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第九章【セントラル】
9-35 鏡の世界(1)
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―――姿を消した魔剣士。
だが、猛竜騎士も白姫も諦めることはなかった。
「…」
いつでも、どんなことがあっても、魔剣士は帰ってきてくれたから。
「…」
―――きっと、助けてくれるから。
今も、ずっと、これからも、そうなんだって、願ってる。
「…」
彼を信じる者がいるのに。
「…」
彼は、死んだのだろうか。
「…」
いいや、違う。
「…」
生きている。
「…」
生きてはいる。
しかし、砂国の時のような、精神世界ではない。
「…」
彼は今、無限の世界に意識を囚われていた。
「…っ」
意識はある。目覚めている。
「俺……ぁ……」
口は動く。
視界はフラッシュして歪むばかりだが、何とか生きていることは分かる。
「い……き…て……」
生きていても、ここがどこなのかすら分からない。
身体の感覚すらない。
「ぅ…で……、あ…し……、ゆび…………?」
少しでも油断すると、意識が飛ばされそうになる。
「だ……め…だ……。ち…が……ぅ……!」
光に飲み込まれたことは覚えている。
ブリレイが陣から放った何かで、光の中に飲み込まれた。
「だ……たら…!」
だとすれば、ここは陣の中。結界陣に囚われたのか。
「そ…ぅか……!」
魔法化した全身を飲み込まれ、無限の中に自分はいる。
意識が混沌する中、忘れまいと、自分を思い出す。忘れてはならない。
「俺…ぁ……、忘れ…ない……!」
ここで、諦めて、忘れてしまったら。自分は完全に消えてしまうに違いない。
それは許されない。許さない。許すわけがない……!
「おれ…は……!俺は…、俺はっ…!!」
―――俺は。
俺は、魔剣士なのだと。ハッキリ言い聞かせた。
魔剣士「俺は、俺だっ!!!ハッキリしやがれ、俺の身体、俺の意識、俺の全てよォォォッ!!」
"バシュンッ!!"
音をたて、眩いばかりの光が視界を奪う。
それは一瞬の出来事で、目が眩んだと思えば、次の瞬間には、一瞬のうちに出来上がった地に足を付けていた。
魔剣士「はぁ…はぁっ……!はぁっ……!!」
本気で息があがったのはいつぶりだろうか。
思った以上に、身体には負担がかかっていたらしい。
魔剣士「ここは…、どこだ……。腕は動く、足もある。指も……」
生きている。全身に怪我はなく、しっかりと動く。
魔剣士「ふぅ、ふぅ……!ここは…、どこだ……!」
周囲は明るく、風景、様子を伺うことが出来た。
かなり広めの空間のうえ、辺りには重ね鏡が無限大に広がっていて、自分の姿が遥か向こう側まで見える。
魔剣士「広っ……」
とにかく広い。天井はかなり遠いし、どこを見渡しても鏡、鏡、鏡。鏡ばかり。
自分が無造作に映り込み、少しばかり気持ちが悪い。
魔剣士「参った、ここはブリレイの野郎がいってた陣の中…。闇魔法をも閉じ込めるっつってた世界か……」
全身が魔法化していた魔剣士は、陣の中に身体ごと封印されたらしい。
魔剣士「……どうやって出るんだ。陣の中っつってたし、壊せたりしねぇのかな…」
"ググッ"と腕に炎を込めて、横の鏡へ適当に放つ。
すると、それは思いもがけない動きをする。
魔剣士「ぬぁっ!!?」
鏡に反射した炎は、自分を目がけ反射してきたのだ。
危うくそれを回避した魔剣士は、まさかと思って振り向いた時には、既に反対にあった鏡に反射した炎が返ってくる。
魔剣士「うぉぉおっ!!」
直線状にビュンビュンと反射し続ける炎。その線上から回転して脱出し、その動向を探った。
魔剣士「こ、これどうなるんだ……」
鏡に反射、反射、反射。幾重にも反射し続ける魔法は、徐々に小さくなっていく。
魔剣士(いや、小さくなるというか……)
それは重ね鏡の効果だった。
無限大に映る鏡同士に、一枚、一枚と奥の鏡に反射し、それを繰り返した炎は、鏡の向こう側へと消えて行った。
魔剣士「……何度も反射を繰り返して、抜けることが出来なくなるって仕組みか」
魔剣士は気づいていなかったが、彼は幸いだった。肉体が魔法化しているということは、先ほどまで魔剣士の身体も同じ状態で、精神という存在で闇魔力が引き寄せられ、思念体として復活したということである。
魔剣士「…」
先ほどまで、全てを忘れそうになっていた原因は、肉体と精神が無限の鏡に消えようとしていた為である。何とか強い精神力のおかげで、魔剣士は意識と記憶を取り戻したのだった。
魔剣士「俺も魔法化したら、無限の鏡に全身が消えちまうのか…。やれ、どうすりゃいいんだ……」
こうしている間にも、現実では猛竜騎士たちが戦っているはず。
早く脱出の方法を考えなければならなかった。
魔剣士「つっても…。なんか、毎回変な世界に囚われてる気がするんだよなぁ……」
自分の精神世界を2度、今回に限っては陣の別世界。
その度にレベルアップをしてきたが、今回ばかりはそうもいかない気がする。
魔剣士「はぁ……」
さすがに慣れたのか、どっしりと腰を下ろして胡坐を組む。
頭をかいて、とりあえず落ち着く。
魔剣士(誰の助けも無い。自分で考えるしかない。…ここが陣の世界だとしたら、俺はまだ魔法化した状態だってことだろう)
陣はあくまでも対魔結界で、囚われているということは魔法化の状態である。
魔剣士(つっても、下手にぶっ放したら鏡に消えちまう。物理的に何か出来るっつったら……)
軽く腕を上げて、地の鏡を"ゴツン!"と叩く。だが、割れる様子はない。
魔剣士(厚いのか、それとも俺が魔法化している状態だから意味がないのか。どちらにしろ、脱出するためには鏡を何とかせにゃ……)
考えど考えど、答えは出ない。
幾度も叩くがヒビすら入らず、どうしたものかと唸っていると、ふいにどこか遠くから声が聞こえた気がした。
魔剣士(……ん?)
