9 / 41
地獄体験~あれ? 思ったよりも~
自己分析をしてみよう 3
しおりを挟む分離した冷静なボクの苦労の甲斐あって、表層意識のボクの気分が徐々に上向いてきた……が……。
『……クッ‼ 思った以上に期待が強すぎる‼』
幼い『彼』が胸を押さえて蹲った。と同時だった――
「ボクはどんな主人公になれるのかな⁉」
「できればこれが、誰かの創作物語であってほしい!」
「夢と魔法があふれる世界だったらいいな! 誰か僕に蘇生魔法を!」
「どうせなら、ボクもバラ色人生のリトライを!」
次々に飛び出す、率直な願望。
主人公に憧れる幼心は、容易には御しがたい。
現実と空想の垣根がすごく低い。
希望の念が強いのは、反面、絶望の根が深いことを意味していた。
いや、それも当然で、生まれてすぐ死亡。そして地獄に直行。自分独りしかいないという状況は、大人であろうと、まともじゃいられない程に酷い話だ。
ここまで耐えきれたのは、むしろ発想が柔軟で好奇心旺盛な子供だったからに違いない。
そして、直前までその想像力がマイナス方向に加速していたのだ。だから夢の世界に強すぎる憧憬を抱いてしまう。安易に自分を物語の主人公に置き換えてしまうのだ。
……最後の頼みの綱だった幼い『彼』は、あまりに強い願望――激情の波に吞まれたようだった。もうどこにも見当たらない。
今はプラスの方向に感情を昂らせているボクだが、周囲は噴煙立ち込める灼熱の大魔境。
心象風景の方は、なぜか夜景が映し出された。今は幸いにして月明かりが辺りを煌々と照らしているが、あちらは噴煙、こちらは暗雲と、光り輝く満月は容易に雲の帳で覆い隠されてしまいそうだった。
(次の掩蔽《えんぺい》が、ボクたちの最期になるかもしれない……何とか他の手段を探さないと……)
いつの間にやら孤軍奮闘となってしまった……。臍を嚙む思いで、回避の一手の模索しようとするも……切り札だった幼き日の『彼』以上を想像するのは非常に難しかった。
だが、それでも、感情をコントロールする術を見つけなければ、その先にあるのは、かつて死の瞬間に感じた……虚無だ。
焦りが生まれる。だが、具体的な方策は何も見つからない……。
いつ来てもおかしくない相手に、手を拱くことしかできない……。
現実逃避を望む精神が、また捕らわれてしまうその前に……。
その矢先、突如として、幼心のボクがこれまで視ていた夢の続きが途絶えたことに気づいたのか、はたまた残酷な現実を思い出したのか、心象風景は急激に凍てつき始めた――心が凍っていく。
荒れ狂う方がまだましだった。
もう、泣きわめく力も残されていないのかもしれなかった。
(……まっ、待って‼ まだ早いっ……今度こそ……壊れ……)
心の中のボクは、心象風景の崩壊を目の当たりにつつも、意識が薄れていく。
――久凍土を切り取ってきたような不毛の大地が、周囲の風景を塗り替えてゆく。
――満月が陰りをみせ、落とされた光の帯が細く、徐々に閉ざされていく。
――その月光すらが蒼く凍てつき、闇夜に浸食されつつあった。
――月が零す蒼光は途切れがちになり、明滅を繰り返す。
やがて……。
(……だめ……だ…………)
……
…………
………………
……~♪……♪~……
……♪~……♪~♪~……
……♪~♪~♪~……♪~♪~♪~♪~
遠くに置いたラジオ。
そこから漏れ出るような。
途切れ途切れの音だった。
なのに、ひどく懐かしい旋律。
闇に閉ざされた世界に届いた懐かしいメロディー。
それが、意識を辛うじて繋ぎとめた。
(……懐……歌?……)
(……誰?……)
(……『彼』?……ボ?……)
(……お……に合わせ……光……)
(……意識……戻って……きた?)
か細い灯りが音階に合わせ揺蕩った。
暗雲は霧散し始めた。
満月がきらきらと輝く。
凍てつく大地に降り注ぐ暖かな光。
そして……。
周囲の光景が本来の色を取り戻し始めた。
「妄想が、捗った……ね。……楽しかった。さっき、走馬灯で、奇跡を……買い占めちゃったから……もう、ないかな……? ……次の入荷……あるかな? ……その時があったら……もう一度、ボクが、買い占めちゃうから……、多めの発注を……お……お……お願いしたいね……」
表層意識のボクは、ただの泣き喚く子供じゃなかった。
きちんと、妄想と現実に区切りをつけ、このままではいけないと、自分から前を向こうと……足搔いていた。
(暴走ばかりする、幼気な子供とばかり……)
本能によって、抑えようのない感情に振り回される子供から分離した心だった。
今、ここに居るのは…………。
ほんの少しだけ、前よりも。
ほんの少しだけ、強くなった。
ほんの少しだけ、成長した子供……。
壊れそうになりながらも……
現実を受け入れて……
精いっぱい背伸びして……
前向きになろうとする子供……。
――重なっていく。
当然、役目を終えればあるべき姿に還るのだ。
――融けていく。
少しだけ、
融け切らなかった。
だけど、ボクの心は、
同じ方向を向いていた。
気持ちは一つとなって、
天に向かって一心に懇願した……。
今のボクは下は向けない。
だから天に向かって約束するのだ……。
「泣くのはこれで最後だ」と。
天を見上げて呟いた時、
一粒の雫が静かに頬を伝った……。
無情にもその一滴は、すぐさま蒸気となり、虚空に還っていった――。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる