魔剣士「お姫様の家出に付き合うことになった」【現在完結】

Naminagare-波流-

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第九章【セントラル】

9-36 鏡の世界(2)

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―――セントラル王城、地下室。
魔剣士が消えてから、バンシィと猛竜騎士はブリレイとにらみ合いを続けていた。

猛竜騎士「シュトライト……!」
ブリレイ「これからどうするつもりだ?魔剣士クンが消えた今、お前たちに勝利の芽はないぞ?」
猛竜騎士「王がいなくなったのなら、あとはお前を殺せば全ては終わる」
ブリレイ「それはどうかな。俺がいなくなれば、統率する者はいなくなる。余計に暴れる人間が出ると思うのだがな」
猛竜騎士「元凶の一人である貴様が死ぬことに問題はない。もう、その口を開くな!」
ブリレイ「ハハッ、そうか。まぁ良い……。しかし、思ったよりも落胆をしないとは恐れ入った。彼はその程度の存在だったのか?」
猛竜騎士「何…?」
ブリレイ「魔剣士クンのことさ。てっきり落胆するものと思ったが、それも一瞬。白姫様も、君も、バンシィは悲しんでいるようだが、二人にその色が見えないのが不思議で仕方ない」

額を抑え、やれどうした風に言う。

猛竜騎士「……その問いは、簡単なことだ」
ブリレイ「ほう」
猛竜騎士「白姫も、俺も。この想いは、バンシィにですら分かってもらえると思っている」
ブリレイ「その心とは、一体――…」

"……信じている"からだ。
"信じているから"ですっ!!

猛竜騎士と白姫は、力強く答えた。

ブリレイ「信じる…?」
猛竜騎士「お前は知らないだろうが、アイツは死なないんだよ。面白いように、死線を幾度も超えてきた。そんな男を、信じない理由はない」
ブリレイ「確かに、あの状態に陥れば普通は死なないかもしれないが、魔法化した身体を封印したということは……」
猛竜騎士「……何とでも言うと良い。アイツは死ぬわけがない。アイツは、この世界の主人公なんだからな」
ブリレイ「し、主人公……?」

その言葉に、ブリレイは驚きつつ、声を上げて笑った。

ブリレイ「ククッ…、ハハハハッ!」
猛竜騎士「……そんなに可笑しいか?」
ブリレイ「ハハハッ…!主人公、なるほど…主人公か……!」

何が面白かったのか、涙を薄っすら浮かべるほど爆笑した。
やがて、しばらくして落ち着くが、まだ口角の上がった状態で口を開く。

ブリレイ「笑わせてくれる、主人公とはな……」
猛竜騎士「どうやら、お気に召したようだな」
ブリレイ「最高だ。主人公か……、よもや予想外。そんなセリフが聞けるとは思わなかったぞ」
猛竜騎士「笑いたければ笑え。俺は、魔剣士こそ世界に必要な男だと、この世界の主人公だと…そう思っている。信じている」
ブリレイ「……誰もが、思う夢よ。誰もが望むことだ、それは」
猛竜騎士「夢…?」

眼鏡を中指で直しながら、薄ら笑いのまま「誰もが見る夢」だと言った。

ブリレイ「人は誰でも、自分がこの世界に生きる主人公だと思う。子供の頃、若い頃ならなおさらな。だが、現実は違うのだと知ることになる」
猛竜騎士「……それを受け入れるのが大人だろう」
ブリレイ「誰もが走り回ったあの頃。俺は間違いなく輝いていた。誰もが振り向き、あの時は俺が主人公だった。…だというのに、俺は俺なりの努力をして得た知識と実力も、いつしか老いに蝕まれてていく!」
猛竜騎士「それは歴史の中で誰しもが思ってきた事だ。お前だけの話じゃない」
ブリレイ「だからだよ……」
猛竜騎士「何?」
ブリレイ「魔剣士クンはどうやら、不死に近く、無限に近いパワーを得た。あれほどに羨むことはない……っ」

