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第十一章 「デッドクロス」
第107話 「幻惑の夜Ⅳ」
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アイラは自分の手を見つめ、何度か小さく魔力を巡らせようとしたが、反応はない。
「アルさんからの魔力が……!」
アイラの声は震えている。
「……ああ」
間違いない。
トークンコアとのリンクが、完全に断たれている。
今まで当たり前のように感じていた魔力の供給――それが、すっぱりと消えていた。
胸の奥が、嫌な音を立てる。
――まずい、今アイラは魔法を使えない。
そして、それを待っていたかのように。
――ギィ……ギィィ……
裂けたダンジョンの縁から、別の何かが這い出してきた。
黒い。
いや、闇そのものが形を持ったような――
「……手?」
地面から伸び上がるそれは、無数の手だった。
人の手に似ているが、指は異様に長く、関節が不自然に多い。
表面は粘つく影のようで、触れれば精神まで削られそうな禍々しさを放っている。
「あれは魔獣じゃない……!」
レクスが歯を食いしばる。
「こんなのは報告にないぞ!」
黒い手は、魔獣を掴み、引きずり込んでいく。
一本、二本ではない。
十本、二十本……いや、それ以上だ。
それらは、次々と魔獣を掴む。
四足の魔獣が暴れる間もなく、足を、胴を、首を掴まれ、悲鳴を上げる暇もなく闇の中へと引きずり込まれていく。
「……喰ってる?」
カイルが引きつった声で言う。
「いや……回収している」
レクスの声は、明らかに焦りを帯びていた。
「これは……虚牢の蕾だけではない?」
言葉の意味を理解するより先に、状況が動いた。
黒い手のいくつかが、方向を変えてこちらを向く。
「来る……!」
レクスが叫ぶより早く、一本の手が地面を削るようにして跳ね上がった。
狙いは――
「アイラ!」
俺が叫んだ瞬間、黒い手がアイラの足元へ伸びる。
魔法が使えない今、アイラは完全に無防備だった。
「っ……!」
反射的に、俺は前に出た。
銃を構え、引き金を引く。
青白い弾丸が、黒い手に直撃した。
――だが。
「……効いてない!?」
弾丸は手を貫通したが、まるで影を撃ったかのように、致命的な損傷を与えていない。
黒い手は動きを止めず、そのままアイラへ――
「させるか!」
横から、剣が叩きつけられた。
カイルだ。
魔法剣士らしく、剣に微量の魔力を流し込んだ一撃。
黒い手が弾かれ、地面に叩き落とされる。
「ふぅ……やっぱり荒事は苦手なんですけどね!」
軽口を叩きながらも、カイルの額には汗が滲んでいる。
レクスも詠唱を始めていた。
「――影を穿て! プリズマティック・アロー」
放たれた魔法は、黒い手の動きを一瞬止める。
だが、それだけだ。
次の瞬間、さらに多くの手が地面から湧き上がった。
「数が……増えてる!」
「魔獣より厄介だ……!」
黒い手は、無差別だ。
魔獣を捕らえ、こちらにも伸びる。
まるで、魔力の糧になる存在すべてを引きずり込もうとしているかのように。
――そして、気づく。
その手が伸びるのは、アイラ、レクス、カイル、ヒカリ。
そして、魔獣。
だが――
俺には、伸びてこない。
――俺だけ、無視されてる?
一瞬で理解した。
恐らく魔力だ。
こいつらは、魔力の糧になる存在を狙っている。
――その理解が、背筋を冷たくした。
「……くそ」
皮肉だ。
魔力を持たないという欠点が、今この瞬間だけは安全圏を作っている。
だが、それは同時に俺が、誰も守れないという意味でもあった。
「アルさん……!」
アイラの声が、かすれる。
足元から伸びた黒い手が、再びアイラへと迫っていた。
俺は歯を食いしばり、銃を構える。
効かないと分かっていても、引き金を引くしかない。
――撃つ。
魔法の弾丸が闇を裂く。
だが、やはり黒い手は勢いを失わない。
「……っ!」
間に合わない――
そう思った瞬間。
「アルさん!」
アイラが、反射的に身を引いた。
だが、足がもつれる。
その刹那。
――ガンッ!!