ハっとして辺りを見回すが、誰の気配もない。
幻聴でもしたものかと思ったが、その声は次第に大きくっていった。
魔剣士(な、何の声だ。マジに幻聴…じゃないと信じたいな。だけど、俺以外にこの世界にいる奴なんて……。つーか、この声って……)
目を閉じ、その声がどこから聞こえているのか探る。すると、この声は鏡の世界から響いているわけではないと気付く。
魔剣士(この声……俺の中……?)
違う、これは"自分の中"から聞こえているのだ。
魔剣士(俺の中で、誰かがいる?誰かが叫んで……)
誰の声なのか。
魔剣士(……俺の中で?まさか、いや…!)
自分の中いる、もう一つの心の存在を知っている。何度も助けてくれた、彼女の心。
魔剣士「この声、アンタなのか!?」
"彼女"を意識した瞬間、魔剣士の全身が黄金色に輝く。
それは鏡に反射して消えそうになるが、魔剣士は必死にイメージを強く、意識を保った。
魔剣士「くっ…!?」
全身が歪み、引き込まれそうになるのを堪え、数秒。尋常じゃない疲労感にガクっと倒れそうになった時、彼女は現れた。
魔剣士「……う、嘘だろ…!?」
さらりと靡く、魔剣士の有する魔力と同じ色で、美しく輝く黄金の長髪。
魔剣士の全身を介して具現化した彼女は、精神世界で会った以前と違い、ハッキリと映る、美しい女性の肉体を持つ。
まるで生きていたあの頃のように、血色も良く、整った顔立ちは、誰もが振り向く"エルフ族"でもひときわ目立つ、美しさ――…。
ウィッチ「……ふぅっ!」
魔剣士「やっぱりお前だったのか!!」
ウィッチ「フフッ、久しぶり魔剣士。元気にしてた?」
魔剣士「あ、あぁ……!」
エルフ族の美しき魔術師、ウィッチであった。
ウィッチ「……ここは凄い場所ね」
魔剣士「まぁ……」
魔剣士の持つ、もう一人の心"ウィッチ"の存在。彼女は二度に渡って魔剣士を救い、力を与えてきた。
彼女が亡くなってから、二度目の出現は精神世界に眠っていた彼女が目覚めたという理由があったが、今回、彼女が出現したきっかけがあるのだろうか。
魔剣士「お、おい…ウィッチ……」
ウィッチ「何?」
魔剣士「前は俺の精神世界で出てきたし、アサシンとの対峙は納得できるが……」
ウィッチ「うん」
魔剣士「今回、お前が出るような理由があったか?」
ウィッチ「理由?」
魔剣士「別に精神世界でもないし、ここは結界内だろ。現実世界に近いのに、お前、どうやって……」
そもそも、ウィッチは魔剣士の精神に宿る意識と存在であり、ここは精神世界よりも現実に近い場所。彼女が出る理由がなかった。
ウィッチ「感覚的に、ここは魔法の封印術をされた世界ね。現実に近いかもしれないけど、この全てが魔法によって成り立ってるから、そのおかげかな」
魔剣士「ははぁ、結界も魔法術の一種だからか。ここは魔法世界ってことなんだな?」
ウィッチ「……ちょっとは頭がよくなった?」
魔剣士「うっせぇ、ほっとけ!」
変わらない性格にイラっとするが、この世界でまたウィッチと会えるなんて、誰かと口を聞くことが出来るなんて、悪い気はしなかった。
魔剣士「お前とまた会えて悪い気はしないんだが、ちょっと言いたいことがある」
ウィッチ「あら、素直になったわね」
魔剣士「それは良い。それは良いんだ」
ウィッチ「うん」
魔剣士「それよりな、お前、何で…その…………」
ウィッチ「うん?」
魔剣士「いや、その、あのな……」
ウィッチ「ハッキリと言ってくれる?」
魔剣士「あの、えー……」
ウィッチ「何?」
魔剣士「だから、何で…!は、裸なんだ!?」
ウィッチ「……あっ、そういうことね」
彼女は一糸まとわず、美貌を振り撒いていた。
しかも上下左右に鏡の世界ということもあって、目のやり場に困る。本当に目のやり場に困る。
ウィッチ「所詮、精神世界の住民だから。服っていう概念がないのよ」
魔剣士「いやいやいや、でもな、前に会った時は俺の世界でも服は着用してなかったか!?」
ウィッチ「まぁいいじゃない。別に私は気にしないわよ?」
魔剣士「気にしろよ!」
ウィッチ「それとも、大人だから困ってるの?子供フォルムになったほうがいい?」
魔剣士「どっちも問題だわ!アホか!?子供フォルムって、あの幼女のだろ……。だったら大人のほうがいいわ!!」
ウィッチ「子供に興奮するっていうの?」
魔剣士「お、お前な!!どっちの裸が良いって言われて、子供だって答えてたらダメだろうが!」
ウィッチ「あ、そうねぇ…。なるほど、そうよね」
魔剣士「ったく、お前は……!」
顔をしかめて、ため息を吐く。仕方なく着用していた上着を渡すが、スタイルが良い彼女には少し小さかった。
魔剣士「うっ……!」
