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第九章【セントラル】
9-20 暴走のメッセージ
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―――この話は、わずかばかり少し遡る。
丁度、魔剣士がバンシィを宿へ迎えに行っている頃、氷山帝国の魔法連合の一角にて、マスターセージを筆頭に秘密裏に結成した"対セントラル隊"による会議が行われていた。
セージ「……信頼する貴方たちだからこそ。遠く遥々来てくれた仲間には、最もな歓迎の意を」
揃うメンバーはシャオアー、レイム、ブリッツ、氷山帝国においてセージが絶対の信頼を置く面々である。
更に、砂国からはテイルの側近となった"ヴァイク"の席が設けられていた。
ヴァイク「初めまして、セージ殿」
セージ「畏まった挨拶はいらないわ。貴方の国は大変な時だというのに、手紙一枚で訪れてくれるなんて…これ以上の感謝はないから」
ヴァイク「いえ、そんなことは」
セージは魔剣士たちの"制約書"にあったテイルのサインより魔梟を飛ばし、手紙を受け取ったヴァイクが代表として訪れていた。
ヴァイク「それで、セージ殿。この度は何か重要なお話しがあるということで伺ったのですが……」
セージ「……えぇ。これは未来を左右するとても大事なお話しなの」
ヴァイク「そこまで…ですか」
セージ「まずは見てもらったほうが早いと思うから……シャオ、例のものを」
シャオアー「はい」
シャオアーは懐から一枚の紙を取り出すと、机に置いてそれを拡げる。どうやら紙には魔法陣が描かれているようだが、魔力という力は感じなかった。
ヴァイク「えーとこれは…、魔法陣……ですか?」
セージ「私が用意した魔法を抑制させる対魔結界の一つよ。ただ、普通の魔法には通用しないけどね」
ヴァイク「普通の魔法に通用しない?」
セージ「えぇ、但し…。レイム、あれを置いてもらえる?」
レイム「承知致しました」
今度はレイムが床に置いてあった"魔法陣が刻まれた木箱"をゴトリと紙の陣の上に乗せる。
ヴァイク「この木箱は……」
セージ「あまり近づかないほうがいいわ。これは闇魔力の封印具よ」
ヴァイク「なっ!?に、偽物ですよね!?」
"闇魔力"の言葉にヴァイクの身体が引き気味になる。
セージ「昔からこの地下で実験に使われてた呪いの産物。これで私の部下も犠牲になって…、正真正銘の本物よ……」
ヴァイク「ど、どうしてそんなものを!」
更に一歩退いて、距離を取る。
セージ「……落ち着いて。こんな呪いの産物だけど、充分に使える利用方法があったの」
ヴァイク「何に使うというのですか!まさか、対セントラルの軍団に闇魔術師を量産しようなどと!」
セージ「話を聞いて頂戴。さっきも言ったけど、魔法抑制の対魔結界の魔法陣に関係があるのよ」
ヴァイク「ど、どういう……!」
セージ「レイム、お願い」
レイム「ただいま」
レイムは木箱に手を伸ばすと、ゆっくりと開口部分をスライドさせて闇魔法具を露わにしていく。
ヴァイクは"うっ!"と声を漏らしながら闇魔力の影響を恐れたが、その前に下に敷いてあった魔法陣が突如光を放ち始めたと思えば、魔法具の周りの陣が円形状に壁を作りそれを囲んだ。
ヴァイク「な、何が!?」
セージ「大丈夫、安心して頂戴。だから言ったでしょ、魔法抑制の対魔結界があるって」
ヴァイク「……ちょっと待ってください、それはまさか…!」
セージ「えぇ、開発に成功したのよ。闇魔術に対抗できる、最強の結界術をね……」
ヴァイク「闇魔法の対結界、ですか!?」
セージ「今まで気づけなかったのがおかしかったのよ。ヴァイク、闇魔術師たちが増えたりした時のため、この結界術は砂国へ持って帰ってくれる?」
ヴァイク「あ、有りがたい話なのですが、この理論はどうやって…。闇の魔力に通常の魔法陣などは無駄なのでは……」
闇魔法に干渉する魔法は皆無と聞いていたのに、どうやって。魔剣士の絶対領域に準ずるように、通常の魔法結界では闇魔法の消失効果に対応が出来るはずもない。
ヴァイクの疑問は、次にブリッツが机に置いた"真黒な魔石"によって説明された。