金属音。
黒い手の先が、真横から叩き払われた。
「……っ!?」
俺は、思わず目を見開いた。
剣。
再びカイルの剣だった。
黒い手は、剣に弾かれて一瞬ひるむ。
だが、剣は、弾かれた反動でカイルの手から離れ、大きく宙を舞った。
回転しながら飛ばされる。
そして――
ヒカリの足元に、突き刺さるように落ちた。
「……!」
一瞬、空気が凍りついた。
誰もが、反射的にその光景を見ていた。
放心したまま、その場に立ち尽くしていたはずのヒカリが、ゆっくりと視線を落とす。
ヒカリの足元に土に半分埋まった剣。
月光を反射する刃。
「……やめろ」
思わず、声が漏れた。
理由は分からない。
だが、本能が告げていた。
――それを持たせるな。
ヒカリの指先が、微かに震える。
そして……その剣に、触れた。
「……っ!」
その瞬間。
空気が、はっきりと変わった。
「アルさんからの魔力が……!」
アイラの声は震えている。
「……ああ」
間違いない。
トークンコアとのリンクが、完全に断たれている。
今まで当たり前のように感じていた魔力の供給――それが、すっぱりと消えていた。
胸の奥が、嫌な音を立てる。
――まずい、今アイラは魔法を使えない。
そして、それを待っていたかのように。
――ギィ……ギィィ……
裂けたダンジョンの縁から、別の何かが這い出してきた。
黒い。
いや、闇そのものが形を持ったような――
「……手?」
地面から伸び上がるそれは、無数の手だった。
人の手に似ているが、指は異様に長く、関節が不自然に多い。
表面は粘つく影のようで、触れれば精神まで削られそうな禍々しさを放っている。
「あれは魔獣じゃない……!」
レクスが歯を食いしばる。
「こんなのは報告にないぞ!」
黒い手は、魔獣を掴み、引きずり込んでいく。
一本、二本ではない。
十本、二十本……いや、それ以上だ。
それらは、次々と魔獣を掴む。
四足の魔獣が暴れる間もなく、足を、胴を、首を掴まれ、悲鳴を上げる暇もなく闇の中へと引きずり込まれていく。
「……喰ってる?」
カイルが引きつった声で言う。
「いや……回収している」
レクスの声は、明らかに焦りを帯びていた。
「これは……虚牢の蕾だけではない?」
言葉の意味を理解するより先に、状況が動いた。
黒い手のいくつかが、方向を変えてこちらを向く。
「来る……!」
レクスが叫ぶより早く、一本の手が地面を削るようにして跳ね上がった。
狙いは――
「アイラ!」
俺が叫んだ瞬間、黒い手がアイラの足元へ伸びる。
魔法が使えない今、アイラは完全に無防備だった。
「っ……!」
反射的に、俺は前に出た。
銃を構え、引き金を引く。
青白い弾丸が、黒い手に直撃した。
――だが。
「……効いてない!?」
弾丸は手を貫通したが、まるで影を撃ったかのように、致命的な損傷を与えていない。
黒い手は動きを止めず、そのままアイラへ――
「させるか!」
横から、剣が叩きつけられた。
カイルだ。
魔法剣士らしく、剣に微量の魔力を流し込んだ一撃。
黒い手が弾かれ、地面に叩き落とされる。
「ふぅ……やっぱり荒事は苦手なんですけどね!」
軽口を叩きながらも、カイルの額には汗が滲んでいる。
レクスも詠唱を始めていた。
「――影を穿て! プリズマティック・アロー」
放たれた魔法は、黒い手の動きを一瞬止める。
だが、それだけだ。
次の瞬間、さらに多くの手が地面から湧き上がった。
「数が……増えてる!」
「魔獣より厄介だ……!」
黒い手は、無差別だ。
魔獣を捕らえ、こちらにも伸びる。
まるで、魔力の糧になる存在すべてを引きずり込もうとしているかのように。
――そして、気づく。
その手が伸びるのは、アイラ、レクス、カイル、ヒカリ。
そして、魔獣。
だが――
俺には、伸びてこない。
――俺だけ、無視されてる?
一瞬で理解した。
恐らく魔力だ。
こいつらは、魔力の糧になる存在を狙っている。
――その理解が、背筋を冷たくした。
「……くそ」
皮肉だ。
魔力を持たないという欠点が、今この瞬間だけは安全圏を作っている。
だが、それは同時に俺が、誰も守れないという意味でもあった。
「アルさん……!」
アイラの声が、かすれる。
足元から伸びた黒い手が、再びアイラへと迫っていた。
俺は歯を食いしばり、銃を構える。
効かないと分かっていても、引き金を引くしかない。
――撃つ。
魔法の弾丸が闇を裂く。
だが、やはり黒い手は勢いを失わない。
「……っ!」
間に合わない――
そう思った瞬間。
「アルさん!」
アイラが、反射的に身を引いた。
だが、足がもつれる。
その刹那。
――ガンッ!!
金属音。
黒い手の先が、真横から叩き払われた。
「……っ!?」
俺は、思わず目を見開いた。
剣。
再びカイルの剣だった。
黒い手は、剣に弾かれて一瞬ひるむ。
だが、剣は、弾かれた反動でカイルの手から離れ、大きく宙を舞った。
回転しながら飛ばされる。
そして――
ヒカリの足元に、突き刺さるように落ちた。
「……!」
一瞬、空気が凍りついた。
誰もが、反射的にその光景を見ていた。
放心したまま、その場に立ち尽くしていたはずのヒカリが、ゆっくりと視線を落とす。
ヒカリの足元に土に半分埋まった剣。
月光を反射する刃。
「……やめろ」
思わず、声が漏れた。
理由は分からない。
だが、本能が告げていた。
――それを持たせるな。
ヒカリの指先が、微かに震える。
そして……その剣に、触れた。
「……っ!」
その瞬間。
空気が、はっきりと変わった。
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