171 / 173
第十二章 「レラティブバリュー」
第121話 「みちしるべ」
しおりを挟む
残留組と分かれて、森へと続く小道を進む。
潮の匂いは消え、代わりに湿った土と苔の匂いが強くなる。
外を見回っていたエルヴィナが合流し、ダンジョンへ向かうのは、俺、クロエ、レイラ、フィリア、エルヴィナ、キアヌ、ニナそしてヒカリの八人となった。
小道を進むと村のざわめきは、すぐに木々に遮られた。
「この辺りは昔から立ち入りを避けられてきた。ダンジョンの影響で強力な魔獣も多いゆえ」
そんなことを言いながらキアヌが前を歩く。だが、足取りに迷いはない。
「祠はこの先だ。森が少し開ける」
そのときだった。
茂みが、がさりと揺れる。
「止まれ」
キアヌが短く言う。
次の瞬間、小型の魔獣が飛び出した。
犬ほどの大きさ。だが体表は鱗に覆われ、口からは鋭い牙が覗く。目は血走り、理性の色はない。
「来るよ!」
レイラが前へ出るより早く――
キアヌが踏み込んだ。
踏み込みは静かだ。だが速い。
槍が一直線に伸びる。
無駄のない突き。
穂先が魔獣の喉を正確に貫いた。
血が飛び、魔獣はそのまま地面に崩れ落ちる。
息をする間もなかった。
「……見事だ」
思わず口に出る。
キアヌは槍を引き抜き、布で穂先を拭った。
「この程度、島の子どもでも対処できねば生きていけぬ」
淡々とした声。だが、あれは熟練の動きだ。
ロピ族の長。伊達じゃない。
魔獣の身体が、びくりと痙攣して動きを止める。
俺はゆっくりと近づき、キアヌから借りたルミナプレートを取り出した。
「……何をする?」
レイラが眉をひそめる。
「少し試す」
俺はしゃがみ込み、魔獣の死体にルミナプレートを近づけた。
もしアルカナプレートなら、魔力の回収が走る。トークンコアとの接続が開き、魔力の報酬としてディムが加算される。あの独特の感覚が、指先に伝わるはずだ。
だが――何も起きない。
「……やっぱりか」
反応はない。半ばわかっていた結果だ。
「時間がない。行こう」
そう言った直後背後から声がかかる。
「待って」
小さな声。
振り返ると、ニナが一歩前に出ていた。
両手を胸元で組み、目を閉じる。
空気が、わずかに震えた。
次の瞬間、魔獣の死骸の周囲に淡い蒼い光が走る。
光は一瞬だけ地面をなぞり、そしてふっと消えた。
「……いまのは」
俺が問うと、ニナは少し息を弾ませながら答えた。
「魔力の残滓を……散らしました。放っておくと、他の魔獣を呼ぶかもしれないので」
ニナの答えにクロエが目を細める。
「普通の魔法士はそんな芸当しないよ」
ニナは戸惑いながらも、うなずく。
「……そうなんですか。でも、昔からやってることなので」
森の空気が、わずかに澄んだように感じる。
「なるほど……頼もしいね」
レイラが軽く笑う。
「い、いえ! 私はまだ……」
ニナは慌てて首を振る。
「まだ、ね」
クロエの呟きに恥ずかしそうにするニナから視線を動かし、俺は前を見る。
「進もう。もう少しだ」
進むにつれて森は、徐々に深くなっていく。木々の間隔が狭まり、光が届きにくくなる。だが、足元には古い石畳の痕跡が現れ始めた。
「昔はここまで道が整えられていた」
キアヌが言う。
「だが今は、誰も近づかぬ」
やがて、森が不自然に途切れた。
ぽっかりと開けた空間。
中央に、苔むした石造りの祠が立っている。
崩れかけた柱。割れた屋根。だが奥へと続く階段は、闇をたたえて口を開けていた。
「……ここが」
「ああ。ダンジョンだ」
キアヌの声が低くなる。
空気が重い。リアディス周辺のダンジョンとはわけが違うことが分かる。
風はあるのに、音がないように感じた。まるで森そのものが、ここから先を拒んでいるようだった。
そのとき――淡い光が、ふわりと揺れた。
視線を動かす。
ニナの胸元――青いペンダントが、静かに光っている。
「……あ」
ニナが息を呑む。
光は、祠の奥の闇へと向かって伸びるように揺らめいていた。
「道しるべだね」
クロエが低く言う。
――龍脈が、呼んでる。
俺は銃の重みを確かめる。
隣ではキアヌが槍を握り直し、レイラが無言で周囲を警戒している。
ニナの瞳には、恐れと、それ以上の覚悟が見える。
各々がそれぞれのギアを一段上げたのがわかる。
「行こう」
俺たちは一歩、石段へ足をかけた。
潮の匂いは消え、代わりに湿った土と苔の匂いが強くなる。
