「王女って、どういうやつと結婚するんだ?」

 俺の問いに、フィリアが少し考える。

「詳しくは存じませんわ。ただ……」

 視線を窓の外に向けたまま、続ける。

「もとは商人だった方が、経済的功績によって貴族に列せられ、そのご子息と結ばれることになった、と――完全な政略、ですわね」

 エルヴィナが淡々と補足する。

「お相手は、セディオ家の嫡男。伝統ある家ではありませんが、ロピカルハの交易と金融に深く関わる家系です。もとは、フォルケ系の移民だったとか」

 なるほど、と内心で頷く。

 王女の結婚相手としては、血筋よりも経済を取ったということか。

 ロピカルハらしい判断だ、と言うべきなのだろう。

「王女自身は……どう思ってるんだ?」

 俺がそう口にすると、馬車の中に一瞬だけ、間が落ちた。

 フィリアが、ほんのわずかに視線を伏せる。

「……さあ。そこまでは、わかりませんわ」

 その声音は柔らかいが、どこか距離を置いている。

 エルヴィナも、それ以上は何も言わなかった。

◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆

 王城は、港街の喧騒から切り離されたような場所にあった。

 白に統一された外観に、風に揺れる紋章旗。南国らしい開放感はあるが、同時に、王城らしい威圧感もあった。

 通されたのは、謁見の間。

 本来であれば、ここでマハロス王と対面する――はずだった。

 だが。

「――父上、マハロス王は、少々体調を崩しておりまして」

 そう言って現れたのは、別の人物だった。
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