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第九章【セントラル】
9-19 間奏
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―――次の日。
朝食を終えた魔剣士は、朝早くにバンシィの宿を訪れる。
あまり気が進まなかったが、約束をした手前、迎えに行かないわけはいかなかった。
魔剣士「……おい、バンシィ」
"コンコン"とノックすると、中からドタドタという音、数秒後にガチャリとドアが開いて現れたのは全裸のバンシィだった。
バンシィ「おはよう、お兄ちゃん。本当に来てくれたんだ、嬉しい……」
魔剣士「……おい!?」
バンシィ「なぁに?」
魔剣士「い、いいから早く入れバカ!」
バンシィ「積極的ー……」
魔剣士「違うわ、ボケ!!」
バンシィを部屋に押し込み、急いでドアを閉めると、念の為に鍵を回した。
魔剣士「はぁ、はぁ……!焦っただろバカが!」
バンシィ「興奮しちゃってる?」
魔剣士「違う!お前な…!ってか早く服着ろ!!」
バンシィ「お兄ちゃんの本音はどっちがいい?」
魔剣士「服着ろ」
バンシィ「……面白くないなぁ」
魔剣士「面白くなくていい」
バンシィ「ちぇー…」
渋々、昨日投げ捨てた布を巻き上げ、足元から巻いていく。しかし、その手は途中で止まる。
バンシィ「……あ、お兄ちゃん」
魔剣士「何だ」
バンシィ「そこにあるのとって。ふたつ、お兄ちゃんの足元にあるやつ……」
魔剣士「あ、これか?」
床に落ちている色の違う布を二つ拾い上げた。
バンシィ「うん、ちょうだい」
魔剣士「はいはい」
ポイっとバンシィに投げると、彼女はキャッチしたあと美しい動作を描いてそれぞれ"下半身"と"上半身"を隠すように布を巻いた。
魔剣士「……おい、それって」
バンシィ「下着替わり」
魔剣士「ひ、人にそんなものを拾わせんじゃねーーっ!!」
バンシィ「…すまん」
魔剣士「おい」
バンシィ「お兄ちゃんのマネ」
魔剣士「反省していないなお前は。俺には分かるぞ」
バンシィ「それより、下着を触って興奮した?」
魔剣士「興奮しません」
バンシィ「ちぇ……」
恐らく、拾わせたのは狙ってやらせたに違いない。
バンシィ「よいしょ……」
下着の布、服用の布をきつく縛り、更にそのうえから使い古しの魔法衣を羽織る。すると、少女の姿はどこへやら、完全に男の子となったバンシィの姿があった。
魔剣士「へー、しかし上手く化けるもんだな……」
バンシィ「苦しくて嫌だよ……」
魔剣士「少しだけ緩くできないのか?」
バンシィ「それはもっと嫌だ」
魔剣士「あぁ、そうだったな…。すまないことを聞いた……」
バンシィ「…ううん、大丈夫。フランメお兄ちゃんの、そういう優しいところ好き」
魔剣士「いやいや…。普通はこういうもんだって」
バンシィ「…違う。お兄ちゃんは違うから、フランメお兄ちゃんは凄く優しいの」
魔剣士「はいはい」
バンシィ「うん。じゃあ一緒に広場にいこ…。手、繋ぐ」
伸ばされた手に、魔剣士はため息交じりで応える。
バンシィ「……あっ」
握りしめた手、バンシィは何か反応する。
魔剣士「どうした?」
バンシィ「……何でもない。それより、お兄ちゃんの手はあったかいね」
魔剣士「当然、生きてるからな」
バンシィ「ふーん、生きてるとあったかいんだ」
魔剣士「そりゃそうだろ」
バンシィ「うーん…。僕はずっと冷たいって言われてたよ。あ、でもね。あったかいって話だったら、僕の身体で……」
魔剣士「うるせぇ話すな。話したいなら聞くが、少しでも苦しいことは言わなくていい」
彼女の過去について、しゃべらせたくはない。
バンシィ「……いいの?男の人は、どんな風な目にあってきたかそういうことを言えってよく…」
魔剣士「うるせぇっつってんだろうが。そんなの言ってくる男は人間のクズだ。それにお前の手だって冷たくはねーし、しゃべってて冷たいとも思わねぇ。それだけで良い」
バンシィ「でも、良いの?僕の手は……、それに僕のことを知って本当に握ってくれるとは思わなくて……」
魔剣士「バッカヤロウ!人に握ってもらう手ほど、あったかいもんはねーさ。お前の手だって、あったけーよ」
バンシィ「フ、フランメお兄ちゃん……」
そういう風に育ってきてしまったのだ。今更仕方ないことだが、自分はお前に何も求めないと必死で伝えた。魔剣士は辛い話をさせまいと、手をより強く握りしめた。
バンシィ「お、お兄ちゃん……」
魔剣士「おっと、痛かったか?すまんな……」
バンシィ「違うよ…。お兄ちゃん、本当に僕の手を握るの嫌じゃないの…?」
魔剣士「どうしてそこまでこだわる。俺はな……」
バンシィ「人殺しの手だ、汚れた手だ、死人の手だって、みんな…触ってくれなかったから」
魔剣士「…っ」
言わなくとも、それくらいは分かっている。小さい手と少女の身体は、どれほどの傷を覚えてきたのか。
魔剣士「……フン、気にしたこともねぇ。何度も言うがな、今この時、お前の手はあったかいんだからそれで良い」
バンシィ「お兄ちゃん……」
魔剣士「それで良い」
バンシィ「……うん、ありがとう」
小さく頷き、細い声ではあったが、"ぎゅっ"と嬉しそうに手を握り返したことはハッキリと分かったのだった。
バンシィ「うーん、お兄ちゃんって分かんないなぁ」
魔剣士「何が?」
バンシィ「今まで会った人と一緒のことしても、全然喜んでくれない。何もしてないほうが、嬉しそうだから……」
魔剣士「そりゃお前、今までのことのほうがおかしいんだよ。お前が今まで……」
バンシィ「うん、今まで……?」
魔剣士「あ、えーと……」
……危ない。
"変な人間とばかり会っていた"なんて、言っていいものだろうか。ある意味、彼女の人生を否定するに等しい。出来る限り遠回しに、それを伝えるにはどうすればいいか。