ヴァイク「く、黒魔石っ!」
セージ「知っているでしょう。これは純粋な魔石が長い時を経て、魔力を失った時に一部のみ変異して成る貴重な鉱石なんだけど、その効力は……」
ヴァイク「魔力を吸収する効果を持つ、ですね」
セージ「……その通り。それは魔力というジャンルに縛られず、闇魔法も同一だった。これを知ったのは、魔剣士クンが地下の実験場で抑えられていたことを思い出したからなのよ。今更だけどね」
ヴァイク「し、しかし…。本当に魔石のみで闇魔力を抑えることが……?」
セージ「もちろんこれだけでは無理。わずかな吸収力だけでは、魔石が先に壊れるわ」
ヴァイク「ではどうやって……」
疑問は疑問を生む。安心するために幾重にも質問を重ねる理由は、これが本当ならば、世界の脅威たる闇魔術師を率いる軍勢は抑えることが出来るのだから。
セージ「鏡ということよ。合わせ鏡、ね」
ヴァイク「合わせ鏡?」
セージ「えぇ…この魔法陣は合わせ鏡の理論で構成されているの」
ヴァイク「ど、どういうことです…?」
セージ「だから、つまりね……」
構成は簡易なものだった。
この魔法陣は外円と内円の二つの円が、黒魔石の粉を利用した絵具で描かれている。
外側の円は内への鏡、中心の円は外へ向かうような鏡式になっており、結界内で放った魔法は反射を繰り返し鏡の彼方へ消えて行く。
また、魔剣士の闇魔法を吸収した"癖"を覚えていた黒魔石の粉は、著しく闇魔力に反応する仕様となっていた。
セージ「魔剣士クン様様ね。ここに入った闇の魔法魔力は、外か内の鏡に反射し、幾重にも無限にも重なる合わせ鏡となった彼方へ消えて行くのよ」
ヴァイク「そ、そういうことですか……」
セージ「これは最強の結界になるはずよ。少なくとも、絶対的な効果はあるはず」
ヴァイク「す、凄いじゃないですか…。これがあれば……」
セージ「あとは最終調整をするだけなんだけど、これが大変で……」
箱を閉めて魔法具をどけると、光の失った陣の円へ触れる。
セージ「鏡は割れやすいこともあって、一つの傷で壊れてしまうこともある。だから、この中心とかに……」
円に触れつつ、紙を寄せると、呪の文言を書かれた中心位置を覗くようにして顔を入れる。
―――すると、その時。
まさかの出来事が、予想しない出来事が、発生してしまう。
セージ「……えっ?」
何故か、対魔結界はセージに強く反応を示したのだ。光の陣に捕らわれ、彼女は次の瞬間、大きく吹き飛ばされて壁へと叩きつけられた。
ヴァイク「セ、セージ殿ッ!?」
シャオアー「セージ様!」
レイム「セージ様!?」
ブリッツ「セージ様ァ!!」
飛ばされたセージのもとへ、一同が駆け寄る。
反応した魔力が煙のように具現化して視界を遮るほどモヤを作り、その中でセージはうめき声をあげながら身体を震わせてゆっくりと起き上がった。
ヴァイク「だ、大丈夫ですか!一体どうして魔法陣が反応を!?」
手助けしようとヴァイクは手を伸ばすが、その手はビクリとして寸前で止まった。
ヴァイク「セ、セージ殿……!」
セージ「あっ…!あぐぅぅっ……!!」
激痛が走っているのか、歯を食いしばりながら左目を抑えており、尋常ではない血量が抑えた手の隙間から溢れだして辺りを赤く染めていた。
シャオアー「あ、あぁ……!?」
レイム「セージ様……!」
ブリッツ「ど、どうして……!」
ヴァイク「……くっ!シャオアー殿、レイム殿、ブリッツ殿、しっかりしてください!!救護班を!!」
呆気にとられ動けなかった三人に喝を入れ、すぐに救護班を呼ぶように指示を促す。
ヴァイクはセージの肩を支え、ヒールを唱えるが効果はない。
セージ「あ、あぐっ…!うぅぅぅっ!!」
ヴァイク「セージ殿、しっかりしてください!お気を確かに!!」
セージ「ヴ、ヴァイク……!わ、私…よ…り…………!」
ヴァイク「わ、私より……?」
セージ「やら…れた……!気付かな…かった……!いた…い……、う、うぅぅっ!!」
ヴァイク「何を気付かなかったというのです…。セージ殿…、セージ殿ッ!!」
彼女は何かを訴える。だが、痛みに悶え、断片的な言葉ばかりで答えはない。
セージ「眼が…!闇がッ……!」
ヴァイク「眼、闇…!?」