両手、拳を強く握って肩を震わす。抜かされる存在になったことがどうしても許せなかった。

猛竜騎士「妬みだというのか…!お前こそ、ガキだろうが……!」
ブリレイ「……いやいや、勘違いはしないでほしい。俺は、そもそも諦めていたのは本心だ。確かに魔法連合に所属して若き頃を夢見たこともあったが、老いには勝てないと諦めていた」
猛竜騎士「なら、どうしてこんな行動を起こした!お前ほどの実力があり、その瞳があれば、世界を混乱に巻き込むことなど!」
ブリレイ「半ば…手に入れたからだ。この力をな」
猛竜騎士「……!」
ブリレイ「俺とて、長いこと連合にいた人間。一時代を築き、魔法を広めた一人だと認識している。……知らなければ良かったんだ」
猛竜騎士「何をだ」
ブリレイ「人という器に、一度成長させた生命の幹は、それ以上に成長することが出来ないんだよ……」
猛竜騎士「成長が出来ない?」

ブリレイは中途半端な闇魔法の技量を会得したあと、必死になって完全体となるために書物を読み漁った。
だが、出てくるものすべてにおいて……。

ブリレイ「どうやら、二度目はない。一度目で馴染んだ魔力が、闇魔力として引き継がれ、更なる成長を望んだ際に既にある闇魔力と反発し合い、体内に宿る幹は暴走する。……魔力の暴走だ。肉体が魔力化して滅びるんだ…」

肉体は滅び、漂う魔力となってしまう、氷山帝国でセージの弟子とテイケンに起きたあの現象である。

ブリレイ「だが、書物は所詮、書物と情報に過ぎない。実際にどうなるものか、試したかったんだ」
猛竜騎士「……試したのか?」
ブリレイ「まさか。俺が消えては夢も潰える。代わりに、ブレイダーにそれを体験してもらおうと思ったのだが……」

魔剣士の乱入と、ハイルが全てを見ていたことで、失敗に終わったのだ。

ブリレイ「闇魔法の会得者が一人消えてくれることに問題はなかったというのに、王の目の前で失敗に終わらせては怪しまれる。最悪だった……」
猛竜騎士「それで……」
ブリレイ「王は俺の考えに気付いてしまった。だから心を壊した。今日という日になるはずはなかったんだ。俺が王を操るタイミングも、リッターとブレイダーを指示させるタイミングも、全ては早すぎた…。どれもこれも、上手くいかないのは…本当に気に入らない……!」
猛竜騎士「……それが運命だということだ」
ブリレイ「また、運だとか世界が望んだことだとか、そういう話か。そんなことはウンザリだ…。世界は人が創る。運命も、自分で切り開くものなんだと、お前は知っているはずだ!」
猛竜騎士「同意するよ。だがな、シュトライト…!そうだとするならば…、俺らはお前を止める運命にある。それもまた、分かっているんだろう?」

"チャキンッ…!"
改めて槍を構える。それを見たバンシィも両手に魔力を込めて構えを取り、白姫を守るように前に立った。

白姫「バンシィちゃん…!」
バンシィ「……お兄ちゃんは、仲間が誰よりも大事だって言ってたから。お姉ちゃんがいなくなったら、お兄ちゃんが帰って来た時にきっと寂しがるから……」
猛竜騎士「フッ、バンシィ……ありがとう。こんなことに巻き込んでしまってすまないと思うが、今は一人でも手が欲しい。仲間として、信頼しているぞ」
バンシィ「任せて……」

二人はブリレイに威嚇し、今にも飛びかかりそうな勢いを見せる。

ブリレイ「舐めるなよ。俺が誰なのか、お前は俺のことを知っているはずだ」
猛竜騎士「そうだとしても、俺は現役だぜ。テメーみてぇなぬくぬくと逃げた人生とは違うってことを見せてやるぜ…オイ」
ブリレイ「……格の差というものを教えてやろう」
猛竜騎士「どうかな。お前の闇魔法は目さえ見なければ、幻惑にかかることもない。二人で一人を相手に出来るのか……」
ブリレイ「ハッ、情けない奴だ。お前も魔剣士クンと一緒で、どうにも頭が足りないようだな」
猛竜騎士「勝手に吠えていろ」

罵倒など聞くだけ無駄だと思った。

ブリレイ「吠えているわけじゃない。これは、お前に与えるヒントだぞ?」
猛竜騎士「適当なことを……」
ブリレイ「お前は、幻惑魔法は最上位の魔法の存在だと知っているはずだ。それは尋常じゃなく負担になるわけだがー……」
猛竜騎士「聞くことなど、無いッ!!」

