魔剣士「お姫様の家出に付き合うことになった」【現在完結】

Naminagare-波流-

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第九章【セントラル】

9-18 幻惑

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―――3時間後。
夕方になって陽が落ち始めた頃、"コンコン"と自宅の戸を叩く音。
猛竜騎士が玄関に出ると、そこに居たのは王城の兵士服を身に纏ったブリレイであった。

ブリレイ「大変お待たせ致しました、猛竜騎士さん」
猛竜騎士「ブリレイ…!」
ブリレイ「上がってもよろしいでしょうか。少し王城の服に着替えたので、不快かもしれませんが……」
猛竜騎士「……いや、構わないさ。入ってくれ」

猛竜騎士は居間へと案内し、ソファに座る魔剣士と白姫の二人の隣へ腰を下ろした。

魔剣士「ブリレイ!」
白姫「ブリレイさん!」
ブリレイ「魔剣士さん、白姫さん。どうぞこの服装で気を悪くしないようお願い致します、少し事情がありまして……」
魔剣士「……別に関係ねーよ」
ブリレイ「ありがとうございます。それと、選考会に顔出しをしようと思ったら終了したあとで…。大変申し訳ありませんでした」
魔剣士「それも別に良いよ。普通に受かったしな」
ブリレイ「おぉ、それはおめでとうございます!……いえ、最低限の話なので褒めるのもどうかとは思いますが」
魔剣士「あーいいよいいよ。ってかさ、王と会ってきたのか?」
ブリレイ「えぇ、勿論ご挨拶に伺いましたよ。ハイル王に、王室にて……」
白姫「……っ!」

一年近く顔を合わせず、敵対する父親に会った男が目の前にいる。自然に表情は硬くなる。

猛竜騎士「それで、どうだったんだ?」
ブリレイ「久々のご挨拶でしたが、一部始終をお話し致します。お時間は宜しいでしょうか……?」
猛竜騎士「問題ない。是非、一字一句漏らさないように…頼んだ」
白姫「…」
魔剣士「…」
ブリレイ「承知致しました。それでは……」

ハイル王の今について、それは真か偽か、話は始まった。
その間、猛竜騎士は彼から目を離さず、真実を見抜く様、精神の全てを集中した。

………


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――3時間前。
話は、ブリレイが王のもとへ訪れた所から始まる。

ハイル「……して、シュトライトよ」
ブリレイ「はい」
ハイル「お前の得た情報を伝えるが良い。本日晩から研究のほうにも参加してもらう」
ブリレイ「心得ております。セージ様より、闇魔法の新たな研究結果についていくつかお伝えするように…と」
ハイル「そうか…。それで……だ」
ブリレイ「はい」

"ごほん"と咳き込むと、扉の裏側から足音が一瞬したかと思うと、すぐに消えた。何も言わずとも、これ以降の話は誰に聞かせるわけにはいかないという合図なのだろう。

ハイル「お前に朗報だ。闇魔法は完成し、既に術者の技術は高いものとなっている」
ブリレイ「ついにですか……」
ハイル「うむ、だが…その男は変なことを申していてな。それが気がかりであって、優秀たるお前に聞こうと思っていた」
ブリレイ「優秀……、そんなことは。しかしお話しは聞かせて下さいますか?」
ハイル「……闇魔法。その神髄は一つか?」
ブリレイ「と、申しますと?」
ハイル「会得者の男は、感覚的に"バーサーカー"と呼ぶには無造作たる魔力、人とは違う魔力以上に感じる何かがあると言っていた。その可能性は、あるのか……」
ブリレイ「まさか第二段階があると?」
ハイル「そうかもしれぬし、そうではないかもしれぬ。しかし、その感覚は本人にしか分からぬところだろう」
ブリレイ「……ふむ、なるほどですね」

元々強者であるブレイダーの感覚は、信じるに値する。

ブリレイ「……そのようであれば、ハイル王」
ハイル「何だ」
ブリレイ「我が国の闇魔法の研究において、不思議な現象の論文を拝見したことがあります」
ハイル「それは何だ?」
ブリレイ「術者の失敗の際、耐えられなくなった身体は魔力に砕け散ります。その時、近くにあった魔力回復剤の液体が…ただの水になったという結果がありました」
ハイル「ただの水に?」
ブリレイ「最も、ただの実験による謎の現象と気に留めませんでしたが、もしその会得者の仰っていることが本当ならば……、無造作たる魔力には進化論が存在することになるやもしれません」
ハイル「進化論か……」