魔剣士「……俺が普通だってことさ」
口が下手過ぎる。ハッキリと言ってしまった。
バンシィ「お兄ちゃんが、普通?」
魔剣士「そ、そうだ。俺こそ普通なんだよ」
バンシィ「ふーん、そうなの?」
魔剣士「そうさ」
バンシィ「へー…、じゃあ僕が会ってきたのは変な人たちだったの?」
魔剣士「そ、それは……」
バンシィ「遠慮しないでお兄ちゃん。どんどん来てよ、我慢しなくていいんだよ?」
魔剣士「その言い方をやめなさい。えーとな、まぁ…そうだな……。今までに運が悪かったっていうか……」
バンシィ「へー、じゃあ僕は運が悪くて最低な人間なんだね。生きてるだけ損なのかな?」
魔剣士「オイ、それは違う」
バンシィ「違うの?」
魔剣士は手を離さず、膝を落として、バンシィと同じ高さで目線をしっかりと合わせた。
魔剣士「誰が生きてちゃダメって理由はない」
バンシィ「……多くの人を殺してきても、いいの?」
魔剣士「良いとは言わねぇ。だがな、明日に生きるために、今日までの自分を知って、何が悪かったのか反省すればいい」
バンシィ「反省…それだけで?」
魔剣士「反省だけじゃ足りないかもしれないが、だから行動で示す。少しずつでも変わればいい。すぐには無理だとしても、生きてちゃダメなんて言って逃げるよりよっぽどマシだ」
バンシィ「でも、変わることは難しいよ」
魔剣士「難しくない。難しいと思うから難しいんだ」
バンシィ「そうなのかな…。よく分からないけど……」
魔剣士「そのうち分かる。まずはそうだな、ルールに乗っ取るからって人殺しをしちゃダメとか…そういうこととかどうだ……?」
バンシィ「人殺しをしちゃだめ?」
魔剣士「普通の考えにおいては…だがな」
バンシィ「もし殺したら、お兄ちゃんは嫌?」
魔剣士「冒険者、ハンターの経験があるなら無理には止められないさ。そういう時代なんだから。だけど、昨日みたいなことはダメだ」
バンシィ「そうなんだ…。もし同じことをしたら、お兄ちゃんは僕のこと見捨てる?」
ずるい子だ。そんなことを言われて、見捨てられるわけないだろう。いや、知ってしまった以上、何を言っても見捨てられるわけはない。
魔剣士「見捨てない。だけど、止めさせるようにはする」
バンシィ「……止めなかったら、僕のことを嫌いになる?」
魔剣士「分からん。お前の生きてきたことを考えるとそれが難しいことだって分かる。ただ、嫌いではなくとも嫌"イヤ"になるかもしれん」
バンシィ「嫌なんだ…。そっか、じゃあ止める……」
魔剣士「お?」
バンシィ「お兄ちゃんが嫌なら、止める。殺しは止める。だから嫌いにならないで、ね?」
魔剣士「……そうか」
魔剣士は微笑みを見せて、バンシィの頭を撫でてやった。
バンシィ「うー…」
魔剣士「分かってくれて嬉しいぜ、バンシィ」
バンシィ「お兄ちゃん、嬉しいの?」
魔剣士「嬉しいよ。そんじゃ、遅れる前に選考会に行くか!」
バンシィ「うん、このまま手ぇ繋いでいく。抱っこでもいいよ。好きに、どこでも触っていいよ?」
魔剣士「手をつないでいこう。あと、そういうことは言うんじゃねーぞ」
バンシィ「ちぇーっ」
手をしっかり握りしめ続ける魔剣士は、バンシィとともに広場へと向かったのだった。
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――10分後。
魔剣士とバンシィが広場に到着すると、いつの間に造られたのか、そこには立派な正方形の"リング"が建っていた。リングの周囲には、隅々に魔石が埋め込まれたポールが立ち、恐らく魔法を外部に影響させないための結界か何かなのだろう。
魔剣士「いつの間にこんなもんを……」
更に、リングの周りには簡易的な観客席が囲むように併設されていて、見世物か何かにするつもりなのだと分かった。
バンシィ「凄いね、これもリッター団長がやったのかな」
魔剣士「一人でできるような仕事じゃねーだろ……」
ぽけっと口を開いてみていると、リングの整備を行っていた作業服の男がこちらに気付き、のそのそと近づいてきた。
魔剣士「ん……」
その作業服の男、まさかのまさかだった。
リッター「おう、おはよう!来たか、はははははっ!!」
朝から煩かった。
魔剣士「お前かよ!!?」
更に、しかも。
リッター「どうだ、俺が一人で造り上げたリングと観客席は!」
本当に一人で造っていた。
バンシィ「あ、やっぱり……」
魔剣士「ウソん!?」
リッター「ぶはは…!はっはっはっ!!!」
更の更に、朝から本当にやかましい声で、げんなりしてしまったのは言うまでもない。
リッター「しかし何だ、お前たちは仲良くなったのか!」
魔剣士「あー…」
バンシィ「そう、見える…?」
リッター「手まで繋いで、仲良くない以外見えないぞ!ハハハ!」
バンシィ「うん、仲良しさんだから……」
魔剣士「そうね……」
本当に面倒くさい。
リッター「ちなみに、今は8時30分だからな。あと少しもすれば、観客や昨日の残ったメンバーが集まるぞ!」
魔剣士「どうでもいいって。それより昨日は何人合格したんだ?」
リッター「予想より少ない6人だ」
魔剣士「……たった6人か」
リッター「その中から選ばれるのは僅か3人。今日は一対一のサシ勝負となるだろうが、勝てばその時点で騎士団にはなれるものの…、ラッキーでもないな」
魔剣士「なんだ、簡単でいいじゃねえか」
リッター「今回が騎士団選考会の最終回ってことでな、珍しい面々が見えていた。昨日の後方にいた快楽殺人者のような奴を覚えているか?」
魔剣士「あー、暴れてた奴な……」
リッター「うむ、そいつは曲者だったぞ。選考会の公平のために名は言えないが、相当有名なやり手の男だった。気を付けたほうがいいかもしれないな」