話の途中で、構えていた槍を回して斬るように振り下ろす。
相手の動きを伺うための一撃だと悟られたのか、あっさりと軸をずらしてブリレイはそれを避けた。

ブリレイ「おっと、話は聞いたほうがいいんじゃないか?」
猛竜騎士「……次は殺意を持つ。まだやる気にならないのなら、やる気にさせてやろう」
ブリレイ「ハハ、そう焦るな。経験者として抵抗の高いお前らに、幻惑をかけて負担が大きくするほど俺も馬鹿ではない」
猛竜騎士「それがどうした!臆したか!」
ブリレイ「少しは考えれば分かることだと言うのに。仕方ない……」

眼鏡を外し、ポケットへとしまう。

ブリレイ「……これは挨拶代わりだ」

彼がそう言った瞬間、一番後方で守っていた"白姫"が声を上げた。

白姫「きゃああっ!?」
猛竜騎士「…何!?」
バンシィ「お、お姉ちゃん…!?」

何事かと振り向くと、そこには腕を切り裂かれて血を流す白姫の姿があった。白い肌は赤く染まり、痛みに悶えて顔を歪ませる。

白姫「な、何がっ……!あぅっ…!?」
バンシィ「お姉ちゃん、傷が!」
猛竜騎士「何をどうした…!?」

―――驚くのも無理はない。
刹那に距離を詰めたブリレイは、猛竜騎士の肩を叩いて耳元で囁いた。

猛竜騎士「うおっ!?」
ブリレイ「これで死んでくれるなよ?」

"キィン…!"
この時、猛竜騎士が感じたのは淡い魔力の気配。やがて全身を覆うような、深さのある冷気。それを、顔に強く感じた。

猛竜騎士「っ……!うっ、うおっ!!」

"何か"から避けるように、上体を逸らす。
その瞬間、猛竜騎士の上半身があった部分に巨大な氷塊が現れた。

ブリレイ「感覚的に掴めたか。やるな……」
猛竜騎士「くっ!?」

氷塊を瞬時に切り刻むと、バンシィと白姫を抱えて縮地で飛んで距離を置く。

猛竜騎士「い、今のは……!」
ブリレイ「さすがに気が付いたか」
猛竜騎士「……そういうことか…っ!」

何かに気が付く猛竜騎士。対して何が起こったのか理解できないバンシィはそれを問う。

バンシィ「ど、どういうこと……?」
猛竜騎士「幻惑魔法じゃなく、闇魔力を"瞳から発している"んだ……!」
バンシィ「えっ…!?」
猛竜騎士「幻惑魔法よりも遥かに、属性魔法は軽い!抵抗を練れば対処できるかもしれないが、あ…あれは……!」

彼が放つ無詠唱魔法は、一見すればバンシィや魔剣士、熟練する冒険者と類似しているようで全く異なる。だがそれは、あくまでも"詠唱時間"が必要ないだけであって、腕を振り上げる、指を鳴らす、声を出すといったモーションはどこかしらに入ってしまう。

猛竜騎士「アイツは、そのモーションが"瞳"でイメージするだけなんだ……!」
バンシィ「そ、それってつまり……」

ノー・モーション。
それを捉えるのは感覚でのみ行うしかない。戦いのさ中、物理で打ち合いをしながら捉えることなど出来るのだろうか。
更に、彼が持つのが"闇魔力"ということは。

猛竜騎士「負担こそあるが、幻惑魔法よりは遥かに軽い…!ほぼ無造作に撃てても不思議ではない……!」
ブリレイ「……ククッ、さぁてどうかな」

憎たらしかった笑みが、今度ばかりは不気味に思えた。

猛竜騎士「だが、退くわけにはいかん!」
バンシィ「うん……!」
白姫「わ、私も出来ることを…するっ!」

ブリレイ「さて、どこまで持つものか……」

魔剣士が消えてしまった今、残された者たちは世界の明日を照らすために。誰にも知られない地下の底で、戦いは始まった。

………


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――そして、鏡の世界では。
動くに動けない魔剣士と、思念体のウィッチは何が出来るわけでもなく。

魔剣士「……暇だぞ」

鏡の世界で寝っ転がって、地面をトントンと暇そうに叩いていた。

ウィッチ「暇だと言われてもな、動けることもあるまい」
魔剣士「そうなんだが、モヤモヤして仕方ねぇ!出来ることがないって分かっていても……」
ウィッチ「気持ちは分かるがな、いざという時に覚悟を決めておくことも重要なのだから、精神を安定させぬか。先ほどからトントンと煩いぞ」

