俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました

白河リオン

文字の大きさ
167 / 173
第十二章 「レラティブバリュー」

第117話 「アバタオ島」

しおりを挟む
 船底が、浅瀬の砂を擦る音を立てた。

 アバタオ島は、思っていたよりも小さく、そして静かだった。

 大きな港湾施設はない。桟橋が一本、海に突き出しているだけ。白い砂浜と、背後に広がる濃い緑。カルハ島の喧騒とは、まるで別世界だ。

「……帰ってきた」

 ニナの目が、きらきらと輝いている。

 桟橋に足を乗せた瞬間、胸いっぱいに空気を吸い込む。

「この匂い……懐かしいです」

 リーリアが横で笑う。

「ニナ! ここめっちゃキレイだね!!」

 リーリアと話すニナの横顔は、王都で見せる顔とは少し違う。肩の力が抜け、年相応の少女に戻っている。

 妨害は、ない。

 検問も、監視も、追手もいない。

 拍子抜けするほど、あっさりと桟橋に船を横付けできた。

――静かすぎる。

 俺は桟橋に足を下ろしながら、周囲を見渡す。

 小さな船小屋がひとつ。漁具が干されている。潮風に揺れる布。人の営みの痕跡はある。

 だが、人影がない。

「誰もいませんね」

 エルヴィナが低く言う。

「皆さん漁にでも出かけているのかしら?」

 フィリアが穏やかに返す。

「……そうだといいが」

 俺は視線を奥へ向ける。

 島の中心部へ続く小道が一本、緑の中へ伸びている。

 まずは拠点だ。

 いきなりダンジョン区域へ向かうわけにはいかない。足場を固める必要がある。

「ニナ」

「はい」

「実家はここから近いのか?」

「はい、村はすぐです。歩いて十分くらい」

「案内してくれ」

 ニナは、力強く頷いた。

 俺たちは桟橋を離れ、土の道へ足を踏み入れる。

 潮の匂いが、徐々に草木の匂いに変わる。

 やがて木々が開け、小さな集落が見えた。

 藁葺きの屋根。石と木で組まれた素朴な家々。井戸と、干された網。畑も見える。

 だが、人影はまばらだった。

「あ……」

 ニナが、足を止める。

 村人が、こちらに気づいた。

 一瞬、目が合う。

 そして――逸らされた。

 扉の陰へ引っ込む影。

 洗濯物を取り込む手が、慌ただしく動く。

 何もなかったかのように、背を向ける。

「……ニナ?」

 リーリアが戸惑う。

「みんな、気づいてるよね?」

「……はい」

 ニナの声が、わずかに震える。

「でも……どうして……」

 俺は無言で周囲を観察する。

 確実に視線はある。だが、誰も声をかけてこない。

 警戒――? 俺たちへのものか? それとも――

「急ごう」

 俺は短く言った。

 ニナはうなずき、足を速める。

 村の奥、少し大きめの家の前で立ち止まった。

「ここです」

 深呼吸を一つして扉を叩く。

「お父さん、私です。ニナです。帰ってきました」

 中から、わずかな物音がした。

 そして、扉がゆっくりと開く。

 現れたのは、日に焼けた男だった。四十代半ばほどだろうか。広い肩に、無骨な手。だがその目は、どこか優しい。

 ニナを見るなり、目を見開いた。

「……ニナ」

 一瞬の間。次の瞬間、表情が崩れる。

「おかえり」

 低い声。だが、確かに安堵が混じっている。

「はい……!」

 ニナは、子どものように笑った。

 男――ニナの父親は、視線を俺たちへ移す。

「リーリアさんのことは手紙で知っていたが……」

 後ろに並ぶ面々を数え、苦笑する。

「ずいぶんと、大所帯だな」

 リーリアが、急に畏まる。

「リーリア・ノーヴェと申します。初めまして! 魔法学校ではニナと同室で――」

 言いかけて、リーリアは自分で照れたように笑った。

「えっと、とにかく、いつもお世話になってます!」

 父親は目を細める。

「こちらこそ、娘が世話になっている。キアヌだよろしく頼む」

 その声は穏やかだった。だが、どこか力が入っている。

 俺は一歩前に出た。

「キアヌさん。アルヴィオ・アディスと申します。急に大勢で押しかけて申し訳ございません」

「いや……ニナが無事に帰ってきた。それだけで十分だ」

 そう言いながらも、視線は一瞬、俺たちの後ろ――村の入り口の方へ流れた。

「とにかく、立ち話もなんだ。中へ」

 キアヌは扉を大きく開けた。

 俺はうなずき、靴底についた砂を軽く払ってから敷居をまたいだ。

 その直前、エルヴィナが小さく俺の袖を引く。

「私は外に残ります」

 低い声。

「村の様子が、気になります」

「ああ、頼む」

 エルヴィナは無言で頷き、家の脇へ回る。視線は常に周囲をなぞっている。あの静まり返った村で、警戒を解く気はないらしい。

 俺たちは家の中へ通された。