ブリレイは考える様子で、顎に手を当てて険しい顔を見せる。

ブリレイ「そもそも魔法とは、体内で具現化するもの。属性を転換し魔力に融合させ、放出する。……一般的に動植物に宿る魔力は、全て変わりないものです」
ハイル「ふむ…そうだな。全ての生ける者の魔力の成分は等しいということだな」
ブリレイ「えぇ、ですが闇魔力を保持したものは"別の次元"の魔力であり、干渉は出来ても同一であるかと言われれば…"ノー"でしょう」
ハイル「それは知っている」
ブリレイ「だとすれば、ここで出てくるのはその水となった存在。もしこれが闇魔法の影響ならば……」
ハイル「影響ならば、どうなる」
ブリレイ「影響だとすれば、すれば…。そう、ですね……」

下を向き、少し唸ったあと、腕を組んで深く考える様子、だがすぐにハっとした様子で顔を上げるが、再び考えるような表情に戻る。

ブリレイ「……いえ、やはり安易なことは研究者として申し上げられません。少しだけお時間を頂いてもいいでしょうか」
ハイル「ワシの答えにすぐ回答が出せないというのか?」
ブリレイ「恐れ入りますがこればかりは。今の僕にとって、研究者としての血ですから…ご容赦いただけませんか?」
ハイル「フッ、お前らしい。ワシに対してその態度を取れるのはお前くらいだ……。しかしすぐに結論結果を出せないことや、行動を起こせないのは…まるで"昔と逆"だな」
ブリレイ「年を取ったのでしょうか、ハハ……」
ハイル「ワシも老いは感じておる。だからこそ急いでおるのだ。……この計画をな」
ブリレイ「存じております。クロス騎士団のことですね」
ハイル「今は十字軍、クロスの名ではない。クロイツ騎士団、ワシのハイルと共に全てを支配するための名だ」
ブリレイ「大きい夢を叶えたものです。豪運もなければ、今日ということはなかったでしょうね」
ハイル「……クク、運だと?それは違うな」
ブリレイ「はて……」
ハイル「ワシはワシの実力で手に入れたのだ。運に頼ったことなどないのだ、ワシはワシをもって全てを手に入れるだけのこと……」
ブリレイ「ハイル王……」
ハイル「いや、それとも豪運がワシに着いてきているだけのことかもしれんがな。ハハハッ!!」

両手を大きく拡げ、高笑いを見せるハイル王。実力で手に入れた力は、人の命と尊厳を奪うために。その姿は、さながら覇王そのものだった。

ブリレイ「……フフ、その野望のために僕も精いっぱい尽くしますよ」
ハイル「期待しておるぞ」
ブリレイ「もちろんです。それでは、今宵の準備ために市場へ出向きます。選考会にも興味があるので」
ハイル「おぉ、今回は最後の選考会故にその実力も高い者が多いとリッターが言っておったな」
ブリレイ「それは楽しみですね」
ハイル「うむ…。それでは夜に、待っておるぞ」
ブリレイ「えぇ、是非」
ハイル「フハハ…、ついにワシの世界が来るのだ。本当に、全てを手に入れた世界が……!」
ブリレイ「そうですね。それでは、失礼いたします……」
ハイル「フハハハッ、ハハハハハッ……!!」

笑いが止まらないハイルに背を向け、ブリレイは王室から出て行ったのだった。

………


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――そして、現在に戻る。
ブリレイの話に、真剣に耳を傾けていた三人は、今にも何かを怒鳴ろうとばかりに姿勢を取る。。
しかし、掌を三人へ向けたブリレイは「お待ちください」と首を振る。

ブリレイ「落ち着いてください。それぞれお話ししたいことは分かります。ですが、僕はどこかの有名な同時に話を聞ける法師などではありませんので…とにかく本当に、まずは落ち着いてください」