セージ「ダメ…。早く伝えて……!あの男…が……!」
ヴァイク「あの男…?」
セージ「魔剣士クンたちに、早く、早く、早くっ……!」
ヴァイク「……ッ!?」
最後の力を振り絞り、セージは陣のほうを指さした。
そして、上げた腕はゆっくりと、地面へと力なく、だらりと落ちたのだった。
ヴァイク「セ、セージ殿ッ!!」
身体を揺するが返事無く、意識は切れている。慌てて口元に耳を当てると、微かに感じる吐息にまだ生きていることを確認できた。
シャオアー「ヴァイク様!ただいま、救護班が!」
ヴァイク「おぉ、シャオアー殿!よろしくお願い致します、時は一刻を争います!」
部屋に入ってきた救護班は、治療のために辺りに濡れた血の採取と状態の確認を行うと、彼女を担架に乗せて部屋から出て行った。
一方、残されたヴァイクとシャオアーたちは彼女がいなくなってからようやく状況について整理を始めた。
レイム「こ、これは一体何が起きたというのでしょうか……」
シャオアー「分かりません。ですが、セージ様の何かに結界が反応してしまったのは確かですね」
ブリッツ「しかし、あの結界は闇魔法にのみ強く反応するよう描かれた陣。セージ様が闇魔法を会得していたと…?」
ヴァイク「……外部者に近い自分にはわかりませんが、最後にセージ様は、気付かなかったと…、眼と闇、男……それを魔剣士様たちに何かを伝えろと仰ってました」
彼女が最後に伝えたかったこと。四人はそれを探る。
レイム「気付かなかったこと、眼と闇。それに男とは一体何を仰りたかったというのか……」
シャオアー「少なくとも、結界の陣に失敗はないはずです。あれは闇魔法に反応するものですから、闇とは闇魔法のことに違いはありません」
ブリッツ「眼は、恐らくセージ様の瞳のもの。結界が眼に反応して発動したということになりますね」
ヴァイク「ということは、まさか…。やはり、セージ様は闇魔法の会得を……?」
シャオアー「ま、まさかそんなことは!?」
可能性が出てきたことに、動揺を隠せない四人。だが、ヴァイクは「魔剣士様に伝えること」にヒントを得る。
ヴァイク「ですが、魔剣士様に伝えることというのは、どういう意味でしょうか」
シャオアー「それは、この事態を魔剣士様にお伝えしてほしいということではないかと思いますが……」
ヴァイク「しかし、闇魔法の会得者になりましたと…そんなことを伝えてほしいとは普通、言わない気がします」
シャオアー「……えぇ普通は考えませんね。それに、考えてもみればセージ様自らが結界に入って自爆するなど有り得ない話。自分の瞳に闇魔法が反応するとは知らなかったということになります」
ヴァイク「だとすれば、意図しない闇魔力が眼に宿っていたとなりますね」
徐々にセージの伝えたかったこと、それを四人の会話の中でくみ上げられていくが、真意を悟ることは出来ない。
レイム「闇魔力が瞳に宿っていた、それを"気付かなかった"ということでしょうか。すると、男という存在が気になります……」
ブリッツ「まるで掴めないお話しですが、魔剣士様に伝えたい真意が隠されている筈です」
レイム「闇魔力が宿っていたことを伝えてほしい、それだけで魔剣士様が理解できる言葉なのかという問題ですね」
ブリッツ「はてさて、眼に宿る闇魔力。男の存在に気付けなかったということは……」
考えど考えど、答えは見当たらない。ヴァイクはこのままでは意味がないと、率先して立ち上がった。
ヴァイク「……とにかく、このことを早く魔剣士様に伝える必要があります。机上で話を進めても、当の本人たちに理解できる言葉かもしれませんから」
シャオアー「そうですね…。ですが、魔剣士様たちは既にセントラルへ向かっています」
ヴァイク「くっ…、出発してから日数も経過していますし、早く伝えられる手段があればよいのですが……」
シャオアー「魔梟は如何でしょうか。魔剣士様たち一行の感知を辿ることができれば!」
ヴァイク「何か、彼らの匂いを辿る道具はあるのですか?」
シャオアー「……あっ」
当然、彼らが持っている道具や装備の中に魔剣士一行に魔梟を誘う物はない。
ヴァイク(あのセージ様の雰囲気では、一刻を争う事態は重々分かっているが、今から向かって意味があるものなのか……!)