魔剣士「フン!忠告は有りがたく受け取っておくが残念だ。俺は負けるつもりはねーし、騎士団に入る以外の道はないんでね」
リッター「お前は本当に面白い。是非入隊が出来たら、俺が直々に扱いてやろう」
魔剣士「望むところだ、大声男が!……っても、だけどよ、そのルールだとちょっと……」
もしバンシィと当たってしまうとなると、少々戦いづらくなる。
バンシィ「お兄ちゃんと当たっちゃうかもしれないってことだよね?」
リッター「可能性はゼロではない」
バンシィ「嫌だなぁ、お兄ちゃん僕の魔法効かないみたいだし、押し倒されちゃうよう……」
魔剣士「人聞きの悪い言い方をやめなさい」
バンシィ「む、ノリが悪いなぁ……」
魔剣士「ノリとかの問題じゃなくてだな……」
当の本人にとって頭の痛くなる会話だというのに、リッターはハハハと大声で笑う。
するとそこへ、どこから現れたのか、何故か"白姫"がひょっこり魔剣士の後ろから登場した。
白姫「……やっほー!まーさん!」
魔剣士「うおっ!?」
白姫「師匠さんと市場に買い物に来たんだけど、遠くから見えたから。ここで選考会をするの?」
魔剣士「お、おぉ…そういうことか……」
さすが白姫、突然現れたのは驚いたが、人のいる場所では猛竜騎士と自分の名前を上手くごまかしてくれた。忘れずローブフードを深く被り、幻惑の仮面の装着、怪しいといえども頼らざるを得ないブリレイの幻惑仮面に、顔の知れているであろう白姫をリッターたちは認識しない。
リッター「ん、どなたかな?」
バンシィ「誰…?」
白姫「う?魔剣士、こっちの人たちはー……」
魔剣士「あー……」
さて、どう説明したものか。バンシィのことは伝えていたが、こんな状態では。
魔剣士「……フランメお兄ちゃんの仲間の仲間で、名前はその、えー…、シ、シュヴァンだ!」
白姫「!」
意味合いは"白鳥"という名。流れを汲んでくれることを願い、頼んだとアイコンタクトをうつ。
白姫「……うん、初めましてです。私はシュヴァン、ま…、まーさん…フランメの仲間で冒険者をやってます!」
二人にぺこりを頭を下げた。何とか、バレずには済みそうで一安心する。
バンシィ「ふーん、じゃあシュヴァンが僕のお兄ちゃんに酷いことをされた人なんだ……」
魔剣士「いっ…!?」
白姫「えっ?」
つかの間の安心は、すぐに冷や汗に変わる。心の傷を抉ってしまう!と慌てたが、そんな心配は無用だった。
白姫「……じゃあ、あなたが妹さんなんだねっ」
目線を合わせるように座り、布でわずかにしか見えない瞳から逸らさないよう微笑んだ。
バンシィ「うん…。お兄ちゃんが心の傷をつけたって聞いた。シュヴァンも僕に痛いことしたいの?」
……殺られる前に殺れ。
その鉄則を守ってきたバンシィは、ゆっくりと冷気を蓄積させながら掌を白姫へと向ける。
魔剣士(やべっ!!)
それを察知した魔剣士は、慌てて彼女を抑えようとしたが、それより早く白姫は、バンシィをぎゅっと"抱きしめた"のだった。
バンシィ「……えっ?」
白姫「大丈夫、私はそんなひどいことをしないから……」
バンシィ「何…?」
白姫「ううん、何も言わなくていいの。何もしないから、大丈夫だから……」
魔剣士(し、白姫……)
白姫は、瞳を見て感じ取ったのだ。彼女がどんな思いをしてきたか、哀しみを見たのか、今この瞬間にどんな気持ちをしていたのか。
また、たまたま出た台詞だっただろうが、"何も言わなくていい"という一言は、朝に魔剣士が伝えた言葉と重なって、心を許すには十分だったらしい。
バンシィ「……お姉…ちゃん…?」
魔剣士「!」
白姫「バンシィちゃん…?」
バンシィ「うー…、何これ…。嫌だな、何で痛いことしないの……?」
白姫「そんなこと出来るわけない。バンシィちゃんみたいな可愛い子に、酷いことなんてできないよ」
バンシィ「僕のお兄ちゃんに、酷いことされたのに……?」
白姫「バンシィちゃんは関係ない。良いの、大丈夫だから……。ねっ…?」
バンシィ「……っ」
彼女がどんな気持ちだったのかは定かではないが、悪いような展開じゃなかったのは確かである。
しかし、このような状況でも決して"魔剣士と繋いだ手"を離さなかったのは、ちょっとしたことながら大きい展開に思えたが。
白姫「えーとそれじゃー……」
魔剣士「朝9時から、この広場で選考会の本選だよ。戦って勝てばそれだけで騎士団だとさ。言い忘れてたよ、すまんな」
白姫「あっ、そうなんだ!じゃあ師匠さんにも伝えておくね!」
魔剣士「よせよせ、見られるのは好きじゃねーんだ。先に戻っておけって」
白姫「えー、でも……。昨日ちゃんと応援できなかったし、今日くらいは……」
魔剣士「昨日のは見なくて良かったよ」
白姫「え?」
魔剣士「……いや、何でもない」
バンシィが大量に殺人をし、快楽者が現れ、血の池があちこちに出来るほど戦いが熾烈だったなんて言いたくないし、教えたくない。
魔剣士「とにかく応援はいらねーよ。このリングがいくら防御壁に覆われても、観客席だって危険はあるんだからな」
白姫「そ、そっか…」
リッター「おいおい、俺の用意してるこの防御壁はだなぁ!」
魔剣士「アンタは黙ってていいから!」
リッター「そうかそうか、ハハハッ!!」
白姫「あ、あはは……」
魔剣士「はぁー…」
何を言おうと、何が起きるか分からない場所で白姫を危険に晒したくはない。
魔剣士「危険がある以上、頼むから待っててくれ。お前に怪我をさせたくねーんだ」
白姫「……分かった。心配してくれてたんだよね、我がままいってごめんね」
魔剣士「謝らなくていい。信じて待っててくれよ」
白姫「うんっ」
ふと雰囲気の良い二人に、バンシィは何かを悟ったのか、いきなり握っていた腕に冷気を集中させた。
魔剣士「ひゃわぁっ!!?」
"カキンッ!!"
