俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました

白河リオン

文字の大きさ
154 / 173
第十一章 「デッドクロス」

第110話 「幻惑の夜Ⅶ」

しおりを挟む
 それを見た瞬間――

「……っ!」

 レクスの表情が、凍りついた。

 カイルも、同時に背筋を伸ばす。

 二人は、ほとんど反射的に動いた。

 直立。

 そして――

 完璧な敬礼。

「……失礼しました」

 レクスの声は、さっきまでとは別人のように硬い。

 レイラが、ため息をつく。

「……本当に、出したのね」

「いいでしょ、別に」

 クロエは悪びれもしない。

「減るもんじゃないし」

 俺は、我慢できずに口を挟んだ。

「クロエ……それ、なんなんだ」

 クロエは記章を軽く指で弾きながら、気軽に答えた。

「んー? そうだなあ……持ってると便利な“大人の通行証”みたいなもの」

「……は?」

 理解が追いつかない。

 だが、目の前で敬礼を解こうともしない二人を見れば、冗談じゃないことだけは分かる。

 クロエは、さらに爆弾を落とした。

「ちなみにね、レイラちゃんも同じの持ってるよ」

「……っ!?」

 レイラが、ぴくりと肩を震わせた。

「クロエ!!」

「えー、いいじゃん。どうせそのうちバレるし」

「今言う必要はないでしょ!」

 レイラの慌てた反応にクロエはケラケラ笑う。

「ごめんごめん」

 そして――

 その笑みが、すっと消えた。

 空気が、変わる。

 クロエは、記章をレクスとカイルの方へ向けた。

「……というわけで」

 声音は低く、冗談の色は一切ない。

「ここは引きなさい」

 命令だった。

「この件、あなたたちが踏み込む領域じゃない」

 クロエの言葉にレクスは、わずかに歯を食いしばり――それから、深く息を吐いた。

「……了解しました」

 クロエの言葉を命令として、受け取ったのだ。

 カイルも、剣を鞘に納めながら苦笑した。

「はぁ……いやあ。まさか、こんな形で答え合わせが来るとは思ってませんでした」

 軽口のようでいて、その動きは極めて丁寧だった。

「引きます。ですが、我々ができることがあれば仰ってください」

「そうね。考えておくわ」

 二人は同時に一歩下がり、警戒を解く。

 丘を覆っていた張り詰めた緊張が、ようやく一段階ほど緩んだ。

 だが――

 完全に終わった、という感覚はなかった。

 その理由は、すぐに分かった。

「……?」

 風が、変わった。

 アイラが小さく身構える。

 エルヴィナも、無意識にフィリアの前に立った。

 レクスとカイルも、引くと宣言した直後だというのに、完全には気を抜いていない。

 視線が、自然と丘の反対側へ向く。

 街とは逆の方向。

 影の濃い斜面、そこに立っている黒衣の男。

「……あれは」

 レクスが、低く呟いた。

 その声には、警戒が滲んでいる。

 黒衣の男は、こちらを一瞥する。

 その視線は、俺たち全員を平等に見た、というより――状況そのものを確認した、という印象だった。

 そして、

「……はて? 少々遅れてしまいましたか」

 静かな声。

 感情の起伏が、ほとんど感じられない。

 男は、丘の中央――消えたダンジョンの痕跡があった場所に視線を落とす。

「……すでに処理済み、ですか。流石の手際だ」

 誰に向けた言葉なのか、それは明らかだった。

 男は、クロエへ視線向ける。

「久しぶりですね。深緑の魔女」

 その呼びかけに、丘の空気が凍りついた。

 深緑の魔女――その呼称に反応したのは、俺だけじゃない。

 レクスが、わずかに目を見開く。カイルも、息を呑んだのが分かった。

 だがクロエは、

「……まだ、その呼び方を使うんだ」

 低く、感情を削ぎ落とした声で言った。

 そして、はっきりと男を見据える。

「――久しぶりだね、シギル 」

 名を呼ばれた瞬間、黒衣の男――シギル は、わずかに口元を歪めた。

 それは笑みとも、皮肉ともつかない。

「その名、覚えていてもらえたとは光栄だ」

 ゆっくりと丘を下りてくる。

「覚えたくはなかったんだけどね」

 クロエの声は、乾いていた。

「あなたが関わった夜は、だいたいロクなことにならない」

 その言葉に、シギル は肩をすくめる。

「相変わらず手厳しい。だが、あなたが邪魔をしなければ今ごろ世界は平和になっていたというのに」

「……それに」

 そう言って、視線が、ヒカリへ向いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法至上主義の世界で『筋力』だけカンストした男が拳一つで全てを覆す

ポポリーナ
ファンタジー
魔法こそが至高——この世界では呼吸も移動も戦闘も、あらゆる営みが魔力で成り立っている。 筋力は「野蛮人の遺物」と蔑まれ、身体を鍛える者は最底辺の存在とされていた。 そんな世界に転生した元・体育教師の剛田鉄心は、魔力適性ゼロ、しかし筋力だけが測定不能のカンスト値。 魔法障壁を素手でぶち抜き、転移魔法より速く走り、最上位魔法を腹筋で弾く—— 「なぜ魔法を使わないんだ!?」と問われるたびに「だって使えないし」と笑う男の、 常識を腕力でねじ伏せる痛快・逆転無双が今始まる!

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)

たぬころまんじゅう
ファンタジー
 小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。  しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。  士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。  領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。 異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル! 圧倒的不利な状況を武と知略で切り抜ける! ☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴
ファンタジー
俺、飯田雷丸。どこにでもいる普通の高校生……だったはずが、気づいたら異世界に召喚されて魔王を倒してた。すごいだろ?いや、自分でもびっくりしてる。異世界で魔王討伐なんて人生のピークじゃねぇか?でも、そのピークのまま現実世界に帰ってきたわけだ。 で、戻ってきたら、日常生活が平和に戻ると思うだろ?甘かったねぇ。何か知らんけど、妖怪とか悪魔とか幽霊とか、そんなのが普通に見えるようになっちまったんだよ!なんだこれ、チート能力の延長線上か?それとも人生ハードモードのお知らせか? 異世界で魔王を倒した俺が、今度は地球で恋と戦いとボールを転がす!最高にアツいハーレムバトル、開幕! 異世界帰りのハーレム王 朝7:00/夜21:00に各サイトで毎日更新中!

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~

仙道
ファンタジー
現代日本で天才研究者だった相模登(さがみ のぼる)は、ある日突然、異世界へ転移した。  そこは『スキル』と『魔力』が全てを決める世界。   しかし登には、ステータス画面もなければ、魔力も、スキルも一切存在しなかった。   ただの一般人として迷宮に放り出された彼は、瀕死の女騎士と出会う。彼女の前には、使う者の命を瞬時に吸い尽くす『呪いの魔剣』が落ちていた。   武器はそれしかない。女騎士は絶望していたが、登は平然と魔剣を握りしめる。 「なぜ……生きていられるの?」  登には、剣が対価として要求する魔力は存在しない。故に、魔剣はデメリットなしの『ただのよく切れる剣』として機能した。   これは、世界で唯一「対価」を支払う必要がない登が、呪われた武具を次々と使いこなし、その副作用に苦しむ女騎士やエルフ、聖女を救い出し、無自覚に溺愛されていく物語。

処理中です...