白姫「王のことは……」

魔剣士「ちっ…」

猛竜騎士「ブリレイ…、お前は……」

三人が投げたい問いの断片を漏らす。ブリレイはそれを基にして、白姫、魔剣士、猛竜騎士の順に回答を始めた。

ブリレイ「……まず、白姫さん」
白姫「は、はい」
ブリレイ「ハイル王はご健在です。しかし、話の通りで少しばかり元気が良すぎます。それを止めること、改めて認識下さい」
白姫「……はいっ」
ブリレイ「貴方にはこれ以上の言葉は必要ないはずです。全てを分かってのうえでの覚悟、常に保てるように……」
白姫「覚悟、分かっています。大丈夫です!」
ブリレイ「えぇ、その気合いこそあれば」

にこりと笑い、軽くお辞儀すると、続いて魔剣士に向く。

ブリレイ「それで、魔剣士さん……」
魔剣士「……気にくわねーぞ。テメェ、何を隠してやがった」
ブリレイ「話に出てきたことですね。そうです、僕はハイル王とは昔から知り合いのようなものでした」
魔剣士「どうして黙ってた。さっきのカフェでの出来事で、アンタも覚悟を決めて世界を救うって決めてたと思ったのによ…、そんな大事なことを!」
ブリレイ「……お待ちください」

手を前方に、「黙ってください」の合図。

魔剣士「ンだコラ……!」
ブリレイ「そしたら、僕の全てを信用しましたか?」
魔剣士「何だと!?」
ブリレイ「敵を欺くには味方から。もし僕が船の時点で"ハイル王と顔馴染みだから情報を得やすかった"と言ったら…信用してくれましたか?」
魔剣士「そ、それはだな……!」
ブリレイ「無理をなさらず、それは有り得ないことです。そんな話を聞かせられたら、僕が魔剣士さんの立場なら絶対に信用しなかった」
魔剣士「…」
ブリレイ「僕があなた方に虚をついたことはありますか?情報が間違っていましたか?」
魔剣士「そりゃ、船のハンターを倒してくれたこともあったし、騎士団も…仮面のことも……あったけどよ……」
ブリレイ「……裏切りと思われたくはありませんでした。だから黙っていたんです」
魔剣士「裏切りって、そりゃ……」
ブリレイ「お願い致します。次に猛竜騎士さんにお話しをすることに、真実を見出しては頂けませんか」
魔剣士「……ちっ」

彼の細目がハッキリと開く。どうにもこうにも、この雰囲気の時だけは圧倒的なオーラを放っているようで丸めこまれる。

ブリレイ「……では、猛竜騎士さん」
猛竜騎士「ブリレイ……」
ブリレイ「貴方のお聞きしたいことは、僕の過去と闇魔法の知り得る限りの情報について。…違いますか」
猛竜騎士「その通りだ」
ブリレイ「……簡単ですが、お話しさせていただきます」
猛竜騎士「あぁ」
ブリレイ「僕は若い頃、セントラルに訪れた際にまだ若かったハイル王の命を救ったことがあるんです」
猛竜騎士「何…」
ブリレイ「周辺に生息するワーウルフ、それの変異型によって襲われた王に、たまたま通りかかった僕が救った。それ以来、懇意にさせていただいておりました」
猛竜騎士「……そうなのか」
ブリレイ「えぇ、それでですね……」

そこから猛竜騎士に対して、ブリレイは出会い後の話、闇魔法おける闇魔法の進化について完璧な持論を持ち合わせていたことに驚いたが、実際にはほとんどここからの話は……。

―――頭に入ってこなかった。

猛竜騎士は、どうしても不思議な点に気付きてしまう。あのセージが、情報を知らないわけも無し、彼をハイルの懇意だった彼をどうして派遣させているのか。いくら立場的に利用せざるを得ないとはいえ、そんな危険なことをするのだろうか。また、気になったのは"ハイル王"という呼び名だった。

猛竜騎士(セージがこんな男を派遣するものだろうか。いや、それ以上にこの男の"ハイル王"とした呼び名がすんなりと、今も問題なく出ていること……)

白姫が反応を見せない以上、彼が本心でしゃべっていることは分かる。だが、真実を見抜きすぎる彼女の眼は、もしかすると別次元であって彼の考えの向こう側まで見えているのかもしれない。

猛竜騎士(……これが役者だったとしたら大したものだが、完璧所以のミス。何もかもすんなりと話しをできるが故のミスだとすれば…!?)