真っ白な冷気が魔剣士の腕を覆うが、実際に凍ることはなく、バンシィは「あれぇ」と首をかしげる。
バンシィ「うー、やっぱり効かない……」
魔剣士「くっそつめてぇー…!き、急に何すんだ!」
バンシィ「なんとなく」
魔剣士「はぁ!?」
バンシィ「全身も凍らせてあげたいのになー…。そしたら、フランメお兄ちゃんは僕のものになるのになー……」
魔剣士「……怖い事を言わないでください」
バンシィ「むぅ」
彼女は布で顔を隠していたが、布の上からでも分かるくらい尖らせた唇と、薄っすらとした眼から不満そうな表情をしているのは嫌でも分かった。
魔剣士「んじゃ、シュヴァン。またあとでな」
白姫「うんっ!頑張ってね!」
魔剣士「おうよ!」
二人に笑顔で手を振った白姫は、市場のほうに消えて行った。
魔剣士「……はぁ」
バンシィ「どうしたの、ため息ついて」
魔剣士「色々あると疲れるんだよ。お前に俺の気持ちは分かるかなぁー……」
バンシィ「分かんない」
魔剣士「……でしょうね」
バンシィ「うん、だけどね…」
魔剣士「ん?」
バンシィは魔剣士の裾を引っ張ると、耳元で囁いた。
バンシィ「分かりたいなって思う。フランメお兄ちゃんと気持ちを共感したいなーって思うよ……」
魔剣士「ん…」
バンシィ「お兄ちゃんは僕の気持ちを分かろうとしてくれて、分かってくれて、何も言わせないように、痛い事もしなかった。凄く嬉しかったから」
魔剣士「そりゃ当然だ」
バンシィ「僕の当たり前とは違うから。お兄ちゃんの当然は、僕にとって凄く嬉しいことだったから……」
魔剣士「…」
バンシィ「だから、一緒にいてね。……僕、お話しする度にお兄ちゃんのことが好きになっていくの」
魔剣士「お前なぁ……」
バンシィ「うん、最初は強くて変わってる人だなって思って興味持ってただけなのに、ちょっとしゃべったらお兄ちゃんのことでいっぱいになったんだよ」
魔剣士「……好きでいてくれるのは嬉しいがな」
バンシィ「うん、好き……」
この時、魔剣士は気づいていない。バンシィの気持ちがどのように揺れ動いているのかを。ただ異常に気に入られているだけ、興味を持たれているだけだと思っていた。
魔剣士「ほんじゃま、俺らも準備しますか。俺と当たらないことを祈っとけよ、バンシィ!」
バンシィ「お兄ちゃんとは当たらないように念じておくから大丈夫だよ」
魔剣士「お、おう…」
バンシィ「それじゃ、僕たちはどこで待っていればいいの?」
白姫たちの会話の間、いつの間にかせっせとリングの整備に戻っていたリッターは「おっ」と反応した。
リッター「そこらで座ってていいだろう。あとは適当に呼ぶからな」
魔剣士「ふむ…。観客席にしろ、どうしてこんな見世物みてーなことするかねぇ……」
リッター「強さを見せれば、騎士団に属した時、冒険者たちが一目置く存在になるからだ」
魔剣士「……そういうことか」
リッター「それじゃ俺は整備の続きをしてるからな。適当に休んでいてくれ!ハハハッ!」
近所迷惑な大声で爆笑しながらリングのタイル整備を再び始めるリッター。かなりシュールな光景に、魔剣士はそっぽを向き、バンシィととも朝のカフェで時間を潰したのだった。
バンシィ「わーい、お兄ちゃんとデートだねー」
魔剣士「何でもいいですよ、もう……」
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――そして40分後。
カフェから出た魔剣士は、リッターの言っていた通り"大勢の観客"が座っていることに驚いていた。
少し前までリッターが一人でせっせと整備をしていたリングの周囲には、お世辞にもマナーが良いとは言えないような面々が観客席に腰を下ろして「まだかまだか」とはやし立てていた。
魔剣士「うわー……」
バンシィ「怖い、お兄ちゃん……」
握っていた手を離し、脚に腕を回し直すバンシィ。魔剣士は反応せず、バンシィの頭をポンと撫でるにも等しく優し力で叩いた。
魔剣士「こら、そういうことは止めなさいってのに」
バンシィ「っちぇー……」
中々どうして、バンシィの扱い方に慣れてきたらしい。
彼女が自分を喜ばせたいという気持ちを持っているのは分かるのだが、どうにも間違った方向に考えてしまうようだ。育ってきた環境上、彼女にとって"相手を喜ばせる"という行為がどのようなものなのか、考えたくはないが、考えねばならない。
魔剣士「知ったら戻れないって、こういうことを言うのかねぇ……。はぁぁ、ため息をつかない暇がねーっつうの……」
バンシィ「…うん?知ったら戻れないって、快感のこと?」
魔剣士「違うわい!」
バンシィ「なーんだ……」
魔剣士「あのなぁー…!お、お前は本当によぉ……」
バンシィ「……うん、本当に何?」
魔剣士「ほ、本当に……」
こんな子に"何も知らない奴だな"とは言えない。バンシィ相手には言葉選びが重要なのが、本当に苦労が重なり疲弊を生む。
だが魔剣士とて、女の子にかける言葉を探した時、出てくる言葉といえば単純そのもの。
魔剣士「可愛い奴だな、お前は……」
バンシィ「…えっ!?」
……完全に選ぶ言葉を間違える。朝も同じようなことをしたが、口が下手過ぎる。
魔剣士「あ、いや…。そういう意味じゃなくて、別に良いってことじゃないぞ!?」
バンシィ「じゃあどういう意味!私のこと今、可愛いって言った!」
魔剣士(おいおい……)
よっぽど嬉しかったのか、一人称と声のトーンがまんま女の子に変わった。
魔剣士「あぁ可愛いよ。だけどな、あまり身体を売るようなマネだとか、そういう言葉や行為は好きになれないぞ?」
バンシィ「う、うー……」
魔剣士「これも難しいか?」
バンシィ「うん、難しい……」
魔剣士「…そうか。ま、急がなくていいんじゃないか。一つ一つ知って、ゆっくり直せばいい」
バンシィ「う、うん…。お兄ちゃんはまだ僕のことは嫌いになってない?」
魔剣士「何で嫌いになるんだ?」
