地獄で捧げる狂死曲(ラプソディー)~夢見る道化は何度死んだって届けたい、笑顔を君に~

norikurun

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地獄体験~あれ? 思ったよりも~

自己分析をしてみよう 3

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 分離した冷静なボクの苦労の甲斐あって、表層意識のボクの気分が徐々に上向いてきた……が……。

『……クッ‼ 思った以上に期待が強すぎる‼』

 幼い『彼』が胸を押さえて蹲った。と同時だった――

「ボクはどんな主人公になれるのかな⁉」
「できればこれが、誰かの創作物語であってほしい!」
「夢と魔法があふれる世界だったらいいな! 誰か僕に蘇生魔法を!」
「どうせなら、ボクもバラ色人生のリトライを!」

 次々に飛び出す、率直な願望。
 主人公に憧れる幼心は、容易には御しがたい。
 現実と空想の垣根がすごく低い。
 希望の念が強いのは、反面、絶望の根が深いことを意味していた。

 いや、それも当然で、生まれてすぐ死亡。そして地獄に直行。自分独りしかいないという状況は、大人であろうと、まともじゃいられない程に酷い話だ。
 ここまで耐えきれたのは、むしろ発想が柔軟で好奇心旺盛な子供だったからに違いない。
 そして、直前までその想像力がマイナス方向に加速していたのだ。だから夢の世界に強すぎる憧憬を抱いてしまう。安易に自分を物語の主人公に置き換えてしまうのだ。

 ……最後の頼みの綱だった幼い『彼』は、あまりに強い願望――激情の波に吞まれたようだった。もうどこにも見当たらない。

 今はプラスの方向に感情を昂らせているボクだが、周囲は噴煙立ち込める灼熱の大魔境。
 心象風景の方は、なぜか夜景が映し出された。今は幸いにして月明かりが辺りを煌々と照らしているが、あちらは噴煙、こちらは暗雲と、光り輝く満月は容易に雲の帳で覆い隠されてしまいそうだった。

(次の掩蔽《えんぺい》が、ボクたちの最期になるかもしれない……何とか他の手段を探さないと……)

 いつの間にやら孤軍奮闘となってしまった……。臍を嚙む思いで、回避の一手の模索しようとするも……切り札だった幼き日の『彼』以上を想像するのは非常に難しかった。
 だが、それでも、感情をコントロールする術を見つけなければ、その先にあるのは、かつて死の瞬間に感じた……虚無だ。

 焦りが生まれる。だが、具体的な方策は何も見つからない……。
 いつ来てもおかしくない相手に、手を拱くことしかできない……。
 現実逃避を望む精神が、また捕らわれてしまうその前に……。

 その矢先、突如として、幼心のボクがこれまで視ていた夢の続きが途絶えたことに気づいたのか、はたまた残酷な現実を思い出したのか、心象風景は急激に凍てつき始めた――心が凍っていく。

 荒れ狂う方がまだましだった。
 もう、泣きわめく力も残されていないのかもしれなかった。

(……まっ、待って‼ まだ早いっ……今度こそ……壊れ……)

 心の中のボクは、心象風景の崩壊を目の当たりにつつも、意識が薄れていく。

――久凍土を切り取ってきたような不毛の大地が、周囲の風景を塗り替えてゆく。
――満月が陰りをみせ、落とされた光の帯が細く、徐々に閉ざされていく。
――その月光すらが蒼く凍てつき、闇夜に浸食されつつあった。
――月が零す蒼光は途切れがちになり、明滅を繰り返す。

 やがて……。

(……だめ……だ…………)

……

…………

………………

……~♪……♪~……

……♪~……♪~♪~……

……♪~♪~♪~……♪~♪~♪~♪~
 
遠くに置いたラジオ。
そこから漏れ出るような。
途切れ途切れの音だった。
なのに、ひどく懐かしい旋律。

闇に閉ざされた世界に届いた懐かしいメロディー。
それが、意識を辛うじて繋ぎとめた。

(……懐……歌?……)

(……誰?……)

(……『彼』?……ボ?……)

(……お……に合わせ……光……)

(……意識……戻って……きた?)

 
 か細い灯りが音階に合わせ揺蕩った。

 暗雲は霧散し始めた。

 満月がきらきらと輝く。

 凍てつく大地に降り注ぐ暖かな光。
 
 そして……。

 周囲の光景が本来の色を取り戻し始めた。

「妄想が、捗った……ね。……楽しかった。さっき、走馬灯で、奇跡を……買い占めちゃったから……もう、ないかな……? ……次の入荷……あるかな? ……その時があったら……もう一度、ボクが、買い占めちゃうから……、多めの発注を……お……お……お願いしたいね……」

 表層意識のボクは、ただの泣き喚く子供じゃなかった。
 きちんと、妄想と現実に区切りをつけ、このままではいけないと、自分から前を向こうと……足搔いていた。

(暴走ばかりする、幼気な子供とばかり……)

 本能によって、抑えようのない感情に振り回される子供から分離した心だった。

 今、ここに居るのは…………。

 ほんの少しだけ、前よりも。
 ほんの少しだけ、強くなった。
 ほんの少しだけ、成長した子供……。

 壊れそうになりながらも……
 現実を受け入れて……
 精いっぱい背伸びして……
 前向きになろうとする子供……。

――重なっていく。

 当然、役目を終えればあるべき姿に還るのだ。

――融けていく。

 少しだけ、
 融け切らなかった。

 だけど、ボクの心は、
 同じ方向を向いていた。

 気持ちは一つとなって、
 天に向かって一心に懇願した……。

 今のボクは下は向けない。
 だから天に向かって約束するのだ……。

「泣くのはこれで最後だ」と。

 天を見上げて呟いた時、
 一粒の雫が静かに頬を伝った……。
 無情にもその一滴は、すぐさま蒸気となり、虚空に還っていった――。
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