俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました

白河リオン

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第十二章 「レラティブバリュー」

第122話 「底」

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 石段を降りた瞬間、空気が変わった。

 冷たい――いや、重い。

 肺の奥に入り込んでくるそれは、ただの湿気ではない。濃縮された魔素だ。肌の上をざらついた何かが撫でるような、不快な感覚。

「……濃いですわね」

 フィリアが小さく呟いた。

 まだ、第一層。入口からそう離れていないはずなのに、外の森とは明らかに質が違う。

「魔素濃度が高いのは聞いていたが……これは想定以上だ」

 レイラが周囲を見渡す。

 壁は石組み。だが自然洞窟というより、どこか人工的だ。古い時代に削られた跡がある。

「第一層からこれですか。下層はどうなっているのやら」

 エルヴィナは軽く拳を握り直した。

 キアヌが前へ出る。

「第一から第三層までは、昔は若い者も修練で潜った。浅層は魔獣も弱い」

「昔は、ね」

 クロエが肩をすくめる。

「だが、第四層以降に入った者は戻らぬ」

 キアヌの声は低い。

「第四層から構造が変わる。道は複雑に入り組み、罠も多い。最深部まで到達した記録はない」

 俺は頷いた。

「なら、そこからが本番だ」

 第一層は、確かに魔獣も弱かった。

 小型の魔獣が数体現れたが、キアヌの槍とフィリアたちの魔法があれば問題にならなかった。

 第二層、第三層と降りるにつれ、魔素はさらに濃くなる。

「……ここまでは、普通のダンジョンですわ」

 第四層に降りる階段前でフィリアが言う。

「ですが――」

 フィリアは視線を下へ向ける。

「第四層から先は、別世界のようですわね」

 第四層へと続く石段は、これまでよりも幅が狭く、妙に長かった。

 一段、また一段と降りるたびに、耳鳴りのような低い振動が鼓膜を打つ。

 まるで――地の底で、巨大な何かが呼吸しているみたいだった。

 石段を降り切った瞬間、景色が変わる。

「……構造が違う」

 レイラが短く言った。

 そこは、これまでの直線的な通路ではない。

 壁が斜めに走り、床はわずかに傾き、通路がいくつも枝分かれしている。天井は低く、視界は悪い。

 迷路だ。

「第四層からは複雑に入り組む、という話は本当のようですわね」

 フィリアが杖を構える。

「罠も多いはずだ。慎重に行くぞ」

 キアヌが先頭に立ち、俺はその後ろにつく。

 一歩、踏み出した瞬間――

 床の石が、かすかに沈んだ。

「止まれ!」

 クロエの声。

 次の瞬間、通路の壁が音もなく開き、石の矢が一斉に放たれた。

 だが。

「――プロテクション」

 フィリアの声と同時に、淡い光が広がる。

 石矢は結界に弾かれ、床に転がった。

「……反応が速いな」

 俺が言うと、フィリアは涼しい顔で肩をすくめた。

「当然ですわ。ですが、これは序の口のようですわね」

 そう言って、視線を奥へ向ける。

 通路は無数に分岐している。

 どれが正解か、見ただけではわからない。

「普通に進めば、どこかで袋小路か致死罠に当たるだろうな」

 レイラが舌打ちする。

 そのときだった。

 ふわり、と。

 淡い蒼い光が揺れた。

「……あ」

 ニナの声。

 胸元のペンダントが、再び静かに輝いている。

 光は一点に向かって、細く伸びていた。

「龍脈の流れと共鳴してる。道を示してるんだよ」

 ニナは小さく息を飲み、うなずいた。

「……こっちです」

 俺は頷く。

「行こう。罠の位置も読めるか?」

「……少しなら」

 ニナが目を閉じる。

 次の瞬間、足元の空気がわずかに震えた。

「お父さん、そこ踏まないで」

 キアヌが足を止める。

 床の石を軽く叩くと、内部が空洞になっていた。

「見事だ」

 キアヌが低く言う。

 俺たちは、ペンダントの導きに従って進んだ。

 迷路は想像以上だった。

 行き止まりに見えて回転する壁、踏むと崩れる床、魔力に反応して発動する術式罠。

 だが、そのすべてを、ニナの光が先に示す。

 光が揺れるたび、俺たちは正しい道を選ぶ。

「……まるで最初から知っているかのようですわ」

 フィリアが呟く。

 俺は、ニナの横顔を見る。

 不安はある。

 だがそれ以上に、どこか懐かしむような表情だった。

 まるで、ここが自分の場所だとでもいうように。

 層を降りるごとに、空気はさらに重くなる。

 第七層。

 第九層。

 第十一層。

 魔獣の数も増えたが、どこか様子が違う。

 襲ってはくるが、どこか焦燥を帯びている。

「……龍脈が乱れている」

 フィリアが眉を寄せる。

「流れが不安定ですわ。まるで、無理やり何かに引き寄せられているような」

「装置、か」

 俺が呟く。

 やがて、最後の階段が現れた。

「……ここが、最深部」

 キアヌの声も低い。

 第十三層。

 石段を降りた瞬間、視界が開けた。

 巨大な空間。

 天井は見えないほど高く、円形に広がっている。

 中央。

 そこにあったのは――

「……なんだ、あれは」

 思わず呟く。

 巨大な構造物。

 床から伸びる無数の石柱が、装置へと接続されていた。
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