バンシィ「僕が何も分からないから、こんな子だから、いっつも注意されてるから、嫌になって、嫌いになって……」
魔剣士「……ンなわけねーだろ!」
彼女の手に、自分の掌をそっと重ねる。
魔剣士「ほれ、アホなこと言ってねーで行くぞ。こんな選考会はさっさと終わらせねーといけないんだからな!」
バンシィ「うん。一緒に合格しようね」
魔剣士「俺と戦いにならねーことを祈るようにな!」
バンシィ「お兄ちゃんとは絶対に嫌だなー……」
二人は手を取り合って、選考会の会場内へと入っていった。
…………
……
…
―――次の日。
朝食を終えた魔剣士は、朝早くにバンシィの宿を訪れる。
あまり気が進まなかったが、約束をした手前、迎えに行かないわけはいかなかった。
魔剣士「……おい、バンシィ」
"コンコン"とノックすると、中からドタドタという音、数秒後にガチャリとドアが開いて現れたのは全裸のバンシィだった。
バンシィ「おはよう、お兄ちゃん。本当に来てくれたんだ、嬉しい……」
魔剣士「……おい!?」
バンシィ「なぁに?」
魔剣士「い、いいから早く入れバカ!」
バンシィ「積極的ー……」
魔剣士「違うわ、ボケ!!」
バンシィを部屋に押し込み、急いでドアを閉めると、念の為に鍵を回した。
魔剣士「はぁ、はぁ……!焦っただろバカが!」
バンシィ「興奮しちゃってる?」
魔剣士「違う!お前な…!ってか早く服着ろ!!」
バンシィ「お兄ちゃんの本音はどっちがいい?」
魔剣士「服着ろ」
バンシィ「……面白くないなぁ」
魔剣士「面白くなくていい」
バンシィ「ちぇー…」
渋々、昨日投げ捨てた布を巻き上げ、足元から巻いていく。しかし、その手は途中で止まる。
バンシィ「……あ、お兄ちゃん」
魔剣士「何だ」
バンシィ「そこにあるのとって。ふたつ、お兄ちゃんの足元にあるやつ……」
魔剣士「あ、これか?」
床に落ちている色の違う布を二つ拾い上げた。
バンシィ「うん、ちょうだい」
魔剣士「はいはい」
ポイっとバンシィに投げると、彼女はキャッチしたあと美しい動作を描いてそれぞれ"下半身"と"上半身"を隠すように布を巻いた。
魔剣士「……おい、それって」
バンシィ「下着替わり」
魔剣士「ひ、人にそんなものを拾わせんじゃねーーっ!!」
バンシィ「…すまん」
魔剣士「おい」
バンシィ「お兄ちゃんのマネ」
魔剣士「反省していないなお前は。俺には分かるぞ」
バンシィ「それより、下着を触って興奮した?」
魔剣士「興奮しません」
バンシィ「ちぇ……」
恐らく、拾わせたのは狙ってやらせたに違いない。
バンシィ「よいしょ……」
下着の布、服用の布をきつく縛り、更にそのうえから使い古しの魔法衣を羽織る。すると、少女の姿はどこへやら、完全に男の子となったバンシィの姿があった。
魔剣士「へー、しかし上手く化けるもんだな……」
バンシィ「苦しくて嫌だよ……」
魔剣士「少しだけ緩くできないのか?」
バンシィ「それはもっと嫌だ」
魔剣士「あぁ、そうだったな…。すまないことを聞いた……」
バンシィ「…ううん、大丈夫。フランメお兄ちゃんの、そういう優しいところ好き」
魔剣士「いやいや…。普通はこういうもんだって」
バンシィ「…違う。お兄ちゃんは違うから、フランメお兄ちゃんは凄く優しいの」
魔剣士「はいはい」
バンシィ「うん。じゃあ一緒に広場にいこ…。手、繋ぐ」
伸ばされた手に、魔剣士はため息交じりで応える。
バンシィ「……あっ」
握りしめた手、バンシィは何か反応する。
魔剣士「どうした?」
バンシィ「……何でもない。それより、お兄ちゃんの手はあったかいね」
魔剣士「当然、生きてるからな」
バンシィ「ふーん、生きてるとあったかいんだ」
魔剣士「そりゃそうだろ」
バンシィ「うーん…。僕はずっと冷たいって言われてたよ。あ、でもね。あったかいって話だったら、僕の身体で……」
魔剣士「うるせぇ話すな。話したいなら聞くが、少しでも苦しいことは言わなくていい」
彼女の過去について、しゃべらせたくはない。
バンシィ「……いいの?男の人は、どんな風な目にあってきたかそういうことを言えってよく…」
魔剣士「うるせぇっつってんだろうが。そんなの言ってくる男は人間のクズだ。それにお前の手だって冷たくはねーし、しゃべってて冷たいとも思わねぇ。それだけで良い」
バンシィ「でも、良いの?僕の手は……、それに僕のことを知って本当に握ってくれるとは思わなくて……」
魔剣士「バッカヤロウ!人に握ってもらう手ほど、あったかいもんはねーさ。お前の手だって、あったけーよ」
バンシィ「フ、フランメお兄ちゃん……」
そういう風に育ってきてしまったのだ。今更仕方ないことだが、自分はお前に何も求めないと必死で伝えた。魔剣士は辛い話をさせまいと、手をより強く握りしめた。
バンシィ「お、お兄ちゃん……」
魔剣士「おっと、痛かったか?すまんな……」
バンシィ「違うよ…。お兄ちゃん、本当に僕の手を握るの嫌じゃないの…?」
魔剣士「どうしてそこまでこだわる。俺はな……」
バンシィ「人殺しの手だ、汚れた手だ、死人の手だって、みんな…触ってくれなかったから」
魔剣士「…っ」
言わなくとも、それくらいは分かっている。小さい手と少女の身体は、どれほどの傷を覚えてきたのか。
魔剣士「……フン、気にしたこともねぇ。何度も言うがな、今この時、お前の手はあったかいんだからそれで良い」
バンシィ「お兄ちゃん……」
魔剣士「それで良い」
バンシィ「……うん、ありがとう」
小さく頷き、細い声ではあったが、"ぎゅっ"と嬉しそうに手を握り返したことはハッキリと分かったのだった。
バンシィ「うーん、お兄ちゃんって分かんないなぁ」
魔剣士「何が?」
バンシィ「今まで会った人と一緒のことしても、全然喜んでくれない。何もしてないほうが、嬉しそうだから……」
魔剣士「そりゃお前、今までのことのほうがおかしいんだよ。お前が今まで……」