ウィッチ「……これはこれで、魔剣士からどう見えているのかしら」
いわゆる恥ずかしい部分は隠せたが、非常にギリギリのラインで、逆にいやらしく見える。
魔剣士は、それを着たまま小さくなれよ!と怒鳴り、彼女を幼女フォルムへと変身させて事なきを得た。
ウィッチ「ふぅむ、薄い服一枚の幼女が好きなのかお主は?」
魔剣士「違うわ!!」
ウィッチ「まー良い。ところで、魔剣士の服はどうやって一緒にこの世界に来たのじゃ?」
魔剣士「あ、そう言えば…そうだな……」
ウィッチ「それは恐らく、魔剣士の身体が魔法化していた際に衣服も同化してしまったという、アサシン戦の時のせいじゃろうな、そんなことも分からんのか、アホが!」
魔剣士「おいっ、分かってんじゃねーか!?つか、アホっつったなテメェ!?」
そういえば、彼女が幼女化すると、性格も普段より子供寄りになるのだと思い出した。
ウィッチ「それより、お主。中々大変なことになっておるようじゃのう。記憶を探ると、相当な状態のようじゃが」
魔剣士「あぁそうだよ…。くっそ、あんなことになるなら王城を全部燃やす勢いで魔法化してぶっ放せばよかったぜ……」
ウィッチ「馬鹿かお前は!そんなことをすれば、無関係な人々を巻き込むと自分で言っておったではないか!それに、それ以前にお主では無理な話じゃがな」
魔剣士「……何が無理なんだよ」
ウィッチ「力不足じゃ」
魔剣士「は?」
ウィッチ「お主の力では、無造作の魔力や魔法化をもっても、城を飲み込むほどの魔法は扱えん。イメージしても、無駄じゃということだ」
魔剣士「何だと?」
"弱いのじゃ"と遠回しに言われていることに気付き、強く肩を掴んで彼女に迫った。
魔剣士「今、お前…なんつった……?」
ウィッチ「分からんのか?」
魔剣士「……だからどういうことだよ!」
ウィッチ「そうか。じゃが、魔剣士。どうやらイラついているわけではなさそうだの?」
決して、魔剣士は"弱い"と言われたことをイラついているわけではない。どうして"弱い"のかを知りたいと、切に思ったのだ。
ウィッチ「どうやら何かを経験しているようじゃの。勿論、それは知っておるが…自分の口で言ってみい」
魔剣士「ち、地下室で魔法化した時、広い部屋だったけど部屋を覆いつくすような火炎を放って、それを上手く使えなかった。…重かったんだ」
ウィッチ「フフッ、素直で良い。本当に大人になりつつあるようじゃのう」
魔剣士「俺はどうすればいいんだ…?真にバーサーカーになれたっつーのに、魔法すら上手く使えないなんて!」
ウィッチ「勘違いするな。バーサーカーになれたとて、修練は必要じゃということだ。お主、魔法化を得て慢心していたのではないか?」
魔剣士「そ、それはだな……」
ウィッチ「強くなることに、近道などないと知っているはずだろう。いい加減、強く掴んだ肩を離さぬか。痛いぞ」
魔剣士「あ、す…すまん……!」
手を離し、苦い表情になる。
ウィッチ「それより、お主はちと不味い状況なのだと分かっているのか?」
魔剣士「何がだ?」
ウィッチ「魔剣士、お前はこの状況を理解していないな。私がいて、少し安心しているだろうが……ここは第三世界になっている。抜けることは出来んぞ」
魔剣士「……抜け出せない?」
ウィッチ「さっきまで有った"外の感覚"がいつの間にか消えている。恐らく、外側でブリレイが魔法陣を記載した紙でも消し飛ばしたのだろう」
魔剣士「はい?」
ウィッチ「入口を塞いだということだ。もしかしたら、燃やしたのかもしれん」
魔剣士「ちょっと待て、それってどういう?」
ウィッチ「出入り口が失われた。ここは永遠の陣の中、閉じ込められたというところか……」
魔剣士「嘘だろ?」
ウィッチ「いくら私でも、陣の中に生きたことは無い。私…ウィッチの記憶の意識を全てもってしても、脱出する術はない……」
魔剣士「嘘つくなって。……いや、ちょっと待て!脱出くらい、お前の知識があったら!」
再び、彼女に迫る。
魔剣士の表情を見て必死なのだと分かるが、酷なことは伝えねばならない。
ウィッチ「……かえって、私は出てこないほうが良かったかもしれんな」
"期待させてしまってゴメン"と、そう伝えた。
魔剣士「……冗談言うな!!!か、鏡だ!?封印だ!?バッカ野郎、俺はバーサーカーだぞ!こんな鏡くらいなぁ!!」
全身に魔力を込め、改めて火炎化、魔法化をしようとする。
それを見たウィッチは、「バカモノ!」と慌てて強く抱きしめ、それを止めた。
ウィッチ「何をしておる、そんなことをすれば全身が反射して、助かった意識すら吹き飛ばしてしまうぞ!!」