ウィッチは、小さい足で魔剣士の指を踏みつける。

魔剣士「いっ…!?」
ウィッチ「何じゃ、痛かったか?」
魔剣士「ば、バッカ野郎!そうじゃなくてだな……お前薄着一枚なんだから、鏡で足あげんなバカ!!」
ウィッチ「……別に幼い姿に興奮するお前ではあるまい。何を恥ずかしがっておる」
魔剣士「お前はどっちかっつーと、デッケーほうのイメージなんだよ…。子供になってても、そのイメージが強いんだよ」
ウィッチ「ふむ、そう言われるということは、私の恰好は下手に興奮させて襲われてしまう可能性があるわけじゃな」
魔剣士「どっちの姿でも襲わねーよ、バカ!!」
ウィッチ「バカじゃと?バカっていう奴がバカなのだと知らんのか!」
魔剣士「……っ」

がっくしと肩を落とす。
彼女が子供化した時の性格は重々に分かっていたが、ただでさえ焦っているのに疲労感も増えてストレスになる。

魔剣士「……つっても、アンタにゃ感謝しかないけどな。助けてくれてばっかでよ…」
ウィッチ「別に構わんと言ったじゃろう。…という私も、本人ではないのでどう言っていいか分からないのだがな」
魔剣士「本人じゃない…。そういえばそうだったな……」
ウィッチ「私はあくまでも、お主の中に眠る、魔力に宿った意識。考えや口調、全てはそのままだが……」

理解が出来ているからこそ、怖く、辛い。自分は本当に"自分である"としか認識が出来ていないのだ。それが、自分ではないと分かっていたとしても。

ウィッチ「なまじ分からないほうが良いとすら思う。声に出さないだけで、私は……」

"……ハッ!"とする。
しかし、魔剣士は気にしないでくれと言った。

魔剣士「アンタは俺と共に生きる存在だ。闇魔力を与えてくれる存在が悩んでいたら、俺だって気持ちよくねーよ」
ウィッチ「……そうか」
魔剣士「あぁ。本当は、アンタは……」
ウィッチ「怖くないわけがない。精神世界で会えたことも、またこうして会えたことも、生きているように実感しているのに……」

"私は死んでいるのだ……"
うつむいて一言、小さな声で呟いた。

魔剣士「ウィッチ……」
ウィッチ「とはいえ、私はお前の中に入れることは嫌ではない。お前を助けられたことも、今は誇りに思っている」
魔剣士「そ、そうなのか?」
ウィッチ「闇魔法を会得してから、随分と苦労をしてきた。誇っていいと思うぞ。お主は今や立派な冒険者で、世界の明日を担う男なのじゃと」
魔剣士「……やめてくれよ、なんか痒いって」

オッサンにも言われるとそうなのだが、どうにも褒め慣れていない。
むしろ、イラついてでも罵倒されたほうがしっくりくるのは、そういう風に育ってしまったからだろうか。

ウィッチ「ハハッ、猛竜騎士に褒められても恥ずかしいのか」
魔剣士「えっ」
ウィッチ「お前な、私はお前の魔力なのだと言っているだろう。お前の考えなど、手を取るように頭に入ってくるのじゃ」
魔剣士「ちょっ…!お前、勝手に人の心読むんじゃねーよ!!」
ウィッチ「読みたくなくても勝手に入るんじゃ、仕方なかろうが。口に出さなかっただけで、さっき私が通常フォルムで薄着一枚だった時、私の脚と胸を見て……」
魔剣士「だぁぁぁああっ!!う、うるせーーーっ!!!」

誰が見ているわけでもないが、人の性的な部分を暴露されるのは恥以外の何ものでもない。

ウィッチ「やかましいのう」
魔剣士「誰だって内心を暴露されたらそうなるわ!」
ウィッチ「ハハハッ、確かにそうか」
魔剣士「あのなぁ……」

無邪気に笑うウィッチに、怒りも出ない。

魔剣士「……まぁ良いけどよ。んなことより、マジで脱出の目途はたたないのか?」
ウィッチ「む?」
魔剣士「ここが鏡の世界だっつっても、お前の頭なら何とかなりそうな気がするんだけどねぇ」
ウィッチ「褒め言葉は何よりも嬉しいが、そう言われてものう」
魔剣士「そ、そうか……」
ウィッチ「……うむ、さっきも言った通りなのじゃが…」