バンシィ「うん、今まで……?」
魔剣士「あ、えーと……」
……危ない。
"変な人間とばかり会っていた"なんて、言っていいものだろうか。ある意味、彼女の人生を否定するに等しい。出来る限り遠回しに、それを伝えるにはどうすればいいか。
魔剣士「……俺が普通だってことさ」
口が下手過ぎる。ハッキリと言ってしまった。
バンシィ「お兄ちゃんが、普通?」
魔剣士「そ、そうだ。俺こそ普通なんだよ」
バンシィ「ふーん、そうなの?」
魔剣士「そうさ」
バンシィ「へー…、じゃあ僕が会ってきたのは変な人たちだったの?」
魔剣士「そ、それは……」
バンシィ「遠慮しないでお兄ちゃん。どんどん来てよ、我慢しなくていいんだよ?」
魔剣士「その言い方をやめなさい。えーとな、まぁ…そうだな……。今までに運が悪かったっていうか……」
バンシィ「へー、じゃあ僕は運が悪くて最低な人間なんだね。生きてるだけ損なのかな?」
魔剣士「オイ、それは違う」
バンシィ「違うの?」
魔剣士は手を離さず、膝を落として、バンシィと同じ高さで目線をしっかりと合わせた。
魔剣士「誰が生きてちゃダメって理由はない」
バンシィ「……多くの人を殺してきても、いいの?」
魔剣士「良いとは言わねぇ。だがな、明日に生きるために、今日までの自分を知って、何が悪かったのか反省すればいい」
バンシィ「反省…それだけで?」
魔剣士「反省だけじゃ足りないかもしれないが、だから行動で示す。少しずつでも変わればいい。すぐには無理だとしても、生きてちゃダメなんて言って逃げるよりよっぽどマシだ」
バンシィ「でも、変わることは難しいよ」
魔剣士「難しくない。難しいと思うから難しいんだ」
バンシィ「そうなのかな…。よく分からないけど……」
魔剣士「そのうち分かる。まずはそうだな、ルールに乗っ取るからって人殺しをしちゃダメとか…そういうこととかどうだ……?」
バンシィ「人殺しをしちゃだめ?」
魔剣士「普通の考えにおいては…だがな」
バンシィ「もし殺したら、お兄ちゃんは嫌?」
魔剣士「冒険者、ハンターの経験があるなら無理には止められないさ。そういう時代なんだから。だけど、昨日みたいなことはダメだ」
バンシィ「そうなんだ…。もし同じことをしたら、お兄ちゃんは僕のこと見捨てる?」
ずるい子だ。そんなことを言われて、見捨てられるわけないだろう。いや、知ってしまった以上、何を言っても見捨てられるわけはない。
魔剣士「見捨てない。だけど、止めさせるようにはする」
バンシィ「……止めなかったら、僕のことを嫌いになる?」
魔剣士「分からん。お前の生きてきたことを考えるとそれが難しいことだって分かる。ただ、嫌いではなくとも嫌"イヤ"になるかもしれん」
バンシィ「嫌なんだ…。そっか、じゃあ止める……」
魔剣士「お?」
バンシィ「お兄ちゃんが嫌なら、止める。殺しは止める。だから嫌いにならないで、ね?」
魔剣士「……そうか」
魔剣士は微笑みを見せて、バンシィの頭を撫でてやった。
バンシィ「うー…」
魔剣士「分かってくれて嬉しいぜ、バンシィ」
バンシィ「お兄ちゃん、嬉しいの?」
魔剣士「嬉しいよ。そんじゃ、遅れる前に選考会に行くか!」
バンシィ「うん、このまま手ぇ繋いでいく。抱っこでもいいよ。好きに、どこでも触っていいよ?」
魔剣士「手をつないでいこう。あと、そういうことは言うんじゃねーぞ」
バンシィ「ちぇーっ」
手をしっかり握りしめ続ける魔剣士は、バンシィとともに広場へと向かったのだった。
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――10分後。
魔剣士とバンシィが広場に到着すると、いつの間に造られたのか、そこには立派な正方形の"リング"が建っていた。リングの周囲には、隅々に魔石が埋め込まれたポールが立ち、恐らく魔法を外部に影響させないための結界か何かなのだろう。
魔剣士「いつの間にこんなもんを……」
更に、リングの周りには簡易的な観客席が囲むように併設されていて、見世物か何かにするつもりなのだと分かった。
バンシィ「凄いね、これもリッター団長がやったのかな」
魔剣士「一人でできるような仕事じゃねーだろ……」
ぽけっと口を開いてみていると、リングの整備を行っていた作業服の男がこちらに気付き、のそのそと近づいてきた。
魔剣士「ん……」
その作業服の男、まさかのまさかだった。
リッター「おう、おはよう!来たか、はははははっ!!」
朝から煩かった。
魔剣士「お前かよ!!?」
更に、しかも。
リッター「どうだ、俺が一人で造り上げたリングと観客席は!」
本当に一人で造っていた。
バンシィ「あ、やっぱり……」
魔剣士「ウソん!?」
リッター「ぶはは…!はっはっはっ!!!」
更の更に、朝から本当にやかましい声で、げんなりしてしまったのは言うまでもない。
リッター「しかし何だ、お前たちは仲良くなったのか!」
魔剣士「あー…」
バンシィ「そう、見える…?」
リッター「手まで繋いで、仲良くない以外見えないぞ!ハハハ!」
バンシィ「うん、仲良しさんだから……」
魔剣士「そうね……」
本当に面倒くさい。
リッター「ちなみに、今は8時30分だからな。あと少しもすれば、観客や昨日の残ったメンバーが集まるぞ!」
魔剣士「どうでもいいって。それより昨日は何人合格したんだ?」
リッター「予想より少ない6人だ」
魔剣士「……たった6人か」
リッター「その中から選ばれるのは僅か3人。今日は一対一のサシ勝負となるだろうが、勝てばその時点で騎士団にはなれるものの…、ラッキーでもないな」
魔剣士「なんだ、簡単でいいじゃねえか」
リッター「今回が騎士団選考会の最終回ってことでな、珍しい面々が見えていた。昨日の後方にいた快楽殺人者のような奴を覚えているか?」
魔剣士「あー、暴れてた奴な……」