魔剣士「は、離せっ!!このくらい…俺の魔力で全部吹き飛ばせば外の世界に出れるに決まってるんだよ!!」
ウィッチ「例え発動したとしても、鏡の世界で強力な魔法を使えばどうなるのか想像もできん!!よもや、この世界を壊せば、お前の存在が消えてしまう!!」
魔剣士「そうだとしても!!」
ウィッチ「お前はまだ、生きている!それを壊すような真似をするな!!現実世界には、お前の帰りを待っている人がおるのじゃろうがっ!!」
魔剣士「な、なんっ……!!」
白姫、猛竜騎士、セージ、テイル、今までの旅で出会った全ての人間、救うべき世界の人々の笑顔が脳裏をよぎる。
魔剣士「そ、そうは言っても!!それじゃあ…どうすればいいんだよ……!」
力無く、その場で崩れ落ちる。
ウィッチ「……今はどうしようもない。下手に暴れれば自分を殺すことになる」
魔剣士「何も手段はないのか。ウィッチ、お前なら…。いつも助けてくれたアンタなら、何とかできるんじゃないか……!」
ウィッチ「すまん…。今の私でも、こればかりはどうしようもない……」
魔剣士「だったらやっぱり、一撃で壊せるかどうかを試したほうがいいんじゃないのか……」
ウィッチ「最終手段として取っておけ。まだ、救いの手がないわけではない」
魔剣士「救いの手だ……?」
ウィッチ「万に一つじゃが、仕組みがそうだとすれば、可能性はゼロではない」
魔剣士「何だ、どういうことだ……」
ウィッチは崩れた魔剣士に背中をつけて、チョコンと座る。
ウィッチ「陣とは、普通は単体で存在するものじゃが、二枚を同じモノで描けば、それは二つで一つになる」
魔剣士「何…?」
ウィッチ「陣は普通、絵具のようなものを利用して描く。もし、お前の闇魔力を吸収した黒魔石を砕いて混ぜた絵具で生成されたものだというのなら……」
魔剣士「……なら?」
ウィッチ「同じ意味を持つ魔力、二つで一つの陣になる。つまり、別の場所で"出入り口"がつくられる可能性があるということじゃ」
魔剣士「何だって!?ほ、本当か!?」
脱出できるかもしれないという希望が出たことに、魔剣士は嬉しそうに返事をした。
ウィッチ「そもそも、セージというのも私から言わせてもらえばアホじゃがの。魔剣士の実験の時、地下実験場で白魔石と黒魔石の反射から今回の陣を考えついたんだろうが、私に言わせてみれば遅い限りじゃ」
魔剣士「そういや、地下実験室で俺の魔法が無効化されてたな。俺の力的に、あの時よりも別次元な魔法を持ってるとは思ったんだが、まさか俺自身が封印されちまうとは……」
ウィッチ「ふむ、もしかすると闇魔力が廃れた理由もそれかもしれんぞ」
魔剣士「ほう?」
ウィッチ「もしかするとバーサーカーという存在は、こういった陣に囚われたという理由もあるかもしれんということだ。むろん、人が犠牲がために禁則としている影響が大半じゃろうがな」
魔剣士「それが本当だとしたら……」
ウィッチ「考えたくないことだが、今もこういった世界が点々とし、永遠に生きている人間がいるやもしれん。私とお主のように、二人きりで、二度と開かぬ扉を待ち続け、死ぬこともない、永遠の中に……」
魔剣士「……こ、怖いこと言うなよ。俺は脱出する気しかないんだからよ!」
ウィッチ「そうじゃな。私とて、この空間から出ればお主の身体に再び宿るだけじゃからな」
魔剣士「あぁ……」
とにもかくにも、ウィッチの言うそれが真実であることを期待するばかり。
もちろん、この時にも現実世界では猛竜騎士がブリレイと対峙していることは重々承知していたが、今は彼らを信じる他はない。
………
…
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―――姿を消した魔剣士。
だが、猛竜騎士も白姫も諦めることはなかった。
「…」
いつでも、どんなことがあっても、魔剣士は帰ってきてくれたから。
「…」
―――きっと、助けてくれるから。
今も、ずっと、これからも、そうなんだって、願ってる。
「…」
彼を信じる者がいるのに。
「…」
彼は、死んだのだろうか。
「…」
いいや、違う。
「…」
生きている。
「…」
生きてはいる。
しかし、砂国の時のような、精神世界ではない。
「…」
彼は今、無限の世界に意識を囚われていた。
「…っ」
意識はある。目覚めている。
「俺……ぁ……」
口は動く。
視界はフラッシュして歪むばかりだが、何とか生きていることは分かる。
「い……き…て……」
生きていても、ここがどこなのかすら分からない。
身体の感覚すらない。
「ぅ…で……、あ…し……、ゆび…………?」
少しでも油断すると、意識が飛ばされそうになる。
「だ……め…だ……。ち…が……ぅ……!」
