72 / 99
囚愛Ⅲ《雅side》
囚愛Ⅲ《雅side》10
しおりを挟む自分の部屋に戻って寝ようとすると、なかなか寝付けなかった。
明け方ようやく眠れて、起きた時には朝10時近くになっていた。
リビングでテリーとエリックが騒いでいる声が聞こえた。
俺は深呼吸をしてから遅めの挨拶をする。
「おはよー!」
あぁよかった。
ちゃんと声が出せた。
「“おはようございます雅様”」
俺はほっと息をついて、冷蔵庫から牛乳を取り出して飲み始めた。
エリックはコーヒーを淹れて、俺の対面に座った。
「エリック、二日酔い?」
「ええ。頭が痛いですし、酔いつぶれてからの記憶がありません」
「何も覚えてないの?」
「はい、全く覚えておりません」
「俺も何も覚えてないんだ」
俺は全部覚えてる。
エリックが俺を愛していることも、離れた理由も全て。
エリックが俺を愛してくれて本当に嬉しかった。
だけどさ、俺といると苦しめるんだよね―…
「今日はテリーと出掛けてくるね。買い忘れたものがあって。エリックは二日酔いだし休んでて」
「かしこまりました」
何も知らないテリーと一緒に街へ繰り出した。
「ねぇテリー、アルベルトに会いたいんだけど呼び出せる?」
「アルに?…連絡してみます」
今日は執事学校は休校で、ランチにアルベルトも合流できるという。
少し街を歩き、合流予定のレストランへ先に入る。
「テリー…帰国の時間ずらせるかな」
「え?」
「明日の夜中…帰りたいんだ」
「日本で何かありましたか?」
このまま事実を言わなければ、きっとテリーは帰りの飛行機のチケットを取ってくれない。
だから俺は話すことにした。
昨日のこと、エリックが離れた理由も、俺が未だにトラウマを克服できてなくて弱いことも、全部。
「苦しめる俺はエリックの傍にいれない。だからアルベルトと幸せになってほしい」
「雅様…しかし…」
あぁ、ヤバイ。
思い出しそうになる。
あの時のこと。
「《父さんの死を思い出すと声が出なくなる。その時は声も感情も無になる。弱い俺になる。震えが止まらない。呼吸が定まらない。大丈夫だと言われてもこの不安や苦悩は俺にしか分からない》」
気付くと俺は、幼少期を思い出してテリーに英語で説明をしていた。
「《雅様…》」
「《もう17年も経つのに、エリックが離れた理由で父さんの死を思い出して、小さな小さな雅くんになってしまった。カッコ悪いね、未だに克服できてない》」
声も出せない、弱い、一番大嫌いな俺。
そんな俺をエリックは優しく包んでくれた。
《明日もあなたの声が聞けますように》とおまじないのように心を軽くしてくれて。
もう何年もフラッシュバックしなかったのに、未だに克服できていない。
こんな自分になりたくない。
こんな弱い俺を見せたくない。
こんな俺にエリックを幸せにする資格ない。
あぁやっぱり俺、弱いんじゃん。
こんなの荷物でしかない。
こんな俺はエリックの傍にいれない。
エリックの重荷になりたくない。
「《チケットとれそう?あ…深夜2時便空いてるじゃん。取って。テリー》」
「《―…かしこまりました》」
「《ありがとう》」
そんな会話をしていると、アルベルトが合流してきた。
ウェイターを呼んで、料理を注文した。
「《二人とも、どうしたの急に?》」
「《あぁごめんね急に呼び出して。帰国日をずらそうと思って。明日の深夜の便で日本に帰る》」
俺がそう言うと、アルベルトは肘をついて手に顎を乗せて勝ち誇ったような顔で言う。
「《へぇ。それじゃあ僕は予定より早くエリックを一人占めできるね》」
「《その時間…エリックを連れ出してくれないかな。夜遅くまでやってる場所に》」
