地獄で捧げる狂死曲（ラプソディー）～夢見る道化は何度死んだって届けたい、笑顔を君に～

地獄体験～あれ？ 思ったよりも～

再出発～火炎旋風を追い風に～ ４

　炎の渦はボクを通り過ぎ、そのままどこかへ消えていった。

　ボクも頑張って追いかけたけど、踏みしめる大地は、焼け野原ならぬ、溶岩や溶金属の沼地と化していた。非常に走りにくかった。

　相手に有利なコンディションに加え、対するは超巨大な竜巻。
　片や足の長さは一メートル、片や全長百メートル以上。
　悔しいことに、一歩の差が勝負を分け――、ボクは置き去りにされてしまった。

　だけど、悲しくはなかった。

「あ、あんな光景がまだこの地獄には残されてたんだ……っというか、ボクはまだ地獄の観光スポットを二か所しか回れてなかった……」

　そもそも、僕はここに来て一日も経っていない……はず。
　どれくらい踊り明かし、逃げ回っていたのかが定かじゃないが、少なくとも、ここは二か所目に訪れた場所。地獄の観光所巡りは、まだ始まったばかりだった。

　それに、ボクは気付いた。自分で足を動かさないと、出逢いがないことに。
　ここに来て初めて自発的に、行動を起こすことを決意した。

「これは職務怠慢だ！　直ちに各地を巡り、観光ＭＡＰ制作に取り掛からなくては――‼」

　誰に課されたわけでもない。
　心の内から沸き上がったパッションだ。
　何かにこの感動をぶつけたくなった。

　ふんふんフンフンと鼻息荒いまま、兎にも角にも、ひとまず一帯が一望できる、先ほどの高台に戻ることにした。


　◇◇◇


　ここに来た当初は、無我夢中に脱出したせいで、全てを忘れていた。
　ガッカリ感が胸に去来し、呆然自失。ボーっと湖を眺めるだけだった。

　だけど、あの炎の巨大竜巻が、ボクの目を覚まさせてくれた！

　もうエンジンは拍動し、胸は高鳴り出した。暖機運転も済ませた。
　冒険心もすでにタンクにいっぱいであふれ出そうだ。

　低速トルクから中速トルク、高速トルクに切り替えて、体の各部を連動させて走りだす！
「ボクはいざという時には行動できる男だ！」と、自信を携えた初めの第一歩はとても大股に！

　断崖の先『赤い地底湖』のその先を見据えて！


　ボクはニヒルに嗤いながら呟いた。

「……フッ……これが、大人になるってことか……フッ……」