俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました

白河リオン

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第十一章 「デッドクロス」

第108話 「幻惑の夜Ⅴ」

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 風が止み、音が遠のく。

 ヒカリの背中から、何かが立ち上がる。

 魔法士が放つ類の魔力ではない。

 だが、圧倒的な――

「……なに、あれ」

 カイルが、素で呟いた。

 ヒカリは、剣を引き抜いた。

 ゆっくりと。

 だが、その動作には、迷いが一切ない。

 剣を握る手が、しっかりと定まっている。

 次の瞬間。

 ヒカリの姿が――

 消えた。

「……は?」

 動体視力が、追いつかない。

「――っ!」

 風切り音が、遅れて届く。

 ヒカリは、丘の斜面を一直線に駆けていた。

 いや、駆けるという表現は正しくない。

 跳んでいる。

 一歩ごとに地面を蹴り、常識外れの距離を跳躍しながら、黒い手と魔獣が入り乱れる戦場の中心へ突っ込んでいく。

「な……!?」

 カイルが声を失う。

 レクスですら、一瞬言葉を忘れたように目を見開いていた。

「ヒカリ! 戻れ!」

 俺の叫びは、完全に届いていない。

 ヒカリの視線は、前方――黒い手の群れだけを捉えていた。

 そして。

 剣が、振るわれた。

 振り下ろしでも、薙ぎ払いでもない。

 ただ、そこに剣が在ったというだけで、空間が断たれる。

――ズンッ

 音が、遅れて爆ぜた。

 ヒカリの前にあった黒い手の束が、まとめて千切れ、霧のように散る。

「……斬った?」

 俺は、思わず呟いていた。

 レクスの魔法ですら決定打にならなかったそれを――剣で?

 ヒカリは止まらない。

 返す刀で、二歩。

 三歩目で跳躍。

 空中で身をひねり、背後から伸びてきた黒い手を、逆手で叩き斬る。

 断面が、発光するように消滅した。

「嘘だろ……」

 カイルが、乾いた声で呟く。

「あれ、俺の剣ですよ?」

 そう言いながらも、冗談めかした調子は完全に消えている。

「速すぎる……」

 レクスが、低く唸った。

 黒い手が、次々とヒカリを捕らえようと伸びる。

 だが、指先が届く前に――

 ヒカリは、そこにいない。

 剣閃が走り、闇が裂け、手が消える。

 一体、二体、十体。

 数の概念が意味を失っていく。

「……無双、って言葉、こういう時に使うんですね」

 カイルが、呆然と呟いた。

 だが、その圧倒は、同時に異様でもあった。

 ヒカリの表情、そこに感情がない。

 怒りも、恐怖も、焦りも。

 あるのは、ただの機械的な殲滅。

 まるで、敵と認識した存在を処理する装置だ。

「……止めないと」

 アイラが、かすれた声で言った。

 魔法が使えない状態でも、アイラはヒカリを見ていた。

「このままだと……ヒカリさんが……」

 言葉の続きを、アイラは言えなかった。

 俺も、同じことを感じていた。

――これは、ヒカリじゃない。

 あの、少し臆病で、それでも優しくて、頑張り屋さんの少女とは、明らかに違う。

 そして――

 ダンジョンの入口が、再び脈動する。

 黒い手が、収束し始めた。

 地面から伸びていた無数の手が、一点に集まり、絡まり合い、束になっていく。

「……まずい……何か来る」

 レクスが、明確に焦った声を出す。

 黒い手の束が、鞭のようにしなり、ヒカリへ向かって打ち出された。

 今までとは、明らかに速度も密度も違う。

「ヒカリ!!」

 俺は、考えるより先に走り出していた。

 意味がないと分かっていても、身体が動いた。

 魔力を持たない俺に、あれを止める手段はない。

 それでも――

 ヒカリの背中が、黒い手に絡め取られる瞬間。

――ガッ!!

 衝撃音。

 黒い手が、途中で弾かれた。

 剣。

 ヒカリ自身の剣閃だった。

 だが――

 完全には、断ち切れていない。

 黒い手は粘つくように剣に絡みつき、さらに数本が、ヒカリの足元から伸び上がる。

「……っ!」

 ヒカリの動きが、初めて止まった。

 剣を振るう速度が、わずかに鈍る。

 黒い手が、ヒカリの足首を掴んだ。

「捕まった!」

 レクスが叫ぶ。

「ヒカリ!!」

 俺が叫んだ瞬間――

 空気が、裂けた。

 閃光。

 そして、衝撃。

――ドンッ!!

 黒い手の束が、爆ぜるように吹き飛んだ。

「……え?」

 一瞬、何が起きたのか理解できなかった。

 だが、次の瞬間、聞き慣れた、どこか気の抜けた声が響いた。

「まったく……目を離したらこれなんだから」

 振り返る。

 丘の入口側、そこに立っていたのは――

「……クロエ!」

 晩餐会帰りのドレス姿の魔女は、片手を前に突き出したまま、面倒そうにため息をついていた。

 その背後には、三つの影。

「遅くなりましたわね」

 フィリア。

 その後ろに控えるエルヴィナ。

 そして――

「いやぁ、派手にやってるね、少年」

 少し後ろにはレイラの姿もあった。
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