ここは魔法に造られた世界。
陣により生成されたものだとしても、ここが維持できるのは大気中に浮く魔力が集合体となっているおかげじゃ。
そうなれば、出入り口だった陣が破壊された今、ここで魔力を開放すれば壊れた世界に我々は消滅してしまう。
助かる見込みとしては、お主の魔力が宿った"ゲート"…つまり陣が生成された時に再び開く可能性が高く、チャンスだと思っておる。

魔剣士「生成されなければこの世界に永遠に取り残されるってことか……」
ウィッチ「……そういうことじゃな」
魔剣士「もしそうなったら、俺は一つに賭ける。この世界を壊して、脱出を図るぞ」
ウィッチ「やめておけ。よくよく考えれば、それで助かる見込みは無い」
魔剣士「は?いや、やってみないと……」
ウィッチ「ゼロじゃ。そればかりは有り得ん。有り得ないという結論に至った」
魔剣士「おいおい…!」

やってみなければ分からないだろう!と、魔剣士は怒鳴った。
しかし、ウィッチはこれ以上に納得できる言い分がないほど、完璧な説明をした。

ウィッチ「それで成功をするなら、この世は未だにバーサーカーたちに支配されておるよ」
魔剣士「……あっ?」
ウィッチ「歴史を見てきたわけではないからして分からぬが、バーサーカーがそれで脱出できるなら、未だにこの世に存在していたはずじゃろう」
魔剣士「そ、それは……」
ウィッチ「やれ、それにしても歴史は何ともいえんのう。私はそうではないが、あのシュトライトという男も……」
魔剣士「ブリレイが…何だ?」

ここでウィッチは話題を上手く逸らす。納得しかけた魔剣士でも、この男はいずれ万に一つをかけてこの世界を壊してしまうだろうと思ったからだ。

ウィッチ「シュトライトはどうやら、魔法の先駆者として扱われているようだったの?」
魔剣士「……らしいな」
ウィッチ「私たちは魔法にも長けた種族。人間が奴隷として扱った歴史の中で、魔法より物理のほうが優秀だと思われていたのは…そこばかりは人間はアホだと思うのう」
魔剣士「どういうことだ?」
ウィッチ「魔法という存在は数百年前から有り、私たちエルフ族の得意分野だった。それに便乗しようとしたのが、闇魔法。破壊的な技術を用いようと考え出した、人間の愚かな思考から生まれたものだったんじゃ」
魔剣士「ほう」
ウィッチ「だが、人間たちはエルフ族を狩りだした。人とは違う存在に、だが人間とほぼ同じで美的感覚から玩具にするには有用だったからじゃろうな」
魔剣士「…」

あまり話をしたくないことだったが、自ら命を断とうとする魔剣士を救うためには仕方なかった。

ウィッチ「玩具にされた私たちは、魔法の技術を教えることはなかった。どんなにひどい目にあっても、魔法はエルフ族の誇りだったからだ」
魔剣士「そ、そうなのか……」
ウィッチ「また時は進むと、ようやく私たちと人間は和解して魔法技術はようやく発展を迎える。とはいえ、あの里のようなエルフ族もまだ多くいるがの」
魔剣士「あぁ……」
ウィッチ「シュトライトは、そんな成長期の中で一人長けた技術に生きた。だから酔ったんじゃろう。周りがチヤホヤしてくれること、誰もが振り向くこと、圧倒的な技術で誰も自分にかなわなかったことを」
魔剣士「…」
ウィッチ「歴史書があるわけでもなし、この結論は難しいが…私はそう思う」
魔剣士「そうか……」

魔剣士は同じ冒険者として、共感できる部分が強くあった。
闇魔法を会得した自分は、間違いなく当時の彼と同じ存在で、そう思う部分が少なからずあったからだ。

魔剣士「……だからっつってよ…」
ウィッチ「ん?」
魔剣士「だからっつって、世界を巻き込むことじゃねえだろうが…!自分が英雄になるために戦争を起こすなんて、ふざけんなよ!!」
ウィッチ「うむ、そうだな……」
魔剣士「くそっ…!絶対にアイツは止める…。もう、アイツさえ止めれば全ては終わるんだ!!」