その結論を出した時、気付けばブリレイとの会話はとっくに終わり、夜を迎えていた。

………


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――その夜、20時。
久々の"自宅"で料理を楽しんだ猛竜騎士は、満腹になって休憩を取る二人に自分の出した結論を話し始める。
ブリレイは夜に実験のため王城へと戻っており、遠慮なくそれを伝えることが出来たのは幸いで、また、白姫はそこでようやく"ブリレイの裏切りの可能性"を知った。

白姫「……嘘ですよね?」
猛竜騎士「持論も含めたが、恐らくブリレイは何かまだ大きなものを隠している。下手をすれば、彼を派遣しているセージも怪しむレベルの話だ」
白姫「でも、私はあの人に変な感情も見えないです…。冒険者の村でも優しくしてくれてたのに……!」
猛竜騎士「これが真実なのは間違いない。だが、謎はまだ多く…すべての真偽は闇の中だ」

ブリレイの裏切りの可能性、過去の記録は知っているであろうセージが何故に彼を派遣しているのか。しかし、態度から全てを判断するには危険過ぎる。

魔剣士「……はァーん?どっちみち、俺がハイルと隠れてる闇魔法の使い手を倒せば全ては終わるんだろ?」
猛竜騎士「それはそうだろうが、もしこの計画が全てバレていたら?」
魔剣士「今頃、俺らは敵に囲まれてるかもな」
猛竜騎士「……あぁ、なるほどな」
魔剣士「今はこうやって晩飯をのんびり食えたし、泳がせる理由もないし王城から騎士団の面子が襲って来るんじゃねー?」
猛竜騎士「お前がレベル3以上の闇魔法を会得していると知らないし、その会得者から狙われない理由はない…か」
魔剣士「そーいうこと。だけど、ブリレイを怪しまねー理由はねぇしよ…、俺らを何かの理由で襲わせていないだけかもしれない…ってのもあるのは分かってるよ」
猛竜騎士「何が真実で何が本当なんだ…!俺は少なくとも、ブリレイを信用し始めていたっていうのに!」

珍しく猛竜騎士は荒れた。

魔剣士「……待てよ。そういや…」
猛竜騎士「何だ?」
魔剣士「あのさ、ブリレイって幻惑魔法…使えるんだよな?」
猛竜騎士「そうだな」
魔剣士「だったら、セージに幻惑魔法を使ってるって理由は?俺らもそれにかかってるってことはねーの?」
猛竜騎士「幻惑魔法!……いや、待て。それは有り得ない話だ…」
魔剣士「どうしてだ?」
猛竜騎士「強力な幻惑にはそれなりの準備が必要になるし、かける"きっかけ"がいるんだ」
魔剣士「きっかけ?」
猛竜騎士「あぁ、例えばだがー…、白姫、すまないがそこにあるアカノミを取ってくれるか?」
白姫「え、あ…はいっ!」

昼間、市場から買っていたみずみずしいアカノミの袋から二つ、テーブルにごろんと置いた。

猛竜騎士「これは…、アオノミです」
魔剣士「は?」

ついにバカになったのだろうか。

猛竜騎士「……バカとか考えるなよ。見た目はアカノミだが、実はこれは青色の魔力回復効果を持つ"アオノミ"なんだ」
魔剣士「いや、アカノミですよおバカさん」
猛竜騎士「本当にそう思うか?」
魔剣士「それ以外ねーだろ」
猛竜騎士「ほう、それでは白姫。これは昼間に購入した時、何て言って買ったか覚えてるか?」
白姫「そ、それは…アカノミって言ってたと思います……」
猛竜騎士「絶対か?」
白姫「……は、はいっ!ぜ、絶対です!」

力強く答える白姫。

猛竜騎士「……それは嘘だ」
白姫「え?」
猛竜騎士「実はもう、騙されていることに気付かなかったか?」
白姫「どういうことですか?」
猛竜騎士「既にお前たちは、俺の幻惑魔法にかかっている。これがアカノミと言った時点で、アオノミの真実ではなく虚を掴まされていることに気付かないのか?」
魔剣士「……は?」
白姫「えっ!?」

魔剣士と白姫はアカノミを手に取り、まじまじと見つめた後、クンッと匂いを嗅いだ。

魔剣士「やっぱりアカノミだって、甘いような、酸っぱいような香りががっつりしてるじゃねーか!」
猛竜騎士「幻惑は五感すら奪う。外に出て聞いてみるか?これはアカノミですかと、アオノミを持ったまま情けない姿で」
魔剣士「……お、おぉ聞いてやるよ!!」
猛竜騎士「どうぞ」
魔剣士「ぬぐっ…!?」

すかさず返答。自信満々な猛竜騎士に、わずかばかり意志が揺らぐ。

魔剣士「どうしてそんな自信満々なんだよ!」
猛竜騎士「だからアオノミだと言ってるだろう。お前にはそれがアカノミだと思うのか?」
魔剣士「あぁん!?」
猛竜騎士「やれやれだ。お前たちの眼にはそう映っているのが残念だよ」
魔剣士「な、何……」
白姫「えぇ…?」

完全に心が揺らぎ始める魔剣士と白姫。……すると、ここで"パン!"と一度、猛竜騎士は両手を強く叩いた。

魔剣士「ぬおっ!?」
白姫「きゃっ!」

突然の音に驚く二人、猛竜騎士は小さく笑う。

猛竜騎士「ここで、俺が幻惑使いならお前たちはもう堕ちたと同じだ」
魔剣士「何だと!?」
白姫「ど、どういうことですか!」

わけのわからない魔剣士と白姫は、猛竜騎士へ突っかかる。

猛竜騎士「幻惑は、魔法…魔力による混濁化を生む一種。いわゆる催眠術のようなもので、まずは基本となる"主体"が必要だ。この場合は、アカノミが主体だ」
魔剣士「あ、あぁ……?」
猛竜騎士「次にいるのが"真と嘘"の二つ。この場合はこれがアカノミかアオノミかということが真と嘘になる」
白姫「は、はい…」
猛竜騎士「最後に"疑念"という深層。お前たちは一瞬でも"アオノミなのではないか"という疑念が生まれ、そこに幻惑が入る隙が生まれた」
魔剣士「……ここで幻惑魔法を使えば、俺らは堕ちたってことなのか」
猛竜騎士「ご名答だ」

猛竜騎士はテーブルにあったアカノミを掴み、そのまま"シャリッ"と食す。

猛竜騎士「更に魔法は"無詠唱"としても、その行動が必要だ。具現化する念は感じるはずだし、どこから発生させたのか分からない以上は……」
魔剣士「炎や水みたく見えるってのか?」
猛竜騎士「幻惑魔法は超クラスの技量もいるし、そんな術量ならセージや俺らで感知できないはずはない」
魔剣士「あー……」

ずっと感知し続けた猛竜騎士、疑う魔剣士、真の眼を持つ白姫、セージが幻惑に堕ちたとしてもそんな大それた魔法を使うことは出来るはずがない。

魔剣士「……だけど、だったらおかしくね?」
猛竜騎士「何がだ?」
魔剣士「この仮面だけで、人を人だと認識できないくらいに強い魔法がかかるのか?」
猛竜騎士「心理と外殻は違う。見た目は惑わすことと、内心を惑わすことは違うんだ。厳密には、といったところだが」
魔剣士「あ?」
猛竜騎士「このアカノミは見た目が赤い。それを見て"中身もアカノミ"だと人は信じる。しかし、実際に入っていたのはアオノミだった……っていうことさ」
魔剣士「む、難しくね?」
猛竜騎士「この仮面効果は、外殻のみ効果を持ちアカノミをアオノミと見せかける。だから食せばアカノミだと分かってしまう。……しかし、強力なものはアカノミを食べた人間ですらそれをアオノミだと認識させてしまうんだ」
魔剣士「あぁ!」