それを伝えてほしいという気持ちは分かっているものの、すぐに情報を伝える手段がない。
ヴァイクは自らセントラルへ赴くことも考えたが、ふと、何かセージの倒れていた場所に、血だまりの中で"光る物"が落ちていることに気付く。
ヴァイク「なんだ…?」
シャオアー「如何なさいました?」
近づき、手を伸ばし、血だまりから"それ"を拾い上げる。
ヴァイク「これは…、ブローチか?」
それは見たことのない桃色の"花"を描いたブローチで、ヴァイクは不思議そうにしたが、シャオアーが何かを思い出した様子でブローチを指差した。
シャオアー「あっ、それは!!」
ヴァイク「む…、これが何か知っているのですが?」
シャオアー「恐らくそれは、魔剣士様が闇魔法の修行を行った際に着用していたブローチかと!」
ヴァイク「何だって……」
シャオアー「それなら闇魔法の強い魔力が未だ残っているはず…。これを魔梟に、魔剣士様たちに連絡を行うことが出来るはずです!!」
ヴァイク「ほ、本当ですか!」
シャオアー「えぇ、すぐに準備に取り掛かりましょう……!」
ヴァイクの起点により、四人は魔剣士宛てへ魔梟の準備を始める。幸い氷山帝国には高速で飛ぶことが出来る魔梟がいたことで、かなり早くの到着となるだろうとシャオアーは言った。
そして、情報の添付を終えるとすぐに魔梟は飛ばされた。
一方、その同時刻。
選考会本選となる魔剣士の"試合"が開始していた―――…。
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――この話は、わずかばかり少し遡る。
丁度、魔剣士がバンシィを宿へ迎えに行っている頃、氷山帝国の魔法連合の一角にて、マスターセージを筆頭に秘密裏に結成した"対セントラル隊"による会議が行われていた。
セージ「……信頼する貴方たちだからこそ。遠く遥々来てくれた仲間には、最もな歓迎の意を」
揃うメンバーはシャオアー、レイム、ブリッツ、氷山帝国においてセージが絶対の信頼を置く面々である。
更に、砂国からはテイルの側近となった"ヴァイク"の席が設けられていた。
ヴァイク「初めまして、セージ殿」
セージ「畏まった挨拶はいらないわ。貴方の国は大変な時だというのに、手紙一枚で訪れてくれるなんて…これ以上の感謝はないから」
ヴァイク「いえ、そんなことは」
セージは魔剣士たちの"制約書"にあったテイルのサインより魔梟を飛ばし、手紙を受け取ったヴァイクが代表として訪れていた。
ヴァイク「それで、セージ殿。この度は何か重要なお話しがあるということで伺ったのですが……」
セージ「……えぇ。これは未来を左右するとても大事なお話しなの」
ヴァイク「そこまで…ですか」
セージ「まずは見てもらったほうが早いと思うから……シャオ、例のものを」
シャオアー「はい」
シャオアーは懐から一枚の紙を取り出すと、机に置いてそれを拡げる。どうやら紙には魔法陣が描かれているようだが、魔力という力は感じなかった。
ヴァイク「えーとこれは…、魔法陣……ですか?」
セージ「私が用意した魔法を抑制させる対魔結界の一つよ。ただ、普通の魔法には通用しないけどね」
ヴァイク「普通の魔法に通用しない?」
セージ「えぇ、但し…。レイム、あれを置いてもらえる?」
レイム「承知致しました」
今度はレイムが床に置いてあった"魔法陣が刻まれた木箱"をゴトリと紙の陣の上に乗せる。
ヴァイク「この木箱は……」
セージ「あまり近づかないほうがいいわ。これは闇魔力の封印具よ」
ヴァイク「なっ!?に、偽物ですよね!?」
"闇魔力"の言葉にヴァイクの身体が引き気味になる。
セージ「昔からこの地下で実験に使われてた呪いの産物。これで私の部下も犠牲になって…、正真正銘の本物よ……」
ヴァイク「ど、どうしてそんなものを!」
更に一歩退いて、距離を取る。
セージ「……落ち着いて。こんな呪いの産物だけど、充分に使える利用方法があったの」
ヴァイク「何に使うというのですか!まさか、対セントラルの軍団に闇魔術師を量産しようなどと!」
セージ「話を聞いて頂戴。さっきも言ったけど、魔法抑制の対魔結界の魔法陣に関係があるのよ」
ヴァイク「ど、どういう……!」
セージ「レイム、お願い」
レイム「ただいま」
レイムは木箱に手を伸ばすと、ゆっくりと開口部分をスライドさせて闇魔法具を露わにしていく。
ヴァイクは"うっ!"と声を漏らしながら闇魔力の影響を恐れたが、その前に下に敷いてあった魔法陣が突如光を放ち始めたと思えば、魔法具の周りの陣が円形状に壁を作りそれを囲んだ。
ヴァイク「な、何が!?」
セージ「大丈夫、安心して頂戴。だから言ったでしょ、魔法抑制の対魔結界があるって」
ヴァイク「……ちょっと待ってください、それはまさか…!」
セージ「えぇ、開発に成功したのよ。闇魔術に対抗できる、最強の結界術をね……」
ヴァイク「闇魔法の対結界、ですか!?」
セージ「今まで気づけなかったのがおかしかったのよ。ヴァイク、闇魔術師たちが増えたりした時のため、この結界術は砂国へ持って帰ってくれる?」
ヴァイク「あ、有りがたい話なのですが、この理論はどうやって…。闇の魔力に通常の魔法陣などは無駄なのでは……」
闇魔法に干渉する魔法は皆無と聞いていたのに、どうやって。魔剣士の絶対領域に準ずるように、通常の魔法結界では闇魔法の消失効果に対応が出来るはずもない。
ヴァイクの疑問は、次にブリッツが机に置いた"真黒な魔石"によって説明された。
ヴァイク「く、黒魔石っ!」
セージ「知っているでしょう。これは純粋な魔石が長い時を経て、魔力を失った時に一部のみ変異して成る貴重な鉱石なんだけど、その効力は……」
ヴァイク「魔力を吸収する効果を持つ、ですね」
セージ「……その通り。それは魔力というジャンルに縛られず、闇魔法も同一だった。これを知ったのは、魔剣士クンが地下の実験場で抑えられていたことを思い出したからなのよ。今更だけどね」
ヴァイク「し、しかし…。本当に魔石のみで闇魔力を抑えることが……?」
セージ「もちろんこれだけでは無理。わずかな吸収力だけでは、魔石が先に壊れるわ」
ヴァイク「ではどうやって……」
疑問は疑問を生む。安心するために幾重にも質問を重ねる理由は、これが本当ならば、世界の脅威たる闇魔術師を率いる軍勢は抑えることが出来るのだから。
セージ「鏡ということよ。合わせ鏡、ね」
ヴァイク「合わせ鏡?」
セージ「えぇ…この魔法陣は合わせ鏡の理論で構成されているの」
ヴァイク「ど、どういうことです…?」
セージ「だから、つまりね……」
構成は簡易なものだった。
この魔法陣は外円と内円の二つの円が、黒魔石の粉を利用した絵具で描かれている。
外側の円は内への鏡、中心の円は外へ向かうような鏡式になっており、結界内で放った魔法は反射を繰り返し鏡の彼方へ消えて行く。
また、魔剣士の闇魔法を吸収した"癖"を覚えていた黒魔石の粉は、著しく闇魔力に反応する仕様となっていた。
セージ「魔剣士クン様様ね。ここに入った闇の魔法魔力は、外か内の鏡に反射し、幾重にも無限にも重なる合わせ鏡となった彼方へ消えて行くのよ」
ヴァイク「そ、そういうことですか……」
セージ「これは最強の結界になるはずよ。少なくとも、絶対的な効果はあるはず」
ヴァイク「す、凄いじゃないですか…。これがあれば……」
セージ「あとは最終調整をするだけなんだけど、これが大変で……」
箱を閉めて魔法具をどけると、光の失った陣の円へ触れる。
セージ「鏡は割れやすいこともあって、一つの傷で壊れてしまうこともある。だから、この中心とかに……」
円に触れつつ、紙を寄せると、呪の文言を書かれた中心位置を覗くようにして顔を入れる。
―――すると、その時。
まさかの出来事が、予想しない出来事が、発生してしまう。
セージ「……えっ?」
何故か、対魔結界はセージに強く反応を示したのだ。光の陣に捕らわれ、彼女は次の瞬間、大きく吹き飛ばされて壁へと叩きつけられた。
ヴァイク「セ、セージ殿ッ!?」
シャオアー「セージ様!」
レイム「セージ様!?」
ブリッツ「セージ様ァ!!」
飛ばされたセージのもとへ、一同が駆け寄る。
反応した魔力が煙のように具現化して視界を遮るほどモヤを作り、その中でセージはうめき声をあげながら身体を震わせてゆっくりと起き上がった。
ヴァイク「だ、大丈夫ですか!一体どうして魔法陣が反応を!?」
手助けしようとヴァイクは手を伸ばすが、その手はビクリとして寸前で止まった。
ヴァイク「セ、セージ殿……!」
セージ「あっ…!あぐぅぅっ……!!」
激痛が走っているのか、歯を食いしばりながら左目を抑えており、尋常ではない血量が抑えた手の隙間から溢れだして辺りを赤く染めていた。
シャオアー「あ、あぁ……!?」
レイム「セージ様……!」
ブリッツ「ど、どうして……!」
ヴァイク「……くっ!シャオアー殿、レイム殿、ブリッツ殿、しっかりしてください!!救護班を!!」
呆気にとられ動けなかった三人に喝を入れ、すぐに救護班を呼ぶように指示を促す。
ヴァイクはセージの肩を支え、ヒールを唱えるが効果はない。
セージ「あ、あぐっ…!うぅぅぅっ!!」
ヴァイク「セージ殿、しっかりしてください!お気を確かに!!」
セージ「ヴ、ヴァイク……!わ、私…よ…り…………!」
ヴァイク「わ、私より……?」
セージ「やら…れた……!気付かな…かった……!いた…い……、う、うぅぅっ!!」
ヴァイク「何を気付かなかったというのです…。セージ殿…、セージ殿ッ!!」
彼女は何かを訴える。だが、痛みに悶え、断片的な言葉ばかりで答えはない。
セージ「眼が…!闇がッ……!」
ヴァイク「眼、闇…!?」
セージ「ダメ…。早く伝えて……!あの男…が……!」
ヴァイク「あの男…?」
セージ「魔剣士クンたちに、早く、早く、早くっ……!」
ヴァイク「……ッ!?」
最後の力を振り絞り、セージは陣のほうを指さした。
そして、上げた腕はゆっくりと、地面へと力なく、だらりと落ちたのだった。
ヴァイク「セ、セージ殿ッ!!」
身体を揺するが返事無く、意識は切れている。慌てて口元に耳を当てると、微かに感じる吐息にまだ生きていることを確認できた。
シャオアー「ヴァイク様!ただいま、救護班が!」
ヴァイク「おぉ、シャオアー殿!よろしくお願い致します、時は一刻を争います!」
部屋に入ってきた救護班は、治療のために辺りに濡れた血の採取と状態の確認を行うと、彼女を担架に乗せて部屋から出て行った。
一方、残されたヴァイクとシャオアーたちは彼女がいなくなってからようやく状況について整理を始めた。
レイム「こ、これは一体何が起きたというのでしょうか……」
シャオアー「分かりません。ですが、セージ様の何かに結界が反応してしまったのは確かですね」
ブリッツ「しかし、あの結界は闇魔法にのみ強く反応するよう描かれた陣。セージ様が闇魔法を会得していたと…?」
ヴァイク「……外部者に近い自分にはわかりませんが、最後にセージ様は、気付かなかったと…、眼と闇、男……それを魔剣士様たちに何かを伝えろと仰ってました」
彼女が最後に伝えたかったこと。四人はそれを探る。
レイム「気付かなかったこと、眼と闇。それに男とは一体何を仰りたかったというのか……」
シャオアー「少なくとも、結界の陣に失敗はないはずです。あれは闇魔法に反応するものですから、闇とは闇魔法のことに違いはありません」
ブリッツ「眼は、恐らくセージ様の瞳のもの。結界が眼に反応して発動したということになりますね」
ヴァイク「ということは、まさか…。やはり、セージ様は闇魔法の会得を……?」
シャオアー「ま、まさかそんなことは!?」
可能性が出てきたことに、動揺を隠せない四人。だが、ヴァイクは「魔剣士様に伝えること」にヒントを得る。
ヴァイク「ですが、魔剣士様に伝えることというのは、どういう意味でしょうか」
シャオアー「それは、この事態を魔剣士様にお伝えしてほしいということではないかと思いますが……」
ヴァイク「しかし、闇魔法の会得者になりましたと…そんなことを伝えてほしいとは普通、言わない気がします」
シャオアー「……えぇ普通は考えませんね。それに、考えてもみればセージ様自らが結界に入って自爆するなど有り得ない話。自分の瞳に闇魔法が反応するとは知らなかったということになります」
ヴァイク「だとすれば、意図しない闇魔力が眼に宿っていたとなりますね」
徐々にセージの伝えたかったこと、それを四人の会話の中でくみ上げられていくが、真意を悟ることは出来ない。
レイム「闇魔力が瞳に宿っていた、それを"気付かなかった"ということでしょうか。すると、男という存在が気になります……」
ブリッツ「まるで掴めないお話しですが、魔剣士様に伝えたい真意が隠されている筈です」
レイム「闇魔力が宿っていたことを伝えてほしい、それだけで魔剣士様が理解できる言葉なのかという問題ですね」
ブリッツ「はてさて、眼に宿る闇魔力。男の存在に気付けなかったということは……」
考えど考えど、答えは見当たらない。ヴァイクはこのままでは意味がないと、率先して立ち上がった。
ヴァイク「……とにかく、このことを早く魔剣士様に伝える必要があります。机上で話を進めても、当の本人たちに理解できる言葉かもしれませんから」
シャオアー「そうですね…。ですが、魔剣士様たちは既にセントラルへ向かっています」
ヴァイク「くっ…、出発してから日数も経過していますし、早く伝えられる手段があればよいのですが……」
シャオアー「魔梟は如何でしょうか。魔剣士様たち一行の感知を辿ることができれば!」
ヴァイク「何か、彼らの匂いを辿る道具はあるのですか?」
シャオアー「……あっ」
当然、彼らが持っている道具や装備の中に魔剣士一行に魔梟を誘う物はない。
ヴァイク(あのセージ様の雰囲気では、一刻を争う事態は重々分かっているが、今から向かって意味があるものなのか……!)
それを伝えてほしいという気持ちは分かっているものの、すぐに情報を伝える手段がない。
ヴァイクは自らセントラルへ赴くことも考えたが、ふと、何かセージの倒れていた場所に、血だまりの中で"光る物"が落ちていることに気付く。
ヴァイク「なんだ…?」
シャオアー「如何なさいました?」
近づき、手を伸ばし、血だまりから"それ"を拾い上げる。
ヴァイク「これは…、ブローチか?」
それは見たことのない桃色の"花"を描いたブローチで、ヴァイクは不思議そうにしたが、シャオアーが何かを思い出した様子でブローチを指差した。
シャオアー「あっ、それは!!」
ヴァイク「む…、これが何か知っているのですが?」
シャオアー「恐らくそれは、魔剣士様が闇魔法の修行を行った際に着用していたブローチかと!」
ヴァイク「何だって……」
シャオアー「それなら闇魔法の強い魔力が未だ残っているはず…。これを魔梟に、魔剣士様たちに連絡を行うことが出来るはずです!!」
ヴァイク「ほ、本当ですか!」
シャオアー「えぇ、すぐに準備に取り掛かりましょう……!」
ヴァイクの起点により、四人は魔剣士宛てへ魔梟の準備を始める。幸い氷山帝国には高速で飛ぶことが出来る魔梟がいたことで、かなり早くの到着となるだろうとシャオアーは言った。
そして、情報の添付を終えるとすぐに魔梟は飛ばされた。
一方、その同時刻。
選考会本選となる魔剣士の"試合"が開始していた―――…。
…………
……
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