光に飲み込まれたことは覚えている。
ブリレイが陣から放った何かで、光の中に飲み込まれた。
「だ……たら…!」
だとすれば、ここは陣の中。結界陣に囚われたのか。
「そ…ぅか……!」
魔法化した全身を飲み込まれ、無限の中に自分はいる。
意識が混沌する中、忘れまいと、自分を思い出す。忘れてはならない。
「俺…ぁ……、忘れ…ない……!」
ここで、諦めて、忘れてしまったら。自分は完全に消えてしまうに違いない。
それは許されない。許さない。許すわけがない……!
「おれ…は……!俺は…、俺はっ…!!」
―――俺は。
俺は、魔剣士なのだと。ハッキリ言い聞かせた。
魔剣士「俺は、俺だっ!!!ハッキリしやがれ、俺の身体、俺の意識、俺の全てよォォォッ!!」
"バシュンッ!!"
音をたて、眩いばかりの光が視界を奪う。
それは一瞬の出来事で、目が眩んだと思えば、次の瞬間には、一瞬のうちに出来上がった地に足を付けていた。
魔剣士「はぁ…はぁっ……!はぁっ……!!」
本気で息があがったのはいつぶりだろうか。
思った以上に、身体には負担がかかっていたらしい。
魔剣士「ここは…、どこだ……。腕は動く、足もある。指も……」
生きている。全身に怪我はなく、しっかりと動く。
魔剣士「ふぅ、ふぅ……!ここは…、どこだ……!」
周囲は明るく、風景、様子を伺うことが出来た。
かなり広めの空間のうえ、辺りには重ね鏡が無限大に広がっていて、自分の姿が遥か向こう側まで見える。
魔剣士「広っ……」
とにかく広い。天井はかなり遠いし、どこを見渡しても鏡、鏡、鏡。鏡ばかり。
自分が無造作に映り込み、少しばかり気持ちが悪い。
魔剣士「参った、ここはブリレイの野郎がいってた陣の中…。闇魔法をも閉じ込めるっつってた世界か……」
全身が魔法化していた魔剣士は、陣の中に身体ごと封印されたらしい。
魔剣士「……どうやって出るんだ。陣の中っつってたし、壊せたりしねぇのかな…」
"ググッ"と腕に炎を込めて、横の鏡へ適当に放つ。
すると、それは思いもがけない動きをする。
魔剣士「ぬぁっ!!?」
鏡に反射した炎は、自分を目がけ反射してきたのだ。
危うくそれを回避した魔剣士は、まさかと思って振り向いた時には、既に反対にあった鏡に反射した炎が返ってくる。
魔剣士「うぉぉおっ!!」
直線状にビュンビュンと反射し続ける炎。その線上から回転して脱出し、その動向を探った。
魔剣士「こ、これどうなるんだ……」
鏡に反射、反射、反射。幾重にも反射し続ける魔法は、徐々に小さくなっていく。
魔剣士(いや、小さくなるというか……)
それは重ね鏡の効果だった。
無限大に映る鏡同士に、一枚、一枚と奥の鏡に反射し、それを繰り返した炎は、鏡の向こう側へと消えて行った。
魔剣士「……何度も反射を繰り返して、抜けることが出来なくなるって仕組みか」
魔剣士は気づいていなかったが、彼は幸いだった。肉体が魔法化しているということは、先ほどまで魔剣士の身体も同じ状態で、精神という存在で闇魔力が引き寄せられ、思念体として復活したということである。
魔剣士「…」
先ほどまで、全てを忘れそうになっていた原因は、肉体と精神が無限の鏡に消えようとしていた為である。何とか強い精神力のおかげで、魔剣士は意識と記憶を取り戻したのだった。
魔剣士「俺も魔法化したら、無限の鏡に全身が消えちまうのか…。やれ、どうすりゃいいんだ……」
こうしている間にも、現実では猛竜騎士たちが戦っているはず。
早く脱出の方法を考えなければならなかった。
魔剣士「つっても…。なんか、毎回変な世界に囚われてる気がするんだよなぁ……」
自分の精神世界を2度、今回に限っては陣の別世界。
その度にレベルアップをしてきたが、今回ばかりはそうもいかない気がする。
魔剣士「はぁ……」
さすがに慣れたのか、どっしりと腰を下ろして胡坐を組む。
頭をかいて、とりあえず落ち着く。
魔剣士(誰の助けも無い。自分で考えるしかない。…ここが陣の世界だとしたら、俺はまだ魔法化した状態だってことだろう)
陣はあくまでも対魔結界で、囚われているということは魔法化の状態である。
魔剣士(つっても、下手にぶっ放したら鏡に消えちまう。物理的に何か出来るっつったら……)
軽く腕を上げて、地の鏡を"ゴツン!"と叩く。だが、割れる様子はない。
魔剣士(厚いのか、それとも俺が魔法化している状態だから意味がないのか。どちらにしろ、脱出するためには鏡を何とかせにゃ……)
考えど考えど、答えは出ない。
幾度も叩くがヒビすら入らず、どうしたものかと唸っていると、ふいにどこか遠くから声が聞こえた気がした。
魔剣士(……ん?)