リッター「うむ、そいつは曲者だったぞ。選考会の公平のために名は言えないが、相当有名なやり手の男だった。気を付けたほうがいいかもしれないな」
魔剣士「フン!忠告は有りがたく受け取っておくが残念だ。俺は負けるつもりはねーし、騎士団に入る以外の道はないんでね」
リッター「お前は本当に面白い。是非入隊が出来たら、俺が直々に扱いてやろう」
魔剣士「望むところだ、大声男が!……っても、だけどよ、そのルールだとちょっと……」
もしバンシィと当たってしまうとなると、少々戦いづらくなる。
バンシィ「お兄ちゃんと当たっちゃうかもしれないってことだよね?」
リッター「可能性はゼロではない」
バンシィ「嫌だなぁ、お兄ちゃん僕の魔法効かないみたいだし、押し倒されちゃうよう……」
魔剣士「人聞きの悪い言い方をやめなさい」
バンシィ「む、ノリが悪いなぁ……」
魔剣士「ノリとかの問題じゃなくてだな……」
当の本人にとって頭の痛くなる会話だというのに、リッターはハハハと大声で笑う。
するとそこへ、どこから現れたのか、何故か"白姫"がひょっこり魔剣士の後ろから登場した。
白姫「……やっほー!まーさん!」
魔剣士「うおっ!?」
白姫「師匠さんと市場に買い物に来たんだけど、遠くから見えたから。ここで選考会をするの?」
魔剣士「お、おぉ…そういうことか……」
さすが白姫、突然現れたのは驚いたが、人のいる場所では猛竜騎士と自分の名前を上手くごまかしてくれた。忘れずローブフードを深く被り、幻惑の仮面の装着、怪しいといえども頼らざるを得ないブリレイの幻惑仮面に、顔の知れているであろう白姫をリッターたちは認識しない。
リッター「ん、どなたかな?」
バンシィ「誰…?」
白姫「う?魔剣士、こっちの人たちはー……」
魔剣士「あー……」
さて、どう説明したものか。バンシィのことは伝えていたが、こんな状態では。
魔剣士「……フランメお兄ちゃんの仲間の仲間で、名前はその、えー…、シ、シュヴァンだ!」
白姫「!」
意味合いは"白鳥"という名。流れを汲んでくれることを願い、頼んだとアイコンタクトをうつ。
白姫「……うん、初めましてです。私はシュヴァン、ま…、まーさん…フランメの仲間で冒険者をやってます!」
二人にぺこりを頭を下げた。何とか、バレずには済みそうで一安心する。
バンシィ「ふーん、じゃあシュヴァンが僕のお兄ちゃんに酷いことをされた人なんだ……」
魔剣士「いっ…!?」
白姫「えっ?」
つかの間の安心は、すぐに冷や汗に変わる。心の傷を抉ってしまう!と慌てたが、そんな心配は無用だった。
白姫「……じゃあ、あなたが妹さんなんだねっ」
目線を合わせるように座り、布でわずかにしか見えない瞳から逸らさないよう微笑んだ。
バンシィ「うん…。お兄ちゃんが心の傷をつけたって聞いた。シュヴァンも僕に痛いことしたいの?」
……殺られる前に殺れ。
その鉄則を守ってきたバンシィは、ゆっくりと冷気を蓄積させながら掌を白姫へと向ける。
魔剣士(やべっ!!)
それを察知した魔剣士は、慌てて彼女を抑えようとしたが、それより早く白姫は、バンシィをぎゅっと"抱きしめた"のだった。
バンシィ「……えっ?」
白姫「大丈夫、私はそんなひどいことをしないから……」
バンシィ「何…?」
白姫「ううん、何も言わなくていいの。何もしないから、大丈夫だから……」
魔剣士(し、白姫……)
白姫は、瞳を見て感じ取ったのだ。彼女がどんな思いをしてきたか、哀しみを見たのか、今この瞬間にどんな気持ちをしていたのか。
また、たまたま出た台詞だっただろうが、"何も言わなくていい"という一言は、朝に魔剣士が伝えた言葉と重なって、心を許すには十分だったらしい。
バンシィ「……お姉…ちゃん…?」
魔剣士「!」
白姫「バンシィちゃん…?」
バンシィ「うー…、何これ…。嫌だな、何で痛いことしないの……?」
白姫「そんなこと出来るわけない。バンシィちゃんみたいな可愛い子に、酷いことなんてできないよ」
バンシィ「僕のお兄ちゃんに、酷いことされたのに……?」
白姫「バンシィちゃんは関係ない。良いの、大丈夫だから……。ねっ…?」
バンシィ「……っ」
彼女がどんな気持ちだったのかは定かではないが、悪いような展開じゃなかったのは確かである。
しかし、このような状況でも決して"魔剣士と繋いだ手"を離さなかったのは、ちょっとしたことながら大きい展開に思えたが。
白姫「えーとそれじゃー……」
魔剣士「朝9時から、この広場で選考会の本選だよ。戦って勝てばそれだけで騎士団だとさ。言い忘れてたよ、すまんな」
白姫「あっ、そうなんだ!じゃあ師匠さんにも伝えておくね!」
魔剣士「よせよせ、見られるのは好きじゃねーんだ。先に戻っておけって」
白姫「えー、でも……。昨日ちゃんと応援できなかったし、今日くらいは……」
魔剣士「昨日のは見なくて良かったよ」
白姫「え?」
魔剣士「……いや、何でもない」
バンシィが大量に殺人をし、快楽者が現れ、血の池があちこちに出来るほど戦いが熾烈だったなんて言いたくないし、教えたくない。
魔剣士「とにかく応援はいらねーよ。このリングがいくら防御壁に覆われても、観客席だって危険はあるんだからな」
白姫「そ、そっか…」
リッター「おいおい、俺の用意してるこの防御壁はだなぁ!」
魔剣士「アンタは黙ってていいから!」
リッター「そうかそうか、ハハハッ!!」
白姫「あ、あはは……」
魔剣士「はぁー…」
何を言おうと、何が起きるか分からない場所で白姫を危険に晒したくはない。
魔剣士「危険がある以上、頼むから待っててくれ。お前に怪我をさせたくねーんだ」
白姫「……分かった。心配してくれてたんだよね、我がままいってごめんね」
魔剣士「謝らなくていい。信じて待っててくれよ」
白姫「うんっ」
ふと雰囲気の良い二人に、バンシィは何かを悟ったのか、いきなり握っていた腕に冷気を集中させた。
魔剣士「ひゃわぁっ!!?」
"カキンッ!!"
