No Look Jamming〜私は見る事ができない〜 

船木一底

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ツキナミの生活

一蓮托生の鬼ごっこ2

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 主人様曰く、本来の組手とは全く違うものらしい。組手とは主に二人一組で打撃戦や剣などの武器を使い立ち回りを練習するものらしい。しかし、私達はそれを知らない。私達が知っているのは、武器だろうと、無手だろうと、何を使っても、どんな手を使ってでも主人様の攻撃を避けて、最後まで逃げ延びる。または、主人様に一撃を入れる。それが出来なければ捕まる。捕まった後に個々人に武器の構え方、能力の使うタイミング、立ち回り方を教えてもらう、これが私達の中の組手だ。
シンプルに言えば鬼ごっこだ。兎に角逃げる。周囲の木には紐が結ばれており、その紐の外には出ては行けない。紐の中なら木の上だろうと、土の中だろうとどこにいてもいい。インファイトを挑むのも、アウトレンジから牽制するのも有りだ。
ただ、禁止されている事もある。それは命を奪う事、命を粗末にする事、この二点は禁止されている。この修行の目的は逃げる事なので、死ぬ事、死ぬ可能性がある事は禁止されている。捨て身の突撃などもっての外だ。兎に角、生きる為に逃げる、それがこの組手だ。
 私達三人は、主人様が向かってくるのに対して、一斉に後ろ側の森の中に身を隠した。強者に対して正面から攻めた所でいい事はない。それは今までの経験で分かっている。なら一旦距離を取って、相手の出方を伺いながら、こちらがどう動くかの時間を稼ぐしかない。私達は木の幹の裏や草むらに一瞬で身を隠した。
組手の中で、主人様の行動は何パターンかに分けられている。アウトレンジからチクチク牽制しつつ、隠れている所を炙り出してくるか、インファイトで一気に詰めて来るか、ミドルレンジでヒットアンドアウェイをしてくるか、大きく分けるとこの三種類で構成されている。その日の気分でこの三種類のスタイルの中からどのレンジで来るのかが決まる。今日はどのレンジで来るのかを観察しつつ、私はインファイトだけは辞めてくれと、心の底から祈っていた。
 しかし、無常にもその祈りは通じなかった。
 木の幹に隠れてから数秒後、息を整えながら、さて、どう動こうかと考えていると、私の隠れている木の左側後方に生えている、幹の太い木から爆発音のような物が聞こえた。その直後、幹の太い木が、私が隠れている方向とは逆に向かって傾き、倒れた。倒れる瞬間にしおりさんが、泣きそうな顔で倒れる方向とは逆の木に向かいダイブしているのが見えた。そうか、今日はしおりさんがメインなんだ。そう思うと一瞬気が緩んだ。その瞬間、私の背後に人が立っているのに気がついた。後ろに立っている人物がニヤッと笑い、
「気を抜いちゃダメだよ」
と言いながら私に向かってゆっくり手を伸ばした。私は、今日はいつもより早かったなと思いつつ、開始数秒で逃げ回らなくて良いんだと安堵していた。二人には申し訳ないが、あとは頑張ってね、と心の中で笑みを溢していた。
しかしながら、そんな簡単に捕まらせてくれる程、そんな簡単に数的有利を手放す程、私の妹は優しくなかった。
私に向かって伸びる手が、私と背後に立つ人物の中間に差しかかろうかと言う時、右側の茂みから動物に乗った妹が飛び出してきた。妹は私の背後に立つ人物に向かい歪な形の石を五個投げつけた。私に向かって伸びていた、救いの手はサッと遠く離れていき、後ろに立っていた人物の気配が離れていった。気配が離れるのとほぼ同時に、左側から飛び出して来た影にサッと抱えられた。抱き抱えられた次の瞬間には、先程主人様が立っていた広場の中心を駆け抜けて、反対側の森の中に飛び込んでいた。
その後ろからは強烈な光が三つと爆発音が二つ響いた。私を抱えるしおりさんが走りながら、
「諦めるのが早すぎるよ」
と優しく喋りかけながら、続けざまに
「さゆりがいなくなったら大変なんだから勘弁してよ」
と泣きそうな声で心配してくれた。
私は、ありがとうございますと、先程まで諦めていたのを少し申し訳なく思った。
反対側の森の中に入り少しすると、大きな岩場が姿を現した。しおりさんが、岩場の窪みに私を下ろすと、少し遅れて動物に跨ったことはが息を切らしながら合流した。ことはは合流するや否や
「お姉ちゃん諦めるの早すぎ!序盤から人数が減ったら、私達が大変になるのは分かってるでしょ!」
と怒りながら早口で私を捲り立てた。
私は、その圧に押されて、少し俯きながら、ごめんなさいと呟いた。
そう、この組手は一対多数で行っている。誰か一人が欠けてしまうと、途端に残された側の役割が増えてしまうのだ。だから二人は危険を冒してでも私を助けに来た。私の能力は戦闘向きじゃないが、周囲の索敵を行う、トラップの位置を把握することに関しては長けている。また、自分以外の視界を見る事ができると言うことは、現在私達を追っている、主人様の視界も見る事ができる。相手の位置情報、相手の視界の情報が事前に分かれば、少しながらでも対策は取れるのだ。前線で戦えないのなら、前線で戦う人に有意義な情報を渡す。それが私の主な役割だ。
私は今一度木を引き締めて、二人に対して頭を下げ、ありがとうございますと言った。
顔を上げると同時に、先程までの諦めた、腑抜けた顔を引き締め、胸元にぶら下がったレンズを少し強く握った。
その顔を見たことはが、はーっと少し呆れたようにため息をつくと、自分が跨っている動物にぶら下げている筒を手に取り、蓋を外した。そしてその筒の中身を私に向けて掛けてきた。
「そうやって、すぐに気負うのはよくないよ、自然体でやらないと保たないのは分かってるでしょ」
そう言うと、水を掛けらた私に向かって語尾を強めて、怒りを吐いた。
少し覚悟を決めていた私はハッとし、濡れた顔を服の裾で拭って、ありがとうと伝えた。
それを見ていたしおりさんは、
「準備も終わったみたいだし、師匠も近づいてきてるし、反撃しに行こうか」
と明るく、元気に言った。
私とことはが頷くと、しおりさんは、腰にぶら下げていた長い鉄の棒を抜いて、力を込めた。
力を込められた長い鉄の棒が一瞬、パッと光ると、身の丈くらいある、長い矛のような武器に形状を変化させた。
 ハルバード
この国で、騎士の花形武器であり、近接戦で万能な武器であり、扱うのが最も難しいと言われる長柄武器の一つだ。
この、長く、重い武器をクルクルと頭の上で拾った木の棒を回すかのように、軽々と回し、柄の部分を地面にゴンと鈍い音を立てて突き立てると、
「二人とも行くよ」
いつもより低く、少し殺気が込められた声を発した。
その掛け声と共に、しおりさんは前傾姿勢になると、力強く足を踏み出した。
それに合わせるように、ことはの跨った動物が、体をブルブルっと震わせた。
私は二人の背中を見て、静かに、でも、先程までとは違う、気負う事なく、自然体で、自分ができる事をしよう。
そう心に決め、二人の背中を追った。
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