王、象徴者、団長は沈んだ。
あとはブリレイを止めれば、どうにかなる筈なのに。

魔剣士「俺は、俺はこんなところに閉じ込められて……!一体何をやってんだくそがぁっ!!!」

大声は広い空間の中に響く。幾重にも反響し続けた声は、やがて小さくなっていった。

ウィッチ「……落ち着くんじゃ」
魔剣士「そんなのは分かってるっての…!」

強く拳を握り、肩を震わす。
自分はこのまま、時間を過ぎるのを待っていなければいけないのか。

魔剣士「う、うぉぉおおおっ…!!くそっ、くそっ、くそぉぉっ!!」

我慢の限界だった魔剣士は、世界を壊さずとも、声でそれを必死に訴え、咆える声は尽きることなく響き続けた。

魔剣士「……ッ!」

ウィッチはそれを黙って見守る。心が通じ合う二人だから、魔剣士の気持ちが本心から痛むように理解できたから。

魔剣士「…っ」

そして、数分後。
魔剣士は声を枯らすように叫び続けていたが、ようやく落ち着き始め、苦い顔で目をつぶる。

ウィッチ「魔剣士……」
魔剣士「……叫んだって、何が変わるわけじゃねぇよな…」

諦めることはないが、今はどうしようもない。落ち着こう。そう思った。

魔剣士「…」

そう、思った。

魔剣士「……ん?」

そう思った、矢先。

魔剣士「今、何か……」

そう思った矢先、魔剣士、続きウィッチも、その異変に気が付く。

魔剣士「おい、今…!ウィッチ、今の感覚!」
ウィッチ「気のせいでは…ないな……」

孤独の世界では感じることのないはずの、別の誰かの気配。
しかも、一人ではない。確実に複数人、どこか懐かしいような匂いも混じっていた。

魔剣士「こ、これは…!?」
ウィッチ「……外の匂いじゃ。もしかすると、どこかで"扉"が開いたのかもしれん!」
魔剣士「扉!?」
ウィッチ「この感覚を辿れるか!?間違いない、これは外の気配も混じっておる!」
魔剣士「そりゃ…、勿論じゃねえか!!」

その感覚を辿るよう、勢いよく走り出そうとする魔剣士。

魔剣士「……っと!」

ふと気づき、慌ててウィッチの手を引くと身体を低くし、自分の背中から肩へ腕を回すとしっかりと彼女を背負う。

ウィッチ「ま、魔剣士っ!」
魔剣士「置いていくかよ!一緒に行くぞコラァ!!」

幼女化した彼女など、重さすら感じない。とにかく今は感覚を追う。魔剣士は走り出す。

ウィッチ「わ、私は別に一緒に行かなくてもいいのじゃぞ!」
魔剣士「何を言ってんだ、お前も連れて行くに決まってるだろ!!」
ウィッチ「どっちみち、私はあくまでお前の記憶の意識!私自身がお前の魔力を抑えてるわけじゃないのじゃ!」
魔剣士「あァ!?」
ウィッチ「だから、お主の魔力の欠片が記憶の片鱗として意識が実体化しただけじゃ!お主が望めば、私の代わりはいくらでも出るうえ……」
魔剣士「……そうだとしても、お前は残される恐怖を感じてるじゃねーかよ!アサシンの時だって、どうしてお前が俺の魔力に溶けて消えることを言わなかった!!」
ウィッチ「ッ!!」

……それは私ではない。
正確に言えば、その私は既に消えていて、今はその記憶を残しているだけの私なのだ。
こうして連れて行かれても、この世界から出る時に私はまた消えてしまう。また、消えてしまうのだ。

魔剣士「……あぁそうか!じゃ、お前が消えないよう俺はイメージしとくよ!!」
ウィッチ「お、お主!?」
魔剣士「あの時は急いでて、前のお前に挨拶できなかった。本当は、精神世界で会ったお前を残すようイメージしとけばよかったんだよな。辛い思いをさせちまってすまん……」
ウィッチ「そうか、心が…一緒だからか……」

全てを見透かされていた。

魔剣士「お前を、俺のイメージで消えないようにしておけば、消えることなく俺の中に宿っていられるだろう!?」
ウィッチ「……し、しかし!それが出来たとしても、眠っていた私の記憶が常に存在することになるんじゃぞ!」
魔剣士「あー!?それはどういうことだ!?」