真っ白な冷気が魔剣士の腕を覆うが、実際に凍ることはなく、バンシィは「あれぇ」と首をかしげる。
バンシィ「うー、やっぱり効かない……」
魔剣士「くっそつめてぇー…!き、急に何すんだ!」
バンシィ「なんとなく」
魔剣士「はぁ!?」
バンシィ「全身も凍らせてあげたいのになー…。そしたら、フランメお兄ちゃんは僕のものになるのになー……」
魔剣士「……怖い事を言わないでください」
バンシィ「むぅ」
彼女は布で顔を隠していたが、布の上からでも分かるくらい尖らせた唇と、薄っすらとした眼から不満そうな表情をしているのは嫌でも分かった。
魔剣士「んじゃ、シュヴァン。またあとでな」
白姫「うんっ!頑張ってね!」
魔剣士「おうよ!」
二人に笑顔で手を振った白姫は、市場のほうに消えて行った。
魔剣士「……はぁ」
バンシィ「どうしたの、ため息ついて」
魔剣士「色々あると疲れるんだよ。お前に俺の気持ちは分かるかなぁー……」
バンシィ「分かんない」
魔剣士「……でしょうね」
バンシィ「うん、だけどね…」
魔剣士「ん?」
バンシィは魔剣士の裾を引っ張ると、耳元で囁いた。
バンシィ「分かりたいなって思う。フランメお兄ちゃんと気持ちを共感したいなーって思うよ……」
魔剣士「ん…」
バンシィ「お兄ちゃんは僕の気持ちを分かろうとしてくれて、分かってくれて、何も言わせないように、痛い事もしなかった。凄く嬉しかったから」
魔剣士「そりゃ当然だ」
バンシィ「僕の当たり前とは違うから。お兄ちゃんの当然は、僕にとって凄く嬉しいことだったから……」
魔剣士「…」
バンシィ「だから、一緒にいてね。……僕、お話しする度にお兄ちゃんのことが好きになっていくの」
魔剣士「お前なぁ……」
バンシィ「うん、最初は強くて変わってる人だなって思って興味持ってただけなのに、ちょっとしゃべったらお兄ちゃんのことでいっぱいになったんだよ」
魔剣士「……好きでいてくれるのは嬉しいがな」
バンシィ「うん、好き……」
この時、魔剣士は気づいていない。バンシィの気持ちがどのように揺れ動いているのかを。ただ異常に気に入られているだけ、興味を持たれているだけだと思っていた。
魔剣士「ほんじゃま、俺らも準備しますか。俺と当たらないことを祈っとけよ、バンシィ!」
バンシィ「お兄ちゃんとは当たらないように念じておくから大丈夫だよ」
魔剣士「お、おう…」
バンシィ「それじゃ、僕たちはどこで待っていればいいの?」
白姫たちの会話の間、いつの間にかせっせとリングの整備に戻っていたリッターは「おっ」と反応した。
リッター「そこらで座ってていいだろう。あとは適当に呼ぶからな」
魔剣士「ふむ…。観客席にしろ、どうしてこんな見世物みてーなことするかねぇ……」
リッター「強さを見せれば、騎士団に属した時、冒険者たちが一目置く存在になるからだ」
魔剣士「……そういうことか」
リッター「それじゃ俺は整備の続きをしてるからな。適当に休んでいてくれ!ハハハッ!」
近所迷惑な大声で爆笑しながらリングのタイル整備を再び始めるリッター。かなりシュールな光景に、魔剣士はそっぽを向き、バンシィととも朝のカフェで時間を潰したのだった。
バンシィ「わーい、お兄ちゃんとデートだねー」
魔剣士「何でもいいですよ、もう……」
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――そして40分後。
カフェから出た魔剣士は、リッターの言っていた通り"大勢の観客"が座っていることに驚いていた。
少し前までリッターが一人でせっせと整備をしていたリングの周囲には、お世辞にもマナーが良いとは言えないような面々が観客席に腰を下ろして「まだかまだか」とはやし立てていた。
魔剣士「うわー……」
バンシィ「怖い、お兄ちゃん……」
握っていた手を離し、脚に腕を回し直すバンシィ。魔剣士は反応せず、バンシィの頭をポンと撫でるにも等しく優し力で叩いた。
魔剣士「こら、そういうことは止めなさいってのに」
バンシィ「っちぇー……」
中々どうして、バンシィの扱い方に慣れてきたらしい。
彼女が自分を喜ばせたいという気持ちを持っているのは分かるのだが、どうにも間違った方向に考えてしまうようだ。育ってきた環境上、彼女にとって"相手を喜ばせる"という行為がどのようなものなのか、考えたくはないが、考えねばならない。
魔剣士「知ったら戻れないって、こういうことを言うのかねぇ……。はぁぁ、ため息をつかない暇がねーっつうの……」
バンシィ「…うん?知ったら戻れないって、快感のこと?」
魔剣士「違うわい!」
バンシィ「なーんだ……」
魔剣士「あのなぁー…!お、お前は本当によぉ……」
バンシィ「……うん、本当に何?」
魔剣士「ほ、本当に……」
こんな子に"何も知らない奴だな"とは言えない。バンシィ相手には言葉選びが重要なのが、本当に苦労が重なり疲弊を生む。
だが魔剣士とて、女の子にかける言葉を探した時、出てくる言葉といえば単純そのもの。
魔剣士「可愛い奴だな、お前は……」
バンシィ「…えっ!?」
……完全に選ぶ言葉を間違える。朝も同じようなことをしたが、口が下手過ぎる。
魔剣士「あ、いや…。そういう意味じゃなくて、別に良いってことじゃないぞ!?」
バンシィ「じゃあどういう意味!私のこと今、可愛いって言った!」
魔剣士(おいおい……)
よっぽど嬉しかったのか、一人称と声のトーンがまんま女の子に変わった。
魔剣士「あぁ可愛いよ。だけどな、あまり身体を売るようなマネだとか、そういう言葉や行為は好きになれないぞ?」
バンシィ「う、うー……」
魔剣士「これも難しいか?」
バンシィ「うん、難しい……」
魔剣士「…そうか。ま、急がなくていいんじゃないか。一つ一つ知って、ゆっくり直せばいい」
バンシィ「う、うん…。お兄ちゃんはまだ僕のことは嫌いになってない?」
魔剣士「何で嫌いになるんだ?」
バンシィ「僕が何も分からないから、こんな子だから、いっつも注意されてるから、嫌になって、嫌いになって……」
魔剣士「……ンなわけねーだろ!」
彼女の手に、自分の掌をそっと重ねる。
魔剣士「ほれ、アホなこと言ってねーで行くぞ。こんな選考会はさっさと終わらせねーといけないんだからな!」
バンシィ「うん。一緒に合格しようね」
魔剣士「俺と戦いにならねーことを祈るようにな!」
バンシィ「お兄ちゃんとは絶対に嫌だなー……」
二人は手を取り合って、選考会の会場内へと入っていった。
…………
……
…
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