ようやく理解が出来た。
だが、そうすると魔剣士はあることを思い出す。

魔剣士「…っつーことは、昼間のあれも主体と真、疑念があって…外殻だけの簡易な幻惑魔法を使ったのか?……だけど、あの動きからはそんな外殻だけじゃないような…いやしかし、そんな大それた魔法使ったっけかな?具現化もしてねー気がするしなぁ……」
猛竜騎士「ん、何の話だ?」
魔剣士「んあ…、話してなかったっけ?」
猛竜騎士「何のことだ…?」
魔剣士「あー、いやさ。ちょっとしたことなんだけど、幻惑魔法でブリレイがさ……」
猛竜騎士「ふむ……」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
魔剣士は、カフェで起きた一部始終について話した。
ブリレイが幻惑魔法が得意だと知っていたが、幻惑魔法に簡易なものと準備が必要なものがあるのなら、昼間のことは辻褄が合わなかった。

魔剣士「……ってわけで、次々と人がバタバタ倒れてったんだよ。そんな視覚効果だけ変えるような簡易魔法で、人は気絶したりしないだろ?」
猛竜騎士「それは完全な内なる幻惑魔法だ。視覚なんかじゃない、全てを幻惑に見せるレベルのものだ……」
白姫「うーん、でも…その魔法は具現化する魔力が必要なんですよね?魔剣士が見てたなら、それは感知できるはずなんじゃ……?」

三人は頭を抱える。強い幻惑魔法は人にかけるのなら、準備が必要だったり何かの"きっかけ"が必須だった。

猛竜騎士「その場合、主体はブリレイになる。真か嘘は、周囲にとって彼が強いか、弱いかの二択。背後から与えた最初の一撃によって、"彼が本当は強いのではないか"そこに疑念が生まれた」
白姫「じゃあ、幻惑魔法の条件は完璧だったってことですか?」
魔剣士「条件はそろっても、発動する具現化が見当たらない。俺が見る限り、そんな手段はとってなかったし」
白姫「うーん…。ウェイトレスさんを守ったまま、突然人が倒れてったんだよね?」
魔剣士「そういうことだ。何をするわけでもなしで……」
白姫「準備もしてなかったってことは、どういうことなんだろうね?」
魔剣士「あぁ、何をどうやったんだかサッパリだよ……」

議題は完全にずれていたが、ブリレイの秘密を探ることは必須だった。

魔剣士「どうやったのかは教えてくれなかったけど、やっぱり深い秘密があるとしか思えねぇなぁ」
猛竜騎士「何もなしにそのレベルの幻惑魔法を扱えるなんて、聞いたこともない……」
魔剣士「昔は有名だったんだろ?その時から、幻惑で暴れてたんじゃないのか?」
猛竜騎士「あの時は、爆発や氷結、雷撃、あらゆる攻撃魔法でハンターの中で時代を築いていた。まさか、幻惑魔法がそこまでのレベルだったとは俺も予想外だったよ」
魔剣士「ふーん……」

考えど考えど、答えは出ない。しかし、彼が簡易に幻惑を使えるということは頭に入れることが出来た。
また、必然的にセージが既に操られている可能性や、裏切りをしている可能性も、最悪なことに急浮上してきてしまったのだが。

猛竜騎士「……まぁ、今は考えるだけ無駄か。考えは無駄にはならないが、それだけ認識するだけだいぶ違うはずだ」
魔剣士「面倒くせー展開だなホント。すんなり世界は救わせてもらえねーのかよ……」
猛竜騎士「王もそれなりの準備は進めているということだ。最悪な結果にはなりたくないが、いざとなったら犠牲を出してでも戦うことになると…出てきてしまったな……」
白姫「……っ」

ブリレイの作戦が罠だとして、王は既に我々の存在を知っているとしたら。市民を巻き込んでも、魔剣士が全力をもって戦わねばならない時が来る。

魔剣士「……あぁぁ、もうっ!何が真実で何が嘘なんだよ!!恐怖で世界を手に入れることがそんなに大事かよ、くそがっ!!」

一体何を信じればいいのか、誰が裏切りなのか、世界を救うことが出来るのか。
主体、真と嘘、疑念。まさにこの世は幻惑の限りなのだと、嫌になる。

魔剣士「ちくしょう……」
猛竜騎士「…」
白姫「…っ」

その夜、魔剣士たちは真実がどこにあるのか。真と嘘を求めて、考えながら、眠りへとおちていった。
―――深い深い疑念を持って。

…………
……


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