ハっとして辺りを見回すが、誰の気配もない。
幻聴でもしたものかと思ったが、その声は次第に大きくっていった。
魔剣士(な、何の声だ。マジに幻聴…じゃないと信じたいな。だけど、俺以外にこの世界にいる奴なんて……。つーか、この声って……)
目を閉じ、その声がどこから聞こえているのか探る。すると、この声は鏡の世界から響いているわけではないと気付く。
魔剣士(この声……俺の中……?)
違う、これは"自分の中"から聞こえているのだ。
魔剣士(俺の中で、誰かがいる?誰かが叫んで……)
誰の声なのか。
魔剣士(……俺の中で?まさか、いや…!)
自分の中いる、もう一つの心の存在を知っている。何度も助けてくれた、彼女の心。
魔剣士「この声、アンタなのか!?」
"彼女"を意識した瞬間、魔剣士の全身が黄金色に輝く。
それは鏡に反射して消えそうになるが、魔剣士は必死にイメージを強く、意識を保った。
魔剣士「くっ…!?」
全身が歪み、引き込まれそうになるのを堪え、数秒。尋常じゃない疲労感にガクっと倒れそうになった時、彼女は現れた。
魔剣士「……う、嘘だろ…!?」
さらりと靡く、魔剣士の有する魔力と同じ色で、美しく輝く黄金の長髪。
魔剣士の全身を介して具現化した彼女は、精神世界で会った以前と違い、ハッキリと映る、美しい女性の肉体を持つ。
まるで生きていたあの頃のように、血色も良く、整った顔立ちは、誰もが振り向く"エルフ族"でもひときわ目立つ、美しさ――…。
ウィッチ「……ふぅっ!」
魔剣士「やっぱりお前だったのか!!」
ウィッチ「フフッ、久しぶり魔剣士。元気にしてた?」
魔剣士「あ、あぁ……!」
エルフ族の美しき魔術師、ウィッチであった。
ウィッチ「……ここは凄い場所ね」
魔剣士「まぁ……」
魔剣士の持つ、もう一人の心"ウィッチ"の存在。彼女は二度に渡って魔剣士を救い、力を与えてきた。
彼女が亡くなってから、二度目の出現は精神世界に眠っていた彼女が目覚めたという理由があったが、今回、彼女が出現したきっかけがあるのだろうか。
魔剣士「お、おい…ウィッチ……」
ウィッチ「何?」
魔剣士「前は俺の精神世界で出てきたし、アサシンとの対峙は納得できるが……」
ウィッチ「うん」
魔剣士「今回、お前が出るような理由があったか?」
ウィッチ「理由?」
魔剣士「別に精神世界でもないし、ここは結界内だろ。現実世界に近いのに、お前、どうやって……」
そもそも、ウィッチは魔剣士の精神に宿る意識と存在であり、ここは精神世界よりも現実に近い場所。彼女が出る理由がなかった。
ウィッチ「感覚的に、ここは魔法の封印術をされた世界ね。現実に近いかもしれないけど、この全てが魔法によって成り立ってるから、そのおかげかな」
魔剣士「ははぁ、結界も魔法術の一種だからか。ここは魔法世界ってことなんだな?」
ウィッチ「……ちょっとは頭がよくなった?」
魔剣士「うっせぇ、ほっとけ!」
変わらない性格にイラっとするが、この世界でまたウィッチと会えるなんて、誰かと口を聞くことが出来るなんて、悪い気はしなかった。
魔剣士「お前とまた会えて悪い気はしないんだが、ちょっと言いたいことがある」
ウィッチ「あら、素直になったわね」
魔剣士「それは良い。それは良いんだ」
ウィッチ「うん」
魔剣士「それよりな、お前、何で…その…………」
ウィッチ「うん?」
魔剣士「いや、その、あのな……」
ウィッチ「ハッキリと言ってくれる?」
魔剣士「あの、えー……」
ウィッチ「何?」
魔剣士「だから、何で…!は、裸なんだ!?」
ウィッチ「……あっ、そういうことね」
彼女は一糸まとわず、美貌を振り撒いていた。
しかも上下左右に鏡の世界ということもあって、目のやり場に困る。本当に目のやり場に困る。
ウィッチ「所詮、精神世界の住民だから。服っていう概念がないのよ」
魔剣士「いやいやいや、でもな、前に会った時は俺の世界でも服は着用してなかったか!?」
ウィッチ「まぁいいじゃない。別に私は気にしないわよ?」
魔剣士「気にしろよ!」
ウィッチ「それとも、大人だから困ってるの?子供フォルムになったほうがいい?」
魔剣士「どっちも問題だわ!アホか!?子供フォルムって、あの幼女のだろ……。だったら大人のほうがいいわ!!」
ウィッチ「子供に興奮するっていうの?」
魔剣士「お、お前な!!どっちの裸が良いって言われて、子供だって答えてたらダメだろうが!」
ウィッチ「あ、そうねぇ…。なるほど、そうよね」
魔剣士「ったく、お前は……!」
顔をしかめて、ため息を吐く。仕方なく着用していた上着を渡すが、スタイルが良い彼女には少し小さかった。
魔剣士「うっ……!」
ウィッチ「……これはこれで、魔剣士からどう見えているのかしら」
いわゆる恥ずかしい部分は隠せたが、非常にギリギリのラインで、逆にいやらしく見える。
魔剣士は、それを着たまま小さくなれよ!と怒鳴り、彼女を幼女フォルムへと変身させて事なきを得た。
ウィッチ「ふぅむ、薄い服一枚の幼女が好きなのかお主は?」
魔剣士「違うわ!!」
ウィッチ「まー良い。ところで、魔剣士の服はどうやって一緒にこの世界に来たのじゃ?」
魔剣士「あ、そう言えば…そうだな……」
ウィッチ「それは恐らく、魔剣士の身体が魔法化していた際に衣服も同化してしまったという、アサシン戦の時のせいじゃろうな、そんなことも分からんのか、アホが!」
魔剣士「おいっ、分かってんじゃねーか!?つか、アホっつったなテメェ!?」
そういえば、彼女が幼女化すると、性格も普段より子供寄りになるのだと思い出した。
ウィッチ「それより、お主。中々大変なことになっておるようじゃのう。記憶を探ると、相当な状態のようじゃが」
魔剣士「あぁそうだよ…。くっそ、あんなことになるなら王城を全部燃やす勢いで魔法化してぶっ放せばよかったぜ……」
ウィッチ「馬鹿かお前は!そんなことをすれば、無関係な人々を巻き込むと自分で言っておったではないか!それに、それ以前にお主では無理な話じゃがな」
魔剣士「……何が無理なんだよ」
ウィッチ「力不足じゃ」
魔剣士「は?」
ウィッチ「お主の力では、無造作の魔力や魔法化をもっても、城を飲み込むほどの魔法は扱えん。イメージしても、無駄じゃということだ」
魔剣士「何だと?」
"弱いのじゃ"と遠回しに言われていることに気付き、強く肩を掴んで彼女に迫った。
魔剣士「今、お前…なんつった……?」
ウィッチ「分からんのか?」
魔剣士「……だからどういうことだよ!」
ウィッチ「そうか。じゃが、魔剣士。どうやらイラついているわけではなさそうだの?」
決して、魔剣士は"弱い"と言われたことをイラついているわけではない。どうして"弱い"のかを知りたいと、切に思ったのだ。
ウィッチ「どうやら何かを経験しているようじゃの。勿論、それは知っておるが…自分の口で言ってみい」
魔剣士「ち、地下室で魔法化した時、広い部屋だったけど部屋を覆いつくすような火炎を放って、それを上手く使えなかった。…重かったんだ」
ウィッチ「フフッ、素直で良い。本当に大人になりつつあるようじゃのう」
魔剣士「俺はどうすればいいんだ…?真にバーサーカーになれたっつーのに、魔法すら上手く使えないなんて!」
ウィッチ「勘違いするな。バーサーカーになれたとて、修練は必要じゃということだ。お主、魔法化を得て慢心していたのではないか?」
魔剣士「そ、それはだな……」
ウィッチ「強くなることに、近道などないと知っているはずだろう。いい加減、強く掴んだ肩を離さぬか。痛いぞ」
魔剣士「あ、す…すまん……!」
手を離し、苦い表情になる。
ウィッチ「それより、お主はちと不味い状況なのだと分かっているのか?」
魔剣士「何がだ?」
ウィッチ「魔剣士、お前はこの状況を理解していないな。私がいて、少し安心しているだろうが……ここは第三世界になっている。抜けることは出来んぞ」
魔剣士「……抜け出せない?」
ウィッチ「さっきまで有った"外の感覚"がいつの間にか消えている。恐らく、外側でブリレイが魔法陣を記載した紙でも消し飛ばしたのだろう」
魔剣士「はい?」
ウィッチ「入口を塞いだということだ。もしかしたら、燃やしたのかもしれん」
魔剣士「ちょっと待て、それってどういう?」
ウィッチ「出入り口が失われた。ここは永遠の陣の中、閉じ込められたというところか……」
魔剣士「嘘だろ?」
ウィッチ「いくら私でも、陣の中に生きたことは無い。私…ウィッチの記憶の意識を全てもってしても、脱出する術はない……」
魔剣士「嘘つくなって。……いや、ちょっと待て!脱出くらい、お前の知識があったら!」
再び、彼女に迫る。