「《は?見送りは?…まさかエリックに言わないで帰国するつもり?》」
俺は何も言わずに頷いた。
「《俺はもうエリックに二度と会わないから…だからアルベルトにエリックを頼みたい》」
「《なんの冗談?》」
アルは眉間にシワを寄せて、不思議そうな顔で俺を見る。
理由…言わないわけにいかないか。
そう思って俺は全てをアルベルトに伝えた。
父さんの死、過去のトラウマ、エリックとのこと、俺の気持ちを全て。
料理が次々と運ばれてくるが、誰も手をつけようとはしない。
そして俺は続ける。
「《アルベルトならエリックを必ず幸せにしてくれると思ってるから。俺を忘れて幸せになって欲しい。ただそれだけ》」
「《いいの?僕は本気でエリックを僕のものにするよ?》」
「《アルになら安心して任せられるから。明日の夜、必ずエリックを連れ出してね。さぁ、食べよう!テーブルに料理が乗り切らないよ》」
俺が冷めた料理を食べ始めると、二人もそれを見て食べ始めた。
皿にフォークが当たる音しか聞こえない中で、アルが手を止めて俺を見て話し始める。
「《エリックはこの3年間毎日君と同じネックレスを身につけていたよ。君をずっと想っていた。それでもいいの?本当に?》」
なぜ俺がペアネックレスを持っていることを知っているんだろうか。
あれはアメリカに到着して外して、ボディバッグの内側に閉まったはずなのに。
ボディバッグ…
買い物に行ったとき、ボディバッグの中からアルに財布を取って欲しいとお願いしたときに見つかったんだ。
そっか…エリックあのネックレスずっと身につけてくれたんだ…
「《嬉しい》」
「《じゃあ考え直し―…》」
「《でもさ、決めたから。やっぱりもう会えないよ。エリックには》」
こんな弱い俺がエリックを守れない。
こんな俺見せたくない。
「《エリックは酷く傷つくよ…?》」
「《そこまでしないと俺のこと忘れられないでしょ。アルが傍で癒してあげて。でもお願いが1つある。君たちの結婚式には俺を呼ばないで》」
幸せになって欲しいけど、きっとその隣に俺が居ない事実を目にしたら辛くて、悔しくて、悲しいから。
だから二人の幸せは、二人がいないところで祝福をさせて欲しい。
「《もちろん呼ぶよ。絶対に呼んで君を後悔させる》」
「《嫌なやつ。でも俺、世界中にある父さんの別荘で暮らしながらダンサーになる予定だから、その招待状が届くことはないかな》」
大学を辞めてダンスの道に進んで、色んな場所を転々としながら行方を眩まそうかと思ってる。
だから俺の居場所が知られることはないだろう。
「《雅…》」
「《よろしくね、アルベルト。君に出会えてよかった」
ランチを済ませ、アルと別れてから夕方家に戻った。
「お帰りなさい、雅様」
「ただいま、エリック」
あぁもうこの笑顔を見れるのも
エリックが俺の名前を呼ぶのも
この幸せで優しく愛しい環境も
全部、明日には終わってしまうのか。
0
あなたにおすすめの小説
人気作家は売り専男子を抱き枕として独占したい
白妙スイ@1/9新刊発売
BL
八架 深都は好奇心から売り専のバイトをしている大学生。
ある日、不眠症の小説家・秋木 晴士から指名が入る。
秋木の家で深都はもこもこの部屋着を着せられて、抱きもせず添い寝させられる。
戸惑った深都だったが、秋木は気に入ったと何度も指名してくるようになって……。
●八架 深都(はちか みと)
20歳、大学2年生
好奇心旺盛な性格
●秋木 晴士(あきぎ せいじ)
26歳、小説家
重度の不眠症らしいが……?
※性的描写が含まれます
完結いたしました!
宵にまぎれて兎は回る
宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる