No Look Jamming〜私は見る事ができない〜 

船木一底

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プロローグ

プロローグ4

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 洗面所の扉を出て、右手で手すりを掴み、扉を二つ過ぎ、階段の前を通り過ぎると私の部屋を仕切る扉がある。丸いドアノブを左に回し、少し重い扉を開けた。ギギッと扉が鳴り、私は左手に力を入れた。扉を開けると、木で作られた大きなベッドに丸いテーブル、二つの椅子と大きな窓、窓の近くにはタンスがあり、その上には可愛らしい花が飾ってある。クローゼットなどもあるが、基本私は使用しなかった。ここが私の部屋である。正確には私と妹の部屋だ。しかし、妹は寝る時以外ほとんどこの部屋に戻らず、自身のアトリエで絵を描いて過ごしている。今日のようにアトリエでそのまま寝てしまう事もしばしばある。階段上のスペースに飾られている絵も全て彼女が描いた物だ。主人様は妹の絵をとても気に入り、新作が書き上がるたびに褒めるので彼女はその気になって新しい絵を描き続けている。素人目に見ても彼女の絵はとても上手く、独学ながら、ちゃんと勉強しながら努力を重ねていることがわかった。最初のうちこそは描くたびに、無条件で褒められる妹に対して嫉妬を抱くことはあったが、一番近くで彼女の努力を見続けていると、そんな事を考えていた自分の事が恥ずかしくなった。描いては消して、塗っては剥がしてを繰り返し、一切の妥協無く、自分が思い描いた物を描く姿は子供のお遊びではなく、正真正銘の画家の卵と言っても過言ではなかった。
 そんな彼女の作品はこの部屋にも飾ってある。恥ずかしながら、気がつかぬうちに私をモデルに描かれた絵も飾られていた。
 大きな窓からは陽の光が差し込み、飾られている作品達がキラキラと輝いていた。
 私は、左壁に付いている手すりを掴み、大きな窓に向かいゆっくりと歩いた。手すりの終わりを告げるように、手すりの端が半円になった。
 私は手すりの端を撫でながら窓に向かい、一言、オープンと呟いた。
 そうすると大きな窓がガラガラガラっと音を立てゆっくりと横にスライドした。
 私は手すりのない真っ暗な空間に少しの恐怖を感じながら一歩、また一歩、と転ばないように注意しながら大きな窓の下を潜った。
 この家の中で私が一番苦手な瞬間だ。何度体験してもこの瞬間だけは克服する事ができない。私と私以外の物を繋げてくれている物が一瞬、完全に途切れてしまい、この世界に一人ぼっちになったように感じてしまう。他にも手すりが途切れる箇所は何箇所かある。しかし、ここだけ、この瞬間だけは、自分にとって何か特別な瞬間に感じていた。
 ギギ、っと音が鳴る。この音がすると言う事はもうテラスに出ている事になる。私は両手をゆらゆらと動かしながら、私とこの世界を繋ぐ架け橋を探した。左手にピリッと電気が走った。私は電気が走った辺りにゆっくり手を伸ばし希望の光を求めた。そうすると、左手から希望の光が差した。その希望の光に縋るように私は力一杯左手を握りしめた。
 やっとの思いで私と世界を繋ぐ手すりを掴むと、一呼吸おいて、クローズと呟いた。先程潜った窓がガラガラガラっと音を立て閉まっていく。背中越しに窓が閉まるのを確認し終えると、私は外に設置された手すりを掴み、またゆっくりと歩き始めた。室内の手すりと同じ作りだが、ここ最近はずっと雨だったため少し湿っていた。触感としてあまりいい物ではなく、私的にはあまり好ましくないものだ。私は右のポケットから薄く、四角い機械を取り出した。子供の手でも握れるほど薄い長方形の機械に向かって私は、手すりを乾かして、と伝えた。そうすると左手で握っている手すりがブルブルと振動し、ブーンと低い音を響かせた。私は手すりから手を離した。そうすると手すりから鳴っていたブーンと言う低い音が少しずつ高く、大きくなっていった。十秒程ブーンと音を響かせていた手すりは、尻すぼみに音を低く、小さくしていき、最後に、ポンと音を立てた。音を確認し、私はさっきまで湿っていた手すりを掴んだ。手すりはじんわりと熱を帯び、先程まで染み込んでいた水分を飛ばしていた。言葉一つで思い通りに動く家具。それは誰もが夢見る代物だ。便利、その一言に尽きる。
 そんな便利な四角い機械をポケットに仕舞い、私はまたゆっくりと手すりに掴まりながら歩き出した。先ほどからカーン、カーンと気持ちのいい音も聞こえている。その音に引き寄せられるかのように、私はテラスから薪割り場所まで伸びる人工の木の歩道を歩いた。
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