魔剣士の表情を見て必死なのだと分かるが、酷なことは伝えねばならない。
ウィッチ「……かえって、私は出てこないほうが良かったかもしれんな」
"期待させてしまってゴメン"と、そう伝えた。
魔剣士「……冗談言うな!!!か、鏡だ!?封印だ!?バッカ野郎、俺はバーサーカーだぞ!こんな鏡くらいなぁ!!」
全身に魔力を込め、改めて火炎化、魔法化をしようとする。
それを見たウィッチは、「バカモノ!」と慌てて強く抱きしめ、それを止めた。
ウィッチ「何をしておる、そんなことをすれば全身が反射して、助かった意識すら吹き飛ばしてしまうぞ!!」
魔剣士「は、離せっ!!このくらい…俺の魔力で全部吹き飛ばせば外の世界に出れるに決まってるんだよ!!」
ウィッチ「例え発動したとしても、鏡の世界で強力な魔法を使えばどうなるのか想像もできん!!よもや、この世界を壊せば、お前の存在が消えてしまう!!」
魔剣士「そうだとしても!!」
ウィッチ「お前はまだ、生きている!それを壊すような真似をするな!!現実世界には、お前の帰りを待っている人がおるのじゃろうがっ!!」
魔剣士「な、なんっ……!!」
白姫、猛竜騎士、セージ、テイル、今までの旅で出会った全ての人間、救うべき世界の人々の笑顔が脳裏をよぎる。
魔剣士「そ、そうは言っても!!それじゃあ…どうすればいいんだよ……!」
力無く、その場で崩れ落ちる。
ウィッチ「……今はどうしようもない。下手に暴れれば自分を殺すことになる」
魔剣士「何も手段はないのか。ウィッチ、お前なら…。いつも助けてくれたアンタなら、何とかできるんじゃないか……!」
ウィッチ「すまん…。今の私でも、こればかりはどうしようもない……」
魔剣士「だったらやっぱり、一撃で壊せるかどうかを試したほうがいいんじゃないのか……」
ウィッチ「最終手段として取っておけ。まだ、救いの手がないわけではない」
魔剣士「救いの手だ……?」
ウィッチ「万に一つじゃが、仕組みがそうだとすれば、可能性はゼロではない」
魔剣士「何だ、どういうことだ……」
ウィッチは崩れた魔剣士に背中をつけて、チョコンと座る。
ウィッチ「陣とは、普通は単体で存在するものじゃが、二枚を同じモノで描けば、それは二つで一つになる」
魔剣士「何…?」
ウィッチ「陣は普通、絵具のようなものを利用して描く。もし、お前の闇魔力を吸収した黒魔石を砕いて混ぜた絵具で生成されたものだというのなら……」
魔剣士「……なら?」
ウィッチ「同じ意味を持つ魔力、二つで一つの陣になる。つまり、別の場所で"出入り口"がつくられる可能性があるということじゃ」
魔剣士「何だって!?ほ、本当か!?」
脱出できるかもしれないという希望が出たことに、魔剣士は嬉しそうに返事をした。
ウィッチ「そもそも、セージというのも私から言わせてもらえばアホじゃがの。魔剣士の実験の時、地下実験場で白魔石と黒魔石の反射から今回の陣を考えついたんだろうが、私に言わせてみれば遅い限りじゃ」
魔剣士「そういや、地下実験室で俺の魔法が無効化されてたな。俺の力的に、あの時よりも別次元な魔法を持ってるとは思ったんだが、まさか俺自身が封印されちまうとは……」
ウィッチ「ふむ、もしかすると闇魔力が廃れた理由もそれかもしれんぞ」
魔剣士「ほう?」
ウィッチ「もしかするとバーサーカーという存在は、こういった陣に囚われたという理由もあるかもしれんということだ。むろん、人が犠牲がために禁則としている影響が大半じゃろうがな」
魔剣士「それが本当だとしたら……」
ウィッチ「考えたくないことだが、今もこういった世界が点々とし、永遠に生きている人間がいるやもしれん。私とお主のように、二人きりで、二度と開かぬ扉を待ち続け、死ぬこともない、永遠の中に……」
魔剣士「……こ、怖いこと言うなよ。俺は脱出する気しかないんだからよ!」
ウィッチ「そうじゃな。私とて、この空間から出ればお主の身体に再び宿るだけじゃからな」
魔剣士「あぁ……」
とにもかくにも、ウィッチの言うそれが真実であることを期待するばかり。
もちろん、この時にも現実世界では猛竜騎士がブリレイと対峙していることは重々承知していたが、今は彼らを信じる他はない。
………
…
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