 中は、外見よりも広かった。

 木の床は丁寧に磨かれている。壁には乾燥させた香草が吊るされ、奥には小さな祭壇のような棚が見えた。素朴だが、整えられている。

「まあ……」

 奥から声がした。

 台所らしき場所から、女性が姿を現す。

 ニナと同じ色の髪。柔らかな目元。

「ニナ……!」

「お母さん!」

 次の瞬間、二人は抱き合っていた。

 母親は、何度もニナの肩や頬に触れ、確かめるように言う。

「無事でよかった……本当に、よかった……」

「はい……心配かけて、ごめんなさい」

 その光景は、疑いようもなく家族だった。

 リーリアが小さく息を吐く。

「よかったね……」

 フィリアも、わずかに頬を緩める。

 キアヌが、照れくさそうに咳払いをした。

「さあ、みなさんもどうぞ。狭い家ですが」

 俺たちは卓を囲むように座る。

 木製の長机。椅子も不揃いだが、手入れは行き届いている。

 そのとき、俺の視線が机の端に止まった。

 光沢のある板状の魔導具――ルミナプレート。

 見慣れたアルカナプレートとは少しだけ雰囲気が違う魔道具だ。

 俺の視線に気が付いたキアヌが、わずかに視線を落とした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法至上主義の世界で『筋力』だけカンストした男が拳一つで全てを覆す

ポポリーナ
ファンタジー
魔法こそが至高——この世界では呼吸も移動も戦闘も、あらゆる営みが魔力で成り立っている。 筋力は「野蛮人の遺物」と蔑まれ、身体を鍛える者は最底辺の存在とされていた。 そんな世界に転生した元・体育教師の剛田鉄心は、魔力適性ゼロ、しかし筋力だけが測定不能のカンスト値。 魔法障壁を素手でぶち抜き、転移魔法より速く走り、最上位魔法を腹筋で弾く—— 「なぜ魔法を使わないんだ!?」と問われるたびに「だって使えないし」と笑う男の、 常識を腕力でねじ伏せる痛快・逆転無双が今始まる!

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)

たぬころまんじゅう
ファンタジー
 小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。  しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。  士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。  領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。 異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル! 圧倒的不利な状況を武と知略で切り抜ける! ☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴
ファンタジー
俺、飯田雷丸。どこにでもいる普通の高校生……だったはずが、気づいたら異世界に召喚されて魔王を倒してた。すごいだろ?いや、自分でもびっくりしてる。異世界で魔王討伐なんて人生のピークじゃねぇか?でも、そのピークのまま現実世界に帰ってきたわけだ。 で、戻ってきたら、日常生活が平和に戻ると思うだろ?甘かったねぇ。何か知らんけど、妖怪とか悪魔とか幽霊とか、そんなのが普通に見えるようになっちまったんだよ!なんだこれ、チート能力の延長線上か?それとも人生ハードモードのお知らせか? 異世界で魔王を倒した俺が、今度は地球で恋と戦いとボールを転がす!最高にアツいハーレムバトル、開幕! 異世界帰りのハーレム王 朝7:00/夜21:00に各サイトで毎日更新中!

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~

仙道
ファンタジー
現代日本で天才研究者だった相模登(さがみ のぼる)は、ある日突然、異世界へ転移した。  そこは『スキル』と『魔力』が全てを決める世界。   しかし登には、ステータス画面もなければ、魔力も、スキルも一切存在しなかった。   ただの一般人として迷宮に放り出された彼は、瀕死の女騎士と出会う。彼女の前には、使う者の命を瞬時に吸い尽くす『呪いの魔剣』が落ちていた。   武器はそれしかない。女騎士は絶望していたが、登は平然と魔剣を握りしめる。 「なぜ……生きていられるの?」  登には、剣が対価として要求する魔力は存在しない。故に、魔剣はデメリットなしの『ただのよく切れる剣』として機能した。   これは、世界で唯一「対価」を支払う必要がない登が、呪われた武具を次々と使いこなし、その副作用に苦しむ女騎士やエルフ、聖女を救い出し、無自覚に溺愛されていく物語。

処理中です...