二人はどんどん外の匂いが近づくことを感じ、それは別れが近いことも分かっていた。

ウィッチ「じゃから、お主の中にもう一人の人格が宿ることになる!常に私がいるということになるんじゃぞ!」
魔剣士「……ハッハッハ、口で言ってもお前の心は分かってるぜ。それも悪くないと、出来たらそうしたいと思っているな!?」
ウィッチ「お主ッ!!」
魔剣士「勢いに任せる人生もいいもんだぜ!俺はそれも悪くないと思ってる!」
ウィッチ「……本心なのか」
魔剣士「分かってんだろ!」
ウィッチ「そうだとしてもじゃな!」

勢いでそうなって良いと思っても、後悔するに決まっている。
だけど、あの暗闇に消えて行く感覚を二度と味わいたくない。
揺れ動く感覚に、心が痛い。

ウィッチ「……よく聞け。生きていた私、精神世界に生まれた私は共に覚悟を決めていた。この世界に生まれた私だけが、我がままを言うわけには…!」
魔剣士「どのお前も、俺にとっちゃウィッチだ。いつも助けてくれたし、今回だってまた助けてくれた。何番目とか、どこの誰だとか、関係ねーよ!!」
ウィッチ「そ、そうじゃなくてだな!」
魔剣士「お前は俺と共に生きる存在だ!!前の二人にはすまねぇが、今度ばかりは、お前の気持ちをしっかりと分かった今だから、怖い思いはさせねーんだよ!!」
ウィッチ「……馬鹿者が」
魔剣士「もう近いぞ!!俺は、お前を残すまま、俺の中に生きるようにしてやるからな!!」

扉が近いと分かり、魔剣士はウィッチのイメージを強く保つ。
グングン迫る出口の匂いに、彼女の重さは次第に軽くなっていく。

ウィッチ「もう良い、私だけが我がままを言うわけにはいかないと言っているじゃろう!!」
魔剣士「ハッハッハッハッ!!お前、どっちがいい!?大人のイメージと、子供のままで!!」
ウィッチ「えぇいっ!話を聞かぬか…、お主ッ!!」

今、ウィッチを包む感覚は"暗闇"ではなく、光。
ともに出口へ向かっているということが、温かく、心地よかった。

ウィッチ「こ、これでは……!」
魔剣士「つーか、最初っからこうすりゃよかったんだ。お前が勝手に意識を沈めて、俺ばっか力を与えて!」
ウィッチ「二人の人格が宿るということは、お前の心に常に私がいるということじゃぞ!」
魔剣士「重々承知してるっつーの!」
ウィッチ「一人で休まる時も無く、誰かを愛する時も、常に私がいることになる!お主はそれでも!!」
魔剣士「お前に助けてもらった命に、文句は言えな……、いや!俺は文句を言うかもしれねぇ!!だけど、俺もお前が辛いと面白くないんだよ!!」
ウィッチ「魔剣士……っ!」
魔剣士「恰好つけて、後で後悔するぞ!あー後悔するぞ、後悔するって言っとくぞ!!ハハハハッ!!」

走り出して数分、ついに目視で遠くに"光"が差し込んでいることを確認した。
すると、それと同時にウィッチの身体の重みが更に消える。

ウィッチ「……良いんじゃな?」
魔剣士「後悔するけどな!」
ウィッチ「そう言ってもらえると、私は……」
魔剣士「従えばいい!」
ウィッチ「…っ」

既に感触はないが、魔剣士はウィッチの腕が身体を強く抱きしめているのが分かった。

魔剣士「オッサンにドヤされるなこりゃ!」
ウィッチ「……アイツの気持ちも分かるがの、外の世界で私が表に出て挨拶もしないとダメじゃのう!」
魔剣士「喜ぶぜぇ、アイツ!」
ウィッチ「フフッ…、そうじゃのう…………」
魔剣士「……じゃ、そろそろだな…!」
ウィッチ「うむ、お前の中に生きるよ……」

やがて、光は二人を覆う。
眩いばかりの輝きは、ウィッチの身体を完全に消失させるが、魔剣士の心の中で彼女は生きる。

「魔剣士……」

外の世界に足を突っ込んだ今も、彼女の声はしっかり聞こえた。
これはもしかしたら、また、新しい力を手に入れたということなのかもしれない。

…………
……


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