外を見回っていたエルヴィナが合流し、ダンジョンへ向かうのは、俺、クロエ、レイラ、フィリア、エルヴィナ、キアヌ、ニナそしてヒカリの八人となった。
小道を進むと村のざわめきは、すぐに木々に遮られた。
「この辺りは昔から立ち入りを避けられてきた。ダンジョンの影響で強力な魔獣も多いゆえ」
そんなことを言いながらキアヌが前を歩く。だが、足取りに迷いはない。
「祠はこの先だ。森が少し開ける」
そのときだった。
茂みが、がさりと揺れる。
「止まれ」
キアヌが短く言う。
次の瞬間、小型の魔獣が飛び出した。
犬ほどの大きさ。だが体表は鱗に覆われ、口からは鋭い牙が覗く。目は血走り、理性の色はない。
「来るよ!」
レイラが前へ出るより早く――
キアヌが踏み込んだ。
踏み込みは静かだ。だが速い。
槍が一直線に伸びる。
無駄のない突き。
穂先が魔獣の喉を正確に貫いた。
血が飛び、魔獣はそのまま地面に崩れ落ちる。
息をする間もなかった。
「……見事だ」
思わず口に出る。
キアヌは槍を引き抜き、布で穂先を拭った。
「この程度、島の子どもでも対処できねば生きていけぬ」
淡々とした声。だが、あれは熟練の動きだ。
ロピ族の長。伊達じゃない。
魔獣の身体が、びくりと痙攣して動きを止める。
俺はゆっくりと近づき、キアヌから借りたルミナプレートを取り出した。
「……何をする?」
レイラが眉をひそめる。
「少し試す」
俺はしゃがみ込み、魔獣の死体にルミナプレートを近づけた。
もしアルカナプレートなら、魔力の回収が走る。トークンコアとの接続が開き、魔力の報酬としてディムが加算される。あの独特の感覚が、指先に伝わるはずだ。
だが――何も起きない。
「……やっぱりか」
反応はない。半ばわかっていた結果だ。
「時間がない。行こう」
そう言った直後背後から声がかかる。
「待って」
小さな声。
振り返ると、ニナが一歩前に出ていた。
両手を胸元で組み、目を閉じる。
空気が、わずかに震えた。
次の瞬間、魔獣の死骸の周囲に淡い蒼い光が走る。
光は一瞬だけ地面をなぞり、そしてふっと消えた。
「……いまのは」
俺が問うと、ニナは少し息を弾ませながら答えた。
「魔力の残滓を……散らしました。放っておくと、他の魔獣を呼ぶかもしれないので」
ニナの答えにクロエが目を細める。
「普通の魔法士はそんな芸当しないよ」
ニナは戸惑いながらも、うなずく。
「……そうなんですか。でも、昔からやってることなので」
森の空気が、わずかに澄んだように感じる。
「なるほど……頼もしいね」
レイラが軽く笑う。
「い、いえ! 私はまだ……」
ニナは慌てて首を振る。
「まだ、ね」
クロエの呟きに恥ずかしそうにするニナから視線を動かし、俺は前を見る。
「進もう。もう少しだ」
進むにつれて森は、徐々に深くなっていく。木々の間隔が狭まり、光が届きにくくなる。だが、足元には古い石畳の痕跡が現れ始めた。
「昔はここまで道が整えられていた」
キアヌが言う。
「だが今は、誰も近づかぬ」
やがて、森が不自然に途切れた。
ぽっかりと開けた空間。
中央に、苔むした石造りの祠が立っている。
崩れかけた柱。割れた屋根。だが奥へと続く階段は、闇をたたえて口を開けていた。
「……ここが」
「ああ。ダンジョンだ」
キアヌの声が低くなる。
空気が重い。リアディス周辺のダンジョンとはわけが違うことが分かる。
風はあるのに、音がないように感じた。まるで森そのものが、ここから先を拒んでいるようだった。
そのとき――淡い光が、ふわりと揺れた。
視線を動かす。
ニナの胸元――青いペンダントが、静かに光っている。
「……あ」
ニナが息を呑む。
光は、祠の奥の闇へと向かって伸びるように揺らめいていた。
「道しるべだね」
クロエが低く言う。
――龍脈が、呼んでる。
俺は銃の重みを確かめる。
隣ではキアヌが槍を握り直し、レイラが無言で周囲を警戒している。
ニナの瞳には、恐れと、それ以上の覚悟が見える。
各々がそれぞれのギアを一段上げたのがわかる。
「行こう」
俺たちは一歩、石段へ足をかけた。
0
あなたにおすすめの小説
魔法至上主義の世界で『筋力』だけカンストした男が拳一つで全てを覆す
ポポリーナ
ファンタジー
魔法こそが至高——この世界では呼吸も移動も戦闘も、あらゆる営みが魔力で成り立っている。
筋力は「野蛮人の遺物」と蔑まれ、身体を鍛える者は最底辺の存在とされていた。
そんな世界に転生した元・体育教師の剛田鉄心は、魔力適性ゼロ、しかし筋力だけが測定不能のカンスト値。
魔法障壁を素手でぶち抜き、転移魔法より速く走り、最上位魔法を腹筋で弾く——
「なぜ魔法を使わないんだ!?」と問われるたびに「だって使えないし」と笑う男の、
常識を腕力でねじ伏せる痛快・逆転無双が今始まる!
僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜
犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。
この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。
これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?
スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。
女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!?
ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか!
これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。
大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)
たぬころまんじゅう
ファンタジー
小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。
しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。
士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。
領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。
異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル!
圧倒的不利な状況を武と知略で切り抜ける!
☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆
異世界帰りのハーレム王
ぬんまる兄貴
ファンタジー
俺、飯田雷丸。どこにでもいる普通の高校生……だったはずが、気づいたら異世界に召喚されて魔王を倒してた。すごいだろ?いや、自分でもびっくりしてる。異世界で魔王討伐なんて人生のピークじゃねぇか?でも、そのピークのまま現実世界に帰ってきたわけだ。
で、戻ってきたら、日常生活が平和に戻ると思うだろ?甘かったねぇ。何か知らんけど、妖怪とか悪魔とか幽霊とか、そんなのが普通に見えるようになっちまったんだよ!なんだこれ、チート能力の延長線上か?それとも人生ハードモードのお知らせか?
異世界で魔王を倒した俺が、今度は地球で恋と戦いとボールを転がす!最高にアツいハーレムバトル、開幕!
異世界帰りのハーレム王
朝7:00/夜21:00に各サイトで毎日更新中!
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~
仙道
ファンタジー
現代日本で天才研究者だった相模登(さがみ のぼる)は、ある日突然、異世界へ転移した。 そこは『スキル』と『魔力』が全てを決める世界。
しかし登には、ステータス画面もなければ、魔力も、スキルも一切存在しなかった。
ただの一般人として迷宮に放り出された彼は、瀕死の女騎士と出会う。彼女の前には、使う者の命を瞬時に吸い尽くす『呪いの魔剣』が落ちていた。
武器はそれしかない。女騎士は絶望していたが、登は平然と魔剣を握りしめる。 「なぜ……生きていられるの?」 登には、剣が対価として要求する魔力は存在しない。故に、魔剣はデメリットなしの『ただのよく切れる剣』として機能した。
これは、世界で唯一「対価」を支払う必要がない登が、呪われた武具を次々と使いこなし、その副作用に苦しむ女騎士やエルフ、聖女を救い出し、無自覚に溺愛されていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる